テッド・ウィリアムズ選手がスイングする前に後ろ肘を後方に引く理由

テッド・ウイリアムズとケン・グリフィー・ジュニアに共通するバックスイング動作

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=3SVcdIBTETw

 最後の4割打者と言われるテッド・ウイリアムズ選手(終身打率 .344 )はスイングする前に後ろ肘を背面後方に引いています.この動作はケン・グリフィー・ジュニア選手にも見られます.この動作は正確にいうと,フライング・エルボーからスイングに入る動作 の第一動作であるバックスイング動作(後ろ肘をいったん下げ,下げた反動を利用して後ろ肘を上げる)にあたります.「後ろ肘(グリップ)をいったん下げる」が背面後方に引く動作で,その後ろ肘(グリップ)が上がっていきます.

 二人の大打者がなぜ同じ動作を行っているかというと,まず運動連鎖の利用という側面があります.バットを速く振るには質量の大きい部位から始動して,小さい部位へと運動エネルギーを流す必要があります.そのためには,肘を先行させてバットを後方に残すいわゆるタメを作らなければなりません.フライング・エルボーからのバックスイング(第一動作)で肘を上げた反動を利用して肘を先行させてスイング (第二動作)します.

後ろ肘は捕手側ではなく,背面後方に突き出す

 それなら背面後方ではなく,捕手側に突き出せばよいと思われるかもしれません.しかし,捕手側に突き出すと背面後方に突き出すよりも肘が体から離れるので,肘の先行が不十分になります.また, 肘が体から離れると慣性モーメントが大きくなるので,スイングスピードも遅くなります.さらに,インサイド・アウトにバットを振るという点でも,グリップの位置はなるべく背面後方に保持し,体に引き寄せておく必要があります.肘が捕手側に離れていると,体を捻って肘を背面後方に近づけたつもりでも,体とグリップの位置は離れたままなので,バットが遠回りしてアウトサイド・インのスイング になります.

 つまり, スイングする前にトップハンド側の肘を背面後方に引く理由は以下の三つになります.①運動連鎖を利用するため,フライング・エルボーからのバックスイング(第一動作)で後ろ肘(グリップ)を上げた反動を利用して,肘を先行させてスイング (第二動作)する.②慣性モーメントを小さくしてスイングスピードを速くする.③インサイド・アウトにバットを振る.


堂林選手が覚醒した理由

鈴木誠也選手のアドバイス

 YouTubeの動画では,堂林選手が鈴木誠也選手から「構えた体と平行方向に打ち返す」というアドバイスを受けたことが明かされています.堂林選手は構えで体を捻っているので,右中間方向をセンター方向として打つようにしたら今回のバッティングの覚醒につながったとのことです.

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=9qJ11A1cLpM

 この動画を見た人は,体と平行方向に打ち返すことが正しい打ち方だと理解したかもしれません.しかし,それは間違いで,堂林選手が打てるようになったのは,体と平行方向に打ち返すことによってアウトサイド・インに打つことを防止したからにすぎません.

体と平行方向に打ち返すことでアウトサイド・インのスイングを防止する

 大谷選手と重なるところがありますが,堂林選手のようにグリップの位置を体から離したまま体を捻る選手は,グリップの位置が浅くなるため,センター方向から右方向にかけてしかインサイド・アウト気味に打つことができません.ケン・グリフィー・ジュニア選手のようにグリップを体に密着させるバッターなら,体と平行方向ということに関係なく,右方向でもインサイド・アウト気味に打つことが可能になります.

 今後,投手の攻め方がアウトサイド・インに打たせる(左方向に引っ張らせる)ような投球に変わった場合,打率が急降下することになります.アウトサイド・インの打ち方では体幹がバットが一緒に回ってしまい,タメをつくることができないため,強打することができなくなります.構えのときに左脚が開いているのもアウトサイド・インの打ち方を誘発するのでよくありません.また,本来インサイド・アウトに打ちやすい左投手のボールを左方向に引っ張ってしまう傾向があるようです.修正できなければ今後の活躍は難しくなると考えられます.

