インパクト後,手首をすぐに返してはいけない

中心衝突させても,手をこねると偏心衝突になる

 トンカチとクギとを中心衝突させても,そのあとすぐにトンカチを握っている手をこねると,トンカチの頭はクギからはずれてしまい,十分なエネルギーをクギに与えることができません.ですから中心衝突で打ち終わったあとも,手をこねないでトンカチの頭に「残心」を保たなければなりません.これと同じことがバッティングでもいえます.
 また,手首を返しますと,後ろ腕の力に前腕が負けて,前腕が伸ばされることなく折りたたまれ両腕を伸ばすことができません.インパクト後,両手を伸ばすことなく振られたバットの遠心力は,両腕を伸ばして振られたバットの遠心力より小さいのですから,打球も遠くに飛ばなくて当然といえます.
 ですから,インパクト後すぐに手首を返してはならないのです.インパクト後は手首の返しではなく,両腕をまっすぐに伸ばすことだけを考えればよいのです.両腕をまっすぐに伸ばし切った時点で,バットに働いた遠心力で,写真14のように手首は返らざるを得なくなります.手首は返すのではなく返るものなのです.

引用元:科学する野球・打撃篇

手首は返すのではなく返るもの

引用元:科学する野球・打撃篇

 日本の野球界には,インパクト後すぐに手首を返せという指導がいまだに根強く残っています.これは,インパクト後 すぐに手首を返して,後ろ腕の力をバットに加えて,ボールの力をはね返そうとする考えから行われたものですが,とくに戦前の中学(現高校)野球,大学野球では,

(イ)バットは水平に振れ.
(ロ)上体をかぶせて前で打て.
(ハ)インパクト後すぐに手首を返せ.

 を水平打法の基本として指導していましたから,こういう指導を受けた方たちから,戦後の青少年でこれを受け継いでいる方たちまでを含めると,その数はいまもなお相当数に上るはずですから,インパクト後すぐに手首を返してはいけないといっても,この方たち全部に洗脳してもらうには時間のかかることだと思われます.現にマスコミ評でインパクト直後のすばらしい手首の返しといった表現がいまだに見聞される有様です.とにかく,日本の野球界から, インパクト直後の手首の返しという誤った常識を早く追放しなければなりません.

引用元:科学する野球・打撃篇

 インパクト後すぐに手首を返すと,偏心衝突を起こしてボールに力を加えることができなくなります.実際には手首を返して強い打球を打つことができる場合があり,そのように打っている選手もいます.しかし,手首を返してトンカチで釘を打つ難しさ,確率の低さを考えると,合理的な打ち方とはいえません.


ソフトバンクが強い理由

フィジカルの強さと技術の向上は別物

 日本シリーズ4連覇を達成したソフトバンクについて,なぜ強いのかということが話題になっています.

・ダルビッシュ投手のYouTube動画「ソフトバンクの強さやセ・パの大きな違い」https://www.youtube.com/watch?v=XM3cIMsHkZ0
・高木豊氏の YouTube動画 「【多村仁志さん登場】本当にソフトバンクが強いの!?多村さんが感じたセリーグとの差について語ります!!」https://www.youtube.com/watch?v=a8FHjrqF7mM

 両方の動画で共通した理由が述べられている部分があります.

 ダルビッシュ投手と多村氏ともに,フィジカルの部分を挙げています.多村氏がすごかったというくらい,選手はウエイトトレーニングをおこなっていたようです.ウエイトトレーニング 室にはあらゆる種類のサプリメントが並び,2005年当時からみんなパーソナルトレーナーを自腹で雇って専門的なトレーニングをしていたとのこと.また,キャンプ中の食事も外食に行かなくてもよいくらい豪華で,体づくりをするための環境が整っていたことがソフトバンクの強さの一因として挙げられています.

