成功体験でしか人は語れない
ダルビッシュ トレーニング方法への苦言「無視で大丈夫」と語る理由…「人は成功体験でしか語れない」
カブスからパドレスに移籍したダルビッシュ有投手(34)が1月31日放送のTBS「林先生の初耳学」(後10・15)にリモート出演。予備校講師でタレントの林修氏(55)から「偉大なOBがいろいろ言いますよね、日本野球について?」と尋ねられ、持論を語った。
引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/7241e804daf3c0493ff663692f330724093a6bc6
林氏のインタビューに答える形で番組は進行した。ダルビッシュは20歳のころにボディビル雑誌を読んでいたエピソードを披露。「最初の方はなんでそんなの読んでいるの?ってみんなに思われていたけれど、それが今じゃ普通になってきているというか」と、トレーニング方法も変化していると説明した。
「ボディビルについても僕ちらっと聞いただけなんですけど『野球の筋肉と違うから無駄だ』っていう、いわゆる昔偉かった偉大なOBがいろいろいいますよね、日本野球について」と林氏。これにダルビッシュは、「その人達(新しい)トレーニングをやって、プレーを経験した経験がないので、その発言全く説得力がないので無視で大丈夫だと思います」とバッサリ。「だって、やっていないのに分かるわけがないじゃないですか」と続けた。
ダルビッシュはバニラアイスを引き合いに出し、「食べたことない人が味なんて分からないし、それがどういうことかって説明すらできなじゃない」と指摘し、「でもそういう人たちがやっているのって、そういうことなので全く説得力がない」とした。
「成功体験でしか人は語れないし、その人達の成功体験は走り込みだけなので。いろいろなことをやっていないので」とコメントしたダルビッシュ。「投げ込み、走り込み、うさぎ跳びとかそういうことしかやっていないから、そこしか多分語れないんですよ。そこを多分、自分たちが否定することができない。否定してしまうと、過去の自分の人生とかも無駄なことをやっていたってなっちゃので」と私見を述べた。
スタジオには「結構ズバッと言いますね」と驚きの声が響いた。ダルビッシュはOBらの声に関して「悪気はないと思う」と付け加え、「OBの人たちが勉強をしてくれればいいんですけど、それはしないので。自分がちゃんと勉強して、自分が信じるものをやればそれでいいと思います」と語り、話題を締めくくった。
負荷の異なる4種トレーニングの効果
金子公宥著のパワーアップの科学(1988) から,パワーを高めるためのトレーニングについて記載されている部分pp.153-157を引用します.
実験方法
- ”最大パワーをより効果的に高めるには” に焦点を当てる.
- 肘屈筋を対象に,最大努力の筋収縮を1日10回,週3日,12週間行った.
トレーニング群の構成
- 最大筋力(=100%) そのものを発揮する100%群
- 最大筋力の60%の負荷を用いる60%群
- 最大筋力の30%の負荷を用いる30%群
- 無負荷で空振りする0%群
※いずれも全力発揮のトレーニング
実験結果を力,速度,パワー関係の変化で示したものが図151になります.

実験結果・力-速度関係(凹曲線)
- 100%群(最大筋力群)では,最大速度(縦軸との交点)がほとんど変化せず,最大筋力(横軸との交点)が増えている.
- 空振りを繰り返した0%群で,最大筋力は伸びずに最大速度が増えている.
- 力を速度を兼ね合わせたトレーニング群が60%群と30%群であるが,いずれも全般的な伸びを示し,曲線が右上方へ平行して移動している.
実験結果・力-パワー関係(凸曲線)
- どの群のパワーも多かれ少なかれ増加しているが,30%群の増加が最も著しい.
- 図151をわかりやすくするために,その模式化を図るとともに,最大筋力,最大速度,最大パワーにみられた増加量(+⊿)を図152に取り出して示した.

図152からいえること
- 最大筋力が最も増加した群は100%群で,以下60%群,30%群,0%群の順である.
- 最大速度が最も増加した群は0%群で,以下30%群,60%群,100%群の順である.
- 最大パワーが最も増加した群は30%群で,以下100%群,60%群,0%群の順である.
- どの群でも多かれ少なかれ,最大筋力,最大速度,最大パワーが増加している.
ターゲットの最大パワーを最も効果的に高める負荷は,“最大筋力の30%負荷”という答えが出た.最大筋力の30%負荷とは,最大パワーの出現する負荷でもある.すなわち,最大パワーを高めるためには最大パワーを発揮するトレーニングが最も効果的であり,同様に最大筋力を高めるためには最大筋力の発揮によって,最大速度は最大速度の発揮によって効果を高めうる,ということである.答えを知ってしまえばそれまでの “コロンブスの卵” 的結果であるが,パワートレーニングの基礎がここにあるといっても過言ではない.
引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,pp.155-156
4種の負荷トレーニングのすべてで体力要素が向上する
図152をまとめたものが下図になります.
図152の増加幅に順位をつけたもの | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
最大筋力 | 最大速度 | 最大パワー | ||||
負荷強度 | 増減 | 順位 | 増減 | 順位 | 増減 | 順位 |
100%群 | + | 1 | + | 4 | + | 2 |
60%群 | + | 2 | + | 3 | + | 3 |
30%群 | + | 3 | + | 2 | + | 1 |
0%群 | + | 4 | + | 1 | + | 4 |
※どの負荷強度でも効果がマイナスになることはない. ※最大筋力を高めるためには最大筋力を発揮する100%群のレーニングが最も効果的である. ※最大速度を高めるためには最大速度を発揮する0%群のレーニングが最も効果的である. ※最大パワーを高めるためには最大パワーを発揮する30%群のレーニングが最も効果的である. ※ ”ある種の運動能力を高めるためにはそれと同類の運動でトレーニングするとよい” という”特異性の原則” と一致する. |
図152から負荷強度が異なる場合でも,最大筋力,最大速度,最大パワーが増加していることがわかります.つまり,負荷を最大にしても,負荷をなくして空振りしても,多かれ少なかれ体力要素は向上します.ダルビッシュ投手のトレーニングの詳細はわかりませんが,最大筋力を高める目的でボディビルの負荷の大きなトレーニングをおこなった場合でも,最大速度は増加するので,スピードの向上も可能になるといえます.
ただし,腕の振りの最大速度を高めたいのなら,負荷を小さくしたほうが増加幅が大きくなるので,わざわざ増加幅が最小となる100%群(最大筋力群)でトレーニングするのは効率的ではありません.筋が肥大化することで,関節の可動域が狭まり,結果としてスピードが落ちる場合も考えられます.
100%群(最大筋力群)で最大筋力の増加幅が最大になり,0%群で最大速度の増加幅が最大になり,30%群で最大パワーの増加幅が最大になることは, 野球選手にボディビルダーの筋力は必要か で述べた ”特異性の原則” と一致します.野球の投球動作,打撃動作のなかには,重量挙げのように大きな力をじわーっと発揮する力ゾーンの動作は含まれていないので,ボディビルのトレーニングは必要ないと思われますが,ダルビッシュ投手にはボディビルのトレーニングでパフォーマンスが向上しているとの認識があるようです.