テッド・ウィリアムズ選手のアップスイング

アッパースイングとアップスイングとの違い

2021年8月20日 投稿

投手の投げるボールは上から下へ落ちてくる

ダルビッシュ投手の4シームの軌道(8/11対ダイヤモンドバックス戦,一塁側から)
引用元:ベースボール・サバント

 上図は,ダルビッシュ投手の4シームの軌道です(8/11対ダイヤモンドバックス戦,一塁側から).投手のリリースポイントと捕球する捕手のミットの位置を考えれば,当然,ボールの軌道は上から下へ落ちてくることになります.高めのコースよりも低めのコースのほうが,角度が大きくなります.

球道に対して上向きに交差するスイングの軌道がアッパースイング・球道に一致するスイングの軌道はアップスイング

正しいバットの軌道
引用元:https://improveyourhitting.com/knowledge/bad-hitting-cues/

 上図のSlightly up swing(少し上向きのスイング) では,球道とスイングの軌道が一致するので,「科学する野球」でいうところの中心衝突の条件の1つである 「仮想の加撃面に沿ってレベルに打つ」 を実現することができます.このスイングの軌道がテッド・ウイリアムズ選手のアップスイング(アッパースイングではない)です.
 Level swingでは,スイングの軌道が球道と下向きに交差し,中心衝突は求められません.Downward swingでは,Level swing よりもさらにスイングの軌道が球道と下向きに交差します.これがダウンスイングです.

 Upward swing では,Slightly up swing(少し上向きのスイング)よりもさらに上向きのスイングとなり,中心衝突は求められません.これが悪い意味でよく使われるアッパースイングです.

Upward swing(アッパースイング)
引用元:科学する野球・打撃篇 p.51
Downward swing(ダウンスイング)
引用元:科学する野球・打撃篇 p.51

 「科学する野球」のトンカチの加撃理論では,トンカチ(バット)でクギ(球道)を打ち込む(中心衝突させる)ために,トンカチのスイングの軌道をクギ(球道)に合わせなければなりません.Upward swing(アッパースイング)では,トンカチのスイングの軌道がクギが表す水平の球道と上向きに交差するため,偏心衝突を起こし,クギが曲がってしまいます.同様に,Downward swing(ダウンスイング)では,トンカチのスイングの軌道がクギが表す水平の球道と下向きに交差するため,偏心衝突を起こし,クギが曲がってしまいます.

 

テッド・ウイリアムズ選手のアップスイング

 「科学する野球」バットとボール(球道)とは90°で衝突させる-その2 で述べたように,テッド・ウイリアムズ選手は,アップスイングを行っていました.その根拠となるのは,投球されたボールは約五度下向きで打者に向かって飛来するから,これを打つには,少しアップスイングにしたほうが,投球の軌道とバットの軌道が一致している区域が長くなるという考え方です.  

テッド・ウイリアムズ選手のアップスイングとレベルスイングにおけるインパクトゾーンの大きさの違い
引用元:https://improveyourhitting.com/knowledge/bad-hitting-cues/

 テッド・ウイリアムズ選手のアップスイング(The Williams stroke)では,スイングの軌道と球道が一致するため,インパクトゾーンが大きくなり(Large impact zone),ボールに力を伝えることができますが,レベルスイング(The level stroke)では,スイングの軌道が球道と上向きに交差するため,インパクトゾーンが小さくなり(Small impact zone),ボールに力を伝えることができません.
 

「人」の形で打つとアップスイングになる-投球の軌道とバットの軌道が一致する利点

2021年11月30日 投稿

「人」の形で打つと上体が後傾する

 対右投手で高めが打てないのは大谷選手だけではない-「人」の形で打つとスイングは上向きになる で述べたように,「人」の形(右打者は「入」の形)で打つと,スイングの軌道が少し上向きになり,テッド・ウイリアムズ選手が行っていたアップスイングを実現することができます.

Ken Griffey Jr. Home Run Swing – Hall of Fame
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=p0t1KQpDA6w
Ken Griffey Jr. Home Run Swing – Hall of Fame
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=p0t1KQpDA6w

  グリフィー選手のインパクト前とインパクト後の上体を比較すると,インパクト後,上体が後傾しているのがわかります.これは「 前足を着地して,ステップに伴う前方移動にブレーキをかける第一動作」の後,「ステップ脚の膝関節を伸ばして,下肢のエネルギーを体幹に取り込んで,体幹を後ろに倒す第二動作」を行っているからです.

Aaron Judge Home Run Swing Slow Motion 2018-4(#PS1)
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=04rd1pi0qT0
Aaron Judge Home Run Swing Slow Motion 2018-4(#PS1)
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=04rd1pi0qT0

 アーロン・ジャッジ選手もグリフィー選手と同様に「入」の形(左打者は「人」の形)で打っており,インパクト後,上体が後傾していることを確認できます.

上体を後傾するときの体幹の急激な回旋を利用して,スイングスピードを速くする

 下肢のエネルギーを体幹、上肢に伝達する第二動作では,前脚の膝関節を伸展すると,体幹が後方に倒れ,左肩が後方に引っ張られ,右肩が前方に押し出されます(右打者の場合).この体幹の急激な回旋を利用してスイングスピードを速くします.
 のけぞるようにスイングすることになるため,スイングの軌道が少し上向きになり,投球の軌道とバットの軌道が一致する時間が長くなるため,ボールにより大きな力を伝えることができます. 

引用元:https://improveyourhitting.com/knowledge/bad-hitting-cues/

 「人」の形で打つと,上図のThe williams Stroke(テッド・ウイリアムズ選手のアップスイング)になるため,投球の軌道とバットの軌道が一致する時間が長くなり,impact zone(インパクトゾーン)が大きくなります.

アップスイングでは高めのコースは打てない

 アップスイングではスイングの軌道が少し上向きになるため,高めが打ちにくくなると考えられます.2018-2021のMLBのコース別打率を調べると,次のようになります.

右投手対右打者 コース別打率 2018-2020
左投手対右打者 コース別打率 2018-2020

 右打者の場合,対右投手では内角高めよりも外角高めの方が打率が低く,逆に対左投手では外角高めよりも内角高めの方が打率が低くなっています.

 対右投手では外角のボールに角度がつき,対左投手では内角のボールに差し込まれるため,このような打率になっていると考えられます.

 ストライクゾーンで見ると,対右投手,対左投手ともに真ん中,低めのコースに比べて高めのコースの打率が低くなっている傾向があることを確認できるので,MLBではアップスイングの打者が多く,高めが打てていないといえるかもしれません.

左投手対左打者 コース別打率 2018-2020
右投手対左打者 コース別打率 2018-2020

 左打者の場合,右打者よりも顕著な結果が出ており,対左投手で外角高め,対右投手で内角高めの打率が低くなっている点は同じですが,高めは,真ん中,低めよりもすべてのコースで打率が低くなっていることを確認できます.

 なぜ右打者よりも高めが打てない傾向がはっきりしているのかはわかりませんが,MLBではアップスイングで打つ打者が多く,アップスイングで打つ打者が多いということは「人」の形で打つ打者が多いと考えられます.

タイトルとURLをコピーしました