佐藤輝明選手の肉体改造

「マッチ棒」から97キロ

肉体改造「マッチ棒」から97キロ/佐藤輝明連載7

[2020年12月16日7時0分]

<佐藤輝ける成長の軌跡(7)>

4球団競合の末に、ドラフト1位で近大・佐藤輝明内野手(21)が阪神に入団した。日刊スポーツでは誕生から、プロ入りまでの歩みを「佐藤輝ける成長の軌跡」と題し、10回連載でお届けします。【取材・構成=奥田隼人】

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阪神ドラフト1位の近大・佐藤輝明内野手(21)は、仁川学院2年時にターニングポイントを迎えた。

高校入学時は170センチ、65キロ。細身の体形で、周囲から「マッチ棒」と呼ばれることもあった。1年時から大飛球を飛ばしていたが、ひと伸び足りない打球も多かった。2年の春。肉体改造に着手した。まずは部屋の「リフォーム」から始めた。父博信(53)が、息子と一緒に使おうとベンチプレスマシンを購入。置き場所は輝明の部屋だったが、予想以上にスペースを取った。

父博信 どうせ勉強せんやろ?

輝明 せんわ

母晶子 勉強どうすんの!?

ミニ家族会議を経て、置いてあった勉強机はクローゼットに押し込まれた。そしてベッドと並列して、部屋のど真ん中にマシンが置かれた。勉強場所はリビングで落ち着いた。ただ、ベンチプレスを上げるには正しいやり方など知識が必要だった。素人同然の輝明では、効果的なトレーニングの成果は得られなかった。

マシン購入から半年後の10月。声が掛かった。佐藤家の近所でうどん店「はづき」を営む高取君己(なおき、49)と息子真祥(まさき)が、輝明をジムに誘った。真祥と輝明は同じ野球部の同級生で、近所同士ということもあり仲が良かった。高取親子が通っていた兵庫・西宮市武庫川町にある小さなジムを体験で訪れた輝明は、トレーニングに励むマッチョたちに刺激を受けた。「オレ、やります」。当時182センチ、80キロまで成長しており、さらに体重100キロを目標にジム通いがスタートした。

ペースは月、水、金曜の週3日。高校は午後8時完全下校で、部活動の練習から帰宅すると軽食をとってジムに向かった。行き来は主にうどん店の営業を終えた君己が、息子と輝明を車に乗せて片道約20分の道のりを運んだ。トレーニングは午後9時ごろから約2時間。君己がジムの関係者と知り合いだったこともあり、熱が入った時は日をまたぐまで汗を流したこともあった。ジム終わりにはラーメンを3人で食べに行った。ジムに行かない日は、学んだトレーニング法を自室で取り組んだ。重さ最大145キロに設定できるマシンなどを上げて体を鍛えた。

努力は実を結ぶ。高校2年の終わりには体重が97キロまで到達。3月の対外試合解禁後は豪快なホームランを連発した。本人も「打球が変わった」と成果を実感。目に見えて効果が出たことで自信がつき、プロ入りという目標を明確に持つようになった。(敬称略、つづく)

引用元:https://www.nikkansports.com/baseball/news/202012150000006.html

引用元:https://www.nikkansports.com/baseball/photonews/photonews_nsInc_202012150000006-0.html

ベンチプレスで期待できる効果

 ベンチプレスでは,バーベルを挙げるときに上腕三頭筋を収縮して腕を伸ばします.インパクト後,打ち返す方向へ両腕を伸ばしてボールを押し込まなければならないので,ベンチプレスで上腕三頭筋の最大パワーを増大することができれば,ボールをより強く打つことができます.佐藤選手のベンチプレスの最高は130㎏くらいとのことです.
 しかし,インパクト後,両腕を伸ばしてバットを押し込む動作はパワーを発揮する動作にあたり,ベンチプレス130㎏を挙げるときのじわーっと力を発揮する筋力を発揮する動作とは異なるので,最大筋力を高めても直接的な効果はありません( 野球選手にボディビルダーの筋力は必要か-その3 ).
 

