野球選手の50m走タイムの信憑性-桐生祥秀選手の50m走タイムは?

盗塁王の50m走タイム

セントラル・リーグ 2010-2020 盗塁王 50m走タイム
年度選手50m走タイム
2010梵 英心
2011藤村 大介5.8
2012大島 洋平6.0
2013丸 佳浩6.1
2014梶谷 隆幸5.7
2015山田 哲人5.67
2016山田 哲人5.67
2017田中 広輔
2018山田 哲人5.67
2019近本 光司5.8
2020近本 光司5.8
引用元:ウィキペディア
*確認できず

パシフィック・リーグ 2010-2020 盗塁王 50m走タイム
年度選手50m走タイム
2010片岡 易之5.8
2011本多 雄一5.9
2012聖澤 諒6.0
2013陽 岱鋼5.9
2014西川 遥輝5.8
2015中島 卓也
2016糸井 嘉男5.76
2017西川 遥輝5.8
2018西川 遥輝5.8
2019金子 侑司5.7
2020周東 佑京5.7
引用元:ウィキペディア
*確認できず

 最近11年間のセパ両リーグの盗塁王の50m走のタイムは,ほとんどが5秒台で,最も遅いタイムで6.1(丸 佳浩)となっています.盗塁王を獲得する選手は球界屈指の走力をもっていることがわかります.

甲子園球児の「50m走」タイムが日本記録超え続出という問題

(初出・文春オンライン 2018年8月16日)

夏の甲子園が佳境を迎えている。
 今年で100回目を数える夏の風物詩は、酷暑の中で連日好ゲームを見せてくれている。プロ注目の選手たちをはじめとした高校球児の一生懸命な姿は、見ているこちらの気持ちも熱くさせてくれる。

 その一方で、毎年この時期、高校野球で報じられる“ある数字”を見て心を痛めている人たちもいる。

 それが全国の陸上競技関係者の面々だ。

ほぼありえない眉唾ものの記録

「50m5秒7の俊足」

「俊足巧打の1番打者で、50mは5秒8――」

 甲子園の結果を報じる新聞やテレビのニュースでは、今年もこんな言葉が躍っている。

 野球における選手の走力の高さを示すのに、読者が身近にイメージしやすい50mの記録というのはわかりやすい指標なのだろう。誰もが学生時代に体力テストで測定経験があるし、記録のインパクトも伝わりやすい。

 だが、実はこれらのタイム、ちょっと眉唾ものの記録なのだ。

 50m走の日本記録は、100mでも日本歴代4位となる10秒02の記録がある朝原宣治が持つ5秒75。世界記録保持者のウサイン・ボルトでさえ5秒47だ。つまり、毎年甲子園には日本記録を上回る選手が何人も出場しているということになる。

「野球選手がみんな申告通りのタイムを競技場で出せたら、100mで日本人が9秒台を出すのにこんなに時間がかかっていませんよ(笑)。俊足のひとつの基準なんだろうけど、陸上選手と比べるなら測定の方法や気象条件くらいはしっかり書いてほしいよねぇ」

 そんなぼやきをこぼす陸上関係者が多いように、結論から言えばこれらの記録は陸上競技で採用される正式な測定方法では、ほぼありえないと言っていい。

野球の場合はストップウオッチによる手動測定

 では、なぜこんな記録が出るのか。

 その理由は測定方法の違いが大きく関係しているという。スポーツ紙の記者が語る。

「陸上競技の場合、基本的に記録は電気計時による測定になります。スタートの合図と同時に電気信号が流れて、計測が始まる。当然、人間の反応速度を上回るような速さでスタートすれば“フライング”ということにされる。

 一方で、野球の場合はストップウオッチを持った人間による手動測定。しかも1歩目が地面についた瞬間から測定をスタートする方法で測定することが多い。さらに自分のタイミングで自由にスタートを切れるため、精神的にも非常に走りやすいんです」

https://number.bunshun.jp/articles/-/845017

 引用文によると,野球選手の走力の指標となる50m走の記録が問題となっているようです.

  • 野球選手の50m走タイムは,陸上競技で採用される正式な測定方法ではありえない眉唾ものの記録であり,陸上競技関係者は心を痛めている.
  • 50m走の日本記録は,朝原宣治(100m:日本歴代4位10秒02)の5秒75.
  • 50m走の世界記録は,ウサイン・ボルトの5秒47.

手動の方が記録が速くなるのは“常識”

 一般的に、陸上競技で記録を示すときには、手動計測の場合、100m走では測定記録に0.24秒がプラスされる。手動の方が記録が速くなる誤差は“常識”とされている上、クラウチングスタート姿勢で完全静止を求められる陸上競技と重心移動をさせやすいスタンディングスタートが許される野球の測定の違いも考えると、高校球児の申告する50mの記録は0.3~0.5秒程度は速くなっていると考えるのが自然だ。

 参考までに、プロ野球で1997年にシーズン62盗塁を記録し、ぶっちぎりの盗塁王を獲得した松井稼頭央(現・西武ライオンズ)ですら、当時のテレビ番組の電動計測の50mでは、6秒06かかっている。

 高校野球の50mの記録は、主催の朝日新聞からのアンケートに記入することもあり、申告は基本的に選手個人の裁量になる。なかなか普通の高校球児が電動計測で50mの記録を測る機会などはないと思うし、選手達が自己記録としてこういったタイムを申告するのは仕方のないことだと思う。

