トミー・ジョン手術が急増している事実
トミー・ジョン手術が急増している件について検索すると、色々な記事が表示されます。
Jon Roegeleの調査によると、1974年から2015年3月までにトミー・ジョン手術を受けたプロ選手数はメジャーやマイナー、複数回を含め900人以上。手術を受けた年度別の人数は2000年代前半から急増し、ここ10年では500人以上の選手が手術を受けている。
引用元:ウィキペディア
ある調査によれば、1974年から2014年までにTJ手術を受けた選手は、マイナーリーグや複数回受けた選手も含め800人以上いる。年度別で見ると2000年代前半から急増し、1996年と2012年では8倍に増えているとも言われている。
引用元:https://baseballking.jp/ns/column/25756
そのニュースを見て素通りしてはいけないんじゃないかと思った。
https://number.bunshun.jp/articles/-/845231
今季の開幕からローテーションに入り、7月25日の対西武戦でリーグ一番乗りとなる完封勝利を挙げていた千葉ロッテのホープ・種市篤暉が肘の靭帯を再建するトミー・ジョン手術を受けたというニュースを見たときだ。
今年は、これでNPB9人目のトミー・ジョン手術者である。
西野勇士(ロッテ)、東克樹(DeNA)、田島慎二(中日)、堀田賢慎(巨人)、石川直也(日本ハム)、戸田隆也(広島)、近藤大亮(オリックス)、森雄大(楽天)、そして種市である。田島を除けば全て20代だ。トミー・ジョン手術者の数は2018年、2019年を既に超え、20代の選手が軒並み肘にメスをいれている。
もっとも、投手の肘の靭帯損傷、再建手術というケースは世界的な問題だ。アメリカでも、韓国でも、台湾でも珍しいことではない。今季のメジャーではシンダーガード(メッツ)、クリス・セール(レッドソックス)やバーランダー(アストロズ)らがメスを入れている。
メジャーリーグでトミー・ジョン手術がまるで感染病のように大流行している。開幕2カ月が経過したが、今季すでに20人もの投手が肘の靭帯再建手術を受けた。
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/mlb/2014/06/17/mlb_97/
マーリンズのエース、ホセ・フェルナンデス(21歳)、アスレチックスのジャロッド・パーカー(25歳)、レイズのマット・ムーア(24歳)らチームの若き大黒柱として期待されていた投手が多く、各チームともに頭を痛めている。バド・セリグコミッショナーも5月初旬のオーナー会議でこの問題について触れ「新聞を読むのが怖い」と語ったほど。それほどにトミー・ジョン手術を受ける投手のニュースが相次いだ。
周知の通り、メジャーリーグではマイナーの育成時代から厳格な投球管理を行なっている。年間70、90、120と少しずつ投球イニングを増やし、強化を図っている。もちろんその間は、投球過多を防ぎ、肩、肘の故障につながらないよう最大限の配慮を行なっている。にもかかわらず、トミー・ジョン手術は後を絶たない。なかでも問題視されているのが、トミー・ジョン手術を受ける選手の若年化だ。その原因はいったいどこにあるのか。
トミー・ジョン手術に至る原因は?
トミー・ジョン手術に至る原因について,ウィキペディアでは次の6つを挙げています.
①速球の全力投球によるダメージ蓄積
- TJ(Tommy John)手術の権威として知られる整形外科医のジェームズ・アンドリュースが創立したアメリカスポーツ医学研究所(ASMI)は「常に全力投球で速い球を投げようとすることが,肘の故障を引き起こすリスクを高める」という見解を発表している.
- 近年のMLBでは速球系球種の球速が増加傾向にあり,中でも平均球速と最高球速の差が小さい若手投手がTJ手術に至っている傾向がある.
②若年時からのダメージ蓄積
- ASMIが「若年時からの蓄積によって故障は引き起こされる」という見解を発表している.
- ASMIが10年間で500人のアマチュア選手のデータを集めた調査によると,年間の投球イニング数や1試合あたりの投球数が多ければ多いほど肩や肘の故障の確率が上昇していることが判明している.
- 2011年にアメリカ整形外科学会が9歳から14歳の投手481人の10年後を調査した結果によると,年間100イニング以上投げた投手が肘や肩の手術を受けるか野球を断念する確率は3.5倍になっているという.
- 野球特化傾向が進んだことが若年時のダメージ蓄積に影響しているという意見もある.
- アメリカではアマチュアスポーツの掛け持ちが一般的であったが,近年は1つの種目に特化して取り組む傾向が進み,1年中野球に取り組む者が珍しくなくなった.ASMI所属医師のグレン・フライシグによると,こうして野球特化傾向が進んだことにより20歳までに重大な故障を負うリスクは以前の3倍に膨れ上がったという.
- アメリカ国内出身者と中南米出身者とでTJ手術に至る率がほぼ同じであることから,野球特化傾向による説は成り立たないと言う意見もある.
③投球フォームによる影響
- ジェームズ・アンドリュースを始めとする整形外科医やシカゴ・ホワイトソックスで投手コーチを務めるドン・クーパーを始めとする球界関係者らは「靭帯損傷の最大の原因は投球フォーム」と主張している.
- 特に,両腕の肘が両肩よりも上になる逆W字型の投球フォームが肘へ悪影響を与えると言われており,グレッグ・マダックスの様に利き腕と反対側の肘が肩よりも上にならない投球フォームが理想と言われている.
- 逆W字型の投球フォームは身体に比べて腕が遅れて出てくるため,下半身等へ力が分散されることなく肘にダメージが集中してしまうと考えられている.
