大谷選手はどの選手よりも判定に苦しんでいる-誤審率の真相

  1. ゲレロ・ジュニア,ペレス選手との比較
    1. 大谷選手が思わぬ“被害”に見舞われている
    2. ボールをストライクと判定されるケース(打者に不利)
      1. 大谷翔平
      2. ブラディミール・ゲレロ・ジュニア
      3. サルバドール・ペレス
      4. MLB全打者
      5. MLBとの比較
    3. ストライクをボールと判定されるケース(打者に有利)
      1. 大谷翔平
      2. ブラディミール・ゲレロ・ジュニア
      3. サルバドール・ペレス
      4. MLB全打者
      5. MLBとの比較
  2. カウント別の誤審率はどのようになっているか?
    1. ボールをストライクと判定した誤審率(打者に不利なケース)
    2. なぜ,2ストライク後に誤審率が高くなるのか?
      1. 自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理
      2. 2ストライクに追い込まれるときわどいボールでも打ちに行く
    3. ノースリーのカウントではボールがストライクと判定されやすい?
      1. ノースリーではボールゾーンでも2割以上がストライクになる?
      2. ノースリーからフォアボールを出す確率は87.8%
  3. ゲレーロ選手の誤審率が高いのはなぜか?
    1. ゲレーロ選手の誤審率を再確認
    2. 誤審率が高くなる条件
      1. 2ストライク後の打席割合が大きいと誤審率は高くなる
      2. ゲレーロ選手の2ストライク前と2ストライク後の打席割合は?
      3. ゲレーロ選手の打席割合でMLBの誤審率をシミュレーションする
      4. ゲレーロ選手の誤審率の高さは2ストライク後の打席割合が大きいことが原因 2020
      5. ゲレーロ選手の誤審率の高さは2ストライク後の打席割合が大きいことが原因 2021
  4. カウント別誤審率からわかること
    1. ゲレーロ選手のカウント別誤審率 2020
    2. ストライクカウント別の誤審率
    3. ゲレーロ選手のカウント別誤審率 2021
  5. 投球数と誤審率との関係
    1. 1打席の投球数と誤審率との関係
    2. 1打席のコールされた投球数と誤審率との関係
  6. 誤審も野球のうちという考え方
    1. 日本のチームを応援したいけれど,非難する気持ちにならなかった,それも野球のうち
      1. 日本は他の国の審判やチームからマナーが悪いと批判されている
      2. 審判に対する敬意がない
    2. 審判の判定に対する大谷選手の態度は,侮辱行為ととられかねない
      1. 大谷選手への誤審 
      2. イチロー選手への誤審
      3. ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア選手への誤審

ゲレロ・ジュニア,ペレス選手との比較

大谷選手が思わぬ“被害”に見舞われている

 アメリカのデータ分析会社が,大谷選手の疑惑のストライク判定22連発の動画を公開したという記事を引用します.

【MLB】大谷翔平への“誤審22連発” 米データ分析会社「どの選手よりも判定に苦しむ」
8/22(日) 8:05配信

米データ分析会社「間違いなく外角に外れている」

 両リーグ最速で40本塁打に到達し、本塁打王に突き進むエンゼルスの大谷翔平投手。向かう所敵なしの状況だが、思わぬ“被害”にも見舞われている。外角に外れたボール球をストライクと判定されるケースは1度や2度ではない。多数のメジャーリーガーや米記者から支持されるデータ分析会社「Codify Baseball」では、疑惑のストライク判定22連発の動画を公開。ファンからは「これは酷い」「選球眼いいやん 全部ストライク判定やけど」と同情の声も上がっている。

 同社がツイッターで公開した動画は、大谷がボールと見極めながらもストライクとなった“誤審疑惑”が22球分繋げられている。投稿では「高過ぎず、低過ぎず、内角過ぎず。しかし間違いなく外角に外れている」と強調。その上で「ショウヘイ・オオタニが今季のMLBで、他のどの選手よりもこうしたストライク判定に苦しむことが多くなかった場合を想像してほしい」と綴っている。

 20日(日本時間21日)の敵地でのインディアンス戦でも、同様のシーンが生まれた。5回2死二塁の第3打席で、大谷はカウント3-1から外角に来た球を自信を持って見逃して一塁に歩こうとしたが、判定はストライク。結局、フルカウントから空振り三振に倒れた。

 動画を見たファンも“誤審”には賛同。「ショウヘイ・オオタニはMLBで酷い(ストライク/ボール)判定をなかなか受けている」「全部外に外れてる球をストライクとコールされてる」「大谷選手の打席でこういう場面多すぎんか」などとコメントが寄せられた。相手投手も際どいコースを攻めてくる中、“判定との戦い”もポイントになってくるかもしれない。

Full-Count編集部

引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/8756757977b8813e1ea429bd59da9cd659cfda7a

 引用文によると,大谷選手は他のどの選手よりもボール球をストライクと判定される被害に見舞われているとのことです.ベースボール・サバントでは,審判の判定と,実際のストライク,ボールの判定の数を確認できるようになっているので,大谷選手と本塁打王のタイトルを争ったブラディミール・ゲレロ・ジュニア選手,サルバドール・ペレス選手と誤審率について比較します.

ボールをストライクと判定されるケース(打者に不利)

 ボールをストライクと判定されるケースでは,打者は不利になります.

大谷翔平

大谷翔平 ストライク 誤審率(%) 2018-2021
年度ストライクと判定ボールをストライクと判定誤審率
20182353615.32
20192323916.81
20201281713.28
20213736717.96
96815916.43
※引用元:ベースボール・サバント,Pitch Result: called strike,Gameday Zones: Pitchs Out of Zone
小数点第3位を四捨五入

ブラディミール・ゲレロ・ジュニア

ブラディミール・ゲレロ・ジュニア ストライク 誤審率(%) 2018-2021
年度ストライクと判定ボールをストライクと判定誤審率
20192956321.36
20201222822.95
20213175717.98
73414820.16
※引用元:ベースボール・サバント,Pitch Result: called strike,Gameday Zones: Pitchs Out of Zone
※小数点第3位を四捨五入

サルバドール・ペレス

サルバドール・ペレス ストライク 誤審率(%) 2018-2021
年度ストライクと判定ボールをストライクと判定誤審率
20182382610.92
202058915.52
20212233113.90
5196612.72
※引用元:ベースボール・サバント,Pitch Result: called strike,Gameday Zones: Pitchs Out of Zone
※小数点第3位を四捨五入

MLB全打者

MLB ストライク 誤審率(%) 2018-2021
年度ストライクと判定ボールをストライクと判定誤審率
20181215171897415.61
20191203371931816.05
202044320700115.80
20211166181747614.99
4027926276915.58
※引用元:ベースボール・サバント,Pitch Result: called strike,Gameday Zones: Pitchs Out of Zone
※小数点第3位を四捨五入

MLBとの比較

ストライク 誤審率(%) 2018-2021 ボールをストライクと判定 打者に不利
選手2018201920202021
大谷翔平15.3216.8113.2817.9616.43
ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア21.3622.9517.9820.16
サルバドール・ペレス10.9215.5213.9012.72
MLB15.6116.0515.8014.9915.58
*=出場なし
※小数点第3位を四捨五入

 MLB(2018-2021)でのボールをストライクと判定された誤審率を比較すると,ゲレーロ・ジュニア選手が最も高く(平均20.16%),続いて大谷選手(平均16.43%),MLB(平均15.58%)ペレス選手(平均12.72%)の順となっています.

