筒香選手はメジャーで活躍できるか

 動画は7月25日に筒香選手がトロント・ブルージェイズ戦でホームランを打ったときのものです.

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=yDmB7hcNd1U

 結論からいうと筒香選手がメジャーリーグで活躍するのは難しいと思われます.なぜなら大谷選手のように 「人」の形 で打てていないからです.長距離砲として成績を残すためには,この打ち方は必須となります.

 筒香選手には「人」の形で打っていないマイナス面をカバーする特徴が三つあります.一つは後ろ肘を フライング・エルボー にしてバックスイングを行い,肘を先行させている点です.二つ目は 空手打法 でボールを打っていることで,飛距離が出る一因にになっています.三つ目はステップ脚を突っ張らせることによって,スイングスピードを速くしている点 (ステップ足着地後の第二動作) です.

 筒香選手はボールを打った後,体幹が前方に移動して,前足に体重が乗ります.これはステップの前方移動の運動エネルギーをステップ脚でブレーキをかけることにより,スイングスピードを上げる動作に利用していることを意味します.ただし,このやり方では 「人」の形で打つ ときのように下肢のエネルギーを体幹,上肢へと流す側面は小さくなります.筒香選手は,この特殊な打ち方でNPBのなかでもスイングスピードの速い打者に数えられますが,MLBで活躍する選手の大半が「人」の形で打っていることを考えると,その不足分をカバーするのは困難であると推測されます.

空手打法 でボールを打つ筒香選手 引用元:https://www.youtube.com/watch?v=yDmB7hcNd1U

「人」の形にはなっていない 引用元:https://www.youtube.com/watch?v=yDmB7hcNd1U
前脚を突っ張らせブレーキをかけているため,体幹が前方に移動している.
ステップ足着地後の第二動作 を利用していないため,体重が軸足に残らない. 
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=yDmB7hcNd1U


野球選手にボディビルダーの筋力は必要か

肉体改造を巡って賛否両論

 右肘のリハビリを終え、今季から二刀流復活が期待されるエンゼルスの大谷翔平(25)がムキムキの肉体でスプリングトレーニングに登場していることがファンの間で話題になっているが、球界の大御所、張本勲氏がTBS系列の「サンデーモーニング」内で、「あんな体を作っちゃダメ。プロレスじゃないんだから。ケガする」と発言。ウエートトレに批判的立場だったイチローの例も出てきて、その肉体改造を巡ってネット上でも賛否両論が巻き起こっている。

引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/bc9e89e5aec460bde4bb84b6866b2ef45fe1e6ca 

特異性の原則

 ウエイトトレーニングについては,ダルビッシュ投手も一家言を持っているようです.野球選手の肉体改造に興味のある方のために,トレーニングの原則の一つである特異性の原則を紹介します.複合トレーニングの効果は無視します.特異性の原則とは「ある種の運動能力を高めるにはそれと同類の運動でトレーニングするとよい」という原則です.

引用元:小田伸午「運動科学 アスリートのサイエンス」丸善 2003 p.26 図Ⅰ-12

 実線は力-速度関係を表し,負荷が大きいほど関節運動の速度は小さくなります.たとえば,腕を曲げる肘関節の屈曲では負荷が小さければ腕を曲げる速度は大きく,負荷が大きければ腕を曲げる速度は小さくなります.点線はパワー(力×速度)を表しています.ラグビーのスクラムや相撲の四つのように大きな力をじわーっとゆっくり出す力ゾーンの競技では力ゾーンのトレーニングがよく,砲丸投げのように負荷のかかった状態でスピードが要求されるパワーゾーンの競技ではパワーゾーンのトレーニングがよいことになります.

 投球動作がどのゾーンにあたるかといえば,ボールの重さは145グラムしかなく,鉛のボールを投げるわけではないので,どう考えても負荷の小さい運動になります.つまり,スピードゾーンのトレーニングをするのがよく,ボールを投げること自体(シャドーピッチングも含む)がウエイトトレーニングとなります.腕を振る動作のなかにベンチプレスのようなじわーっと力を発揮する動作は含まれていないので,ベンチプレスを行っても腕を振るスピードを速くする直接的な効果はないことになります.

