MLBでの左対左の攻め方

 MLBで左対左の場合の投球パターンを全球種,速球系,スロー系,変化系に分けてまとめます.2018年から2020年までのデータを使います.


全球種

引用元:ベースボール・サバント

 全球種では,投球数の26.5%が外角低めのボールゾーンに集中しています.大谷選手だから外角低めに投げていたというわけではなく,筒香選手も秋山選手も含めて左対左の場合,外角低めに投げるのが常套手段になっているということです.実際に外角低めのコースを打者は打てていません.


速球系(Fastballs:4シーム,2シーム,カッター,シンカー)

引用元:ベースボール・サバント

 速球系では,四隅のボールゾーンの投球割合が大きくなっています.外角低めのストライクゾーン6.4%と合わせると,23.9%が外角低めに投げられています.


スロー系(Offspeed:SFF,チェンジアップ,フォークボール,スクリューボール)

引用元:ベースボール・サバント

 スロー系では,SFF(スプリットフィンガー・ファストボール)などの落ちるボールが主となるため,低めにボールが集中しています.低めのボール球の割合が大きく,高めに浮くと真ん中,内角寄りのコースが打たれています.


変化系(Breaking:スライダー,カーブ,ナックルカーブ,スローカーブ,ナックル,スローボール )

引用元:ベースボール・サバント

 変化系では,スライダー,カーブという外に逃げる球種が主となるため,投球数のほぼ半数が外角低めに投げられています.外角低めのストライクゾーンが8.8%,ボールゾーンが43.0%ですから,合わせて51.8%が外角低めのコースに集中しています.外角低めにストライクゾーンから外れるボールを投げるのが定番の攻め方になります.

 打者によって攻め方が変わる部分はありますが,左対左の投手の攻め方はMLBでもNPBでも大差ないと思われます.


運動連鎖の考え方

投手の運動連鎖

 投球動作での腕の振りの加速,打撃動作でのスイングの加速には,運動連鎖が利用されます.運動連鎖では運動エネルギーを関節を介して末端の速度を増大させます.運動エネルギーは 1/2mv2 で表されるので,最初に運動エネルギーを質量(m)の大きな部位で発生させて,小さな部位へと運動エネルギーを伝達していけば,速度(v)の値を大きくすることができます.
 投球打動作ではまず,ステップによる前方移動の運動エネルギーを発生させ,ステップ足が着地して前方移動にブレーキがかかり,減速,静止すると,前方移動の運動エネルギーが次の部位である体幹に伝達されます.体幹が回旋して肩が回り,捕手に正対するところで減速,静止すると,体幹の運動エネルギーは上腕に伝達されます.上腕が減速,静止すると,上腕の運動エネルギーは前腕に伝達されます.前腕が減速,静止すると,前腕の運動エネルギーは手に伝達されます.手の質量は小さいので,最初に発生させた運動エネルギー1/2mv2が関節を介して伝達されるならば(実際には各部位は完全に静止するわけではないので,ロスなく伝わることはない),1/2mv2の vは末端で最大になります.


打者の運動連鎖

 打撃動作では,ステップによる前方移動の運動エネルギーを発生させ,ステップ足が着地して前方移動にブレーキがかかり,減速,静止すると,前方移動の運動エネルギーが次の部位である体幹に伝達されます.体幹(脇が締まるため上腕は体幹と一体になる )が回旋して肩が回り,打球線に対して両肩を結ぶ線とバットが平行になるところで減速,静止すると,体幹の運動エネルギーは前腕,バットに伝達されます.前腕とバットの質量が小さくなるため,スイングスピードを加速させることができます.
 運動連鎖の利用では,質量の大きい部位から小さい部位にエネルギーを伝達すると末端の速度を最大にできます.小さい部位にエネルギーを伝達するには,単関節よりも多関節の運動がよいことになります.大谷選手のように質量の大きい体幹を回さずにゴルフスイングで打つことは運動連鎖の利用に反しています.


ソフトボールの投手が利用する運動連鎖

上野由岐子投手  ソフトボールのブラッシング 
引用元:http://www.nijiiro-sekkotsuin.com/2015/10/13/1528/

 ソフトボールで腕を大腿部に当てて投球するブラッシングという技術があります.これは,前腕を大腿部に当てて腕の振りにブレーキをかけることによって,運動エネルギーを手という小さい部位に伝達し,末端の速度を増大させるというものです.ソフトボールは下手投げのため,野球のように肘を先行させて鞭のようにしならせることはできませんが,ブラッシングでブレーキをかけることで運動連鎖を利用しています.


