柳田悠岐選手の打撃理論-V字スイング
2022年1月15日 投稿
qooninTV の「柳田悠岐選手「クソ飛びする」V字スイング理論!ホームラン量産の極意」という動画のなかで,柳田選手が語っている打撃理論について解説します.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=k9QPAeF_go4
V字のダウンスイングの部分
インタビューの中から,V字のダウンスイングの部分を取り出します.

スイングの軌道とかは,アッパースイングでいこうとか,そういったのはありますか?

アッパーとかじゃないんですけど,縦振りっすね.横振りにならないように.
こう(横振り)振ったら飛ばないんで縦振りっすね.ダウンスイングからアッパーです.
こういう感じです.V字っすね.

あとは,このV字スイングの軌道のなかで,ヘッドができるだけ下がらないように.
これも多分結構みんな多分言うと思うんですけど,ここがどんだけこういういい形で当たっているかというのもすごい大事だと思います.

この当たっている形で結構結果って決まると思うんで.ホームランになるか,ここはすごい大事だと思う.ヘッドを立たせる.
このインタビューのなかで柳田選手が言っていることは,次の2点です.
- ダウンスイングからアッパースイングして,V字スイングの軌道をつくる
- ダウンスイングでバットを縦振りして,ヘッドが下がらないようにする
※ 「縦振り」については,次の記事の「柳田悠岐選手の打撃理論-センター方向に打つ打球が理想の打球」でも解説しています.
この記事を読んで,V字スイングを実践するために,最初はダウンスイングから入らなければいけない思った方がいるかもしれませんが,柳田選手のスイングを確認すると,最初の入りはダウンスイングになっていません.
では,なぜ縦振りしてバットを立てることを意識するのかというと,慣性モーメントを小さくするためであると考えられます.選手は感覚で発言していることが多いので,真に受けてダウンスイングから入らないよう注意が必要です.ダウンスイング すると偏心衝突を起こしていまいます.
「科学する野球」慣性モーメントを小さくする でも説明していますが,慣性モーメントを小さくするためには,前腕とバットの作る角度を小さくしなければなりません.
バットが寝てヘッドが下がると,この角度が大きくなり,慣性モーメントが大きくなるため,スイングスピードを加速することが難しくなります.
ですから,ダウンスイングを特に意識する必要はなく,スイングの始動から前足が着地するまでにバットを投手側に傾けていくことが重要です.

回転半径が小さくなるので,慣性モーメントを小さくなり,スイングの回転速度を高めることができる
引用元:科学する野球・実技篇 p.45
V字のアッパースイングの部分
インタビューの中から,V字のアッパースイングの部分を取り出します.

特に参考にされたバッターはいらっしゃるんですか?

参考にしてるバッター結構いるんすけどね.結構メジャーリーガーとか見るんで.バリー・ボンズ.最短でヘッドを立たせてバーンって打った後,ステイバックするじゃないですか.そういうのを結構見てマネしました.最近はこいつ.

あっ,ベリンジャーですか?

ベリンジャー.

ベリンジャーは確かに似てるかもしれないですね.

ベリンジャーもやっぱ,まあ一緒ですよね.打ってステイバックする.ステイバックできるというのは多分いいスイングできてるのかと思って.

やっぱ,結構打ってすぐ走りたいとかなるじゃないですか,バッターって.それはもう絶対やんないようにというか.走り打ちはしないというか.