 この動画を観た方は,野球が上手くなるためにはウエイトトレーニングが必要だから,ボディービルダーのような体をつくらなければならないと思われた方も多いと思います.しかし,体作りと技術の向上は別物です.
 野球選手にボディビルダーの筋力は必要か で述べたように,特異性の原則に則ったウエイトトレーニングであれば,投手の腕の振りのスピード,打者のスイングスピードの増大が期待できますが,ダルビッシュ投手に「体を大きくする」ということばが出ていることから,ボディービルダーよりのトレーニングであったことが推測できます.
 もちろん,ボディービルダーのトレーニングでも効果は出ますが,特異性の原則に則ったウエイトトレーニングに比べるとその効果は小さいものになります.ですから,体をつくることは大事なことですが,ソフトバンクの選手がウエイトトレーニングに力を入れていたことが強さの根本的な理由になることは考えにくいということです.副次的なプラス面として位置づけするのが適当です.
 練習量がものすごかったという話も出ているので,むしろ特異性の原則に則った投げ込みや打ち込みをおこなうことで,投手のスピード,スイングスピードが増大したと考えることもできます.

合理的な動作ができている選手がどれだけいるか

 たとえば,成績が低迷している打者がいるとします.この選手がソフトバンクを見習ってウエイトトレーニングに励み,栄養も十分に摂って大きな体を作ることに成功したら,パフォーマンスは向上するでしょうか.答えはNoです.なぜなら成績が低迷している原因は打撃動作にあるので,いくら体づくりをしたところで打撃動作を改善しない限り,パフォーマンスは向上しないからです.ソフトバンクは育成出身で活躍している選手が多くいますが,ウエイトトレーニングをしたから活躍しているわけではなく,動作なかに技術向上の裏付けがあるはずです.
 つまり,チームの強さは投手,野手に合理的な動作ができている選手がどれだけいるかということにかかわってきます.ソフトバンクには柳田選手のようにパフォーマンスが高い選手もいますが,「科学する野球」でも指摘されているように,残念ながら日本人選手よりも 外国人選手のほうが動作では上を行っています.日本シリーズも含めソフトバンクほど投打ともに外国人選手が成績を残しているチームは他にないのではないかと思います.

 


大谷選手に2シームが投げられなくなった謎

大谷選手の球種別打率-対右投手, 速球系

大谷翔平 球種別打率 2018-2020 対右投手 速球系
対右投手球種全投球に占める割合 %打率
201820192020201820192020
速球系4シーム32.637.533.5.293.293.147
2シーム9.67.2.391.563—–
カッター9.65.410.0.273.133.200
シンカー7.95.210.4.316.400.533
全球種59.755.353.9.309.317.254
引用元:ベースボール・サバント
※投球なし

 上図は大谷選手の対右投手の速球系の打率の推移をまとめたものです.大谷選手は元々速球系のボールに強く, 2018,2019年 ともに3割以上の打率を残していました.特に2シームとシンカーを得意にしており,2019年は2シームが0.563,シンカーが0.400の高打率となっています.
 そてでは,2020年の得意球の打率はどうだったかというと,2シームは一球も投げられていません.シンカーは0.533の高打率で得意球であることを証明しています.まず疑問に思うところは,シーズンを通して2シームがインターリーグも含めて,一人の打者に対して一球も投げられないことがあるかということです.あるとすれば,大谷選手が2シームに強いという情報がMLB30球団すべてに行き渡っており,大谷投手に一球も投げなかったということが考えられます.


大谷選手の球種別打率-対左投手, 速球系

大谷翔平 球種別打率 2018-2020 対左投手 速球系
対左投手球種 全投球に占める割合 % 打率
201820192020201820192020
速球系 4シーム 22.529.628.5.421.280.083
2シーム 12.48.6.143.111—–
カッター 4.811.94.8.100.417.000
シンカー 14.98.027.2.353.333.273
全球種 54.658.160.5.283.291.148
引用元:ベースボール・サバント
※投球なし

 次に対左投手の打率の推移をみると,左投手が打てないといわれる中,速球系については,.283(2018),.291(2019)と比較的高い打率を残しています.対右投手と同様にシンカーには強いようですが,2シームについては,2018年が0.143,2019年が0.111と対右投手とは逆に全く打てていません.苦手球になっています.
 それでは,2020年の苦手球の打率はどうだったかというと,2シームは一球も投げられていません. 対右投手の場合は,大谷選手が高打率を残していたため,他球団が警戒して投げなかったと思いきや,対左投手では苦手球となっている2シームを一球も投げていないという訳のわからないことになっています.
 単にMLBが2シームを誤って全球4シームと判定したのか,対左投手の打率など調べず,対右投手が打たれているから,2シームを投げないようにという大雑把な指示を出したのかよくわかりません.