バットとボール(球道)とは90°で衝突させる-その2

近めの球は右中間方向(右打者)に,遠めの球は左中間方向 (右打者) に打ち返す

引用元:科学する野球・打撃篇
引用元:科学する野球・打撃篇

 というわけで,中心衝突を求めるために,ミート・ポイントでバットを球道に九〇度で交わらせなければならないのだから,真ん中に投げられた球は,図68のようにセンター方向に打ち返され,遠めの球は図70のように左中間方向(右打者)に近めの球は図71のように右中間方向(右打者)に打ち返されます.このように球道に逆らわないで打つのが打撃の本質なのです.
 たとえば,図72のように,近めの球を引っ張ったり,巻きこんで打つと,図67の㋑の偏心衝突を起こしファールを打つことが多くなります.元巨人軍の千葉茂さんは近めの球を右中間方向に打つ名人で,この打ち方は千葉さん独特の特異な打ち方と思われていましたが,これが球道に逆らわない物理にかなった打ち方だったのです.
 遠めの球に対して,図73のように肩を回さないで流し打ちするのは,ミート・ポイントで肩の線とバットが球道に九〇度で交わっていないから,図67の㋩の偏心衝突を起こし,ファールを打つことが多くなります.
 また,逆に遠めの球でも引っ張ろうとする打者がいますが,遠めの球が左中間方向(右打者)に打ち返されるのは,引っ張って左中間方向にも持っていくのではなく,センター返しをするときの動作と同じ動作を行いますと,球道と九〇度で交わるバットの向きで左中間方向に打ち返されるのだから,ここを間違わないようにしてください.

引用元:科学する野球・打撃篇


テッド・ウイリアムズ選手のアップスイング

引用元:科学する野球・打撃篇


 テッド・ウイリアムズ著の『バッティングのサイエンス』でも,「バッティングは手首の返しによるスイングでプルヒッティングするのではなく,投球に対して九〇度に当てるプッシュ・スイングを行わなければならない」と説いています.
 また,ダウンスイングについても,インパクトでトップ・ハンドがボールより上になる傾向があり,その結果は巻き込んで打つスイングになるので,望ましいものではないと述べています.
 そして,彼がアップスイング(アッパースイングではない)を行ったのは,投球されたボールは約五度下向きで打者に向かって飛来するから,これを打つには手首を返さないで,少しアップスイングにしたほうが,投球の軌道とバットの軌道が一致している区域が長くなるという考えからで,これはトンカチでクギを打った時,トンカチの頭に「残心」を保つことと一致しています.
 王さんも振り出しからバットを水平にもどし,インパクト後はアップスイングで両腕を伸ばしきるまで,球の芯を打ち抜いていました.
 このアップスイングをするには,前腰の捻りを先行させて,インサイド・アウトにスイングしなければなりません.それには,写真23のようにトップ・ハンドと後ろ腕を外捻し,後ろヒジの内側の凹みを空のほうに向けて,後ろヒジを後ろ脇腹にかい込こむことからスイングのスタートを起こすことです.
 図74のダウンスイングのように,トップ・ハンドや後ろヒジを起こすと,アウトサイド・インのスイングになり,プッシュ・スイングができません.
  テッド・ウイリアムズ氏が,最高の右打者の一人として推奨するハリー・ヘイルマン氏から“インサイド・アウトのスイングを身につけたので,インコースに北ボールをライト方面に打てるようになった”と聞かされたとのことですが,近めの球をライト方向に打ったのは千葉さんだけではなかったのです.

引用元:科学する野球・打撃篇


アップスイングとアッパースイングとの違い

引用元:科学する野球・打撃篇


 なお,アッパースイングは,図75のように水面下に手を沈めて水をすくうように,グリップをクギの力線(球道)より下に沈めてから,クギ(球)に向かって振り上げますのですくい打ちをすることになります.
 ですから,アッパースイングというのは,インパクト前のバットの振り方であり,インパクト後にアップに振るアップスイングとは違うことをはっきりと認識してください.
 また,図76のように,同一の加撃面(ガラス)の中に,ボールとバットがあれば,グリップよりバットの先が下がっていても,これはアッパースイング,すくい打ちではありません.
 以上の説明から,打撃の本質は中心衝突を求めることであり,中心衝突を求めるには,
一,仮想の加撃面に沿ってレベルに打つ.
一,バットとボール(球道)とは九〇度で衝突させる.
ことが必須条件であることを理解されたことと思います.

引用元:科学する野球・打撃篇


 村上氏の説明によると,中心衝突を求めるためにミート・ポイントでバットを球道に九〇度で交わらせると,右対右の場合,遠めの球は左中間方向に,真ん中の球はセンター方向に,近めの球はライト方向に打つことになるということです.投球に対して90°に当たるのであれば,中心衝突させるために手首を返さず90°の角度を保ったまま両腕を押し出して打つことが必要になります.これがテッド・ウイリアムズ選手がいうところのプッシュ・スイングです.
 このプッシュ・スイング は上方から見たときの中心衝突になります.しかし,側面から見ると投球されたボールは約五度下向きで打者に向かって飛来するので,側面の球道に中心衝突させるためには約五度下向きの球道に合わせてアップスイングしなければならないことになります.
 アップスイングは図76のように仮想の加撃面に沿って中心衝突させるので,図75のような偏心衝突を起こすアッパースイングとは異なります.