 大谷選手の誤審率(平均16.43%)はMLB(平均15.58%)を少し上回っていますが,ゲレーロ・ジュニア選手の誤審率(平均20.16%)よりもかなり低く,引用文に書かれているような「他のどの選手よりも,ボール球をストライクと判定される“被害”に見舞われている」という事実は確認できません.

 2020年までの誤審率と比べると2021年は高くなっていますが,他のどの選手よりも”被害”に見舞われているというほどの誤審率とはいえません.

引用元:https://thedigestweb.com/baseball/detail/id=55744

ストライクをボールと判定されるケース(打者に有利)

 ボールをストライクと判定されるケースでは,投手は有利になります.

大谷翔平

大谷翔平 ボール 誤審率(%) 2018-2021
年度ボールと判定ストライクをボールと判定誤審率
2018549417.47
2019620274.35
2020280217.50
20211028333.21
24771224.93
※引用元:ベースボール・サバント,Pitch Result: ball,ball in dirt,Gameday Zones: Pitchs in Zone
※小数点第3位を四捨五入

ブラディミール・ゲレロ・ジュニア

ブラディミール・ゲレロ・ジュニア ボール 誤審率(%) 2018-2021
年度ボールと判定ストライクをボールと判定誤審率
2019759425.53
2020349174.87
2021999464.60
21071054.98
※引用元:ベースボール・サバント,Pitch Result: ball,ball in dirt,Gameday Zones: Pitchs in Zone
※小数点第3位を四捨五入

サルバドール・ペレス

サルバドール・ペレス ボール 誤審率(%) 2018-2021
年度ボールと判定ストライクをボールと判定誤審率
2018579172.94
202017210.58
2021748233.07
1499412.74
※引用元:ベースボール・サバント,Pitch Result: ball,ball in dirt,Gameday Zones: Pitchs in Zone
※小数点第3位を四捨五入

MLB全打者

MLB ボール 誤審率(%) 2018-2021
年度ボールと判定ストライクをボールと判定誤審率
2018259517144215.56
2019263655128444.87
20209680945974.75
2021254236116254.57
874217434874.97
※引用元:ベースボール・サバント,Pitch Result: ball,ball in dirt,Gameday Zones: Pitchs in Zone
※小数点第3位を四捨五入

MLBとの比較

ボール 誤審率(%) 2018-2021 ストライクをボールと判定 打者に有利
選手2018201920202021
大谷翔平7.474.357.503.214.93
ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア5.534.874.604.98
サルバドール・ペレス2.940.583.072.74
MLB5.564.874.754.574.97
*=出場なし
※小数点第3位を四捨五入
引用元:ベースボール・サバント

 MLB(2018-2021)でのストライクをボールと判定された誤審率を比較すると,ゲレーロ・ジュニア選手(平均4.98%)だけがMLB(平均4.97%)を上回っています.大谷選手(平均4.93%)はMLB(平均4.97%)を少し下回る程度で,ペレス選手(平均2.74%)だけが低い値になっています.

 ストライクをボールと判定された場合,打者は恩恵を受けることになりますが,大谷選手(平均4.93%)の誤審率はMLB(平均4.97%)と大差ないので,「ストライク球をボールと判定される“恩恵”が他のどの選手よりも少ない」という事実は確認できません.

 メディアはストライクがボールと判定される恩恵には一切触れず(選手も触れませんが),ボールがストライクに判定されると,他のどの選手よりも大谷選手だけが誤審の被害に見舞われていると認識するようです.

カウント別の誤審率はどのようになっているか?

ボールをストライクと判定した誤審率(打者に不利なケース)

 2021年のカウント別の誤審率は次のとおりです.

カウント別誤審率 2021 ボールをストライクと判定 打者に不利なケース
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平 
カウント誤審率 %
ペレスゲレーロ大谷MLB
0-08.5714.4914.6213.20
1-012.0020.0020.3715.89
2-022.2226.3233.3316.86
3-050.0021.435.5610.75
ノーストライク11.1117.0617.0413.89
0-127.2718.5210.3415.05
1-120.0015.7920.5916.79
2-114.2916.6721.4318.00
3-10.0036.3622.7317.16
1ストライク20.6920.0018.5816.37
0-220.0014.2920.0017.39
1-2100.0025.0016.6721.57
2-225.0011.1117.6521.47
3-233.3328.5733.3320.92
2ストライク35.7119.3521.6220.60
2ストライク前12.4417.8317.5614.48
2ストライク後35.7119.3521.6220.60
全カウント13.9017.9817.9614.99
引用元:ベースボール・サバント
※小数点第3位を四捨五入
※カウント○-○は,ボール-ストライク.3-2は,2ストライク3ボール.

 MLBの誤審率を見ると,おおよその傾向がわかります.

  • ノーストライクから,1ストライク,2ストライクとストライクが増えるにつれて,誤審率が高くなる.ノーストライク(13.89)→ 1ストライク(16.37)→ 2ストライク(20.60)
  • 各ストライクのボールカウントが0から2までは誤審率が上がっていくが,ボールカウント3で誤審率が下がる.
  • 2ストライクは例外で,0-2(17.39)→ 1-2(21.57)→ 2-2(21.47)→ 3-2(20.92)のように,ボールカウント3ではなくボールカウント2で誤審率が下がっている.
  • 2ストライク前(14.48)よりも,2ストライク後(20.60)の方が誤審率が高くなる.

 つまり,カウントが早いうちに打った方が誤審率が低くなるということがわかります.

なぜ,2ストライク後に誤審率が高くなるのか?

自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理

 2ストライク後の誤審率について書かれた記事があるので,引用します.