④手術の認知度が高まったことによる影響
- 重大な故障が増えたのではなく,成功率向上によって手術への抵抗感や心配が和らぎ,「騙し騙し投球するよりも手術するべき」という認識が広まったことにより,単に手術へのハードルが低くなっただけではないかという指摘もある.
⑤球種による影響
- アメリカではカーブの投球が主たる要因の1つであるという俗説があるが,ASMIが過去の学術論文を精査したところ,カーブと肘の故障を明確に関連付ける生体力学的・疫学的なデータは見つからなかった.
- ASMIは,「子供は十分な身体的成熟や神経筋のコントロールができておらず,適切なコーチングを受けていない可能性もあるため,依然として,基本的な投球動作から始め,速球,チェンジアップと段階を踏んで習得するべきであろう」という見解を出している.
- スプリッターやスライダーの投球についても,要因になると一般的に考えられている.
- スライダーに関しては,実際に肘の痛みのリスクが86%上昇するという研究や、投球動作が速球やカーブに比べて故障に繋がりやすいという研究がある.
- スプリッターについての明確な研究は少ないが,近年の投手を対象とした調査によると、サンプルサイズが少ないことに留意する必要があるが,スプリッターを多投することが故障に繋がるとは言い切れないことが示されている.
⑥プロ入り後の登板間隔による影響
- 日本では2014年にダルビッシュ有が「中4日は絶対に短い.球数はほとんど関係ない.120球,140球投げさせてもらっても,中6日あれば靱帯の炎症もクリーンに取れます」と発言したことから,MLBで主流となっている中4日の先発ローテーションを主たる要因とするような報道がある.
- 中4日の先発ローテーションはTJ手術が急増する以前の1980年代から機能してきたことや,「プロ入り後の作業負荷は発達途上の段階で生じた損傷を加速化させているに過ぎない」というASMIの研究から,この説を手術急増の要因とするのはアメリカでは少数意見となっている.
投球回数が多い投手は内側側副靱帯を損傷しているのか?
通算投球回数ランキング MLB,NPB 50位まで
通算投球回数 ランキング | ||||
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順位 | NPB | MLB | ||
投手 | 投球回数 | 投手 | 投球回数 | |
1 | 金田 正一 | 5526.2 | サイ・ ヤング | 7356.0 |
2 | 米田 哲也 | 5130.0 | パッド・ ガルビン | 6003.1 |
3 | 小山 正明 | 4899.0 | ウォルター・ ジョンソン | 5914.1 |
4 | 鈴木 啓示 | 4600.1 | フィル・ ニークロ | 5404.1 |
5 | 別所 毅彦 | 4350.2 | ノ-ラン・ ライアン | 5386.0 |
6 | 梶本 隆夫 | 4208.0 | ゲイロード・ ペリー | 5350.1 |
7 | スタルヒン | 4175.1 | ドン・ サットン | 5282.1 |
8 | 東尾 修 | 4086.0 | ウォーレン・ スパーン | 5243.2 |
9 | 山田 久志 | 3865.0 | スティーブ・ カールトン | 5217.1 |
10 | 稲尾 和久 | 3599.0 | グローバー・ アレキサンダー | 5190.0 |
11 | 若林 忠志 | 3557.1 | キッド・ ニコルズ | 5056.1 |
12 | 野口 二郎 | 3447.1 | ティム・ キーフ | 5049.2 |
13 | 長谷川 良平 | 3376.1 | グレッグ・ マダックス | 5008.1 |
14 | 平松 政次 | 3360.2 | バート・ ブライレブン | 4970.0 |
15 | 山本 昌 | 3348.2 | ボビー・ マシューズ | 4956.0 |
16 | 工藤 公康 | 3336.2 | ロジャー・ クレメンス | 4916.2 |
17 | 村田 兆治 | 3331.1 | ミッキー・ ウェルチ | 4802.0 |
18 | 三浦 大輔 | 3276.0 | トム・ シーバー | 4782.2 |
19 | 松岡 弘 | 3240.0 | クリスティ・ マシューソン | 4780.2 |
20 | 江夏 豊 | 3196.0 | トミー・ ジョン | 4710.1 |
21 | 石井 茂雄 | 3168.0 | ロビン・ ロバーツ | 4688.2 |
22 | 皆川 睦雄 | 3158.0 | アーリー・ ウィン | 4564.0 |
23 | 北別府 学 | 3113.0 | ジョン・ クラークソン | 4536.1 |
24 | 足立 光宏 | 3103.0 | ホス・ ラドボーン | 4535.1 |
25 | 中尾 碩志 | 3057.0 | トニー・ マレイン | 4531.1 |
26 | 村山 実 | 3050.1 | ジム・ カート | 4530.1 |
27 | 堀内 恒夫 | 3045.0 | ファーガソン・ ジェンキンズ | 4500.2 |
28 | 秋山 登 | 2993.0 | エディー・ プランク | 4495.2 |
29 | 石川 雅規 | 2953.0 | エッパ・ リキシー | 4494.2 |
