「科学する野球」日本の選手は大リーガーと同じレベルか-島田誠選手の質問

日本の選手は自分たちの実力をはっきり認識していない

 それは,1986年(昭和61年),米国フロリダ州のデルレービーチにスプリングキャンプを張った日本ハム・ファイターズが,そのキャンプ地から約15㎞離れたフォートローダーデールにキャンプを張っていたニューヨーク・ヤンキースを訪れ,そのコーチたちから指導を受けたときのことなのです.
 そのときの模様を伝えてくれたのは報知新聞なのですが,同紙の記事によると,打撃指導を行ったのは,昭和55~57年の3年間,読売巨人軍に在籍したことのあるロイ・ホワイト打撃コーチで,その指導は,まずスタンスのとり方,バットの握り方,自分に合ったバットとは,など “初歩的” なことに始まり,続いて自らバットを持って,
「構えたとき重心は後ろに置くが,インパクトでは重心を思い切り前に移せ」
といって,実演してみせたというのです.そこですかさず,日本ハムの島田誠選手から,「日本では最後まで重心を後ろに残して打てと教えられていたが,それでも打てるか」
との質問があり,この質問をめぐって,両者の間に数次のやりとりがあったけれども,ラチがあかぬと業を煮やしたのか,ヤンキースの指導者に就任したばかりのルー・ピネラ監督が両者の間に割って入り,「この10年ぐらいで,後ろから前へ重心を移動させる打ち方に変わった.テニスのバックハンドと同様にウエートを使う打ち方だ」と述べ,さらにホワイトコーチがその後を継いで,
「確かに高めは打ちにくいかもしれないが,低めは打ちやすい.いい打者は低めに強いものだ.この打ち方で,メジャーで活躍している選手は大勢いる」と説明し,日本ハムの選手たちを納得させたというのです.
 この一連のやりとりから感じたことは,「シーザースよ!お前もか」といいたくなる心情と似たものを覚えるのです.つまり,アメリカの大リーガーも論理的に野球の動作を把握していない,日本の選手と変わりはない,「大リーガーよ!お前もか」といいたいのです.

日本の選手は大リーガーと同じレベルか
 それはそれとして,ここでもう一度,島田誠選手の質問の内容を読んでみてください.気になる言葉があるのですが,気付かれたでしょうか.それは,「日本では」といわれていることです.
 なぜ,これが気になるかを説明する前に,これに似たような話がありますので,それをお目にかけておきましょう.
 それは,江藤慎一氏著の『野球は根性やない』という本に記述されているのですが,あるとき,同氏が経営されている日本野球体育学校で,江夏豊氏が講義した後で,学生たちと質疑応答に入ったとき,いちばん先の質問が,
「ボクは試合になると上がるんです.上がって,自分の実力をちゃんと出せないんです.江夏さんは上がることはありませんでしたか」ということだったのです.この質問に対し,江夏氏は素直に「そりゃ,ワシだって上がったよ」と素直に答えられているのだが,苦労人の江藤氏はこの質問をどう受け止められたかというと,
「学生は自分の実力をはっきりつかまえていない.江夏も自分も同レベルだと思っているからおもしろい」と述べられています.
 この一文から,賢明なる読者は,島田誠選手の質問がなぜ気になると述べたのかわかっていただけたことと思うのですが,この質問を,「日本の選手は自分たちの実力をはっきり認識していない.大リーガーも自分たちも同レベルと思っているから,ちゃんちゃらおかしい」と,彼らは受け止めたに違いないと思われるからなのです.
 だから,島田選手と両氏のやりとりから感じとられるのですが,両氏の説明の言外には,「日本では」と切り口上を述べているが,アメリカの野球と同レベルとでも思っているのか,ヘリクツなんかいわないで,メジャーの大勢の選手がこの打ち方で活躍しているのだから,屁理屈抜きに我々の打ち方を見習えばよいのだ,得にもならない技術理論の論争はごめんこうむりたい,といわんばかりの気持ちであることがわかるのです.
 従って,このやりとりには,彼らの打撃技術に対する理論的説明がなされていません.せっかく,アメリカまで行き,彼らの教え受けながら,これでは打撃技術について何も掴むことができません.だから,日本に帰ってきても,あいかわらず,重心を後ろに残して打っているのです.
 ホワイトコーチが,インパクトでは重心を思い切り前に移せといわれたとき,「日本では」と切り出さないで,それにはどうすればそのようにできるのか,その動作,そのコツを教えてもらえないだろうかといえば,彼も得意になって打撃技術を説明してくれたことと思われます.そして,彼の説明に対しては,ひと言も途中で言葉をさしはさまないで,最後まで黙って聞き終えたところで,ときに,あなたは重心の移動,重心の移動といわれているが,それは体重の移動でなければならないと手短かに話してあげて,いや,どうもいろいろお教えありがとうといっておけば,日本の野球もバカにはできないと,彼も感じ入ることだろうと思うのです.

引用元:科学する野球・実技篇


今後,MLBで一流の活躍をする選手は出てくるのか

 江藤慎一氏(2084試合,2057安打,367本塁打,1189打点,打率.287)の学生の質問に対する受け止め方に倣へば,島田誠選手の「日本では」という質問は,「日本の選手は自分の実力をはっきりつかまえていない.大リーガーも自分も同レベルだと思っているからおもしろい」 と受け止められることになります.村上氏が述べている「シーザースよ!お前もか」いいたくなる心情というのは,ホワイトコーチとピネラ監督が重心と体重の区別がついていなかった(日本の選手と同様に大リーガーも論理的に野球の動作を把握していない)ことに対するものです.
 NPBから数多くの選手がMLBに挑戦していますが,「科学する野球」が提唱している「できるだけ速いボールを投げる」,「できるだけ遠くにボールを飛ばす」という動作を実現し,かつ一流の成績を残している選手は出てきていないのが現状です.つまり,総じて日本人選手はMLBで通用していないといえるのですが,日本の野球界は,島田誠選手の「日本では」という発言からもわかるように,「 大リーガーも自分も同レベルだ 」と自負しているところがあるようです.
 村上氏の本音は,「アメリカの野球と同レベルとでも思っているのか,ヘリクツなんかいわないで,メジャーの大勢の選手がこの打ち方で活躍しているのだから,屁理屈抜きに『科学する野球』で提唱している打ち方を実践すればよいのだ」であったと思われますが,日本の野球界に「日本では」というような自負がある限り,MLBで一流の活躍をする選手が出てくることは難しいと考えられます.