「科学する野球」スナップの利かせ方-その2-手根部から垂直にボールを切る

どうすれば2本の指先で球を切り,正しくスナップを利かせることができるか

2本の指先で球を切るには

 スナップを利かすには,球をリリースしてから,手首で手を掌屈させるということが常識となっています.
 この動作はいうまでもなく球にノビを与えようとして行なわれるもので,正しくスナップを利かせると,投球した球に図87のような下から上への回転,いわゆるバックスピンをかけることができ球がノビます.
 ところが,球をリリースした後,同じように手首で手を掌屈しても,球を2本の指(人差し指と中指)先で切らないと,図88のような上から下への回転,いわゆるトップスピンを,投球した球に与えてしまうから,ホームベース近くになると,その球はお辞儀をしてしまいます.いくら速い球でも,これでは”生きた球”とはいえません.
 では,どうすれば2本の指先で球を切ることができ,正しくスナップを利かせることができるかを箇条書きにしてみると,
(1)正しく球を握った手は,バックスイングで十分に内捻しておく.ただし,手首や2本の指先に力をこもらせてはいけません.
(2)次に,投球腕のヒジが手首より先行して出てくるが,いよいよそのヒジを支点にして,投球腕の前腕部のスイングに移行するときに,図89-(1)のように手を手首で背屈し,2本の指で球を下から受け,手根部(手のひらのツケ根)に張りを入れます.
(3)つづいて,手を背屈したまま,手根部で球を投げるようにして手根部から手を振り下ろします.そうすると,堀本律夫氏がいっているように,2本の指は垂直な壁をさするような感じをつかむことができます.
(4)球は,2本の指のツケ根,第二関節,第一関節と順次離れてゆき,最後に指先から離れるとき,縫い目にかけていた指先で球を切り離してやります.そのときに,ビシッという音がします.
(5)2本の指先で球を切るや,手を掌屈します.そうすると,中指と薬指の間から,親指の先が図89-(6)のように出ています.
 以上の通りになります.
 ところが,手根部から投げようとしないで,2本の指のツケ根と指先に力を入れて,スナップを利かすのは,ただ手を掌屈すればよいのだと思って,図90のように,手首から手を折り曲げると,球にトップスピンの回転を与えてしまいます.
 また,手根部から投げるには,手のひらをホームプレートのほうに押し出すのではなく,手根部に括りつけた紐を下方に引き下ろすような気持ちで,前腕部をヒジからスイングします.このようにして,2本の指先で球を切ることができるようになると,指先は縫い目との摩擦で,図91のようにマメ(タコ)ができてきます.
 また,2本の指先で球を切るとき,指先に相当の圧力がかかるが,爪の切り方が深ヅメだと,力が入らないし,長すぎると力は入るが,ツメを割ると投げられなくなるので,球の圧力に耐えられるだけの,適当な長さにツメを切り揃えたら,それを保持するよう,毎日少しヤスリをかけておきます.ついでに,ツメのかどにもヤスリをかけて,丸いツメの形にしておきます.これは,ツメのかどがとがっていると,カーブを投げるときに,中指の肉がツメのかどで圧迫されて,血マメができたり,ツメが横に割れたりするからです.もちろんそうなれば痛くて投げられません.
 さて,最後に,正しくスナップを利かせて投げているかどうかをチェックします.それには,塁間の距離を保ってキャッチボールをしてみるのですが,そのときワンバウンドと思ったところからスーッと球が浮いて,相手のヒザの高さぐらいにおさまるような球が投げられたら合格です.そのままワンバウンドするようでしたら,まだスナップの利かせ方ができていないのですから,もっと練習してください.

引用元:科学する野球・実践篇
※(1)に「正しく球を握った手は,バックスイングで十分に内捻しておく」とありますが,内捻(内側に捻る・回内動作)というのは,村上氏の捻り理論に基づきます.捻り理論の解説をしていませんので,今は無視していただいて大丈夫です.

引用元:科学する野球・実践篇
引用元:科学する野球・実践篇
引用元:科学する野球・実践篇
引用元:科学する野球・実践篇

手を背屈したまま,手根部(手のひらのツケ根)で球を投げる

金子公宥(1994):スポーツ・バイオメカニクス入門,p.23,種々の関節運動(金子作図)図30

 引用文では,図90のように手を掌屈すると,トップスピンがかかり,ボールがお辞儀するということが述べられています.スナップを利かすことを手首から手を折り曲げることだと解釈すると,2本の指先で球を切ることができなくなるので,注意が必要です.

 図89の(5)から(6)の手関節の掌屈(手首を手の平側に曲げる)をスナップと思い込んで投げると,ボールにスピンをかけることができなくなります.
 図89の(5)から(6)の動作を行うことはまったく考えず無視して,手を背屈(手首を手の甲側に曲げる)したまま,手根部を引き下ろすように投げるとスピンをかけることができます.その際,「2本の指が垂直な壁をさするような感じでボールを切る」,「手根部に括りつけた紐を下方に引き下ろすような気持ちでボールを切る」ということを意識することが重要です.このように意識して投げると,図89の(5)から(6)の動作は自然に行われます.
 つまり,垂直にボールを切るイメージで投げることが,最もボールにスピンをかけることができると考えられ,そのように投げると,リリース後,投球腕は体の手前で止まる(少なくとも背面側には入らない)はずです.詳しくは, 投手の腕の振りは4つのタイプに分類される-タイプ1(垂直) をご覧ください.