引用元:【2020年 #ドラフト候補​】近畿大学・#佐藤輝明​ 三塁手大学No.1スラッガーに密着!
https://www.youtube.com/watch?v=9JMmlMFbQIg&t=65s

 佐藤選手がどのような筋力トレーニングを行っていたのかはわかりませんが,動画を見ると,負荷の小さいベンチプレスのトレーニングも行っていたようです.負荷を最大筋力の30%に設定して最大パワーを高めるトレーニングを行っていたとすれば,ボールを遠くに飛ばすという点で効果があったと思われます.
 ただ,佐藤選手のバーベルを握る位置が両側に少し離れているので,上腕三頭筋よりも大胸筋,三角筋に負荷がかかるトレーニングになっています.これでは上腕三頭筋の最大パワーを100%高めているとはいえないので,飛距離を伸ばすのにどのくらい効果があったかについては微妙なところです.

打球が飛ぶようになった原因は?

 引用文を読んだ人の中には,「佐藤選手は筋力トレーニングをしたおかげで飛距離が伸びたのだから,自分も高校生のうちからベンチプレスをしなければならない」と思われた方がいるかもしれません.しかし,単純に筋力トレーニングのおかげと考えるのは早計です.
 高校入学時(肉体改造前)と高校2年の終わりとで体格を比較すると,身長が170センチから182センチ(高校2年の10月)に伸び,体重が65キロから97キロへと32キロ増加しています.

①身長 170㎝ → 182㎝(高校2年の終わりの身長は確認できず)

  • 身長が伸びると腕も長くなるので,他の選手と同じ移動角,角速度で投げた場合でも,他の選手よりも末端の速度を大きくすることができる.
  • スイングに伴う回転運動の速度を大きくできるため,スイングスピードを加速することが可能.
  • 腕が長くなれば筋も長くなるため,収縮の最大速度は増加する.

    ※詳しくは 大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす-その2 をご覧ください.

②体重 65㎏ → 97㎏ 32㎏増加

  • 運動連鎖を利用するためには,最初に大きな運動エネルギーを発生させることが重要で,大元の運動エネルギー(一次エネルギー)はステップに伴う前方移動により生み出される.
  • 運動エネルギーは1/2×m(質量)×v(速度) の二乗で表されるので, m(質量) が大きいほうが値が大きくなる.

    ※詳しくは 大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす をご覧ください.

 

飛距離が伸びた最大の要因は体格の向上

飛距離が伸びた原因として考えられること

  1. ベンチプレスによる最大筋力を高めるトレーニング(最大筋力100%発揮)
  2. ベンチプレスによる最大パワーを高めるトレーニング(最大筋力の30%に負荷を設定)
  3. 身長が伸びたことによる回転運動の末端速度の増大
  4. 発育による上腕三頭筋の最大速度の増大(パワー=力×速度)
  5. 体重が増加したことによる運動エネルギーの増大

 1は直接的な効果がなく,2は詳しいトレーニング内容がわからないため,何ともいえません( 野球選手にボディビルダーの筋力は必要か-その3 ).
 最大の要因として考えられるのは,3,4,5の発育による体格の向上です(大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす),(大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす-その2).
 佐藤選手は高校入学時は170センチ、65キロの細身の体形で、周囲から「マッチ棒」と呼ばれることもあったそうですが,1年時から大飛球を飛ばしていたとのこと.筋力トレーニングによる筋量の増大も体重増加の一因となっているかもしれませんが,体格が大きく向上したことでさらに飛距離が伸びたと考えるのが適当です.
 高校から筋力トレーニングを始めた場合でも,皆が佐藤選手のように大きく体格が向上するわけではないので,短絡的に筋力トレーニングすればパフォーマンスが向上すると考えるのは注意が必要です.個人的には,筋力トレーニングを行う前に合理的な動作を身につけるための動作の改善に取り組むことも重要であると考えます.