30 | 小野 正一 | 2909.0 | トム・ グラビン | 4413.1 |
31 | 高橋 直樹 | 2872.2 | ジャック・ パウエル | 4389.0 |
32 | 川崎 徳次 | 2870.1 | レッド・ ラフィング | 4344.0 |
33 | 杉下 茂 | 2841.2 | ガス・ ウェイング | 4324.1 |
34 | 坂井 勝二 | 2839.2 | ジム・ マコーミック | 4275.2 |
35 | 成田 文男 | 2781.0 | フランク・ タナナ | 4188.1 |
36 | 高橋 一三 | 2778.0 | バーリー・ グライムズ | 4179.2 |
37 | 桑田 真澄 | 2761.2 | テッド・ ライオンズ | 4161.0 |
38 | 真田 重蔵 | 2717.0 | ランディ・ ジョンソン | 4135.1 |
39 | 西本 聖 | 2677.0 | レッド・ フェイバー | 4086.2 |
40 | 星野 伸之 | 2669.1 | ジェイミー・ モイヤー | 4074.0 |
41 | 藤本 英雄 | 2628.1 | デニス・ マルチネス | 3999.2 |
42 | 佐々木 宏一郎 | 2620.1 | ビック・ ウィリス | 3996.0 |
43 | 佐藤 義則 | 2608.2 | ジム・ パーマー | 3948.0 |
44 | 涌井 秀章 | 2542.0 | レフティ・ グローブ | 3940.2 |
45 | 西口 文也 | 2527.2 | ジャック・ クイン | 3920.1 |
46 | 土橋 正幸 | 2518.1 | ボブ・ ギブソン | 3884.1 |
47 | 権藤 正利 | 2513.0 | サム・ ジョーンズ | 3883.0 |
48 | 槙原 寛己 | 2485.0 | ジェリー・ クースマン | 3839.1 |
49 | 山内 新一 | 2459.0 | ボブ・ フェラー | 3827.0 |
50 | 天保 義夫 | 2452.1 | ジャック・ モリス | 3824.0 |
※記録は2021年終了時点 ※赤字はトミー・ジョン手術を受けた投手 ※桑田 真澄投手のトミー・ジョン手術は,側副靭帯断裂の負傷によるもの. ※引用元:https://npb.jp/bis/history/ltp_ip.html ※引用元:https://2689web.com/history/r-ip.html ※引用元:http://www.sportsdatamuseum.com/mlb/stats/mlb_stats_inning.html |
投球数が多いのにトミー・ジョン手術を受けていない投手
アメリカスポーツ医学研究所(ASMI)によると,速いボールを投げる投手,投球数が多い投手は,トミー・ジョン手術に至る傾向があるとのことです.
MLB,NPBの通算投球回数のランキングを見ると,投球回数が5000回を超えている投手はNPBでは金田正一(400勝),米田哲也(350勝)の2投手のみですが,MLBではサイ・ヤング(511勝)を筆頭にグレッグ・マダックス(355勝)まで13人の投手が投球回が5000回を超えています.
サイ・ヤング投手は投球回数7356回でありながら,肘を故障することはなかったようです.
サイ・ヤング
引用元:ウィキペディア
現役時代は大きな怪我もほとんどない選手で多大な登板数にもかかわらず肩や肘に痛みを感じたことは一度もなかったと言う。
当時は短命で終わる投手が多い中でも高年齢まで第一線で活躍し続け数々の投手記録を作り、今でもメジャー記録としてその記録が残る。歴代最多勝利投手かつ最多敗戦投手であるが、最多敗戦の方でギネス世界記録に認定された。
内側副靱帯損傷の負傷によりトミー・ジョン手術を受けた投手
このランキングでは実際にトミー・ジョン手術を受けた投手は,NPBが村田兆治(215勝),桑田真澄(173勝)の2投手,MLBではトミー・ジョン(288勝),ジェイミー・モイヤー(269勝)の2投手のみです.
桑田投手の内側副靱帯損傷は負傷によるもので,この負傷がなかった場合でもトミー・ジョン手術に至っていたのかについてはわからないところです.
桑田真澄
引用元:ウィキペディア
1995年5月24日の阪神戦で、3回表に湯舟敏郎の放った三塁線沿いの小フライ捕球の際に右肘を強打し、その後も6回途中に降板するまで遜色無い投球を続けていたが大事を取って二軍調整となった(その間に肘の精密検査は受けず)。
6月15日の対阪神11回戦にて約3週間ぶりの一軍先発したが、初回から失点するなど精細を欠き5回には走者がいない状態で相手投手に四球を記録し次の打者を打ち取ったとこで自ら降板を訴え交代。
後日の肘の精密検査をしたところ側副靭帯断裂の重傷を負っていたことが判明した。治療のため、自身の左手首から健全な靭帯を移植するトミー・ジョン手術を受けることを選択し渡米した。
ジェイミー・モイヤー投手については,早くから肘の故障(内容は不明)があり,速いボールを投げていた期間は短いと思われます.2010年に左肘に怪我を負い,トミー・ジョン手術を受けていますが,この怪我が桑田投手と同じ負傷によるものなのか,投球による靱帯の小さな断裂の繰り返しによるものなのかはわかりません.
