「科学する野球」-スナップの利かせ方

「科学する野球」スナップの利かせ方-直球の握り方

2021年5月30日 投稿

親指の関節の内側側面にあてて球を握る

 堀本律夫氏(元巨人軍投手)が,江川投手が球威のあるボールを投げられない一因として,指が垂直な壁をさするような感じで,ボールを切るという手首の使い方をしていないと指摘しているが,このような感じではなく,スナップの利かせ方の具体的な動作を説明することにしましょう.

直球の握り方

 それには,まず直球の握り方から説明しなくてはなりません.そのポイントとしては,

①中指と親指とを結ぶ線が球の中心を通るように握ります.
②中指と人差し指はそろえて握ります.離しすぎると指先の力が分散して,ナチュラル・シュートやナチュラル・スライダーの回転になることがあります.
③親指は図80のように,変化球を投げるときに,その腹を球にあてて握ることがあるが,速い球を投げるには,親指の腹で球を握ると,手首で手を十分に背屈できないので,スナップを利かしにくくなるから,図81のように,親指の関節の内側側面にあてて,球を握ります
④薬指は,図82のように,横からそえてやります.
球を握っている指や手首に力を入れすぎたり,深く握るとスナップが利かしにくくなります
⑥球の縫い目に対して,人差し指と中指とをほぼ直角になるようにかけるが,そのかけ方には,図 83,図84の二通りがあります.図83は横振れがして,制球が少しむずかしいので,図84で握るほうが,制球力に利点があり,一般的に採用されている握り方です.  

引用元:科学する野球・実践篇,p.128,130
引用元:科学する野球・実践篇,p.129

 引用文の最初に,「江川投手が球威のあるボールを投げられない」とありますが,科学する野球〈実践篇〉 が1986年に発行されており,前年の1985年のシーズンが11勝7敗,防御率5.28という過去最低の成績に終わっていることから,このような記述になっていると思われます.

 ②については,中指と人差し指を揃えたほうがボールに力が伝わり,球速が出ますが,コントロールがつきにくくなります.中指と人差し指を離すとコントロールがつきやすくなりますが,球速は落ちます.

引用元:科学する野球・実践篇
図81のように,親指の関節の内側側面にあてて握る江川投手 
②中指と人差し指を揃えて握っている
引用元:https://www.asahi.com/articles/photo/AS20180617002568.html

人差し指を縫い目と縫い目の間が狭いほうに合わせる

 引用文の続き

 この図84の握り方で注意しなければならないことは,人差し指のほうが中指より短いので,右投げですと,図85のように,縫い目と縫い目の間がせまいほうを左側にして握ります.図86のように逆にすると,人差し指は縫い目にかけられても,中指は縫い目から飛び出して,縫い目にかけることができません.

⑦球は親指と2本の指で軽くつまむように握ります
 といったことが挙げられます.

引用元:科学する野球・実践篇,p.130

 ⑦については,卵を握るように軽く握ると,スナップを利かせやすくなります.

引用元:科学する野球・実践篇
右投手が図86で握ると,人差し指は縫い目にかけられても,中指は縫い目から飛び出して,縫い目にかけるこ
とができなくなる.
図85のように,縫い目と縫い目の間が狭いほうを左側にして握るデグロム投手
②中指と人差し指を揃えて握っている
図81のように,親指の関節の内側側面にあてて握っている
引用元:https://full-count.jp/2021/05/11/post1084341/
縫い目と縫い目の間が広い方に人差し指を,狭い方に中指を合わせているチャップマン投手
親指の関節の内側側面にあてて握っているが,親指が中指側にずれて図84のようにはなっていない
②中指と人差し指を揃えて握っている
引用元:https://www.sbnation.com/mlb/2016/12/7/13838416/aroldis-chapman-contract-yankees

 江川投手とデグロム投手は,写真で見る限り,縫い目と縫い目の間が広い方に人差し指を,狭い方に中指を合わせています.本来ならば,短いほうの人差し指を縫い目と縫い目の間が狭いほうに合わせるべきなので,正しい握りとは逆の握りになっています.ただし,中指が縫い目から飛び出してはおらず,人差し指,中指が揃って縫い目にかかっているようなので,問題ないのかもしれません.

「科学する野球」スナップの利かせ方-手根部から垂直にボールを切る

2021年6月3日 投稿

どうすれば2本の指先で球を切り,正しくスナップを利かせることができるか

2本の指先で球を切るには

 スナップを利かすには,球をリリースしてから,手首で手を掌屈させるということが常識となっています

 この動作はいうまでもなく球にノビを与えようとして行なわれるもので,正しくスナップを利かせると,投球した球に図87のような下から上への回転,いわゆるバックスピンをかけることができ球がノビます.

 ところが,球をリリースした後,同じように手首で手を掌屈しても,球を2本の指(人差し指と中指)先で切らないと,図88のような上から下への回転,いわゆるトップスピンを,投球した球に与えてしまうから,ホームベース近くになると,その球はお辞儀をしてしまいます.いくら速い球でも,これでは”生きた球”とはいえません.