ボールでもストライク? 状況で変わるストライクゾーン
野球データアナリスト 岡田友輔
2020年11月27日 3:00

2ストライク後の「誤審率」は21%

それでも、誤審率が突出して高い状況がある。2ストライク後の判定だ。フルカウントからの際どい1球は三振と四球の分岐点だ。2ストライク後の誤審率は21.45%にも上るという。08年の36.68%からは改善しているが、5球に1球は間違った判定が下されているということになる。

近年は日本でも多くの球場が追跡システムを導入している。しかし残念ながら、球審の誤審率などは公表されていない。そこでデータ分析を手掛けるDELTAでは目視により、ルールブック上のストライクゾーンと球審の判定がどれだけ一致しているのかを調べてみた。テクノロジーを使った統計に比べると精度では劣るが、大まかな傾向を把握することはできる。そこで確認できたのは、現実のストライクゾーンの広さはカウントによって変わるということだ。

18年のデータを見てみよう。例えばカウント0-0では、ボールゾーンへの投球がボール判定された一致率は83.7%、ストライクゾーンへの投球がストライク判定されたのは72.7%だった。ところがカウント0-2になると、ストライクゾーンのボールがストライクとコールされる確率は僅か24.7%になってしまう。一方、3-0になるとストライクの一致率が83.5%になるだけでなく、ボールゾーンへの投球でも2割以上がストライクと判定されている。つまり「2ストライクではストライクでもボール、3ボールではボールでもストライク」。これはファンの皮膚感覚ともおおむね一致するのではないだろうか。

ここから推察されるのは、審判は極力、自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理である。恐らく無意識のうちに、審判は打者が何かしらの打球を飛ばして決着をつけてほしいと願っているのだ。人間は自分の判定が他人の運命を決めることを、極力避けたいのだろう。

大リーグも含め、ストライクゾーンについてはほかにも様々な興味深い検証結果が報告されている。ルール上のストライクゾーンは長方形だが、実際の運用では高低が狭く、横に広い傾向があり、四隅も角張っておらず、全体的に丸い傾向になっている。また、特に米国では、煮詰まったカウントでホームチーム有利の判定が多いことが確認されている。これは審判の意図的なひいきというより、際どいボールに起きるホームチーム寄りの歓声やどよめきがジャッジに影響を与えるからと考えられている。地元ファンの熱狂に乗せられて、ホーム有利の判定をしてしまうのだ。バスケットボールやサッカーなどにおいて、この傾向は一段と顕著に出る。ただ、日本のプロ野球においては確認できない。日本の審判は公明正大なジャッジをしているといえるだろう。

引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66660850W0A121C2000000/

 この記事によると,2ストライク後の誤審率が21.45%と突出して高くなるのは,「審判のもつ極力、自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理」が働いているからだとしています.

2ストライク後の誤審率
※審判に自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理が働くならば,ストライクをボールと判定した誤審率の方が高くなるはずだが,MLBでは逆の結果になっている.
年度ボールをストライク
と判定した誤審率 %
打者に不利 a
ストライクをボール
と判定した誤審率 %
打者に有利 b
誤審率 %
a+b
NPB2018?不明不明21.45
MLB202120.602.8923.49
NPB引用元:上の引用文の内容を基に作成
MLB引用元:ベースボール・サバント
※小数点第3位を四捨五入

 これはどういうことかというと,2ストライクで追い込まれているバッターを自分の判定で三振にさせるのが嫌なので,無意識のうちにストライクをボールに判定してしまっているということです.

 しかし,この推察はおそらく間違っています

 引用文の記事では,2ストライク後の誤審率が21.45%と突出して高くなると書かれていますが,誤審率にはボールをストライクと判定されるケースと,ストライクをボールと判定されるケースがあります.

 つまり,21.45%の中にはボールをストライクと判定した誤審率と,ストライクをボールと判定した誤審率の両方が含まれているわけです.

 2021年のMLBの2ストライク後の誤審率23.50%の内訳は,ボールをストライクと判定した誤審率が20.60%,ストライクをボールと判定した誤審率は2.90%です.

 もし,NPBとMLBのカウント別の誤審率の傾向がそれほど変わらないのであれば,MLBでストライクをボールと判定した誤審率は僅か2.89%ですから,「審判のもつ極力、自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理が働いている」という推察はあてはまりません

2ストライクに追い込まれるときわどいボールでも打ちに行く

 MLBでは逆にボールをストライクと判定した誤審率20.60%の方が圧倒的に多いということです.打者有利ではなく,投手に有利な判定となっています.ではどう理解すればよいのかというと,おそらく打者心理に関係していると思われます.

 打者は2ストライクに追い込まれると,見逃したらストライクに判定されて三振になるかもしれないという不安から多少きわどいボールでも打ちに行く傾向があります.そのため,見逃して三振になった場合でも明らかなボールでない限りクレームは出にくいと考えられます.

 審判はその打者心理を逆手にとって,多少ジャッジが甘くなる部分があり,結果として2ストライク後の誤審率が突出して高くなっている可能性があります.

ノースリーのカウントではボールがストライクと判定されやすい?

ノースリーではボールゾーンでも2割以上がストライクになる?

 また,引用文には「3-0になると,ボールゾーンへの投球でも2割以上がストライクと判定されている」,「3ボールではボールでもストライク」と書かれています.

ノースリーのカウントでの誤審率
※審判に自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理が働くならば,ボールをストライクと判定した誤審率の方が高くなるはずだが,MLBではカウント別誤審率の中で最低の誤審率となっている.
年度ボールをストライク
と判定した誤審率 %
打者に不利 a
ストライクをボール
と判定した誤審率 %
打者に有利 b
誤審率 %
a+b
NPB201820%以上不明不明
MLB202110.755.7716.52
NPB引用元:上の引用文の内容を基に作成
MLB引用元:ベースボール・サバント
※MLBの10.75%はカウント別誤審率の中で最低の値
※引用文では「3-0になるとストライクの一致率が83.5%になる」とあるので,ボールをストライク
と判定した誤審率は16.5%になると思われるが,2割以上と書かれている.

 2021年のMLBのノースリーのカウントでの誤審率を調べると,ボールをストライクと判定した誤審率が10.75%,ストライクをボールと判定した誤審率が5.77%となっています.合わせると16.52%となり,これはカウント別誤審率の中で最低の誤審率になります.

 もし,NPBとMLBのカウント別の誤審率の傾向がそれほど変わらないのであれば,MLBでボールをストライクと判定した誤審率は10.75%(カウント別誤審率の中で最低)と低いので,「審判のもつ極力、自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理が働いている」という推察はあてはまりません

 むしろ,なぜMLBではノースリーのカウントでボールをストライクと判定した誤審率が最低の値なのかを考えるべきです.

ノースリーからフォアボールを出す確率は87.8%

 下表はMLBの2021年のノースリーのカウントでの打席,打数,四球を調べたものです.

ノースリーのカウントでストレートのフォアボールになる割合 MLB 2021
カウント打席 a打数四球 b打席に占める四球
の打席の割合 %
b/a
3-02942346258487.8
引用元:ベースボール・サバント
※小数点第2位を四捨五入
※打席から四球の打席を引くと358打席となり,さらに死球、犠打、犠飛、打撃妨害、走塁妨害の打席を除くと打数になる.

