120㎏の重量級でも「人」の形で打つプリンス・フィルダー選手

 西武ライオンズドラフト1位の 渡部健人 選手が,「人」の形で打てていないことに言及しましたが,同じ重量級のプリンス・フィルダー選手(32歳で引退.通算319本塁打)がどのような打撃動作をおこなっているかチェックします.

プリンス・フィルダー選手 のホームランのスロー映像 引用元:YouTube
「人」の形で打つプリンス・フィルダー選手

 ウィキペディアによると,身長約180cmと現代のメジャーリーガーとしては低身長ながら、体重は120kg以上あったと記載があります.フィルダー選手は前脚の膝関節を伸展して,下肢のエネルギーを上肢に伝達する 第二動作 を行い,「人」の形で打っています.重量級だからこの動作ができないということはありません.

「人」の形で打つ と,後ろ足に体重がかかるため,前脚の膝関節が伸びて,前足のかかとで支える形になる. 渡部健人選手のように打った後,すぐに膝が曲がらない.
フライング・エルボーからバックスイングを行うフィルダー選手.この動作はいったんグリップを下げているところ.このグリップを下げるときに,フィルダー選手のように肘が上がる選手も見受けられる.この後,グリップを下げた反動を利用して肘(グリップ)を上げ,その反動を利用してスイングに入る.

トミー・ジョン手術を複数回受ける選手が少ない理由

引用元:https://www.mcdavid.co.jp/sportmed_case/ulnar-collateral-ligament-sprain/

 肘関節内側側副靱帯(UCL:ulnar collateral ligament )は,前斜走靱帯(AOL:anterior oblique ligament),横走線維( TL:transverse ligament) 後斜走靱帯( TL: posterior  oblique ligament)の 三つの部位に分けることができます.トミー・ジョン手術(英: Tommy John Surgery, 側副靱帯再建術)受ける投手は,内側上顆の全部から鈎状突起に走るAOLを損傷するケースが多いようです.

引用元:https://blog.goo.ne.jp/imbanojunin/e/f84ce347ed90a2783b93679571a99e07

 肘関節は蝶番関節という一方向にしか動かせない関節で,本来腕の曲げ伸ばししかできないようになっています.横方向の動き(外反、内反)には対応できないため、 内側側副靭帯が外反を防いでいます.靭帯は関節を安定させる補強材の役割があり,関節が安定した状態で筋を収縮することにより関節運動が行われます.靭帯が緩むと関節が不安定になり,パフォーマンスを発揮できなくなります.
 トミージョン手術の術式はジョーブ法,伊藤法があるとのことですが,骨に穴を開けて腱を通して結び,強制的に外反しないようにしています.上腕骨と尺骨の表面に靭帯が付着していたのを,骨に穴を開けて八の字に通して結ぶびつけるということなので,接続はより強固なものになります.
  内側側副靭帯損傷したのは投球動作に原因があり,手術後も同じ投球動作を続ければ当然,再度内側側副靭帯を損傷することになります.しかし,術式の内容を知ると,かなり腕を強く振っても再手術を受けるまで靭帯が損傷する可能性は小さいことがわかります.


日本シリーズで活躍した栗原陵矢選手のバッティング

 日本シリーズMVPに輝いた栗原選手の今期の成績は,118試合,打率.243(21位),本塁打17本(7位),打点73(4位),出塁率0.307(25位),長打率0.420(12位)となっています.

引用元:YouTube 栗原陵矢がホームランを打った際のバッティングフォーム.2020.08.18 ZOZOマリンスタジアム vs. 美馬学(マリーンズ)
前脚を高く上げる栗原選手

 栗原選手のバッティングの最大の特徴は,ステップ足を高く上げるところです.ステップ足を高く上げると位置エネルギー(mgh)が大きくなり,着地のときに運動エネルギー(1/2mv2)を最大にすることができます.栗原選手は体格(179 cm,75 kg)がそれほど恵まれているほうではないので,前方移動のエネルギー(1/2mv2)を大きくするために,このような方法をとっていると考えられます.ただし,球速に差し込まれやすくなり,目線がブレるため,打率が下がるリスクを伴います.
 身体運動での力学的エネルギーは,運動エネルギーと位置エネルギー (mgh)を合わせたものになり,運動エネルギーは,並進運動エネルギー (1/2mv2)と回転運動エネルギー(1/2Iω2)に分けられます.