ジェイミー・モイヤー
引用元:ウィキペディア
1992年1月8日に古巣のカブスと契約。3月30日に左肘を故障していたモイヤーに球団のファーム・ディレクターから「君だったら優秀なコーチになれる。選手を引退してマイナーの投手コーチをやらないか?」と打診されたが拒否したために解雇された。
開幕後の5月24日にデトロイト・タイガースと契約したが、メジャーでプレイできずにシーズンを終え、12月14日にボルチモア・オリオールズへ移籍し、ゆっくりと才能を開花させていった。
2001年には38歳にして自身初の20勝、2003年には40歳で21勝を記録した。2005年6月8日に通算200勝を達成。マリナーズでは11シーズンで145勝を挙げた。これは球団最多記録である。
2007年は44歳と高齢にもかかわらず、チームで唯一年間を通して先発ローテーションを守り、33先発で14勝を記録し健在ぶりを示したが、一方で防御率は5.01とやや精彩を欠いた。
2008年は45歳を迎えたが、16勝7敗、防御率3.71という堂々たる成績を残した。特に勝ち星、勝率はチームトップであり、フィリーズの地区優勝に大きく貢献した。45歳以上でのシーズン2桁勝利投手は、ジャック・クイン(1929年)、サチェル・ペイジ(1952年)、フィル・ニークロ(1984年 – 1986年)に次ぎ史上4人目(6度目)であり、16勝は1984年、1985年のフィル・ニークロに並ぶトップタイである。またこの年の5月26日のロッキーズ戦で通算235勝目を挙げ、史上6人目となる全30球団から勝利を記録している。
2010年5月7日のブレーブス戦では、9回2安打無四球5奪三振で完封するなど、依然衰えぬ投球でMLB最年長完封記録を更新している。
2010年シーズン終了後、契約が切れ、フィリーズの40人ロースターから外れた。その後、ウィンターリーグに参加するが、そこで左肘に選手生命に関わる怪我を負う。
12月1日に左肘のトミー・ジョン手術を行った。手術後、モイヤー財団の公式フェイスブック上で、「スーパーマンはカムバックする」とコメントを残した。
投球数が少ないのにトミー・ジョン手術を受けた投手
ランキングを100位(ティム・ウェイクフィールドの3226.1回)まで下げると,MLBでは投球回数3302.2のケニー・ロジャース(219勝),投球回数3439.0のデビッド・ウェルズ(239勝),投球回数3473.0のジョン・スモルツ(213勝)の3投手がトミー・ジョン手術を受けています.
ケニー・ロジャース投手,デビッド・ウェルズ投手については,のプロ入り(ともに1982年)後,メジャーデビューする前(1987年,1985年)にトミー・ジョン手術を受けており,「投球回数が多い」というトミー・ジョン手術に至る要因は,それほど関与していない印象を受けます.
ケニー・ロジャース投手は,「まともに野球に打ち込んだのは3年時の1年だけ」とありますから,プロに入る他の投手と比べて,投球数はかなり少ないはずです.
ケニー・ロジャース
引用元:ウィキペディア
1982年のドラフトでテキサス・レンジャーズから39巡目(全体816位)に指名され入団。高校時代は家の農場の手伝いなどで、まともに野球に打ち込んだのは3年時の1年だけで、外野手だったが投手へ転向した。
怪我などもあり、メジャーデビューはプロ入り8年目の1989年4月6日。この年、リーグ3位の73試合に登板し、防御率は2.93。新人選手としてはMLB最多の登板数となった。4月9日にメジャー初勝利を記録し、7月20日にメジャー初セーブを記録した。
デビッド・ウェルズ
引用元:ウィキペディア
1982年、ドラフト2巡目で指名されトロント・ブルージェイズへ入団。1987年6月30日、メジャーデビュー。しかし、デビューから2戦連続で負け投手となり、防御率15.19で7月12日にマイナーへ降格した。
9月に再びメジャー昇格を果たし、リリーフとして16試合に登板した。9月2日にメジャー初勝利を記録し、18日にメジャー初セーブを記録した。
一方,NPBではランキングを100位(小松 辰雄の1940.2回)まで下げると,トミー・ジョン手術を受けた選手はゼロとなります.
投球数が多く速いボールを投げてもトミー・ジョン手術を受けていない投手
投球回数のランキングを見てもわかるように,投球回数が多い投手がトミー・ジョン手術に至っているという傾向は確認できません.
「投球数が多い」かつ「速いボールを投げる」投手であれば,トミー・ジョン手術を受けるリスクは増大するはずですが,100mphのボールを投げていたノ-ラン・ライアン(投球回数5386.0,324勝)ロジャー・クレメンス(投球回数4916.2,354勝),ランディ・ジョンソン(投球回数4135.1,303勝)といった投手も,トミー・ジョン手術には至っていません.
ジェイミー・モイヤー投手は技巧派で球速が遅いことで有名でしたから,2010年の怪我(負傷?)がなく,そのまま投げ続けた結果トミー・ジョン手術に至った場合は,球速がなくても投球回数が多い(4074.0回)ことが要因で内側側副靱帯を損傷した可能性もないとはいえませんが,これは確認のしようがありません.
ジェイミー・モイヤー
引用元:ウィキペディア
フォーシームでも130km/h程度で、主に使用する球種はシンカー(約120km/h)やチェンジアップ(約114km/h)、100km/hを下回るカーブなど多彩で、それらを抜群の制球力と緩急で操る。
NPBでも,150キロを超えるボールを投げた槙原 寛己(2485.0回,159勝),小松 辰雄(1940.2回,159勝)はトミー・ジョン手術に至っていません.
中継ぎ,抑えの短いイニングを投げる投手がトミー・ジョン手術に至る場合は,投球回数が少なくなるので,「速いボールを投げる」という要因に限定されますが,投球数が少なくても速いボールを投げれば内側側副靱帯を損傷するのかということが問題になります.