 


空手打法

空手打法

 空手打法とは「科学する野球 (打撃篇) 」(1985)の著者村上豊氏によって提唱された打撃動作の一つです.空手打法の内容について説明します.

引用元:科学する野球・打撃篇

 まず,上図のようにバットの中にトンカチが入っていることを想像してください.バットでボールを打つ動作をトンカチで釘を打つ動作に置き換えて考えます.

引用元:科学する野球・打撃篇

 トップ・ハンドで手の平で釘を打つようにトンカチを握る(左図)のと,空手チョップをするようにトンカチを握る(右図)のとでは,どちらが釘を強く打つことができるでしょうか.

引用元:科学する野球・打撃篇

 当然,空手のほうが釘を強く打つことができますから,ボールを 強く打つためには空手でバットを握ることが必要になります.

引用元:科学する野球・打撃篇

 そのため,トップ・ハンドは手首を手の平の方に曲げて,バット を巻きむように握るフック・グリップとなります.

引用元:科学する野球・打撃篇

 ボトム・ハンドで手の平で釘を打つようにトンカチを握る(左図)のと,空手チョップをするようにトンカチを握る(右図)のとでは,どちらが釘を強く打つことが できるでしょうか.

引用元:科学する野球・打撃篇

 当然,空手のほうが釘を強く打つことができますから,ボールを 強く打つためには空手でバットを握ることが必要になります.

引用元:科学する野球・打撃篇

 そのため,ボトム・ハンドは手首を手の甲の方に曲げるフック・グリップとなります.

引用元:科学する野球・打撃篇

 つまり,空手打法で打つと,イラストのようにインパクトで両手が空手になります.また,フック・グリップで構えるため,写真のように後ろ肘が横に張り出し,フライング・エルボーになります.

ケン・グリフィー・ジュニア 引用元:https://theundefeated.com/features/ken-griffey-jr-tied-mlb-record-for-consecutive-home-run-games/
空手打法を行うエディ・マレー 引用元:https://www.yardbarker.com/mlb/articles/greatest_postseason_moments_for_every
_2018_mlb_playoff_team/s1__27417464#slide_19
空手打法を行うバリー・ボンズ 引用元:https://www.denverpost.com/2018/06/29/rockies-killer-barry-bonds-reminisces/

 村上豊氏の指摘どおり,MLBの一流選手が空手打法を行っていることが確認できます.

ハンク・アーロン ボトム・ハンドの空手が不十分になっている.引用元:https://sabr.org/journal/article/properties-of-baseball-bats/
ブライス・ハーパー  トム・ハンドの空手が不十分になっている. 引用元:https://www.thestar.com/sports/baseball/2013/07/01/mlb_bryce_harper_back_with
_bang.html

 ハンク・アーロン,ブライス・ハーパーといった強打者でも,ボトム・ハンドのフック・グリップが不十分になる傾向があります.ボールを打つ力はトップ・ハンドのほうが強いので,トップ・ハンドは必ず空手にしておく必要があります.

松井秀喜 引用元:http://epoo3.hatenablog.com/entry/2018/01/15/193434
大谷翔平 引用元:http://column.sp.baseball.findfriends.jp/?pid=column_detail&id=002-20180528-35
筒香嘉智
柳田悠岐 引用元:https://hochi.news/articles/20200821-OHT1T50248.html

 日本人打者でも,パワーヒッターは空手打法を行っていることを確認できます.ボールを強く打つためには必須の打法になります.
 空手打法を行うには,フック・グリップで構る必要があります.インパクトの空手を保持したまま構えると,フック・グリップとなり,後ろ肘がフライング・エルボーになります.