 打撃動作がどのゾーンにあたるかといえば,バットの重さは900グラムくらいですから,ある程度負荷がかかった状態でバットを速く振るということになります.鉛のバットを振るわけではありませんが不可は小さいとはいえないので,パワーゾーンにあたると考えられます.つまり,パワーゾーン(力とスピードの両方が要求される)のトレーニングをするのがよく,バットを振ること自体(素振りも含む)がウエイトトレーニングとなっています.バットを振る動作のなかにベンチプレスのようなじわーっと力を発揮する動作は含まれていないので,ベンチプレスを行ってもバットを振るスピードを速くする直接的な効果はないことになります.


イエリッチ選手のバッティング

日系三世の強打者

 ナショナルリーグで2年連続で首位打者となったクリスチャン・イエリッチのバッティングを見てみます.今シーズンは本塁打も44本記録しており,長打力も兼ね備えています.ウィキペディアによると、母方の祖父が日本人でクォーターとのことです.

母方の祖父はミネオ・ダン・オダという日本人であり,その血が1/4流れる日系三世である。母方の祖母はドイツ,イギリス,オランダ,スコットランドの血を引く家系であり,フットボール選手だった曽祖父のフレッド・ジャーク(英語版)はNFLで殿堂入りを果たしている.父方はクロアチア移民の家系.弟のコリン・イエリッチは2015年にドラフト29巡目でアトランタ・ブレーブスに入団した捕手で,2016年12月24日に当時兄が所属していたマーリンズとマイナー契約をした.

引用元: ウィキペディア


「人」の形で打つことは,MLBで活躍するための最低限の打撃動作

Christian Yelich Home Run Swing Slow Motion 2018-1(#32)
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=JhfrNGT09Gc&feature=emb_title

 動画ではイエリッチ選手のホームランのスイングを横方向から見ることができます.ボールのコースによってスイングは変わりますが,ほぼ真ん中寄りのボールをホームランにしています.大谷選手とは違い,前足を上げてステップしていますが,タイミングをとることが上手く,速球,変化球どちらにも対応できる選手のようです.バックスイングでは,後ろ肘を フライング・エルボー にして,肘を上げ,反動をつけて肘を先行させていることがわかります.前足の着地後,下肢からエネルギーを上肢に伝達して,バットのヘッドスピードを大きくし,インパクトでは 空手打法 でボールを打っています.

  体幹を後方に倒す動作の中でバットのヘッドスピードを大きくしているため,インパクト後は 「人」の形 になり,軸足で体重を支えステップ脚が伸びたままかかとを地面に置く体勢になります.この動作はMLBで活躍している選手なら誰もが行っている動作であり,日本人選手がMLBである程度の成績を残そうとするならば,身に付けておくべき最低限の動作になると考えられます.

「人」の形で打つ イエリッチ選手
「人」の形で打つ イエリッチ選手 
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=JhfrNGT09Gc
打った後、ステップ脚が伸びたまま残るイエリッチ選手
打った後,ステップ脚が伸びたまま残るイエリッチ選手 
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=JhfrNGT09Gc


トミー・ジョン手術とは

トミー・ジョン手術とは

 まず、トミー・ジョン手術とはどういうものなのかということですが、 ウィキペディアでは次のように説明されています。

 トミー・ジョン手術(英: Tommy John Surgery, 側副靱帯再建術)は、肘の靱帯断裂に対する手術術式。1974年にフランク・ジョーブによって考案され、初めてこの手術を受けた投手トミー・ジョンにちなんでこう呼ばれている。投球の際にひじの側副靭帯に大きな負担がかかる野球の投手が受けることの多い手術である。野球以外ではやり投など投擲系の競技者も受けることがある。

引用元: ウィキペディア

 この説明では詳しいことがわからないため、次にKOMPASの野球肘についての記載を引用します。野球肘は、内側型野球肘、外側型野球肘、後方型野球肘の3つに分類され、トミー・ジョン手術では内側型野球肘が該当します。

内側型野球肘
投球動作では、加速期に腕が前方に振り出される際に肘に強い外反ストレス(肘を外側に広げようとする力)が働き、さらにその後のボールリリースからフォロースルー期には手首が背屈(手の甲側に曲がること)から掌屈(手のひら側に曲がること)に、前腕は回内(内側に捻ること)するため、屈筋(手や指を手のひら側に曲げる筋肉)・回内筋(前腕を内側に捻る作用を有する筋肉)の付着部である上腕骨内側上顆(肘の内側にある骨性の隆起)に牽引力が働きます。この動作の繰り返しにより、内側側副靭帯損傷、回内・屈筋群筋筋膜炎(肘内側に付着する筋腱の炎症)、内側上顆骨端核障害(内側の成長線の障害)などが起こります。