こう(縦振り)入っていって,当たって戻る(ステイバックする).タイミングが合えばもう勝手に腰は回ると思います.
V字スイングのアッパースイングの部分は,「人」の形で打つ 動作を表します.柳田選手はバリー・ボンズ,コディ・ベリンジャー選手のステイバックを真似ることで,結果的に「人」の形で打っているようです.
「人」の形で打つには,ステイバックするだけでは不十分で,ステップ脚の膝を伸ばして上体を後傾し,鋭く腰を回転する意識が必要となりますが,柳田選手の「タイミングが合えばもう勝手に腰は回る」という発言から,上体を後傾して鋭く腰を回してスイングしていることがうかがえます.
「こう入っていって当たって戻る」の「こう入っていって」は,構えからバットを立てて慣性モーメントを小さくしながらバットを振り出していく動作(縦振り)を,「当たって戻る」は「人」の形で打っているので,インパクト後,体重が後ろ脚に戻る動作(ステイバック)を示しています.
体重が後ろ脚に戻るといっても,前足の着地はステップに伴う前方移動にブレーキをかける役割を担っているので,前脚に体重が完全にシフトしているわけではありません.
尚,柳田選手がアッパースイングといっているスイングは,正しくは アップスイング になります.人の形で打つと上体を後傾して打つので,アップスイングになり,球道とスイングの軌道が一致 し,中心衝突で打つことが可能になります.
「人」の形で打つと前脚が残る
上の引用から,再度ステイバックで打った後の部分を再度掲載します.
柳田選手:
ベリンジャーもやっぱ,まあ一緒ですよね.打ってステイバックする.ステイバックできるというのは多分いいスイングできてるのかと思って.やっぱ,結構打ってすぐ走りたいとかなるじゃないですか,バッターって.それはもう絶対やんないようにというか.走り打ちはしないというか.
こう入っていって当たって戻る.タイミングが合えばもう勝手に腰は回ると思います.
「やっぱ,結構打ってすぐ走りたいとかなるじゃないですか,バッターって.それはもう絶対やんないようにというか.走り打ちはしないというか」という発言は,「人」の形で打つと体重が後ろ脚にかかるため,前脚が残るということを意味しています.
打ってすぐ走ろうとしても,体重が後ろの残るため走ることができませんから,走り打ちはせずに,「人」の形で打つことを優先して,打った後前脚を残すということをいっています.

「人」の形で打っているため,体重が後ろ脚にかかり,前脚が残る体勢になる.
打ってすぐ走ることができないので,柳田選手の「走り打ちは絶対しない」という発言につながる.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=aAD42KYikds
柳田悠岐選手の打撃理論-センター方向に打つ打球が理想の打球
2022年1月18日 投稿
「柳田悠岐選手の打撃理論-V字スイング」 に続いて,qooninTV の「柳田悠岐選手「クソ飛びする」V字スイング理論!ホームラン量産の極意」という動画のなかで,柳田選手が語っている打撃理論について解説します.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=k9QPAeF_go4
センター方向に打つ打球が理想の打球
インタビューの中から,「科学する野球」の中心衝突と合致する部分を取り出します.

打った瞬間にこっち(引っ張り方向)に出るのはダメです.

引っ張り方向は打球はあまりってことです?

ダメです.こう来るんで(ボールはバッターに向かってくるので),こっち(引っ張り方向)に行くってことは,もう絶対にスイングの軌道がこう(横振り)なってる.

こっち(引っ張り方向)よりこっち(センター方向)に行くってことは,スイングの軌道がこう縦振りになってる.まあ,これじゃないと試合ではホームランを打てない.

こっち(引っ張り方向)に引っ張ってホームラン打とうという感じでやってたら,ホームランはあんまり打てないかなと思うんすよ.

じゃあ,あくまでセンターに?

そうですね,センターに.

斜め45°とかの打球で?

そうです,そうです,そうです.それが多分一番いい,あの,理想の打球だと思います.

そうなんですか.逆に多分ここにいるメンバーほぼそうなんですけど,引っ張りでしかホームランが打てないです.センター方向でホームラン考えたことないんですけど.