 MLBのノースリーのカウントでのデータを調べたところ,2942打席のうち2584打席が四球になっています.実に87.8%の割合です.つまり,ノースリーのカウントになる投手はストライクが入らない状態になっているため,87.8%の割合でストレートのフォアボールを出してしまうということです.

 それだけコントロールできない投球になっていれば,フォアボールになる投球はきわどいボールではなく,明らかなボールになると考えられるので,誤審率は低くなることが推察されます.

 ノースリーのカウントでは投手はきわどいボールを投げられなくなっているので,NPBでボールをストライクと判定した誤審率が20%以上あるというのは,疑問符の付くところではあります. 

 カウント別の誤審率のところで,2ストライク前よりも2ストライク後に誤審率が高くなることを示しました.2ストライク後に誤審率が高くなるということは,2ストライク前に打っておけば,その選手の誤審率が低くなるということです.

 早打ちする打者なら2ストライクになる前に打つことが多くなるはずなので,誤審率は低くなるはずです.

ゲレーロ選手の誤審率が高いのはなぜか?

ゲレーロ選手の誤審率を再確認

 ゲレーロ選手の誤審率を再度確認するため,表を再掲します.

ストライク 誤審率(%) 2018-2021 ボールをストライクと判定 打者に不利
選手2018201920202021
大谷翔平15.3216.8113.2817.9616.43
ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア21.3622.9517.9820.16
サルバドール・ペレス10.9215.5213.9012.72
MLB15.6116.0515.8014.9915.58
*=出場なし
※小数点第3位を四捨五入
※引用元:ベースボール・サバント

 ゲレーロ選手は2019~2021まで3選手のなかでは一番高い誤審率となっています.どの選手よりも誤審の被害に見舞われている大谷選手よりも高い誤審率です.

ボール 誤審率(%) 2018-2021 ストライクをボールと判定 打者に有利
選手2018201920202021
大谷翔平7.474.357.503.214.93
ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア5.534.874.604.98
サルバドール・ペレス2.940.583.072.74
MLB5.564.874.754.574.97
*=出場なし
※引用元:ベースボール・サバント
※小数点第3位を四捨五入

 ストライクをボールと判定した誤審率については,ゲレーロ選手はMLB平均とほぼ変わりません.大谷選手は2018年と2020年の誤審率が高く,この年度ではかなり恩恵を受けています.

https://article.auone.jp/detail/1/6/10/92_10_r_20220501_1651376803070684

誤審率が高くなる条件

2ストライク後の打席割合が大きいと誤審率は高くなる

 ゲレーロ選手はストライクをボールと判定した誤審率は特に高いということはないので,ボールをストライクと判定した誤審率に絞って話を進めます.年度はゲレーロ選手の誤審率が最も高い2020年を対象とします.

仮説

 誤審率は打席,打数が多くても少なくても同じと考えられるため,どのカウントで打席に多く入っているかが問題になります.誤審率が低いカウントよりも誤審率が高いカウントの打席が多い方が誤審率が高くなると考えられます.

誤審率が高くなる条件として考えられるのは,次のとおりです.

  • 2ストライク前よりも,誤審率が高くなる2ストライク後の打席が多い

 MLB平均の誤審率(ボールをストライクと判定)は,2ストライク前が15.26%,2ストライク後が21.83%になっています.極端なことをいえば,すべての投球を2ストライク前に打ってしまえば誤審率は低く抑えられ,2ストライク後にしか打たなければ誤審率は高くなります

 わかりやすくするため,次のようなモデルを設定します.

  • 2ストライク前の打席割合を50%,2ストライク後の打席割合を50%とする
  • 2ストライク前の打席数を50,2ストライク後の打席数を50とする
  • 全カウントの打席数を100とする.
  • 誤審の対象となるコールされた投球は1打席につき1球とする
  • 2ストライク前の誤審率を10%,2ストライク後の誤審率を20%とする

 このモデルでは,2ストライク前の打席割合が50%,2ストライク後の打席割合が50%,2ストライク前の誤審率が10%,2ストライク後の打席割合が20%のときに,全カウントの誤審率は15%になります.

打席割合打席
合わせて100打席
誤審率
コールされた投球は
1打席につき1球
2スト
ライク
2スト
ライク
2スト
ライク
2スト
ライク
2ストラ
イク前
10%
2ストラ
イク後
20%
全カウ
ント
10%90%109010%
1/10
20%
18/90
19%
19/100
20%80%208010%
2/20
20%
16/80
18%
18/100
30%70%307010%
3/30
20%
14/70
17%
17/100
40%60%406010%
4/40
20%
12/60
16%
16/100
50%50%505010%
5/50
20%
10/50
15%
15/100
60%40%604010%
6/60
20%
8/40
14%
14/100
70%30%703010%
7/70
20%
6/30
13%
13/100
80%20%802010%
8/80
20%
4/20
12%
12/100
90%10%901010%
9/90
20%
2/10
11%
11/100

 2ストライク前の打席割合が50%から小さくなると,2ストライク後の打席割合が大きくなるので,全カウントの誤審率は上がっていきます.

 2ストライク前の打席割合が50%から大きくなると,2ストライク後の打席割合が小さくなるので,全カウントの誤審率は下がっていきます.

 打席割合が変わっても,2ストライク前の誤審率と2ストライク後の誤審率は変わらず,全カウントの誤審率が変わるだけです.

ゲレーロ選手の2ストライク前と2ストライク後の打席割合は?

 では,2020年のゲレーロ,ペレス,大谷選手の2ストライク前と2ストライク後の打席の割合と誤審率について調べます.

MLB 2020 2ストライク前と2ストライク後の打席数
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平

打席ボールをストライク
と判定した誤審率 %
2スト
ライク
2スト
ライク
2スト
ライク
2スト
ライク

カウント

ペレス
81
(51.9%)
75
(48.1%)
16.67
9/54
0.00
0/4
15.52

ゲレーロ
132
(54.5%)
110
(45.5%)
23.64
26/110
16.67
2/12
22.95
大谷68
(38.9%)
107
(61.1%)
13.79
16/116
8.33
1/12
13.28
MLB30230
(45.6%)
36074
(54.4%)
15.26
6215/40719
21.83
786/3601
15.80
引用元:ベースボール・サバント
※割合は小数点第2位を四捨五入
※誤審率は小数点第3位を四捨五入
※2ストライク後の誤審率の下段は,2ストライク後に見逃し三振するケースが非常に少ない(分母が小さい)ことを示している.

 表を見やすくします.

 予想に反して,誤審率の高いゲレーロ選手は2ストライク前の打席の割合が大きく(54.5%)2ストライク後の打席の割合は小さい(45.5%)という結果になりました.

ゲレーロ選手の打席割合でMLBの誤審率をシミュレーションする

 MLBの打席割合(45.6%:54.4%)がゲレーロ選手の打席割合(54.5%:45.5%)に変わると,全カウントの誤審率がどのように変わるかをシミュレーションします.全カウントの打席数は変わらないものとします.