NPBでトミー・ジョン手術を受けた投手
NPBでトミー・ジョン手術を受けた投手 2021年まで ※MLB日本人投手を含む | |||
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年度(1回目) | 投手 | 投球回数 | 最高球速 kph |
1979 | 三井雅晴 | 428.1 | * |
1983 | 村田兆治 | 2421.2 | * |
1988 | 荒木大輔 1989 | 554.1 | * |
1990 | 中西清起 | 694.0 | 143 |
1991 | 近藤真市 | 208.0 | * |
1992 | 麦倉洋一 | 39.1 | * |
1993 | 中込伸 | 482.1 | * |
1995 | 小島圭市 | 31.2 | * |
1997 | 小桧山雅仁 | 185.1 | * |
成本年秀 | 296.2 | * | |
佐野慈紀 | 556.1 | * | |
1999 | 酒井弘樹 | 443.1 | * |
赤堀元之 | 720.2 | * | |
2003 | 藤井秀悟 | 404.0 | * |
藤田太陽 | 88.0 | * | |
小椋真介 | 16.0 | 156 | |
2004 | 館山昌平 2013 2014 | 50.1 | 153 |
2006 | 陳偉殷(チェン・ウェイン) | 19.1 | 154 |
2007 | 辻内崇伸 | 0.0 | 156 |
江尻慎太郎 | 251.2 | 153 | |
五十嵐亮太 | 472.2 | 159 | |
ディッキー・ゴンザレス | 309.0 | * | |
井坂亮平 | 0.0 | 153 | |
2008 | 神内靖 | 195.0 | * |
久本祐一 2014 | 215.1 | * | |
大塚晶文 2009 2010 | 582.2 | 154.5 | |
2010 | ダース・ローマシュ匡 | 7.1 | * |
大塚豊 | 0.0 | 144 | |
藤原紘通 | 99.0 | 148 | |
田中靖洋 | 12.2 | 147 | |
柳瀬明宏 | 98.1 | 148 | |
延江大輔 | 0.0 | * | |
山本哲哉 2015 | 0.0 | * | |
田澤純一 | 25.1 | 156.1 | |
2011 | 星野大地 | 0.0 | 151 |
山崎正貴 | 1.1 | 147 | |
松坂大輔 | 2025.1 | 156 | |
2012 | 白根尚貴 | 0.0 | 149 |
木村謙吾 | 0.0 | * | |
須永英輝 | 57.1 | * | |
金森敬之 | 91.2 | * | |
山本斉 | 63.0 | 148 | |
久保裕也 | 615.1 | 151 | |
陳冠宇(チェン・グァンユウ) | 0.0 | 150 | |
エディソン・バリオス | 0.0 | 152 | |
三浦翔太 | 0.0 | 137 | |
和田毅 | 1444.2 | 149 | |
2013 | 江草仁貴 | 418.2 | * |
吉見一起 | 854.0 | 148 | |
金伏ウーゴ | 0.2 | 148 | |
野間口貴彦 | 232.1 | 152 | |
中根佑二 | 0.0 | 148 | |
ダレル・ラズナー | 532.1 | 150 | |
大貫晋一 | 0.0 | 150 | |
藤川球児 | 703.1 | 156 | |
2014 | 山田修義 | 21.2 | * |
釜田佳直 | 126.0 | 154 | |
森内壽春 | 74.0 | 146 | |
東方伸友 | 0.0 | 149 | |
竹安大知 | 0.0 | 147 | |
永野将司 | 0.0 | 154 | |
2015 | 岩下大輝 | 0.0 | 153 |
川原弘之 | 6.0 | 158 | |
蔵本治孝 | 0.0 | 151 | |
津留﨑大成 | 0.0 | 153 | |
ダルビッシュ有 | 1813.2 | 159.3 | |
2016 | 二保旭 | 67.2 | 148 |
髙橋朋己 | 148.1 | * | |
安部建輝 | 15.0 | 148 | |
2017 | ロベルト・スアレス | 53.2 | 163 |
床田寛樹 | 17.1 | 152 | |
中村勝 | 287.1 | 148 | |
2018 | 與座海人 | 0.0 | * |
丸山泰資 | 12.0 | 150 | |
金久保優斗 | 0.0 | 152 | |
大谷翔平 | 594.2 | 165 | |
2019 | 大嶺祐太 | 501.0 | * |
高橋昂也 | 21.0 | * | |
田中健二朗 | 228.1 | * | |
黒木優太 | 87.1 | 156 | |
岩田将貴 | 0.0 | 139 | |
2020 | 東克樹 | 192.1 | 152 |
堀田賢慎 | 0.0 | 155 | |
田島慎二 | 432.1 | 153 | |
西野勇士 | 407.1 | 150 | |
石川直也 | 153.2 | 156 | |
近藤大亮 | 162.1 | 154 | |
種市篤暉 | 201.2 | 153 | |
戸田隆矢 | 205.2 | 149 | |
才木浩人 | 100.0 | 152 | |
島本浩也 | 104.1 | 148 | |
山崎伊織 | 0.0 | 153 | |
2021 | 木下雄介 | 40.2 | 150 |
粟津凱士 | 2.0 | 147 | |
齊藤大将 | 37.1 | 146 | |
平良拳太郎 | 248.0 | 148 | |
伊藤翔 | 79.0 | 152 | |
岡田明丈 | 376.0 | 155 | |
上間永遠 | 21.1 | 148 | |
前田健太 | 2271.2 | 154 | |
※投球回数はトミー・ジョン手術(1回目)を受けた年度までの数字 ※桑田真澄投手は負傷による手術のため掲載せず ※*は不明 ※引用元:ウィキペディア |
館山昌平投手のようにトミー・ジョン手術を3回(2008,2013,2014)受けている投手もいますが,最初に手術を受けるまでの投球回数は500以下が大半を占めています.
投球回数2000以上は村田兆治(2421.2),松坂大輔(2025.1),前田健太(2271.2)の3投手のみで,投球回数1000以上にすると,和田毅(1444.2),ダルビッシュ有(1813.2)が加わります.
投球回数の少ない投手の割合が圧倒的に大きいため,NPBの場合,ASMI(アメリカスポーツ医学研究所)が10年間で500人のアマチュア選手のデータを集めた調査から判明した「年間の投球イニング数や1試合あたりの投球数が多ければ多いほど肩や肘の故障の確率が上昇している」という見解は,あてはまっていないといえます.
データで見るトミー・ジョン手術
トミー・ジョン手術を受ける投手はどのくらい増えているのか?

