「科学する野球」とは,村上豊氏によって書かれた野球技術書です.氏が大リーガーのプレーからその合理性を追求すること30余年,その多年の研究成果は,投手篇 (1984),打撃篇(1985) ,守備・走塁・練習篇(1985),実践篇(1986) ,実技編(1987) ,ドリル篇(1989) ,トレーニング篇 上(1993),トレーニング篇 下(1994)にまとめられています.
野球界に横行しているウソの常識では,選手はとまどってしまいます.指導者は自分の経験だけを押しつけるのではなく,もっと科学的に技術を分析し,理屈に合った技術指導が必要です.いままで野球技術の常識のウソが解明されてきましたが,本書はその集大成といえるものです.「野球は運動であるから物理に支配されている.この物理の尺度に照らし合わせれば,技術指導のウソが見抜ける」―これが,この本のテーマです.
引用元:科学する野球・投手篇
今まで常識とされていた野球理論の中には,数多くの”ウソ”がひそんでいます.指導者もプレーヤーも,この”ウソ”を見抜かないと技術の向上は考えられません.本書は 「野球は運動であるから物理に支配されている.この物理の尺度に照らし合わせれば,技術指導のウソが明らかになる」をテーマに,打撃理論の常識の”ウソ”を徹底解明しました.
引用元:科学する野球・打撃篇
医者が間違った診断,治療をしたら完治するものも,治らないように,野球理論も間違った技術論,ウソの野球論を指導したり,身につけていたのでは,いつまでたっても技術の向上は望めません.ところが残念なことに,現在の野球界にはウソの野球技術論が横行しているから困ったものです.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇
本書は,数多い野球技術論のウソを,科学的に徹底解明しました.きっと的確で,正しいアドレスが得られるはずです.
野球で必要とする力を生むのはフォームではなく,合理的な身体動作です.しかし,日本の野球界は,合理的身体動作,野球動作より,従来から継承された野球技術を,なんの疑いもなくそのまま受け入れています.そのために,現代にはまったくマッチしない理論が幅をきかせ,科学的にみて,どうしても理屈に合わないことなどを平気で見過ごしているのです.本書はこうした従来の因習を打破し,合理的,科学的に野球技術をとらえた画期的な指導書です.
引用元:科学する野球・実践篇
アメリカ大リーグと日本のプロ野球の差は,”技量の差というより体格の差だ”と決めつける風潮がありますが,果たしてそうなのでしょうか―.否です.アメリカ大リーグの多くの選手は,合理的な動作を身につけていますが,日本選手の多くは,合理的に体を使ってはいません.本書では,そうした動作の違いを,実際のプレーに照らし合わせて解説した指導書です.今後は従来の因習を打破して合理的,科学的な動作を身につけてください.
引用元:科学する野球・実技篇
従来の野球指導書は,ともすると自分の知識や経験だけに基づいて少年たちを教える嫌いがありました.しかし,運動の法則に反した非合理的な練習は実りのない努力といえましょう.
引用元:科学する野球・ドリル篇
著者は科学に根ざした練習こそが野球上達の早道だとして,大リーガーのプレーからその合理性を追求すること30余年,その多年の研究成果をまとめて,目から直感的に合理的な動作を学習できるようにしたのが本書です.野球を志す多くの人々の坐右の書として,ご利用をおすすめします.
上記の引用はカバーに記載されている文章です.「科学する野球」は画期的な野球技術書でしたが,古い野球をほぼ全否定する内容であったため,当時の指導者の反発を買い,受け入れられなかった側面があることも否定できません.
監督,コーチの問題点
村上氏は監督,コーチに対しても苦言を呈しています.
コーチになるような方は,その殆どが現役時代に立派な成績を上げている方ですから,自分の体験を通して,いうことに自信を持っています.
ところが,名選手として実績を残した方が,その現役時代に,なぜ自分が上手くプレーできたのかを物理的に解明して把握していないと,コーチになって指導する時,その実績をかさに着るだけで,理に反したことを言っているのにもかかわらず,その間違いに気付かず,さもよいことを言って指導していると自己陶酔し勝ちになるので戒めてほしいものです.名選手かなずしも名監督ならず,名コーチならずとも言われているのは,そのへんの事情を物語っていると思います.