 1打席のコール数(誤審の対象となるストライク,ボールの判定の数)は,

  • 2ストライク前の1打席のコール数:40719÷30230≒1.35
  • 2ストライク後の1打席のコール数:3601÷36074≒0.10

 打席割合が,(54.5%:45.5%)に変わると,

  • 2ストライク前の打席数:66304×0.545≒36136
  • 2ストライク前の打席数:66304×0.455≒30168

 コール数は,

  • 2ストライク前のコール数:1.35×36136≒48784
  • 2ストライク後のコール数:0.10×30168≒3017

 誤審のコール数は,

  • 2ストライク前の誤審のコール数:48784×0.1526(誤審率)≒7444
  • 2ストライク後の誤審のコール数:3017×0.2183(誤審率)≒659

 となります.

MLBの打席割合をゲレーロ選手の打席割合(54.5%:45.5%)に変えたときの誤審率 2020

打席ボールをストライク
と判定した誤審率 %
2スト
ライク
2スト
ライク
2スト
ライク
2スト
ライク

カウント
MLB30230
(45.6%)
36074
(54.4%)
15.26
6215/40719
21.83
786/3601
15.80
MLB
シミュレー
ション後
36136
(54.5%)
30168
(45.5%)
15.26
7444/48784
21.83
659/3017
15.64
8103/51801
引用元:ベースボール・サバント
※黄色マーカー:他の数値を小数点第1位で四捨五入したため,誤審率にズレがあります.

 MLBの打席割合をゲレーロ選手の打席割合(54.5%:45.5%)に変えるシミュレーションを行うと,全カウントの誤審率は15.80%から15.64%に下がります.

ゲレーロ選手の誤審率の高さは2ストライク後の打席割合が大きいことが原因 2020

MLB 2020 打席数と誤審率(ボールをストライクと判定) 
2ストライク前と2ストライク後
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平
打席 %誤審率 %
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後

カウント
ペレス51.948.116.670.0015.52
ゲレーロ54.545.523.6416.6722.95
大谷38.961.113.798.3313.28
MLB45.654.415.2621.8315.80
引用元:ベースボール・サバント
※割合は小数点第2位を四捨五入
※誤審率は小数点第3位を四捨五入

仮説

  • ゲレーロ選手の誤審率の高さは,誤審率の高い2ストライク後の打席割合が大きいことが原因である

検証

  • ゲレーロ選手は,2ストライク前の打席(54.5%)が2ストライク後の打席(45.5%)よりも大きく,カウント別の誤審率が低下する打席割合となっている
  • 2ストライク前の打席割合が大きくなる(2ストライク後の打席割合が小さくなる)と,誤審率は低下するはずだが,ゲレーロ選手の誤審率(22.95%)はMLB(15.80%)よりもかなり高くなっている
  • 打席割合が変わっても誤審率は変わらないので,2ストライク前の誤審率(15.26%)が低く2ストライク後の誤審率(21.83%)が高いというMLBの傾向は変わらないはずであるが,ゲレーロ選手の誤審率は2ストライク前の誤審率(23.64%)が高く,2ストライク後の誤審率(16.67%)が低く逆の傾向になっている.

 結論

 2ストライク前と2ストライク後の打席の割合から,ゲレーロ選手の誤審率の高さを説明することはできない.

ゲレーロ選手の誤審率の高さは2ストライク後の打席割合が大きいことが原因 2021

 ゲレーロ選手が本塁打王のタイトルを獲得した2021年のデータも見てみます.

MLB 2021 打席数と誤審率(ボールをストライクと判定) 
2ストライク前と2ストライク後
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平
打席割合 %誤審率 %
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後

カウント
ペレス48.451.612.4435.7113.90
ゲレーロ56.743.317.8319.3517.98
大谷41.758.317.5621.6217.96
MLB46.253.814.4820.6014.99
引用元:ベースボール・サバント
※割合は小数点第2位を四捨五入
※誤審率は小数点第3位を四捨五入

 2021年も2ストライク前の打席が2ストライク後の打席よりも多いというゲレーロ選手の打席割合の傾向は,変わっていません.

仮説

  • ゲレーロ選手の誤審率の高さは,誤審率の高い2ストライク後の打席割合が大きいことが原因である

検証

  • ゲレーロ選手は,2ストライク前の打席(56.7%)が2ストライク後の打席(43.3%)よりも大きく,カウント別の誤審率が低下する打席割合となっている
  • 2ストライク前の打席割合が大きくなる(2ストライク後の打席割合が小さくなる)と,誤審率は低下するはずだが,ゲレーロ選手の誤審率(17.98%)はMLB(14.99%)よりも高くなっている
  • 2021年は,2ストライク前の誤審率(14.48%)が低く2ストライク後の誤審率(20.60%)が高いというMLBの傾向と同じく,ゲレーロ選手の誤審率は2ストライク前の誤審率(17.83%)が低く,2ストライク後の誤審率(19.35%)が高くなっている.ただし,誤審率の差(1.52%)はMLB(6.12%)に比べて小さい.

 結論

 2ストライク前と2ストライク後の打席の割合から,ゲレーロ選手の誤審率の高さを説明することはできない.

カウント別誤審率からわかること

ゲレーロ選手のカウント別誤審率 2020

 続いて,ゲレーロ選手の誤審率がどのカウントで高くなっているかを確認します.

カウント別誤審率 2020 ボールをストライクと判定 打者に不利なケース
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平 
カウント誤審率 %
ペレスゲレーロ大谷MLB
0-010.0028.004.7613.76
1-040.0020.0015.0017.45
2-050.0018.1816.6719.17
3-00.0014.2957.1410.09
ノーストライク14.5824.1013.3314.75
0-125.0025.0010.0016.34
1-1100.0033.3310.0017.43
2-10.0011.1133.3317.03
3-10.000.0025.0017.36
1ストライク33.3322.2214.6316.92
0-20.0050.000.0019.79
1-20.000.000.0021.46
2-20.000.000.0022.83
3-20.000.0014.2922.63
2ストライク0.0016.678.3321.83
2ストライク前16.6723.6413.7915.26
2ストライク後0.0016.678.3321.83
全カウント15.5222.9513.2815.80
引用元:ベースボール・サバント
※小数点第3位を四捨五入
※赤マーカーはゲレーロ選手のMLB誤審率よりも高いカウントの誤審率

 2020年は新型コロナウイルスの影響で60試合しか行われていないため,誤審率の対象となる投球数が全体的に小さい数字になっています.そのため,カウントによっては投球数が極端に少なく,誤審率が0%,100%のように極端な数字になっているところがあります.

 MLB誤審率の傾向は次のとおりです.