引用元: KOMPAS

 引用文をまとめると、以下のようになります。
①加速期に外反ストレスが働く → 内側側副靭帯損傷
②リリースからフォロースルー期に手首が背屈から掌屈になり、前腕が回内するため、 屈筋・回内筋の付着部である上腕骨内側上顆に牽引力が働く →  回内・屈筋群筋筋膜炎、内側上顆骨端核障害  

  トミー・ジョン手術では、①が該当し、捕手に正対してから腕を振ってリリースするまでの加速期に、 外反ストレスが働くことにより内側側副靭帯が損傷することがわかります。

投球動作の期分け
投球動作の期分け 引用元:松田整形外科記念病院

肘関節内側側副靭帯損傷

  同じくKOMPASから内側側副靭帯損傷についての記載を引用します。

内側側副靭帯損傷
前述の投球動作の繰り返しにより、肘の外反を制御する内側側副靭帯が障害され発症します。スキーでの転倒のような、1回の外力で靱帯が完全に断裂する場合と異なり、野球肘では繰り返す牽引により靱帯が「伸びた」状態になっていることがほとんどです。これは、靱帯の小さな断裂の繰り返しや変性(靭帯組織の劣化)によるもので、劣化したゴムに例えられます。投球歴の長いプレーヤーに多く発症します。

【症状】
投球時の肘関節内側痛が主な症状です。とくに、テークバックからの加速期に痛みが起こります。日常動作では無症状のことがほとんどですが、重症例では日常動作で肘の不安定感(ぐらつく感じ)、痛みを訴えるケースもあります。また、頻度は低いですが、不安定性により肘の内側を走行する尺骨神経が障害され、手の小指側(尺側)にしびれや感覚障害が生じることもあります。  

引用元: KOMPAS

 トミー・ジョン手術は損傷した肘関節内側側副靱帯を再建する手術のことで、 靭帯の損傷は投球動作の加速期(捕手正対時からリリースまで)に働く外反ストレスの繰り返しによって引き起こされます。


「人」の形で打つ大谷選手

村上豊氏の指摘

 前回の記事で,キム・ジェファン選手がボールを打った後に,体幹が後方に倒れ,前脚の膝が伸びて前足のかかとが地面と接することを紹介しました.実はこの他にも,インパクト後に両腕が伸びたときに前脚と体幹が一直線になるという打撃動作の特徴があります.左打者であれば「人」 ,右打者であれば「入」の形になります.

 この動作は,「科学する野球」の著者である村上豊氏によって,30年以上前にすでに指摘されています.ただ,村上氏は前脚に体重を乗せて軸として打つことの重要性を説いていましたが,実際は下肢から生み出したエネルギーを上肢に伝達して体幹を回旋,後傾することで,バットのヘッドスピードを速くしています.

「人」の形で打つ大谷翔平選手
「人」の形で打つ大谷翔平選手 引用元:https://www.youtube.com/watch?v=uOYjB3H2eOo

NPBでも「人」の形で打っていた大谷選手

 大谷選手が 「人」の形で打ってい ことは,能力の非凡さを証明しています.この打法では,下肢のエネルギーをスイングスピードに利用できるため,飛距離が出ることが特徴です.この打法を身に付ければ必ずMLBで40本ホームランを打てるかというと,必ずしもそうとはいえませんが,MLBで活躍するには必要不可欠な動作といえます.大谷選手は当てるのがうまいので,個人的にはアベレージヒッターのほうが成功するのではないかと思います.

NPBでも 「人」の形で打っていた大谷翔平選手
NPBでも「人」の形で打っていた大谷翔平選手 
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=o5WxFKSz0Fo

 大谷選手はNPBでは前足を上げてステップしていましたが,MLBでは投手の球速が速く,前足を上げると差し込まれてしまうため,少しだけ足を上げるステップに修正しています.動画を見ると日ハムのときからすでにこの日本人にはなかなか真似できない打法を修得していることがわかります.成績は別として,素質自体はすばらしいものを持っている選手といえます.

「人」の形で打つキム・ジェファン選手
完全な「人」の形にはなっていないキム・ジェファン選手 
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=-H1mOO7fENU

 因みにキム・ジェファン選手も「人」の形で打とうとしていますが,体幹の後傾が少し足りていません.大谷選手の方が完全な「人」の形になっています.