肩を回してもバットが後ろに残り,スイングのタメができている.大谷選手の場合,この肩の回り具合だと,すでにインパクトしている.
空手打法で打っている.前脚の膝がよく伸びている.
栗原選手はバッティングにムラがあり,この打席のように「人」の形に近くなるケースは少ない.今シーズンのベストスイングと思われる.
インパクト直後,すぐに前脚の膝が曲がることから,完全な「人」の形で打てていないことがわかる.

 栗原選手の長所としては,グリップの位置 が体に近いこと,脇が締まりバッタをタメて空手打法で打っていることが挙げられます.また,インパクトまでに前脚の膝がよく伸びて,下肢のエネルギーを上肢に伝達する 第二動作 が行われていますが,「人」の形では打てていません.これは伝達するエネルギーが効果的にスイングの加速に使われていないことを示唆しています.栗原選手はどの打席でも前脚の膝がよく伸びており,下肢のエネルギーを上肢に伝達するという点で強みをもっています.
 短所としては,フライング・エルボーからグリップを上下するバックスイングを行っていないこと,ステップ足を高く上げることが球を捉える際の不確実性を引き起こしていることが挙げられます.
 総合的に判断すると,バットを後ろに残してスイングのタメをつくることができるところは最大の長所ですが,現段階ではものすごい活躍をする選手としての動作の条件は満たしていないと考えられます.今後のパフォーマンスに注目したいと思います.


木製バットに対する諸注意

木製バットの選び方

引用元:科学する野球・打撃篇

 バットには竹製バットなどもありましたが,いま使われているバットは金属製バットと木製バットですが,わけても木製バットについてはどれほどの関心を持たれているでしょうか.
 テッド・ウイリアムズ著の『バッティングのサイエンス』を読みますと,彼は木目がこまかいバットを注文したと述べています.このような大打者がこういえば,木製バットは木目がこまかいのがいいのだなと思われるのも無理はないと思います.
 しかし,写真8を見ていただくとわかる通り,年輪のつまっている部分(木目のこまかい部分)は,材木の中心に近い年輪の粗い部分より年を経ていますから,材質としては老齢で反撥力が弱いのです.人間と同じで木目の粗い部分は若くて粘りもありますが,木目の細かい部分は老けており折れやすいのです.
 ですから木製のバットを選ぶには,木目は粗く,まっすぐ通っており,バットの先とグリップ・エンドの間に節目がないものを選ばなければなりません.

引用元:科学する野球・打撃篇

木製バットの手入れ

 ところで,木製バットの反撥力に非常に影響を与えるのは湿気です.
 湿気を防ぐためには,乾燥した部屋にバットをいれておかねばなりません.バットケースに入れたままにしておいてはいけません.バットケースに入れて持ち運びする時は,乾燥剤を入れておくといった配慮が必要です.
 特に雨中のゲームでバットを濡らしたあとは,手入れを十分に行わなければなりません.その手入れは,バットをアルコールで拭き,バットについた泥やゴミを落としたあと,十分に乾燥させます.そのあと牛の骨でバットをこすっておきます.こういったバットの手入れは雨のあとだけでなく,毎晩行ったとテッド・ウイリアムズ 氏は述べています.
 少し前の話ですが,某大学の選手がサイクルヒットを打った時,「バットを大切にすれば,バットに血が通い,打てるようになる」との考えから,試合用の木製バット二本を抱いて寝ていると話したことが美談めいて報道されたことがありました.
 これは考えてみますと,実に非科学的な話です.バットを抱いて寝れば,バットは自分の体から蒸発する水分で湿気ますので,バットの反撥力は落ちるのですから,バットを大切にしたい気持ちはわかりますが非科学的なことはしてはなりません.

引用元:科学する野球・打撃篇

バットの重さ

 さて,バットの重さについてはどうなのでしょうか.
 投手が投げた球の力と対決するバット(運動体)の力(f)は,f=m×a の公式から,バットの質量(m)と加速度(a)の相乗積を大きくすればするほど大きくなることがわかります.
 そこで,バットは重いほうがベターではありますが,筋力がそれに伴わないと,かえって加速度を落としてしまい,結果的には(f)を小さくしてしまうことになります.
 ですから,バットマンはその時の肉体状況に応じて,振りやすいバットを使用するのがよいということになりますから,シーズンに入る前に何本もバットを買って乾燥させておき,試合にはその中から振りやすいバット二,三本を選んで持って行くのがよいと思います.