  • ノーストライク,1ストライク,2ストライクとストライクカウントが増えるにつれて,誤審率が高くなる
  • ノーボール,1ボール,2ボールとボールカウントが増えるにつれて,誤審率が高くなる
  • 2ボールまでは誤審率が上がるが,3ボールで少し下がる傾向がある

 ゲレーロ選手の誤審率がMLBの誤審率よりも高いカウントは,次のとおりです.

  • 0-0,28.00% > 13.76%(MLB)
  • 1-0,20.00% > 17.45%(MLB)
  • 3-0,14.29% > 10.09%(MLB)
  • 0-1,25.00% > 16.34%(MLB)
  • 1-1,33.33% > 17.43%(MLB)
  • 0-2,50.00% > 19.79%(MLB)

 ゲレーロ選手の特徴として次のことが挙げられます.

  • ノーストライク,1ストライクのカウントで誤審率が高い
  • ノーボール,1ボールで誤審率が高くなる傾向がある
  • ストライクのカウントにかかわらず,ノーボールのカウントで誤審率が高くなる

  ゲレーロ選手の誤審率になぜこのような特徴があるのか理由については,正直わかりません.

ストライクカウント別の誤審率

 ストライクのカウント別に誤審率をまとめると,次のようになります.

カウント別誤審率 2020 ボールをストライクと判定 打者に不利なケース
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平 
カウント誤審率 %
ペレスゲレーロ大谷MLB
ノーストライク14.5824.1013.3314.75
1ストライク33.3322.2214.6316.92
2ストライク0.0016.678.3321.83
2ストライク前16.6723.6413.7915.26
2ストライク後0.0016.678.3321.83
全カウント15.5222.9513.2815.80
引用元:ベースボール・サバント
※小数点第3位を四捨五入
※赤マーカーはMLBよりも高い誤審率
※青マーカーはMLBよりも低い誤審率

 MLBの誤審率は,

  • ノーストライク,1ストライク,2ストライクとストライクカウントが増えるにつれて,誤審率が高くなる(14.75 → 16.92 → 21.83)
  • 2ストライク前の誤審率よりも2ストライク後の誤審率が高くなる(15.26 → 21.83)

という傾向がありますが,

 ゲレーロ選手の誤審率は,MLBの傾向とは逆になっています.

  • ノーストライク,1ストライク,2ストライクとストライクカウントが増えるにつれて,誤審率が低くなる(24.10 → 22.22 → 16.67)
  • 2ストライク前の誤審率よりも2ストライク後の誤審率が低くなる(23.64 → 16.67)

ゲレーロ選手のカウント別誤審率 2021

 本塁打王のタイトルを獲得した2021年も同じ傾向があるのかを見てみます.

カウント別誤審率 2021 ボールをストライクと判定 打者に不利なケース
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平 
カウント誤審率 %
ペレスゲレーロ大谷MLB
ノーストライク11.1117.0617.0413.89
1ストライク20.6920.0018.5816.37
2ストライク35.7119.3521.6220.60
2ストライク前12.4417.8317.5614.48
2ストライク後35.7119.3521.6220.60
全カウント13.9017.9817.9614.99
引用元:ベースボール・サバント
※小数点第3位を四捨五入
※赤マーカーはMLBよりも高い誤審率
※青マーカーはMLBよりも低い誤審率

 MLBの傾向は2020年と同じです.

  • ノーストライク,1ストライク,2ストライクとストライクカウントが増えるにつれて,誤審率が高くなる(13.89 → 16.37 → 20.60)
  • 2ストライク前の誤審率よりも2ストライク後の誤審率が高くなる(14.48 → 20.6)

年度が違ってもMLBの傾向は変わらないと考えられます.

 一方,ゲレーロ選手の誤審率は,2020年と一部違いが見られます.

  • ノーストライク,1ストライク,2ストライクとストライクカウントが増えるにつれて,誤審率が低くなっていない(17.06 → 20.00 → 19.35)
  • 2ストライク前の誤審率よりも2ストライク後の誤審率が低くなっていない(17.83 → 19.35)

 2020年と一部違いが見られますが,次の点を考慮すると傾向は大きくは変わっていないといえるかもしれません.

  • ノーストライクの誤審率17.06%は,MLBの誤審率13.89%と比べると高く,誤審率が高いことに変わりはない
  • 2ストライク後の誤審率が19.35%に上がっているが,MLBの誤審率20.60%よりも低く,高い誤審率とはいえない
  • 2ストライク前の誤審率17.83%は,MLBの誤審率14.48%よりもかなり高く,誤審率が高いことに変わりはない

 2ストライク前の誤審率が高い傾向は変わりませんが,2021年は2ストライク後の誤審率が少し上がり(16.67%→19.35%),MLB(20.60)に近づいています.

投球数と誤審率との関係

1打席の投球数と誤審率との関係

 あまり意味がないかもしれませんが,投球数の多い少ないが誤審率に関係しているかを調べます.

1打席の平均投球数 2021 2ストライク前と2ストライク後
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平
投球数 a打席 b1打席の平均投球数 a/b
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
合計
ペレス1638
(68.5%)
754
(31.5%)
320
(48.4%)
341
(51.6%)
5.122.217.33
ゲレーロ1887
(75.2%)
622
(24.8%)
392
(56.7%)
299
(43.3%)
4.812.086.89
大谷1874
(72.2%)
720
(27.8%)
258
(41.7%)
361
(58.3%)
7.261.999.25
MLB499537
(70.4%)
210314
(29.6%)
83698
(46.2%)
97417
(53.8%)
5.972.168.13
引用元:ベースボール・サバント
※割合は小数点第2位を四捨五入
※投球数は小数点第3位を四捨五入

 ゲレーロ選手の1打席あたりの投球数は,2ストライク前(MLB5.97に対し4.81),2ストライク後(MLB2.16に対し2.08)ともにMLBより少なく,全カウント(6.89)の投球数もMLB(8.13)より少ないのが特徴です.

仮説

  • 1打席の投球数が少ない打者は,早打ちしているので誤審率が低くなる
  • 1打席の投球数が多い打者は,ボールをよく見ているので誤審率が高くなる
1打席の平均投球数と誤審率(ボールをストライクと判定) 2021
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平
1打席の平均投球数誤審率 %
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
合計2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
合計
ペレス5.122.217.3312.4435.7113.90
ゲレーロ4.812.086.8917.8319.3517.98
大谷7.261.999.2517.5621.6217.96
MLB5.972.168.1314.4820.6014.99
引用元:ベースボール・サバント
※小数点第3位を四捨五入

検証

  • ゲレーロ選手は2ストライク前の投球数(4.81)がMLB(5.97)よりも少ないが,2ストライク前の誤審率(17.83%)はMLB(14.48%)よりも高い
  • 大谷選手は2ストライク前の投球数(7.26)がMLB(5.97)よりも多く,2ストライク前の誤審率(17.56%)もMLB(14.48%)よりも高い
  • ペレス選手は2ストライク後の投球数(2.21)がMLB(2.16)よりも少し多い程度だが,2ストライク後の誤審率(35.71%)はMLB(20.60%)よりもかなり高い
  • 大谷選手は2ストライク後の投球数(1.99)がMLB(2.16)よりも少し低いが,2ストライク後の誤審率(21.62%)はMLB(20.60%)よりも少し高い

結論

 1打席の平均投球数と誤審率が関連しているとはいえない.