※桑田真澄投手は負傷による手術のため除く
※1軍での投球実績がない投手は除く
※引用元:ウィキペディア
2021年までに,NPBでトミー・ジョン手術を受けた投手を調べたところ,1979年から1995年までは0または1名ですが,その後,2012年(10名)まで増加していることがわかります.その後2006,2007年(ともに3名)まで減少し,再び増加(2020年は11名)しています.

※メジャーリーグでの投球実績がない投手は除く
※引用元:ウィキペディア
MLBでトミー・ジョン手術を受けた投手は,1974年のトミー・ジョン投手から2014年(50名)まで増加の一途を辿り,その後は減少傾向にあります.
投球数が多いとトミー・ジョン手術を受けるリスクは増大するのか?

※投球回数=1回目のトミー・ジョン手術を受けた年度までのメジャーリーグ,1軍での通算投球回数
※桑田真澄投手は負傷による手術のため除く
※1軍での投球実績がない投手は除く
※引用元:ウィキペディア
上のグラフを見ると,NPBではトミー・ジョン手術を受ける投手の投球回数が年々減少していることを確認できます.2010年以降は毎年1軍での投球実績がない投球回数0の投手が多く手術を受けています.
これは,1軍に上がる前の2軍の時点,または学生のときにすでに手術を受けているということですから,1軍で実績を残している投手に比べて投球回数はかなり少ないといえます.
アメリカスポーツ医学研究所(ASMI)の「年間の投球イニング数や1試合あたりの投球数が多ければ多いほど肩や肘の故障の確率が上昇している」という見解が,まったくあてはまっておらず,むしろ投球回数が少ないほど内側側副靱帯を損傷する確率が高くなっているように見えます.

O,CPBL)での通算投球回数
※ジェイミー・モイヤー投手は負傷による手術の可能性があるため除く
※メジャーリーグでの投球実績がない投手は除く
※ダグ・ブロケイル投手は投手成績を確認できなかったため除く
※引用元:ウィキペディア
MLBはどうかというと,NPBと同じでトミー・ジョン手術を受ける投手の投球回数は減少傾向にあります.特に2006年以降は投球回数500回以下で手術を受ける投手が増加しています.
メジャーリーグでの投球実績がない投球回数0,または0に近い投手も多く,マイナーリーグ,学生の時点ですでに手術を受けていることになります.ジャスティン・バーランダー投手が投球回数2988回で手術を受けていることを考えると,かなり少ない投球回数といえます.

※引用元:ウィキペディア
NPB,MLBともに,トミー・ジョン手術に至るまでの投球回数は年々減少していますが,近似曲線の傾きはNPBのほうが大きくなっています.NPBの近似曲線の傾きが大きいのは,MLBでトミー・ジョン手術をうけた日本人投手8名が除かれているためです.
NPBでトミー・ジョン手術に至るまでの投球回数が最も多い投手は村田兆治投手(2421.2回),MLBトミー・ジョン手術に至るまでの投球回数が最も多い投手はジャスティン・バーランダー投手(2988.0回)です.最も少ない投球回数はNPB,MLBともに0回です.
投球回数が減少しているということは,トミー・ジョン手術を受ける投手が若年化していることを意味します.
どのくらいの投球回数でトミー・ジョン手術に至っているのか?

※MLBでトミー・ジョン手術をうけた日本人投手は除く
※投球回数=1回目のトミー・ジョン手術を受けた年度までの1軍での通算投球回数
※桑田真澄投手は負傷による手術のため除く
※引用元:ウィキペディア
このグラフでは,MLBでトミー・ジョン手術をうけた日本人投手8名(大塚晶文,田澤純一,松坂大輔,和田毅,ダルビッシュ有,藤川球児,前田健太)は除いています.
投球回数500回未満で手術を受けた投手(83人)は,全体の90.2%を占めています.1000回未満まで範囲を広げると,98.9%(91人)になります.投球回数2000回以上で手術を受けた投手の割合は1.1%(1人,村田兆治)です.

※投球回数=1回目のトミー・ジョン手術を受けた年度までのメジャーリーグ,1軍(NPB,KB
O,CPBL)での通算投球回数
※ジェイミー・モイヤー投手は負傷による手術の可能性があるため除く
※メジャーリーグでの投球実績がない投手は除く
※ダグ・ブロケイル投手は投手成績を確認できなかったため除く
※引用元:ウィキペディア
MLBでも,投球回数500回未満で手術を受けた投手(525人)が全体の85.2%を占めます.1000回未満まで範囲を広げると,93.0%(573人)になります.
投球回数2000回以上で手術を受けた投手の割合は1.8%(11人)です.この中には日本人投手2名(松坂大輔,前田健太)が含まれています.
NPB,MLBともに大半の投手が少ない投球回数でトミー・ジョン手術を受けており,投球数が多い投手ほどトミー・ジョン手術を受けるリスクが高まっているとはいえません.
速いボールを投げることはトミー・ジョン手術を受けるリスク要因となるのか?

※投球回数=1回目のトミー・ジョン手術を受けた年度までのメジャーリーグ,1軍での通算投球回数
※桑田真澄投手は負傷による手術のため除く
※1軍での投球実績がない投手は除く
※引用元:ウィキペディア

O,CPBL)での通算投球回数
※ジェイミー・モイヤー投手は負傷による手術の可能性があるため除く
※メジャーリーグでの投球実績がない投手は除く
※ダグ・ブロケイル投手はデータを確認できなかったため除く
※引用元:ウィキペディア

※引用元:ウィキペディア
トミー・ジョン手術を受けた投手の球速を見ると,年々球速が速くなっていることがわかります.2020年にはNPBが150kphを少し超えたあたりまで,MLBが160kphの手前あたりまで球速が増加しています.
