無負荷で空振りする0%群で,最大速度が最も増加したのはなぜか?

なぜ0%群で最大速度の増加幅が最大になるのか

 野球選手にボディビルダーの筋力は必要か-その3 によると,負荷強度を「100%群,60%群,30%群,0%群(最大筋力に対する負荷の割合)」に設定して,肘屈筋を対象に,最大努力の筋収縮を1日10回,週3日,12週間行った結果,トレーニング前とトレーニング後での増加幅は,最大筋力(100%群,60%群,30%群,0%),最大速度(0%群,30%群,60%群,100%群),最大パワー(30%群,100%群,60%群,0%群)の順となっていることがわかります.これは,最大パワーを高めるためには最大パワーを発揮するトレーニング(最大筋力の30%負荷)が最も効果的であり,同様に最大筋力を高めるためには最大筋力の発揮によって,最大速度は最大速度の発揮によって効果を高めうる,という特異性の原則を示唆しています.
 「ある種の運動能力を高めるにはそれと同類の運動でトレーニングするとよい」という特異性の原則に従えば,145グラムのボールを投げることは負荷強度の低い運動にあたります.負荷強度を低く設定したトレーニングが腕の振りを速くするのに効果的であることは想像がつきますが,なぜ,無負荷で空振りする0%群で最大速度の増加幅が最大になるのか不思議に思う方も多いはずです.

筋は骨をまたいで付着している

引用元:小田伸午(2003):運動科学 アスリートのサイエンス,丸善,p.71

引用元:小田伸午(2003):運動科学 アスリートのサイエンス,丸善,p.72

 図4-2のように,上腕二頭筋が関節をまたいで橈骨に付着しているので,上腕二頭筋が収縮すると,前腕が引っ張られて肘が曲がります.図4-3のように,関節をまたがず上腕骨に付着しても前腕を引っ張ることはできないため,肘は曲がりません.

引用元:小田伸午(2003):運動科学 アスリートのサイエンス,丸善,p.72

引用元:小田伸午(2003):運動科学 アスリートのサイエンス,丸善,p.73

空振りは無負荷ではない

 引用した図からわかるように,無負荷で肘屈曲を行ったとしても,上腕二頭筋は前腕を引っ張っているので,前腕の重さを負荷として肘を曲げていることになります.つまり,無負荷ではありません.ですから,無負荷で空振りする0%群のトレーニングは,負荷強度の低い(無負荷ではない)トレーニングに該当し,特異性の原則どおり最大速度の増加幅が最大になっても不思議はありません.
 昔は背が高い選手は動作が遅く大成しないと言われていたようですが,体重のある大柄な選手は動くさいに,関節をまたいで自身の重い部位を筋が収縮して引っ張ることになるので,過度の負荷がかかり動作が鈍くなります.筋力に個人差はありますが,背が高い選手でも痩せている場合は,それほど動作は遅くならないと考えられます.