1打席のコールされた投球数と誤審率との関係

 1打席の投球数をさらに審判がコールした投球に絞ります.

ストライク,ボールとコールされた投球数 2021
1打席の平均投球数 2ストライク前と2ストライク後
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平
※全投球のうちストライク,ボールとコールされた投球が誤審の対象になります.
ストライク,ボールと
コールされた投球数 a
打席 b1打席の平均投球数 a/b
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
合計2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
合計
ペレス643
(26.9%)
254
(10.6%)
897
(37.5%)
320
(48.4%)
341
(51.6%)
2.010.742.75
ゲレーロ1002
(39.9%)
243
(9.7%)
1245
(49.6%)
392
(56.7%)
299
(43.3%)
2.560.813.37
大谷1081
(41.7%)
258
(9.9%)
1339
(51.6%)
258
(41.7%)
361
(58.3%)
4.190.714.90
MLB278503
(39.2%)
75035
(10.6%)
353538
(49.8%)
83698
(46.2%)
97417
(53.8%)
3.330.774.10
引用元:ベースボール・サバント
※割合は小数点第2位を四捨五入
※投球数は小数点第3位を四捨五入

 ゲレーロ選手の1打席あたりのコール数は,2ストライク前(2.56)はMLB(3.33)より少なく,2ストライク後(0.81)はMLB(0.77)より多く,全カウント(3.37)はMLB(4.10)より少なくなっています.

仮説

 投球の中で審判がコールした投球が誤審の対象となるため,

  • 1打席のコール数が少ない打者は,誤審率が低くなる
  • 1打席の投球数が多い打者は,誤審率が高くなる
1打席の平均投球数と誤審率(ボールをストライクと判定) 2021
サルバドール・ペレス,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア,大谷翔平
1打席の平均コール数誤審率 %
2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
合計2ストラ
イク前
2ストラ
イク後
合計
ペレス2.010.742.7512.4435.7113.90
ゲレーロ2.560.813.3717.8319.3517.98
大谷4.190.714.9017.5621.6217.96
MLB3.330.774.1014.4820.6014.99
引用元:ベースボール・サバント
※コール数は小数点第2位を四捨五入
※誤審率は小数点第3位を四捨五入

検証

  • 大谷選手は2ストライク前のコール数(4.19)がMLB(3.33)よりも多く,2ストライク前の誤審率(17.56%)もMLB(14.48%)よりも高い
  • ペレス選手は2ストライク前のコール数(2.01)がMLB(3.33)よりも少なく,2ストライク前の誤審率(12.44%)もMLB(14.48%)より低い
  • ゲレーロ選手は2ストライク後のコール数(0.81)がMLB(0.77)よりも少し多い程度だが,2ストライク後の誤審率(19.35%)はMLB(20.60%)よりも少し低い
  • 大谷選手は2ストライク後のコール数(0.71)がMLB(0.77)よりも少し低いが,2ストライク後の誤審率(21.62%)はMLB(20.60%)よりも少し高い
  • ゲレーロ選手は2ストライク前のコール数(2.56)がMLB(3.33)よりも少ないが,2ストライク前の誤審率(17.83%)はMLB(14.48%)よりも高い

結論

 1打席の平均コール数と誤審率が関連しているとはいえない.

 投球数と誤審率は,打数と打率の関係と同じではないですが,似たところがあります.打数が極端に少ないと打率が.000,1.000になったりするように,投球数が極端に少ないと誤審率が0%,100%になる可能性があります. 

 誤審率についていえることは,

  • 誤審率の高いカウントの打席が多いと,全カウントの誤審率は高くなる
  • 誤審率の低いカウントの打席が多いと,全カウントの誤審率は低くなる

 です.打席割合によるということです.

 ただし,打者の個人差があるので,必ず上のようになるとはいえません.

誤審も野球のうちという考え方

 誤審問題が審判の立場からどのように受けとられているのかについて,山崎夏生氏の記事を掲載します.

日本のチームを応援したいけれど,非難する気持ちにならなかった,それも野球のうち

 国際大会の歴史にも、審判の存在が印象強い大会もあります。2006年のWBCのボブ・デービットソンさん。日本でも有名な審判です。

「世紀の大誤審」と言われた騒動は2次リーグ初戦の米国との一戦で起きました。3-3の8回1死満塁。岩村明憲選手の左飛で、三塁走者の西岡剛選手がタッチアップし、生還しました。しかし、米国代表・マルティネス監督が、離塁が早いと抗議し、判定が覆りました。

 審判の立場から言わせていただくと、日本のチームを応援したいけれど、非難する気持ちにならなかったです。それも野球のうちなんだと。もちろん、なぜ、あれが(離塁が)早く見えたのかな? という素朴な疑問はありましたが……。また、米国の監督が抗議に言っていますが、ジャッジは塁審が下すべきじゃなく、球審がやるべきところ。だけど、責任審判の名のもとに彼がひっくり返してしまった。本来は球審がやるべきジャッジを塁審がやってしまったからです。審判3人がアメリカ人で、1人がオーストラリア人だったこともシステム上、大きな問題だったと思っています。

 あの時、「しっかり見ろよ」とか、言わないのが侍ジャパン・王貞治監督らしかったです。私が後で聞いたのは、王さんの抗議は離塁ではなく、ベースボール発祥の地の審判が、それ(簡単に判定をひっくり返す)をやるのはおかしいんじゃないか、と。まだ審判の判定は絶対、という時代でしたから。では、そんな誤審を選手たちはどう捉えればいいのか。切り替えは難しいと思います。審判を変えることはできませんから。ストライクゾーンの問題も同じです。彼らは彼らのルールでやるので、事前のリサーチや準備で対応するしかありません。外のコースが広いなら、踏み込んで打つなど、そういう対応と戦略、心の準備が重要となります。 

引用元:https://full-count.jp/2019/09/14/post538142/

 引用文の中で山崎氏は,「審判の立場から言わせていただくと、日本のチームを応援したいけれど、非難する気持ちにならなかったです。それも野球のうちなんだと」と言われています.

 また,「ストライクゾーンの問題も同じです。彼らは彼らのルールでやるので、事前のリサーチや準備で対応するしかありません」とも言われています.

 人間がやる以上誤審はなくなることがないので,選手の方で対応するしかないということが書かれています.審判にも外のコースや低めのコースをストライクと判定する審判がいるので,誤審をクレームするよりも審判のクセに合わせて対応する方が賢いといえるかましれません.

