ソフトバンクが強い理由-日本シリーズ4連覇

フィジカルの強さと技術の向上は別物

2020年12月22日 投稿

 日本シリーズ4連覇を達成したソフトバンクについて,なぜ強いのかということが話題になっています.

ダルビッシュ有投手のYouTube動画「ソフトバンクの強さやセ・パの大きな違い」

高木豊氏の YouTube動画 「【多村仁志さん登場】本当にソフトバンクが強いの!?多村さんが感じたセリーグとの差について語ります!!」

 ダルビッシュ投手と多村氏ともに,フィジカルの部分を挙げています.多村氏がすごかったというくらい,選手はウエイトトレーニングをおこなっていたようです.ウエイトトレーニング 室にはあらゆる種類のサプリメントが並び,2005年当時からみんなパーソナルトレーナーを自腹で雇って専門的なトレーニングをしていたとのこと.また,キャンプ中の食事も外食に行かなくてもよいくらい豪華で,体づくりをするための環境が整っていたことがソフトバンクの強さの一因として挙げられています.

 この動画を観た方は,野球が上手くなるためにはウエイトトレーニングが必要だから,ボディービルダーのような体をつくらなければならないと思われた方も多いと思います.しかし,体作りと技術の向上は別物です.

 野球選手にボディビルダーの筋力は必要か で述べたように,特異性の原則に則ったウエイトトレーニングであれば,投手の腕の振りのスピード,打者のスイングスピードの増大が期待できますが,ダルビッシュ投手に「体を大きくする」ということばが出ていることから,ボディービルダーよりのトレーニングであったことが推測できます.
 もちろん,ボディービルダーのトレーニングでも効果は出ますが,特異性の原則に則ったウエイトトレーニングに比べるとその効果は小さいものになります.ですから,体をつくることは大事なことですが,ソフトバンクの選手がウエイトトレーニングに力を入れていたことが強さの根本的な理由になることは考えにくいということです.副次的なプラス面として位置づけするのが適当です.
 練習量がものすごかったという話も出ているので,むしろ特異性の原則に則った投げ込みや打ち込みをおこなうことで,投手のスピード,スイングスピードが増大したと考えることもできます.

合理的な動作ができている選手がどれだけいるか

 たとえば,成績が低迷している打者がいるとします.この選手がソフトバンクを見習ってウエイトトレーニングに励み,栄養も十分に摂って大きな体を作ることに成功したら,パフォーマンスは向上するでしょうか.答えはNoです.なぜなら成績が低迷している原因は打撃動作にあるので,いくら体づくりをしたところで打撃動作を改善しない限り,パフォーマンスは向上しないからです.ソフトバンクは育成出身で活躍している選手が多くいますが,ウエイトトレーニングをしたから活躍しているわけではなく,動作なかに技術向上の裏付けがあるはずです.
 つまり,チームの強さは投手,野手に合理的な動作ができている選手がどれだけいるかということにかかわってきます.ソフトバンクには柳田選手のようにパフォーマンスが高い選手もいますが,「科学する野球」でも指摘されているように,残念ながら日本人選手よりも 外国人選手のほうが動作では上を行っています.日本シリーズも含めソフトバンクほど投打ともに外国人選手が成績を残しているチームは他にないのではないかと思います.

日本シリーズ4連覇での外国人選手の成績

2021年1月16日 投稿

日本シリーズ4連覇での外国人選手の成績

2017-2020 日本シリーズ 投手成績 外国人選手
年度チーム打者安打打点
2020ソフトバンク3600
巨人4073
2019ソフトバンク3474
巨人3041
2018ソフトバンク77209
巨人94115
2017ソフトバンク5785
巨人58114
合計ソフトバンク2043518
巨人2223313
引用元:https://npb.jp

  ソフトバンクの投手の成績については,2020年は0安打に抑えていますが,他の年度は相手チームのほうが失点が少なくなっています.各年度の対戦打者数はそれほど離れていないので,2017~2019年についてはソフトバンクの外国人投手が特に優れているとはいえません.

2017-2020 日本シリーズ 打者成績 外国人選手
年度チーム打数安打打率得点
2020ソフトバンク277.2599
巨人132.1543
2019ソフトバンク289.3219
巨人124.3330
2018ソフトバンク329.2817
巨人92.2220
2017ソフトバンク235.2174
巨人247.2923
合計ソフトバンク11030.27329
巨人5815.2596
引用元:https://npb.jp
※投手を除く

 一方,外国人選手の打撃成績ではソフトバンクのほうが頭一つ抜けています.打数の違いは外国人選手の人数が異なるためです.相手チームの外国人選手は各年度1人(2020ウィーラー,2019ゲレーロ,2018バティスタ,2017ロペス)で,ソフトバンクは2017年はデスパイネのみ,2018~2020年はデスパイネとグラシアルの2人となっています.

 外国人選手の人数の違いはありますが,打点がソフトバンク29点に対し,巨人6点とかなり開きがあります.

日本シリーズ4連覇 ソフトバンク 打点内訳
選手2017201820192020合計
デスパイネ463619
柳田悠岐443314
中村晃431412
グラシアル16310
松田宣浩1135
甲斐拓也134
長谷川勇也2114
栗原陵矢44
今宮健太213
内川聖一33
髙谷裕亮213
福田秀平33
川島慶三22
上林誠知22
牧原大成22
明石健志11
西田哲朗11
合計2522222392
引用元:https://npb.jp

 表をみると,デスパイネとグラシアルの打点が突出していることがわかります.チームの強さは「科学する野球」でいうところの合理的な動作ができている選手がどれだけいるかにかかわってきます.デスパイネ,グラシアル両選手ともMLBの経験はありませんが,MLBで通用しなかった外国人選手でもNPBの選手よりも合理的な動作を身につけていることが一般的です.この2人の外国人選手がソフトバンクの強さに貢献していることは間違いありません.

スカウティングの能力の高さが強さの秘密

 日本シリーズ4連覇を果たしたソフトバンクは,千賀、甲斐、牧原、石川、周東といった育成出身の選手が日本一の原動力となったこともあり,その強さの秘密について論じられることが多くなっています.
 ダルビッシュ投手と多村氏が指摘するフィジカルの強さは,いくら体づくりがおこなわれても,合理的な動作を身につけなければ技術は向上しないので,筋力トレーニングと栄養管理のみで強くなるということはまず考えられません.また,選手の育成についても,約60億円を投じた施設を完成させ,3軍制を敷くなど球団独自のシステムを構築しているようですが,どんなにすばらしい環境を整えても,合理的な動作を身につけなければ技術は向上しないという点は同じです.
 そうなると,詰まるところ,活躍できる外国人選手を見極める能力,磨けば光る原石を見極める能力という点に帰着します.スカウティング能力の差が球団格差を生んでいると考えられます.

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