いや,打てます.あとはやっぱ,まあ,もちろんこのバットの軌道とかも大事ですけど,足(脚)の使い方とか,そういうのも,それで全然パワーの伝わり方も違うと思いますよ.
柳田選手のいっていることは,次の2点です.
- 縦振りしないと,バットのヘッドが下がって横振りとなり,引っ張り方向に打球が飛んでしまう.
- ボールはまっすぐ来るので,来た方向(センター方向)に打ち返さないとホームランは打てない.
まず,一つ目の「バットのヘッドが下がると横振りになる」という件ですが,「柳田悠岐選手の打撃理論-V字スイング」で述べたように,バットを立ててスイングに入るのは 慣性モーメントを小さくする ためで,インパクト直前まで縦振りを維持しているわけではありません.
柳田選手がなぜここまで縦振りにこだわるかというと,右投げ左打ち特有の「左腕(非利き腕)でバットを押し込むことができない」という重大な欠点をもっているからです.
バットのヘッドが下がると,利き腕(右腕)が勝って横振りになりやすく,引っ張り方向に打球が飛ぶ(引っかける)ことになるため,そのことを防止する意味合いでこのような発言となっているようです.
二つ目の「センター方向に打ち返す」については,これは正に「科学する野球」の中心衝突のことをいっています.
「科学する野球」バットとボール(球道)とは90°で衝突させる-トンカチの柄とクギとの角度は90°になる で述べたように,投手の投げるボールは打者にまっすぐ向かってくるので,中心衝突を起こすためにはバットとボールを90°で衝突させ,投球線(球道)と打球線(弾道)が一致するように打たなければなりません.

図67の(ロ)は中心衝突,(イ),(ハ)は偏心衝突を表します.柳田選手の「センター方向に打つ打球が理想の打球」という発言は,図68のように投球線(球道)に対してバットを90°で交わらせて,図67の(ロ)のように投球線(球道)と打球線(弾道)が一致するように打たなければならないという意味で,「科学する野球」と同じことをいっています.
インパクトした後,前にあるもう一個の球を打つイメージ
引き続き,インタビューの中から,「科学する野球」の中心衝突と合致する部分を取り出します.

あと,そのフォロースルーを大きくとおっしゃったんですけど,どうやったら大きくなるのかなっていう.

そうっすね.イメージはこう当たって,まだ前にボールがあるっていうか,ここ(インパクトのところ)にボールはあるんですけど,ここ(前)にボールがあるイメージで,当たってもう一個の球を打つイメージです.

えっ,それ難しいすね.練習はどういうふうにしたら,そういう感覚をもてるんですか?

やっぱり,そのティーとかでこの,ボールの内側を打ってたら,勝手にこう(センター方向に)バットが入ってくるんで.勝手に前が大きくなるというか,内側を打とうとしたら,絶対バットはこう(引っ張り方向に)返らないっす.

内側を打つってしたら,こう大きくなる.ボールの内側を打つっていう意識をずっともってたら,前は大きくなります.

で,その試合になったら,もうそういうイメージはまったくないんですけど,そういう練習の仕方で,いいボールの捉え方を○○(確認できず)するというか,それは染みこまします.
柳田選手のいっていることは,次の2点です.
- インパクトした後,前にあるもう一個のボールを打つイメージをもっている.
- ボールの内側を打つ意識をもつと,バットは返らず,前が大きくなる.
これはインパクト後,打ち返す方向にバットを押し込む動作のことをいっています.「科学する野球」インパクト後,両腕は伸ばさなければならない-ケン・グリフィー・ジュニア で述べたように,ボールを強打するためには,インパクト後, 両腕(特に後ろ腕)でボールを押し込む必要があります.
右投げ右打ち,左投げ左打ちの打者は,後ろ腕が利き腕になるので,柳田選手のように「前にあるもう一個のボールを打つ」ことをイメージしたり,「ボールの内側を打つ」ことを意識しなくても,両腕でボールを押し込むことが可能です.
「縦振り」についても同様です.逆にいうと,右投げ右打ち,左投げ左打ちの打者は,このようなことをイメージ,意識して打っていないということです.
つまり,柳田選手は,右投げ左打ちでインパクト後,後ろ腕(非利き腕)でボールを押し込むことができないという欠点を自覚しているため,インタビューのような打撃理論になっているということです.ですから,柳田選手の理論は,右投げ左打ちのための打撃理論といってもよいと思われます.
柳田選手がスイングを矯正するために意識している点は,「科学する野球」で村上豊氏が提唱している中心衝突の理論と全く同じものです.方向性として間違っていないので,今後も活躍が期待できます.