球速の遅い投手がトミー・ジョン手術を受けているケースが少ないことから,速いボールを投げるほど内側側副靱帯を損傷するリスクが高まるといえます.
トミー・ジョン手術を受けた投手の最高球速と最低球速は?
トミー・ジョン手術を受けた投手の最高球速と最低球速は,NPBが163kph(ロベルト・スアレス),137kph(三浦翔太),MLBが169kph(マイケル・コペック),145kph(ショーン・マーカム)となっています.

※MLBでトミー・ジョン手術をうけた日本人投手は除く
※桑田真澄投手は負傷による手術のため除く
※引用元:ウィキペディア

※ジェイミー・モイヤー投手は負傷による手術の可能性があるため除く
※メジャーリーグでの投球実績がない投手は除く
※ダグ・ブロケイルデータデータを確認できなかったため除く
※引用元:ウィキペディア
NPBでは最高球速150kph以上155kph未満の割合が最も多く,47.5%(28人)を占めています.MLBでは最高球速155kph以上160kph未満の割合(41.2%,89人)が最も多く,5kphほどの差があります.
最高球速155kph以上の割合は,NPBが15.3%(9人),MLBが79.6%(172人)となり差が開きますが,これはNPBで最高球速155kph以上のボールを投げる投手が少ないことを示しています.
最高球速150kph以上の割合は,NPBで62.8%(37人),MLBで98.1%(212人)となるので,最高球速が150kph以上の投手はトミー・ジョン手術に至るリスクが高くなるといってもよいかもしれません.
内側側副靱帯損傷のリスクをモデル化する
内側側副靱帯損傷の原因は,投球動作,投球数,球速の3つの要因が合さったもの
ウィキペディアからの引用では,トミー・ジョン手術に至る原因の一つに投球フォームによる影響が挙げられています.
投球フォームによる影響
- ジェームズ・アンドリュースを始めとする整形外科医やシカゴ・ホワイトソックスで投手コーチを務めるドン・クーパーを始めとする球界関係者らは「靭帯損傷の最大の原因は投球フォーム」と主張している.
- 特に,両腕の肘が両肩よりも上になる逆W字型の投球フォームが肘へ悪影響を与えると言われており,グレッグ・マダックスの様に利き腕と反対側の肘が肩よりも上にならない投球フォームが理想と言われている.
- 逆W字型の投球フォームは身体に比べて腕が遅れて出てくるため,下半身等へ力が分散されることなく肘にダメージが集中してしまうと考えられている.
逆W字型の投球フォームとは,Inverted Wと呼ばれ,足の着地時点で両腕の肘が肩よりも上に位置する形から投球を行うタイプのものを指します.両肘が上がって腕が曲り,逆Wの形になります.

引用元:https://clients.chrisoleary.com/Pitching/The-Epidemic/Truth-About-the-Inverted-W

引用元:https://www.chrisoleary.com/projects/pitchingmechanics101/analyses/cjwilson.html
ここではInverted Wについての詳しい解説は避けますが,投球動作がトミー・ジョン手術に至る最大の原因と考えて間違いないと考えられます.
投球動作は千差万別で,内側側副靱帯にあまり負荷のかからない投球動作もあれば,内側側副靱帯に過度の負荷がかかる投球動作もあります.まず,最初に投球動作があり,副次的に投球数,球速という要因が関わってきます.トミー・ジョン手術に至る要因は,投球動作,投球数,球速の1つに限られるのではなく,3つの要因の組み合わさったものと考えるのが適当です.
1回の投球動作で内側側副靱帯にかかる負荷をモデル化する
投球動作は,内側側副靱帯にかかる負荷の程度によって分類することが可能です.分類された投球動作と球速から,1回の投球動作で内側側副靱帯にかかる負荷が決定されます.
たとえば,内側側副靱帯にかかる負荷が大きい投球動作で速いボールを投げる投手は,1回の投球で内側側副靱帯を損傷するリスクが大きくなります.内側側副靱帯にかかる負荷が小さい投球動作であれば,球速が速くても1回の投球で内側側副靱帯を損傷するリスクは抑えられます.
投球動作を1回行う際に内側側副靱帯にかかる負荷 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
球速 | 1 遅い | 2 | 3 | 4 | 5 速い | |
投球動作 | 負荷 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
1 負荷:小 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
2 | 2 | 2 | 4 | 6 | 8 | 10 |
3 | 3 | 3 | 6 | 9 | 12 | 15 |
4 | 4 | 4 | 8 | 12 | 16 | 20 |
5 負荷:大 | 5 | 5 | 10 | 15 | 20 | 25 |
※投球動作は,腕を速く振る球種である速球系(4シーム,2シーム,シンカー,カッター),SF F(スプリットフィンガー・ファストボール)を投げるときの投球動作に限定するものとする. ※投球動作を5段階に分け,内側側副靱帯にかかる負荷が最も小さい投球動作を投球動作1(負荷 1),内側側副靱帯にかかる負荷が最も大きい投球動作を投球動作5(負荷5)とする. ※球速を5段階に分け,内側側副靱帯にかかる負荷が最も小さい球速を球速1(負荷1),内側側副靱 帯にかかる負荷が最も大きい球速を球速5(負荷5)とする. ※球速が速いほど腕の振りが速くなり,内側側副靱帯にかかる負荷が大きくなるものとする. ※投球動作による負荷と球速による負荷との積を,投球動作を1回行うときに内側側副靱帯にかかる 負荷とする. |
トミー・ジョン手術に至るリスクをモデル化する
投球動作の負荷と球速の負荷との積から,投球動作を1回行うときに内側側副靱帯にかかる負荷が決定されるので,次に,この決定された負荷と投球数の負荷との積を出すことによって,トミー・ジョン手術に至るリスクを推測することができます.