バットとボールは中心衝突を起こさなければならない

ダウンスイングは物理に反する

引用元:科学する野球・打撃篇

 バッティングはバットでボールを打つことですから,バットとボールとは衝突という現象を起こします.この衝突には中心(向心)衝突と偏心衝突とがありますが,バットとボールとは中心衝突を起こさなければ,効果的な打撃を得られないので,偏心衝突ではボールはすばらしいスピードで遠くに飛んでくれません.ですからバットとボールとを中心衝突させるにはどうすればよいか,ということを物理に則って突きつめていかなければなりません.
 そこでまず,トンカチを握り,クギを打ってみましょう.図43はトンカチとクギとは中心衝突していますから,クギはスイスイと打ち込まれていきます.ところが図44はトンカチをクギに向けてダウンに打ち込んで,偏心衝突していますから,釘は下向きに曲がって中へは打ち込まれません.図45はトンカチをクギに向けてアッパーに打ち込んで偏心衝突していますから,クギは上向きに曲がって 中へは打ち込まれません.
 このことからわかることは,トンカチで釘を打つ時,ただひとつの打ち方しか中心衝突を求めることはできないということです.打ち方は二つも三つもない,ただひとつということです.
 バッチングについても,バットでボールを打つ打ち方は,中心衝突を求める限り,ただひとつしかないのです.ですからダウン,レベル(地面に水平),アッパーと三通りもあるスイングは打ち方ではなく,ただバットの振られる軌道が地面に対してどう振られるかというに過ぎません.

引用元:科学する野球・打撃篇

 クギが投球の軌道を表すとすれば,中心衝突を起こしてクギを打ち込むためには,ダウンスイングやアッパースイングはしてはいけないということが述べられています.
 投球の軌道は,リリースポイントから捕手のミットまで落ちてくる軌道になるので,実際の軌道に合わせるとクギは水平ではなく,多少下向きになります.クギが下向きであれば,中心衝突を起こすためには多少『アップスイング 』をしたほうがよいことになります.
 『アップスイング 』で中心衝突を起こせば,打球の速度,打球の角度が大きくなるため,「フライボール革命」にもつながってきます.
 『アップスイングとアッパースイングとの違い』については,こちら をご覧ください.


ダウンスイングが日本に持ち込まれた経緯

 このダウンスイングは,昭和三十六年に川上監督(当時)が,巨人軍を率いてフロリダのドジャータウンでキャンプを張った時,渡米土産として持ち帰ってきたものですが,その後,荒川博氏(巨人軍打撃コーチ)がこのダウンスイングで王さんを育てたということで,ダウンスイングが正しいスイングとして一躍クローズアップされました.
 しかし,王さんのスイングは決してダウンスイングではなかったと思われるのは,私一人ではないと思います.
 王さんの日記がテレビで一部公開された時,今日はダウンスイングで打ってみようと書かれていたのは,スランプに悩んだ挙げ句のことでしたから,いつもはダウンスイングで打っていなかったことがこの一文からはっきりとわかります.

引用元:科学する野球・打撃篇


ダウンスイング論者がダウンスイングを是とする理由

 ところで,ダウンスイング論者がダウンスイングを是とする理由として,バットは地面に対してレベル(水平)に振っているつもりでもバットの先は下がり,アッパーになっているのでダウンに振って初めてレベル(水平)になると説いているので,ダウンスイング論者はもともとレベルスイング論者ということがわかります.
 ところが,従来のレベルスイングは,ミート・ポイントでバットを地面に水平にするのに,バットは構えられた位置から図46のように半円を描いて水平にされるので,図47のように高く構えた位置から斜め下(四十五度)に直線的に振り下ろしてバットを水平にするのに比べて,遠回りしているから,バットをボールに向けて最短距離を通って当たるようにするために,ダウンスイングしなさいと説いているわけです.

引用元:科学する野球・打撃篇

 従来のレベルスイングが,図46のように半円を描いて水平にされ,バットが遠回りするので,図47のように 四十五度に振り下ろしてダウンスイングし,バットが最短距離を通ってレベル(水平)になるようにするということが述べられています.
 ダウンスイングが日本に持ち帰られた当時は,図47のように 斜め下にバットを振り下ろすものと理解されていましたが,後日,来日したドジャースのバッティングコーチ(当時)ケニー・マイヤーズ氏が「バットを振り下ろしたあと,両手首を返して打つからバットはレベル(水平)な振りになる」と川上監督にいわれてから,バットを水平に振るためのダウンスイングになったとのことです.