引用元:科学する野球・打撃篇

バット職人の「木製バットの手入れ」

 まず、1番の木製バットの手入れとしては、バットに付着した泥を落とすことです。
 木製のバットは木材です。試合や練習中に小石などがバットにくいこんだ状態でボールを打つと、どんどん打ち味が悪くなっていきます。損傷から折れやすくなります。使用後は必ず乾いた布(ウエス)で拭いて下さい。
 但し木製バットは水分が大敵。決して水に濡らさないようにから拭きで。水で丸洗いなどは絶対に禁物です。
 次に打ち味(反発力を高める方法)として知られているのが、ヘッド部分を研ぐことで「木目を詰める」ことです。これはご家庭にあるビールの中瓶等(昔は「牛のツノ」「牛の骨」で行うものと言われていました)を用意してバットのボールが当たる部分に 全体重をかけてキュッキュッと押しつけます。
 これは、特にホワイトアッシュ(軟式用)のバットに効果的です。そもそもアッシュ材の性質上はボールを何度も打っていると木材が凹んでボコボコになってきます。その凹んでいる部分を成らすことで打ち味を良くします。表現としては磨くと言うわけではなく押し込むというものです。

引用元:http://www.mr-takumi.jp/description/care.html

 「科学する野球」では牛の骨でバットをこするとありましたが,引用元のホームページではビールの中瓶等でよく,特に軟式用のバットに効果的ということです.

バット職人の「木製バットの保管方法」

 なるべく直射日光の当たらない場所で、風通りの良い場所で保管してください。
 木材はバットの形になり、塗装をしたとしても空気と水分が出入りしています。そうすると木材は本来の姿(木工では木の癖と呼びます)に戻ろうとします。本来の姿とは、自然の木は太陽の方に傾くもので真っ直ぐ立っている訳では ございません。必ず反っているものです。木材として使われるときに人間に真っ直ぐに加工されるものです。
 つまり、日光が当たり水分を多く含むと自然に生きていた木の癖が出て自然に反ってしまうということです。ですので、保管場所には十分気をつけて下さい。
 次に、木製のバットは保管する時に、斜めに立てかけると良くないという話がありますが、確かに木製バットは自然のものですので、クリープ現象(材料に荷重を加えたときに、時間とともに変形が増大していく現象のことをいいます。)を起こすことがあります。つまり斜めに立てることで、木製バットが反ってしまうのです。
 但し、これは斜めに3年間放置しておくと、少し反るといった程度ですので、1日でクリープ現象が起きるということは、ほとんどなく、大げさな表現になります。完全に真横にして保管することもお薦めです。イチロー選手もやっているそうです。
 1番良いのは「垂直に立てる」ことですが、私は完全に「真横」にして保管することを お薦め致します。かのイチロー選手も、ベンチに戻るとスペースを空けて真横にバットを 置いているそうです。

引用元:http://www.mr-takumi.jp/description/care.html

一流選手のバットへのこだわり

 ◆強打者とバット 長嶋茂雄は牛骨でバットを磨いた。バットの芯を牛骨でなでると、牛骨の脂が木目に染み込み、その後に布で拭いて光らせていた。ロッテ時代の落合博満は米国からルイビル社製バットを200本取り寄せた。木目をチェックし、手の甲で芯の部分をたたいてその音で見極め、試合用に10本ちょっとを選び出した。イチロー、松井秀喜はオフにミズノの工場を訪問し、バット作りの名人・久保田五十一氏に依頼。イチローは巨人篠塚モデルで、ヘッド幅60・5ミリという細いものを使用。松井は96年に本塁打量産を目指し、左手のグリップの位置からヘッド部分にかけてバットをV字に削る「V字形」に変更。前年の22本から38本に本塁打を増やした。