大谷選手の打撃動作にみられる重大な欠点

ジョー・マドン監督は首をひねるばかり

 エンゼルスの大谷翔平投手(26)が8日(日本時間9日)、敵地でのレンジャーズ戦に「4番・DH」で出場し4打数無安打に終わり、2三振を喫した.「右肘付近の屈筋回内筋痛」の診断を受け,今季の打者専念が決まって初めて出場した6日の第1打席に左越えソロを放って以降,11打席連続無安打.打率は.132と、快音が続かずに苦しんでいる。
 予言が当たらなかったからではないだろう。ジョー・マドン監督は、首をひねるばかりだった。「球場が変わって球の見え方が違うのか何なのか分からない…」。大谷が今季オープンしたレンジャーズの本拠グローブライフ・フィールドで2試合無安打、5三振。シアトルでのマリナーズ戦で豪快アーチを放った2日前に「(大爆発の)寸前にいる」と言った指揮官の笑顔は、すっかり消えていた。
 大谷はレ軍の先発アラードに2打席連続三振を喫すると、右投手に代わった3打席目以降も一ゴロ、右飛に倒れた。左腕アラードに対しては右足を半足分オープンにするスタンスで臨む工夫を試みたが実らず、今季は左投手に10打数無安打。ボールを見逃す際に後ずさりするなど、かかとに重心がかかり右腰と右肩の開きが早いのを修正できなかった。
 打者専念の気負いも見えた。6日の一発以降「ヒールアップ」と呼ばれる右足のかかとを上げるひねりが、打席ごとに大きく強くなった。ひねった分を戻すための動きが速くなり、右膝、右腰が早く開く。この日、10スイングで空振り6度。精度の低下は明らかだ。
 レンドンが打率・111、プホルスも打率・186と中軸が振るわず、開幕15試合で5勝10敗。13年以来で、球団史上5番目に悪い滑り出しとなった。「左中間目がけて打つ、いつもの打撃が戻れば」とマドン監督。浮上に欠かせない大谷の復調を期待した。(アーリントン・奥田 秀樹通信員)

引用元:https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2020/08/10/kiji/20200809
s00001007452000c.html
画像1  ケン・グリフィー・ジュニア (左), 画像2 大谷翔平(右)

大谷選手の不振はグリップの位置によって引き起こされている

 大谷選手の不振について, マドン監督は理由がわからないと困惑しているようですが,原因は大谷選手の構えにあります.グリフィー選手がグリップを体に密着させているのに対して,大谷選手は体から離しています.このグリップを体から離していることが不振の原因です.つまり,グリップの位置に問題があるということです.

画像3(左), 画像4(右)

 ステップする動作に入るまでに,グリフィー選手は左肘をさらに背面後方に突き出していますが,大谷選手は左肘を体に引き寄せることはせず,ただ体幹を回旋している(肩を回している)だけです.

 グリフィー選手はグリップの位置を背面後方に確保して,前方に出ないようにしているため,右方向 ,左方向 どちらにもインサイドアウトでスイングすることはできます.しかし,大谷選手はグリップの位置が浅いため, マドン監督 が指摘するようにセンター方向から左方向にかけてしか インサイドアウトでスイング できません.さらにいうとボールが来る角度と打つ方向との間に角度ができる左投手よりも,右投手のほうが打ちやすくなります.右方向に引っ張ろうとするとアウトサイド・インのスイングとなり,肩,腰が開いてタメがなくなるため,ボールを強く打つことができません.

 グリップの位置だけとっても,グリフィー選手と大谷選手ではかなりのレベルの差があるのが現状です.この欠点が修正されない限りMLBで一流選手としての活躍は期待できません.NPBの選手にはグリップの位置を体から離す選手が多く,おそらく打つ前に体に引き寄せることでタイミングを取っていると思われますが,球速の速い投手に対応するためには,前もってグリップの位置を体に密着させておくほうが無難です.

〈引用〉
画像1,3:https://www.youtube.com/watch?v=WtQ9M2YD_DI
画像2,4:https://www.youtube.com/watch?v=VQ3W8vEcu48