また,日本の野球界は,球界の実力者の言うことに弱い体質を持っており,たとえば “打撃の神様” のご託宣には,それがかなり物理に反していても,心酔者は一も二もなく有り難く承り,あるいは,プロ野球のOBのだれそれがこういっていたのだからこれは正しいのだ,と盲信してしまう方が多いのですから,球界の指導者はその発言に注意してほしいものです.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇
全く情けないことと思いますが日本の野球界は権威者と思われている人の発言に弱く,その中身を検討することもなく盲信してしまう傾向があります.ですから,権威者と自他共に認められている方は,単なる思い付きから不用意な発言をしないようにしてほしいものです.そういった不用意な発言の内容が誤っているにもかかわらず,その誤りが気付かれないまま,常識として野球界に定着してしまうと,日本の野球はスポイルされてしまうからです.
事実,このような,本当はウソの常識が野球界ではまかり通っており,プロ野球のコーチたちもこれらの常識を基にし,コーチ自身の体験や考え方を加味して選手たちを指導しています.ですから,プロ野球選手の動作の中には,これらの常識のウソの虜になっている動作がずいぶん見受けられます.こんなことでは選手たちの野球技術はなかなかに向上するものではありません.しかも,コーチが変わるたびに言うことが違うのでは,選手たちは行きつ戻りつすることになり,金の卵と騒がれて入団したような選手さえもつぶされてしまう羽目になります.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇
ノックひとつ取りあげてみても,日本とアメリカの野球とでは,そのやり方に違いがあり,彼らのほうが野球技術の向上をはかるのに,トレーニングや練習を合理的に行っているのです.日本のコーチは,十年一日の如く,上手投げの投手には肘を上げろと言い,ゴロの捕球に対しては腰高守備はいけないと,同じ言葉を繰り返すだけで,選手の野球動作を見て,どこがどう理にかなっていないから,こういう物理からこう直せといった合理的な指導を行うことができていないのが現状で,中にはコーチが思いつきで教えていることが理に反しているのにそれが理に反しているとも知らずに,それを選手に押しつけ,選手のフォームを改良したつもりがかえって改悪となり,金の卵と騒がれて入団した好素材の選手さえもつぶしてしまうようなことがまま見受けられる有様です.こういう無様なことにならないように,コーチはウソで固められた常識は排除し,理にかなった正しい野球を教えられるように,物理に基づいた野球技術理論を習得することが責務だと思います.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇
単純細胞的な発想に基づく非合理的な練習
村上氏は根拠のない非合理的な練習についても言及しています.
金田氏は,下半身を強化するには,ワシのワンパターンで走れ走れや.バネを失わないようにいつもランニングを続ければ,20勝できる,と述べておられます.
この金田氏の言葉から忖度すると,金田氏は投手はバネを利かして投げるのだと思われているようだが,人体のバネは上下にはねるから,重心を上下動させるので,バネを利かして投げるのは,歪み理論に基づいた捻りの投げ方では避けなければならない,悪い投球動作なのです.
また,下半身強化のために,走れ走れといって,長距離を走ることを奨めているが,トレーニングの項で述べておいたように,野球選手は投手ばかりではなくプレーヤーはすべて瞬発力を持続し,粘りのための粘っこさを持った体質でなければならないのだから,長距離を走ってローパワーのトレーニングを行うことは,時間の浪費であり,極論すれば野球選手にとっては間違った下半身の強化法であるといえます.
このようなトレーニングを続けていると,長距離走は得意になったけれども,野球は一向に上手にならないということになります.野球選手はとにかく短距離を速く走れないと失格です.日本の野球選手がプロ,アマを問わず,走るのが遅いのは,短距離を走る練習時間が余りにも短く,逆にゆっくり走る長距離走の練習に時間をかけすぎているからなのです.
とにかく日本の野球界は,プロ,アマを問わず, 長距離を走る練習に時間をかけ過ぎで,その時間を短距離走に振り替えなければなりません.金田氏の言う ”走れ,走れ” は,長距離ではなく,短距離なのだと頭を切り替えてほしいものです.アメリカの大リーガーの投手たちは,ピッチングする前には,必ず30メートルの短距離を10~15回全力疾走で往復しています.こういった点からも,アメリカの野球のほうが合理的であるといえます.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇
また,ゴロを捕るには,もっと体勢を低くして,マタを割れとか,フットワークはすり足でとか,それが理に反しているとも知らずに,平気でそんなことをいって指導しているコーチがいるが,これも,長距離を走ると瞬発力に欠けてくることを知らないで,ただ長距離を走らせさえすれば,下半身を強化することができると思っているのと同じく,単純細胞的な発想に基づいており,そこには合理的な指導とはいかなるものかが考えられていないのです.