 では,どうすれば2本の指先で球を切ることができ,正しくスナップを利かせることができるかを箇条書きにしてみると,

(1)正しく球を握った手は,バックスイングで十分に内捻しておく.ただし,手首や2本の指先に力をこもらせてはいけません.
(2)次に,投球腕のヒジが手首より先行して出てくるが,いよいよそのヒジを支点にして,投球腕の前腕部のスイングに移行するときに,図89-(1)のように手を手首で背屈し,2本の指で球を下から受け,手根部(手のひらのツケ根)に張りを入れます
(3)つづいて,手を背屈したまま,手根部で球を投げるようにして手根部から手を振り下ろします.そうすると,堀本律夫氏がいっているように,2本の指は垂直な壁をさするような感じをつかむことができます.
(4)球は,2本の指のツケ根,第二関節,第一関節と順次離れてゆき,最後に指先から離れるとき,縫い目にかけていた指先で球を切り離してやります.そのときに,ビシッという音がします.
(5)2本の指先で球を切るや,手を掌屈します.そうすると,中指と薬指の間から,親指の先が図89-(6)のように出ています.
 以上の通りになります.

 ところが,手根部から投げようとしないで,2本の指のツケ根と指先に力を入れて,スナップを利かすのは,ただ手を掌屈すればよいのだと思って,図90のように,手首から手を折り曲げると,球にトップスピンの回転を与えてしまいます

 また,手根部から投げるには,手のひらをホームプレートのほうに押し出すのではなく,手根部に括りつけた紐を下方に引き下ろすような気持ちで,前腕部をヒジからスイングします.このようにして,2本の指先で球を切ることができるようになると,指先は縫い目との摩擦で,図91のようにマメ(タコ)ができてきます.

 また,2本の指先で球を切るとき,指先に相当の圧力がかかるが,爪の切り方が深ヅメだと,力が入らないし,長すぎると力は入るが,ツメを割ると投げられなくなるので,球の圧力に耐えられるだけの,適当な長さにツメを切り揃えたら,それを保持するよう,毎日少しヤスリをかけておきます.ついでに,ツメのかどにもヤスリをかけて,丸いツメの形にしておきます.これは,ツメのかどがとがっていると,カーブを投げるときに,中指の肉がツメのかどで圧迫されて,血マメができたり,ツメが横に割れたりするからです.もちろんそうなれば痛くて投げられません.

 さて,最後に,正しくスナップを利かせて投げているかどうかをチェックします.それには,塁間の距離を保ってキャッチボールをしてみるのですが,そのときワンバウンドと思ったところからスーッと球が浮いて,相手のヒザの高さぐらいにおさまるような球が投げられたら合格です.そのままワンバウンドするようでしたら,まだスナップの利かせ方ができていないのですから,もっと練習してください.

引用元:科学する野球・実践篇,pp.132-135
※(1)に「正しく球を握った手は,バックスイングで十分に内捻しておく」とありますが,内捻(内側に捻る・回内動作)というのは,村上氏の捻り理論に基づきます.捻り理論の解説をしていませんので,今は無視していただいて大丈夫です.
引用元:科学する野球・実践篇,p.131 図87,88
引用元:科学する野球・実践篇,p.132 図89
引用元:科学する野球・実践篇,p.133 図90
引用元:科学する野球・実践篇,p.134 図91

手を背屈したまま,手根部(手のひらのツケ根)で球を投げる

金子公宥(1994):スポーツ・バイオメカニクス入門,p.23,種々の関節運動(金子作図)図30

 引用文では,図90のように手を掌屈すると,トップスピンがかかり,ボールがお辞儀するということが述べられています.

 スナップを利かすことを手首から手を折り曲げることだと解釈すると,2本の指先で球を切ることができなくなるので,注意が必要です.

 図89の(5)から(6)の手関節の掌屈(手首を手の平側に曲げる)をスナップと思い込んで投げると,ボールにスピンをかけることができなくなります

 図89の(5)から(6)の動作を行うことは無視して,手を背屈(手首を手の甲側に曲げる)したまま,手根部を引き下ろすように投げるとスピンをかけることができます.

 その際,「2本の指が垂直な壁をさするような感じでボールを切る」,「手根部に括りつけた紐を下方に引き下ろすような気持ちでボールを切る」ということを意識することが重要です.

 このように意識して投げると,図89の(5)から(6)の動作は自然に行われます.

(ハ)スナップの利かせ方

投球腕のヒジ,続いて手首を下に向けて振り下ろす(図⑤,⑥).
その時,ボールを握っている手の手根部で壁をこすりおろす(図⑤)ようにしてから,二本の
 指(人差し指・中指)の指先でボールをきる.
ボールを握った状態のままで掌屈してはいけない.

引用元:科学する野球・ドリル篇,p.51
引用元:科学する野球・ドリル篇,p.51

 あまり難しく考える必要はなく,上図のように,垂直にボールを切るイメージで投げれば,スピンがかかったノビのあるボールを投げることができます.

 そのように投げると,リリース後,投球腕は体の手前で止まります(少なくとも背面側には入らない).詳しくは,投手の腕の振りは4つのタイプに分類される をご覧ください.
 

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