日本は他の国の審判やチームからマナーが悪いと批判されている

これから国際大会に臨む各カテゴリーの選手たちに審判の立場から伝えたいことがあります。それはマナーです。日本は世界ランキング1位の国なのに、他の国の審判やチームからもマナーが悪い、と批判的なことを耳にしました。

 例えば、平気で一塁コーチが「セーフ」と手を横に広げる動き。よく見ますよね。当たり前のようにやっていますが、「日本には、なぜ一塁に審判がもうひとりいるんだ」と激怒していた審判もいました。日本特有のものなのですが、私も厳しく、NPBの監督会議で言ってきました。コーチたちの言い分は「思わず出ちゃう」ということでした。高校野球では厳しく注意しているのでなくなってきています。子供が守れているのですから、プロのコーチたちにも守ってほしいと思います。

 捕手のミットずらしも評判が悪いです。それは審判をだまそうとしている意思表示と捉えられます。いつまでも、ストライクを取ってもらえるように構えたままでいるのも審判への侮辱行為です。アメリカの審判はそういう仕草を捕手が見せたら、迷わず「ボール」と宣告します。なんでボール?と捕手が聞くと「お前がミットを動かしたから」と返しています。

キャッチング次第で審判の侮辱につながる 試合後の抗議もマナー違反
キャッチングとはしっかりと見せることだと思います。ヤクルトの古田敦也氏や横浜、中日で活躍した谷繁元信氏といった長くレギュラーだった捕手は上手でした。キャッチングが本当に丁寧でした。下手な捕手はミットを大きくずらす。ずらすことを教えるコーチもいるとも聞きます。

引用元:https://full-count.jp/2019/09/14/post538142/

 ここでは,日本が他の国の審判やチームからもマナーが悪いと批判されていることとして,

  1. 平気で一塁コーチが「セーフ」と手を横に広げる動き
  2. 捕手のミットずらし(フレーミング)

が挙げられています.

 1については,審判がいるのに判定をしていることが審判に対する侮辱行為になります.

 2については,審判をだまそうとしている意思表示と捉えられ,いつまでも、ストライクを取ってもらえるように構えたままでいるのは審判への侮辱行為とされます.古田敦也氏や谷繁元信氏のような上手い捕手はフレーミングはしていなかったそうです.

審判に対する敬意がない

 また、国際大会の試合後に、審判室へ文句を言いに行くという場面も見られますが、ゲームが終われば、ノーサイドです。ただの質問かもしれないですが、終わったことに対する質問はクレームと一緒です。そこで回答を得られて、ミスを認めさせて何になるのでしょうか。ゲームは戻りません。潔くない。国際大会で審判をする人たちはライセンスがあり、トップレベルです。代表として選ばれている人が、精いっぱいのジャッジをしています。ミスに映ることもあるかもしれませんが、文句を言うのは、彼らに対する敬意がありません。

 審判への敬意を持て、と、一方的に言っているのではありません。ジャッジする側も反省は必要ですし、技術向上のための努力を怠ってはいけません。審判よ、しっかりしろーという思いで見ているファンも多いと思いますから。

 ミスジャッジと思われるような場面があれば、試合後は審判団もミーティングをしています。下されたジャッジに疑問が生まれたら、試合中であるならば、他の3人の審判が協議する必要があります。1番いいのは、そういう方法を取って、その場で正しいジャッジに訂正するということだと思います。ゲームの責任は全審判員にあります。審判を「クルー」と呼ぶのは、船の乗組員を意味するからです。全員で安全な“航海”をしましょうという意味です。

 安全な航海はもちろんですが、審判の誤審や好ジャッジも球史を彩ってきました。何が起きるかはわからない。歴史の証人になるのも、野球を楽しむひとつだとも、思っています。

(山崎夏生 / Natsuo Yamazaki)
1955年7月2日、新潟県上越市生まれ。64歳。新潟・高田高、北海道大学で主に投手として硬式野球部でプレー。1979年に新聞社に入社も野球現場への夢を諦められずプロ野球審判員を目指す。1982年にパ・リーグ審判員に採用され、2010年まで審判員として活躍。その後はNPBの審判技術指導員として後進の育成。2018年に退職。現在はフリーで活動し、講演やアマチュアの審判員として現役復帰し、野球の魅力を伝えている。

引用元:https://full-count.jp/2019/09/14/post538142/

 山崎さんは,「誤審も野球のうちで,誤審はつきものという前提で試合に対応し,勝つための戦略を立てていく.野球とはそういうもので,誤審も野球の楽しみの一つになりえる」ということを言いたいのだと思います.

 山崎さんからすれば,「日本人はクレイマーの要素が強く,誤審を含め野球を楽しむ余裕に欠けている」という解釈になるようです.

 2008年からMLBにビデオ判定が導入されていますが,当然ながらストライク,ボールの判定はビデオ判定の対象となっていません.もしビデオ判定を要求したら,即退場になります.

審判の判定に対する大谷選手の態度は,侮辱行為ととられかねない

大谷選手への誤審 

※動画は引用元からも観ることができます.

試合日: 2021-07-10,球種:チェンジアップ,球速:82.7mph,コース:外角低めボール
引用元:ベースボール・サバント
試合日: 2021-04-25,球種:ナックルカーブ,球速:85.3mph,コース:外角低めボール
引用元:ベースボール・サバント

 どちらの動画もスタットキャストでは外角低めのボールと判定されているので,大谷選手が不服そうな態度になるのはわかりますが,山崎さんが「ストライクゾーンの問題も同じです。彼らは彼らのルールでやるので、事前のリサーチや準備で対応するしかありません」と言っているように,判定が覆ることはありません.

 大谷選手のように,不満を露骨に表情や態度で示すのは,逆に審判の反感を買うことになるため,得策とはいえません.

 2018~2021年のデータを見る限り,大谷選手の誤審率(ボールをストライクと判定)はMLB平均を少し上回る程度で,ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア選手に比べて誤審率はかなり低い数字になっています.

イチロー選手への誤審

審判に対する抗議が侮辱行為とみなされ,退場を宣告されるイチロー選手
試合日: 2009-09-26,球種:4シーム,球速:93.1mph,コース:外角低めボール
引用元:ベースボール・サバント(データ)

ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア選手への誤審

試合日: 2021-06-20,球種:スライダー,球速:88.9mph,コース:外角低めボール
引用元:ベースボール・サバント
試合日: 2021-06-09,球種:4シーム,球速:95.8mph,コース:内角低めボール
引用元:ベースボール・サバント

 大谷選手と本塁打のタイトルを競っているブラディミール・ゲレーロ・ジュニアの動画も,スタットキャストでボールと判定されているので,いわゆる誤審の動画となります.まだ,22歳と若くメジャー3年目の選手ですが,判定に対する不服があるにもかかわらず,大谷選手とは違い,極力,感情を抑えている様子が伺えます.

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