引用元:https://www.nikkansports.com/baseball/wbc/2017/news/1776848.html

 長嶋茂雄が自著『野球は人生そのものだ』(日本経済新聞出版社)でこう書いている。<選手の晩年でもバットの芯のところを牛骨でよくなでた。牛骨でなでると、牛骨の脂がウッズの目に染み込み、そのあとを布でサァッと乾拭きすると、ピカピカになる。見ただけで打てそうな気がする。こういうことをすればバットに対する愛情もわくし、以心伝心というのか、用具にそれだけ愛情と執着を注げば、必ず結果が出るだろうと思った。だからプロ選手になってロッカーと我が家に牛骨を欠かしたことはない>
 そう言えば息子(一茂)を球場に忘れても、ミスターがバットを忘れて帰ったという話は聞いたことがない。用具への「愛情と執着」がミスターを大打者に育て上げたのだ。
 三冠王3度の落合博満(現中日監督)もバットへのこだわりは尋常ではなかった。梅雨時、湿気を含むためバットは若干、重くなる。必然的にスイングも鈍る。落合はそれを防ぐためジュラルミンのケースの中にバットを保管していた。
 最近ではイチローが“良き手本”か。数年前、バッターボックス付近に置いてきたバットをアンパイアが足でどかし、血相を変えて怒ったことがあった。イチローにとってバットは自分の魂も同然なのだろう。

引用元:https://www.ninomiyasports.com/archives/12215

 「科学する野球」では,技術論だけでなくバットの選び方から手入れ,重さについても述べられています.引用文も含めて参考にしていただければと思います.


渡部健人選手(西武ドラフト1位)のバッティング

前方移動に急激なブレーキをかけて,大きな一次エネルギーを生み出す

 インターネットの情報によると,渡部選手は日本人の父親とフィリピン人の母親を持つハーフとのことです.甲子園出場経験はなく,高校通算本塁打が25本,大学通算60試合の成績は, 打率.293、60安打、10本塁打、37打点( 桐蔭横浜大学・神奈川大学野球連盟) で,大学日本代表候補となっています.

前足が着地したときに,後ろ足がフリーフット(地面から離れる)になっている.

 渡部選手の最大の特徴は,前足が着地したときに後ろ足がフリーフット(地面から離れる)になることです.「人」の形で打つ で述べたように,ステップによる前方移動にブレーキをかけて, 前方移動の運動エネルギー(一次エネルギー )をスイングに利用する必要があります.
 運動エネルギーは,並進運動エネルギーと回転運動エネルギーに分けられ, 前方移動の並進運動エネルギー は1/2mv2 で表されるので,112kg(m)という体重が有利に働き,大元の一次エネルギーを大きくすることができます.後ろ足がフリーフット になるということは,前方移動に急激なブレーキがかけられている証拠で,大きなエネルギーをスイング(体幹の回転運動エネルギー)に利用できるため,飛距離につながっていると考えられます.

NPBでは,体重のある選手は「人」の形で打たなくてもボールに力負けしない

完全な「入」の形 にはなっていない.

 ただし,「入」の形(右打者の場合)で打つことができているかというと,きれいな「入」の形とは言い難く,前脚の膝関節を伸展して下肢のエネルギー(二次エネルギー)を上肢に伝達するという動作は不十分といえます.NPBでは,体重のある打者は一次エネルギーを利用するケースがほとんどです.

 打った直後に前足がすぐに離れているので, 「入」の形で打てていないことがわかる. 「入」の形で打てていれば,後ろに体重がかかるため,前脚がイエリッチ選手のように残る 傾向がある.
空手打法は確認できるが,インパクト時に肩が今ひとつ回っていないため,バットのタメは小さい.

 フライング・エルボー については,グリップを上げた反動を利用してスイングを加速していますが,バットを立てて手元を下げる動作は行われていません.構えのグリップの位置はやや高めで,体からの距離は離れすぎてはいませんが,密着もしていません.
 渡部選手は 「科学する野球」のチェックポイントをすべて満たしていません.その満たしていない部分を,重量級の体格を活かした前方移動の運動エネルギー(一次エネルギー ) と空手打法でカバーする打撃動作となっています.
 NPBではMLBに比べ投手の球速が劣るため,「入」の形で打てていなくて力負けすることが少なくなります.中村剛也,山川穂高両選手のように活躍できる可能性があると考えられます.