 一方で、そんな当たり前のことをあえて無視してそのまま報じてしまうメディアの姿勢には、疑問が残る。

 陸上競技の経験のない読者や視聴者は、測定方法次第でどれほどの差が出るのかを知らない人の方が多いだろうし、そういった人たちが数字だけを見た時に「球児が陸上競技をやったほうが速いんだ」と考えてしまうことが起こりうるからだ。

桐生祥秀はタイムを0.03秒縮めるのに4年の月日を要した

 例えば100mの現日本記録保持者である桐生祥秀(日本生命)が、高校時代に出した10秒01の自己記録をたった0.03秒縮めるのに4年の月日を要したように、陸上競技における「記録」は非常に重い意味を持つ。

 その記録との比較が起こりうる以上、数字を示すメディア側はある程度の正確性を担保すべきではないか。測定方法が手動なのか、電動なのか。それとも単なる自己申告に過ぎないのか。少なくともその程度の情報は明記する必要があるように思う。

 単に「速そうに見えるから」という理由で俊足選手のアイコンに50mの記録を使うのは、0.01秒を競う世界で戦う陸上選手たちに対してあまりにも失礼なことではないだろうか。

 ちなみに現在、50m走は陸上競技の正式種目ではないため、そもそも電動測定で記録を測る機会がほとんどない。前述の朝原やボルトの記録も、他競技の通過タイムである。そういう意味では、野球の競技人口を考えると、ひょっとするとどこかに凄まじいポテンシャルを秘めた選手もいるのかもしれない。俊足を武器にする球児たちは、50mを本当はどの程度の記録で走れるのか――それはそれで、一度ぜひ見てみたい気がする。

 近年では阪神タイガースが陸上競技の元日本代表選手の指導を仰ぐなど、野球の走塁に陸上競技の専門家の意見を取り入れる動きも活発化してきている。実際に効果をあげているという話も耳にするので、高校野球にもこういった取り組みが広がれば、50mタイムも現実的なもの近づいていくのかもしれない。

引用元:https://number.bunshun.jp/articles/-/845017?page=2

 引用文では,測定方法に誤差があることが述べられています.

  • 手動計測の場合,100m走では測定記録に0.24秒がプラスされる.手動の方が記録が速くなる誤差は“常識”とされている.
  • クラウチングスタートよりも,重心移動をさせやすいスタンディングスタートが許される野球の測定の方がタイムが速くなる.
  • 高校球児の申告する50mの記録は,0.3~0.5秒程度は速くなっている.
  • 松井稼頭央ですら,当時のテレビ番組の電動計測の50mでは,6秒06かかっている.
  • 俊足選手のアイコンに50mの記録を使うのは、0.01秒を競う世界で戦う陸上選手たちに対してあまりにも失礼である.

 引用文には,反発力を活かせる陸上競技の専用トラックと土のグラウンドでのタイムの違い,スパイクと運動靴でのタイムの違い,短距離専用のユニフォームの空気抵抗がタイムにどれだけ影響するかといったことについては,述べられていませんが,野球選手が申告する50m走タイムは,0.3~0.5秒程度速くなっているとのことです.

桐生祥秀選手の50m走のタイムは?

【日本記録に挑戦!】50m走のタイムを計ってみた!<キャップ販売告知あり>
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=73Y4C2567Do

 まず,先の引用文では,50m走の世界記録は,ウサイン・ボルトの5秒47とありましたが,この動画では,世界記録は,5秒56(ドノバン・べーリー&モーリス・グリーン)と記載があります.
 桐生選手のタイムは,スタンディングスタートが5秒90,クラウチングスタート(スターティングブロック使用)が5秒83となっています.手動で0.3~0.5秒程度速くなるとすれば,タイムは5秒33~5秒53になります.桐生選手はクラウチングスタートの方が記録が速くなっていますが,スターティングブロックを使いこなせていない一般人の場合は,スタンディングスタートの方が速くなります.

表6 クラウチング・スタートとスタンディング・スタートによる
タイムの平均値,最大値,最小値,標準偏差(人数=153名)
スタート方法スタンディング・スタートクラウチング・スタート
平均値7.87秒8.01秒
最大値9.60秒9.90秒
最小値6.56秒6.70秒
標準偏差0.810秒0.858秒
引用元:陸上運動における学生の動きに対する認識のズレ(1)
ー短距離走の実践についてー:筒井清次郎, 
愛知教育大学教科教育センター研究報告 第12号,
pp.323-327(March,1988)

  

 「陸上運動における学生の動きに対する認識のズレ(1)ー短距離走の実践についてー」:筒井清次郎,1988 によると,クラウチングスタートの利点は次のようになっています.

  • スタンディング・スタートに比べて,重心がキック足より前方にあり,加速がつけやすい.
  • 身体が低く,風圧を受けにくい.
  • 四点で支持するため,スタンディング・スタートより安定し,フライングしにくい.
  • スタンディング・スタートは主に下にけるのに対して,クラウチング・スタートは後方にけることである.

 論文では,「力学的にみて,本来ならば,クラウチング・スタートの方が速いはずなのに,クラウチング・スタートの方が遅い者が多かったのは,クラウチング・スタートを正しく理解していなかったためと考えられる」と述べられており,クラウチング・スタートの技術を身につけていない場合は,スタンディング・スタートの方が記録が速くなります.

 野球選手の50m走タイムは,信憑性にクエスチョンマークが付きますが,走力を把握するための指標であることに変わりはありません.