左対左のコース別投球割合-大谷,筒香,秋山選手-

大谷選手-対左投手,全球種

2020 対左投手 コース別投球数(左), 2020  対左投手  コース別投球割合%(右)
引用元:ベースボールサバント

 2020年は 新型コロナウイルスの影響により、試合数は60試合に短縮されました. 投球数を見てもわかるように左投手と対戦する機会も激減しています.しかし,左打者に対する左投手の攻め方ははっきりしており,外角低めのボール球に集中しています.


筒香選手-対左投手,全球種

2020 対左投手 コース別投球数(左),2020  対左投手  コース別投球割合% (右)
引用元:ベースボールサバント

 大谷選手と同様に,外角低めのボール球に集中しています.


秋山選手-対左投手,全球種

2020 対左投手 コース別投球数(右),2020  対左投手  コース別投球割合%(左)
引用元:ベースボールサバント

 投球数が少ないにもかかわらず,外角低めのボール球に集中することに変わりはありません.想像はつくことですが,左打者に対する左投手の攻め方がパターン化されていると考えられます.サンプル数が少ないため,打率のデータは載せていません.


バットとボール(球道)とは90°で衝突させる

トンカチの柄とクギとの角度は90°になる

引用元:科学する野球・打撃篇

 図66を見てください.トンカチの頭の打撃面とクギの頭とがどういう角度で衝突するかによって,㋺のように中心衝突を起こす場合もあれば,㋑や㋩のように偏心衝突を起こす場合もあります.
 そこで,トンカチとクギとを中心衝突させるには,㋺で見られる通り,トンカチの柄とクギとの角度を九〇度にしなければならないことがわかります.㋑の偏心衝突では,トンカチの柄はクギに対して九〇度より鈍角であり,㋩の偏心衝突では,九〇度より鋭角になっています.いうまでもなく㋑㋩の偏心衝突では効果的な打撃は求められません.
 これは,バットとボールとの衝突においても同じような現象がみられます.そこで,図66の㋑㋺㋩の衝突角度にならって,バットとボールとの衝突を描いてみますと,図67の㋑㋺㋩ となり,㋑と㋩は偏心衝突,㋺は中心衝突です.㋺は中心衝突では,バットとボールとが九〇度の角度で衝突していることはいうまでもありませんが,インパクトの時点でバットがボールと九〇度で中心衝突したときの衝撃(球の力)に耐えるには,図68の通り,トップ・ハンド側の前腕部がバットと九〇度の角度を保てませんと力の均衡がはかれません.

引用元:科学する野球・打撃篇


引用元:科学する野球・打撃篇 ※写真はテッド・ウイリアムズ選手  


ミート・ポイントの論争に決着をつける

 また,その前腕部も腕の力だけではなく,肩の力(注・肩の力はテークバックのトップの位置からミート・ポイントまで肩を回すことによって生まれる.)をも合力しなければ,球の力に打ち勝つことができないから,写真22のように,両肩を球道に対して九〇度になるまで回すことが必要となります.
 ということは,インパクトの時点で,バットが九〇度の角度でボールを捉えるには,バットと両肩の線が並行でなければならないということになります.
 ですから,両肩の線が球道と九〇度以上の鈍角で交われば,バットは図67の㋑となり,九〇度以下の鋭角で交われば,バットは図67の㋩となり, その結果はいずれも偏心衝突を起こすことになります.図69はトップ・ハンド側の前腕部とバットとが鋭角でインパクトし,ボールに食い込まれているのがよくわかります.
 日本の野球界では,ミート・ポイントについて,「前で打て」とか,「呼び込んで打て」とか,「引きつけて打て」とか,あるいは「ホームベースの一〇センチ前で打て」とか,また「前足のカカトの前でミートせよ」とか,指導上いろいろのことがいわれていますが,これらの表現は,いずれも指導者の個人個人が経験的に感覚的に捉えたものであり,物理的に解明されたものではありません.
 中心衝突を求めるために,バットとトップ・ハンド側の前腕部と両肩の線を,それぞれ九〇度の角度に保ち,バットが球道に九〇度で交わる点がミート・ポイントであると物理的に定義づけると,いままでミート・ポイントについていろいろ論争されてきましたが,これで決着するはずです.

引用元:科学する野球・打撃篇


 トンカチでクギを強く打ち込む(中心衝突させる)には,トンカチの柄とクギとの角度を90°にしなければならないので,図68のように両肩を結ぶ線とバットが並行になり,それぞれ球道に対して90°になります.球道に対して打ち返すことになるため,投球線(球道)と打球線(ミート・ポイントからボールが打ち返され得る球筋)が一致します.