その指導に合理性もないまま,とにかく長時間練習させれば選手の腕は上達するものと決めこんでいるから,千本ノックや長距離走で選手は疲労を蓄積しているにもかかわらず,ハードトレーニングを重ねさせ,その挙げ句に,肉離れ,腰痛などの故障者やケガ人などを出している.某監督などは,今の時期(キャンプ中盤)になってどこか故障のないのは,今まで何もしなかった証拠と発言していたが,これでは故障することを前提にして選手は練習しなければならないのだから,選手はたまったものではないはずです.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇
練習一つ採り上げてみても,プロ野球でさえも高校野球の延長のような猛練習をしたり,ゲーム前でもハードな練習をやらして,選手のエネルギーを消耗させても平気でいられるのは,根性野球,精神野球の押し売りをしているからである.
このように日本の野球は, 根性野球と精神野球で押し通してきているから,そこに芽生えた常識のウソをウソとも思わず,ただ,基本が大切,基本に忠実にと空念仏を唱えているで,野球を必要とする力はいかなる動作から生まれるかを科学的に検討しようともしないで,アメリカの野球選手のプレー中にみられる理にかなった動作を見ても,その合理性に気付くことなく,アメリカ野球との差はパワーの差に過ぎないと割り切り,参考にならないと,うそぶくに至っては何をかいわんやである.
こうした思い上がりが,合理主義野球を遠ざけ,常識のウソをはびこらせ,旧式野球のぬるま湯につからせたままにしているのである.いつまでも現状に満足して,ノホホンとしていては,日本の野球技術の進歩は望めない.特に,野球で必要とする力を生むのは,フォームではなく,合理的な動作であることに,根本的に思い改めないことには,パワーとスピードのあるアメリカ野球に追いつくことはできないのである.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇
古い野球を否定することに対する反発
私は「ダウンスイング」はバッティングではないといっています.その理由は打撃理論(打撃篇)で詳しく述べてありますが,打撃の神様といわれた川上哲治氏が教えられている 「ダウンスイング」 を否定したものですから,その反響は非常に大きいようです.
私の野球技術理論を支持していただいている神田順治先生(元東大野球部監督)が,同先生の愛弟子である某高校野球部監督先生に私の理論を聞くように奨められたところ,川上さんのダウンスイングを否定するような人の話なら何も聞きたくないと,ニベもなく断られたと神田先生はガックリされて,まったく思いもよらぬことだと私に話されたことがありました.
引用元:科学する野球 ・投手篇
私が本書を執筆するに先立って,王さんのことだけは悪くいわないでくださいと注文された方がいますが,これは王さんの技術的欠点を指摘されると,王さんに対して抱いていたイメージが壊されるように思われるからでしょう.
そういう方のイメージを壊すことは申し訳ないこととは思いますが,王さんでもスランプに陥ったのはどこに原因があったのか,ということを本書で述べることは,読者の皆さんの野球技術向上のために大いに役立つことと思いますので,敢えて王さんの悪いときの打撃フォームに言及することにしました.
引用元:科学する野球 ・打撃篇
ある時,私は某大学野球部のために,「身体運動学と物理から割り出した野球の基本」 について講演したのですが,私の話を聞いた監督と選手たちは,自分たちがいかに間違った動作で日頃プレーしているかということがわかったようでした.特に選手たちの顔にはこれで野球が上手になれるという自信が満ちあふれているようでした.
ところがどうでしょう.私が帰った後,監督は選手たちにどういったと思います.
「村上さんのいわれた理論は正しい.しかし実際と理論とは違う.だから村上さんのいわれた通りにプレーしないで,自分がいままで教えてきた通りにプレーしてほしい」といわれたことを,そのチームのキャプテンが私に伝えてくれました.そして,このチームは気の毒なことにいまもって相変わらず弱いのです.この監督は,私の理論にはなるほどと思われたのでしょうけれども.自分がいままで教えてきたことは間違っていたとは選手たちにいえなかったのでしょう.自分の経験に基づく古い野球を選手たちに相変わらず押しつけているのです.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇
本書を読んだ選手たちは,監督やコーチがいままで間違っていたことを教えていたなと思うでしょう.そういう状況下におかれた監督やコーチの苦境は察することができますが,そこで,「自分は間違っていたことを教えていた.これからは皆と一緒に新しい野球技術理論と取り組んでゆこう」といえるかどうかが,チームの命運を決めると思います.また,その監督やコーチが名監督や名コーチになれるかどうかの境目だと思います.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇
『科学する野球』の実践篇では,打撃におけるヘッピリ腰の構えと,低重心投法を日本の野球界から追放しなければならないと強調したのであるが,懸念していた通りの反応が現れたのである.