投球動作と投球数から推測されるトミー・ジョン手術に至るリスク | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
投球数 | 1 少ない | 2 | 3 | 4 | 5 多い | |
投球動作1回 | 負荷 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
1 負荷:小 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
2 | 2 | 2 | 4 | 6 | 8 | 10 |
3 | 3 | 3 | 6 | 9 | 12 | 15 |
4 | 4 | 4 | 8 | 12 | 16 | 20 |
5 | 5 | 5 | 10 | 15 | 20 | 25 |
6 | 6 | 6 | 12 | 18 | 24 | 30 |
7 | 8 | 8 | 16 | 24 | 32 | 40 |
8 | 9 | 9 | 18 | 27 | 36 | 45 |
9 | 10 | 10 | 20 | 30 | 40 | 50 |
10 | 12 | 12 | 24 | 26 | 48 | 60 |
11 | 15 | 15 | 30 | 45 | 60 | 75 |
12 | 16 | 16 | 32 | 48 | 64 | 80 |
13 | 20 | 20 | 40 | 60 | 80 | 100 |
14 負荷:大 | 25 | 25 | 50 | 75 | 100 | 125 |
※投球数は,腕を速く振る球種である速球系(4シーム,2シーム,シンカー,カッター),SFF (スプリットフィンガー・ファストボール)を投げた回数とする. ※投球動作を1回行うときに内側側副靱帯にかかる負荷と投球回数による内側側副靱帯にかかる負荷 との積をトミー・ジョン手術に至るリスクとする. ※投球動作による負荷と球速による負荷との積を,投球動作を1回行うときに内側側副靱帯にかかる 負荷とする. ※投球数はアマチュア時代を含む. |
このモデルによるトミー・ジョン手術に至るリスクの例を挙げると次のようになります.
- 投球動作を1回行うときにかかる負荷が1(最小),投球数による負荷が1(最小)の場合,トミー・ジョン手術に至るリスクは,1✕1=1(最小)となる.
- 投球動作を1回行うときにかかる負荷が1(最小),投球数による負荷が5(最大)の場合,トミー・ジョン手術に至るリスクは,1✕5=5となる.
- 投球動作を1回行うときにかかる負荷が25(最大),投球数による負荷が1(最小)の場合,トミー・ジョン手術に至るリスクは,25✕1=25となる.
- 投球動作を1回行うときにかかる負荷が25(最大),投球数による負荷が5(最大)の場合,トミー・ジョン手術に至るリスクは,25✕5=125となる.
投球動作を1回行うときに内側側副靱帯にかかる負荷が小さい投手は,投球数が多くてもトミー・ジョン手術を受けるリスクは大きくなりませんが,投球動作を1回行うときに内側側副靱帯にかかる負荷が大きい投手は,投球数が少なくてもトミー・ジョン手術を受けるリスクが大きくなる可能性があります.
NPBでもMLBでもプロになる投手は,アマチュア時代から球数を蓄積しているので,メジャーリーグ、1軍での投球実績がない場合でも,学生リーグ,マイナーリーグの時点で投球数が多くなっているケースも考えられます.そのため,内側側副靭帯に大きな負荷がかかる投球動作で速いボールを投げる投手が、メジャーリーグ、1軍での投球実績がない場合でもトミー・ジョン手術に至るということが起こり得ます.
腕を速く振るほど内側側副靱帯が損傷しやすくなるため,投球数の対象となる球種は速球系(4シーム,2シーム,シンカー,カッター),SFF(スプリットフィンガー・ファストボール)に限定されます.いくら投球回数が多くても,速球系,SFFの投球数の割合が小さければ,内側側副靱帯に負荷はかかりにくいと考えられます.つまり,投球数は投球回数ではなく,腕を速く振る球種の投球数で判断しなければなりません.
サイ・ヤング投手が内側側副靱帯を損傷しなかった理由
投球回数7356回ながら肩や肘に痛みを感じたことは一度もなかったサイ・ヤング(511勝316敗)投手は,内側側副靱帯に負荷がかからない投球動作を行っていたと考えられます.速球系の球種の割合が大きかったのかは不明ですが,速いボールを投げていたことは確実なようです.
長身から放たれる速球とドロップを駆使し、歴代最多の通算511勝を挙げた(敗戦も歴代最多の316敗)。入団2年目の1891年から1909年まで19年連続で10勝以上を達成。そのうち20勝以上を15回、30勝以上5回記録している。
1937年にアメリカ野球殿堂入り。ニックネームの「サイ」とは、「サイクロン(cyclone、暴風)」を略したもので、彼の速球がサイクロンのようにうなりをあげていたことに由来する。
引用元:ウィキペディア
ドロップを駆使したとありますが,このドロップはおそらくドロップカーブのことと思われます.ドロップの割合が大きければ速いボールを投げる割合が小さくなるので,内側側副靱帯にかかる負荷を軽減することができたのかもしれません.
ドロップカーブ
引用元:ウィキペディア
(英: Drop Curve)とは、通常のカーブよりもトップスピン成分が多く、垂直方向に大きく変化する球種。19世紀から存在し、元々はカーブと別の球種として扱われていたが、変化・投法の類似点から同一種とみなされるようになった。
打者の視線を上下させ、目測を狂わすのに効果的。球速や変化量を調節しやすく、球種の少ない時代は大半のオーバースロー投手に多用され、フォークボール普及前のNPBでは「落ちる球」の代表格であった。