ダウンスイングではインパクト後,両腕を伸ばすことができない

引用元:科学する野球・打撃篇

 ダウンスイングの素振りを見てみると,写真13のように,スイングの始めから終わりまで,前腕が伸びていません.このような腕の使い方では,インパクト後に大事な両腕を伸ばすことができません.
 インパクト後に両腕を伸ばすことは,わかりやすくいうと,両腕が伸びきるまで球の芯を打ち抜かなければならないということですが,バットの撃力のほうが投球された球の力より大きくないと,インパクト後両腕を伸ばすことができません.
 しかし,打者が投球された球の力を上回る撃力をバットに与えても,バットの撃芯とボールの芯とを中心衝突させないで,ダウンスイングのように偏心衝突させると,バットの撃力がボールに十分加えられませんから,バットがボールに与えるエネルギーが小さいので,かりにダウンスイングでインパクト後両腕を伸ばすことができたとしても,打球はそれほど遠くには飛んでくれません. 

引用元:科学する野球・打撃篇


 現在,ダウンスイングの指導が行われているのか,ダウンスイングということばが死語となっているのか定かではありません.実際に指導が行われる場合は,おそらくレベルスイング(このことばも使われていないのかもしれませんが )論者としての指導になると思われますが,ダウンスイング自体は偏心衝突を起こすもので正しいとはいえないということです.


大谷選手のインパクトでの顔の向きはゴルファーと同じ

ハンク・アーロン選手との比較

2020年7月29日 1号ホームラン チェンジアップ 80.9mph センター(右中間寄り)方向
引用元:ベースボール・サバント
ゴルフスイングで打つ大谷選手 肩が回っていないのにボールを打っている.
引用元:ベースボール・サバント             

 画像は 大谷選手の得意な内角低めのボール をホームランしたときのバッティングです.大谷選手はグリップを体から離して ワキが空いたままスイングする ため,肩が回らず手元が先に前方移動します.バットのタメがないまま打っているのですが,フック・グリップで構え, 空手打法 で打つことはできています.

大谷選手(左)とハンク・アーロン選手のインパクト時の顔の向き
引用元:YouTube(ベースボール・サバント),科学する野球・打撃篇(右)

 ハンク・アーロン選手は,両肩を結ぶ線が打球の方向に直角になるまで肩を回しており,インパクトで顔が前方に向いています.大谷選手は打球が センター(右中間寄り) に飛んでいるので,肩はもっと回っていなければなりませんが,肩を回さずに打っています.そのため,顔は前方に向かず,地面に置いたボールを打ったゴルファーと同じ顔の向きになっています.

王貞治選手のスランプの原因

引用元:科学する野球・投手篇

 「科学する野球」に,王貞治選手のスランプがゴルフ打法に起因していたことについて言及した箇所がありますので,引用します.

 プロ野球選手のゴルフ愛好者はずいぶん多くなったものです.とくにシーズン・オフでは,トレーニングにもってこいという訳で,目下大流行.それはそれで結構だが,ゴルフに凝り出し,ゴルフ理論を下手にバッティングに採りいれると惨めなことになる.そのよい一例が,一九七三年,三冠王となった王貞治選手のこのバッティング・フォーム.このフォーム(図1-①)は,一九七三年の六月頃, なかなかホームランが出なくて悩んでいた時のもので,これは明らかにゴルフ.これではいかな王選手でもスランプに喘いだのは当然.このあと王選手がどのようにして立ち直ったのか,私は知らないが,とにかくこの大打者をしてさえも,野球(バッティング)でゴルフをやるとこの通り.スプリング・キャンプに入っても,シーズン・オフ中にやったゴルフの味が忘れられず,ティー・バッティングでゴルフの練習をして楽しんでいる選手が多く見受けられる.これではよい打撃成績は望むべくもない.タメて打つという点では,バッティングもゴルフも変わりはないが,その打つ動作,力の求め方が違うことを,頭でも,体でもわかっていないで,ゴルフも野球も同じであるとかわかったようなことをいっていると,みじめなことになる.

引用元:科学する野球・投手篇