それは,某ノンプロ・チームのあるコーチから,ベースボール・マガジン社あてに寄こされたのであるが,その内容は,低重心投法が正しいのに,それを否定するような本は悪書であり, ベースボール・マガジン社ともあろう出版社が,このような悪書を出版し,日本の野球界に毒を流すとは怪しからんというお叱りであったのである.このコーチのように,日本式野球に凝り固まっている方は,既成概念からしか判断できないとみえて,低重心投法と捻り投法とはどちらが合理的であるかを考えようともされないで,従来の日本式野球に反するものは,すべて頭から間違っている野球と決め込んでしまうようである.そのような偏狭な心で,『科学する野球』を読んでいただいたのでは,そこに何が説かれているかを理解されることはできないと思うのである.従って,このコーチは,捻り投法の合理性が理解されない限り,ご自分の暴言には気付かれることはないであろうと思われるのである.
引用元:科学する野球・実技篇
こうした日本の野球界の土壌には,合理的な野球技術を追求しようとする機運はなかなか芽生えそうにもありません.あるとき,某高校の選手から,『科学する野球』の投手篇・打撃篇・守備,走塁,練習篇の全三冊を読んで,その通りにやっていたら,この本を読んでいない監督から,それはいけないと注意され,困っていると報告を受けたが,このように選手の指導に当たって,その動作が合理的であるかどうかどうかを考えようともしないで,旧式の日本式野球の規準からしか判断できないというのが現状なのです.
科学する野球・実践篇
村上豊氏の経歴
「科学する野球」の著者略歴を引用します.
著者略歴
引用元:科学する野球
村上 豊
1918年5月15日生.
神戸三中(現長田高)―高知高校(旧制)― 京都大学法学部 (旧制) 卒業.
ノンプロ「オール神戸」で一塁手として活躍.戦時中,川崎重工業(株)勤務,戦後,三菱商事勤務,定年退職後,リョウマシステムズ(株)社長,金菱商事(株)会長,村上スポーツ企画を兼営し,身体運動学的見地と物理から割り出した野球技術理論で技術指導をしていた.1995年逝去.
本シリーズのほかに『ゴルフ切り返し打法』(ベースボールマガジン社発行)がある.
村上氏は「科学する野球」を執筆する以前からプロ野球選手に技術指導を行っていたようです.そのことがわかる箇所を引用します.
その日は,九月十七日,午後一時,文部省前より北寄りの場所に停車した王さんの車の中,王,灰田,私の三者会談の場がもたれた.私は,トンカチの加撃原理から,当時,打撃不振に陥っている王さんの手と腕の使い方の間違いを指摘し,空手打法で打つことを奨めたところ,「なるほど,空手で打つとワキが自然に締まりますね」と我が意を得たりという顔つきが王さんにみられた.
それから一週間ほど経ってから,王さんのバットからホームランの快音が再び聞けるようになり,灰田さんは喜ばれ, 私も実のところホッとした.その後,灰田さんは,私に会うたびに「王ちゃんはあなたに感謝していますよ」と口癖のようにいわれるのだった.
引用元:科学する野球 ・投手篇
37歳 落合打法の秘密
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=q1akHBeUg-I&t=245s
本サイトの目的
本サイトでは,「科学する野球」の村上豊氏の理論に基づいた動作の分析を行っています.村上氏が心血を注いで作り上げた野球理論は,残念ながら日本の野球界に受け入れられたとはいえません.しかし,村上理論には投球動作,打撃動作を理解するうえで重要なエッセンス,ヒントが詰まっており,村上氏の功績は評価に値すると考えます.若い世代にも伝えていく必要があります.
当時は「スポーツ科学」ということばが浸透していない時代であったため,現代では村上理論に修正が加えられてもおかしくありません.僭越ながら,間違っていると判断される動作については,新たに動作の提唱をさせていただきます.
「科学する野球」の修正点については,こちら をご覧ください.