「科学する野球」構えでやってはいけないこと

①最初からワキを締めて構える

2021年6月12日 投稿

後ろヒジを後ろワキ腹にくっつけて構えてはいけない

 この写真⑩のバットの構え方を見ますと,後ろ肘を後ろ横に張って,フライング・エルボーにしていますが,このように後ろワキを空けてもよいものかと思われる人がいるのではないでしょうか.

 そのように思われる人は,多分,ワキは締めて打たなければならないのだから,構えのときからワキは締めておかなければいけないと思われているのに違いないと思います.

 とくに,ダウンスイング論者の教えを受けて,少年のころからワキを締めて上から叩いてこられた人は,ワキを締めた窮屈な打ち方でもかまうことなく,ワキを締めることこそが大切であると思い込んでいられるから,フライング・エルボーには抵抗を感ぜられるようです.

 このワキの締め方については,『科学する野球』の打撃篇や実践編でも述べておいた通り,ワキは締めるのではなく,空手打ちを行うことにより締まるのでなければならないのですが,トップハンド側の手と腕の空手打ちは,写真⑨のように,手より後ろヒジを先行させなければなりません.それには,後ろヒジを構えのときからフライング・エルボーにしておかなければなりません.フライング・エルボーにしないで,後ろヒジを後ろワキ腹にくっつけて構えると,後ろヒジを自由に使うことができないので,後ろヒジより手を先行させて手振りすることになり,空手打ちができなくなります.

引用元:科学する野球・実技篇 pp.31-32

引用元:科学する野球・実技篇
引用元:科学する野球・実技篇

 現在の日本の野球界ではフライング・エルボーで構えることが主流となっているので,ワキを締めて構える打者は少数派であると思われますが,なかには最初からワキを締めて構えないといけないと思い込んでいる人もいるかもしれません.

 写真⑩のようにフライング・エルボーで構えるのは,写真⑨のように肘を先行させてスイングするためですが,最初からワキを締めると肘が自由に使えず,手から始動することになります.手から始動すると,肘よりも手を先行させてスイングすることになるため,バットをタメることができず,手振りになります.

手からテークバックすると手からバットを振り出すことになり,後ろ肘を先行させることができない

 さて,日本の打者は,前にも述べておいたように,バットを体の前に構えて,ヘッピリ腰で構えるか,自然体で構えています.

 この構え方からバックスイングに移るには,もちろん前足はあげるのですが,バットを手からテークバックし,体重の移動は,後ろ脚を膝を折り曲げて行うから,捻りに伴う体重の移動はできず,前足から後ろ足への横移動を行うことになります.

 このような動作で,バックスイングを行いますと,その反動を利用してフォワードスイングを行うようになります.

 とくに,手から後ろに引くと,図12のように,その反動として手からバットを振り出し,手が後ろヒジより先行し,後ろ肘をうしろにとり残してしまい,後ろヒジからの空手打ちができなくなり,手だけでバットを振るようになります.

 よく,高めの球の吊り球に引っかかって空振りをしている打者を見かけますが,そのときの動作は典型的な手振りを行っています.このように手振りをする打者は,バックスイングを,前足をあげるとともに,手でバットをテークバックすることであると思っているようです.また,フォワードスイングでは,その反動で手から振り出すものだから,バットを振り出す前に手でタイミングをとろうとしてヒッチを犯すことになり勝ちです.

 とくに,相手の投手の球が速いとこれに打ち勝つには,自分のバットの振りのスピードが速ければよいと思っている打者に,この手振りの強振がみられます.また,逆に緩い球ですと強振しようとして,俗にいう大振り,むちゃ振りをし勝ちですが,ここでもやはり手振りがみられます.このような手振りでは,前述しておいた通り,パワフルなバッティングができないばかりでなく,スイングにともなう体の力みから,ミートが正確に行えなくなります.

引用元:科学する野球・実技篇 pp.32-34

フライング・エルボーにせず最初から脇を締めて構えると,手から始動するため後ろ肘を先行させることができず,空手で打つこともバットをタメることもできなくなる.
引用元:科学する野球・実技篇

 フライング・エルボーで構えることによって後ろ肘が自由に使えます.後ろ肘が自由になると,後ろ肘を先行してバットをタメることができ,空手打ちを行うことができます.最初から脇を締めて手で構えている人はパフォーマンスの発揮が不十分になるため,フライング・エルボーにして,肘で構えることをお勧めします.

②自然体,ヘッピリ腰で構える

2021年6月14日 投稿

バットを体の前に構えているための弊害

 バットを体の前に構えていると,なぜパワフルなバッティングができないのか.まず,結論から申し上げますと,それは空手打ちができないからなのです.

 この空手打ちについては,『科学する野球』の打撃篇で詳説しておきましたが,トップハンドの空手打ちは,写真①のように,後ろヒジをトップハンドより先行させなければいけません.それには,図⑧のように,ステップした前足が着地したときに,バックスイングのトップでフライング・エルボーであった後ろヒジを後ろワキ腹の前にかい込むことから動作を起こし,この時点では,手からバットを振り出そうとする意識を働かしてはダメなのです.

 もしも,この時点で,手からバットを振り出すと,バットを後ろのタメることができず,アウトサイド・インのスイングになります.また,前脚をステップすると同時にバットを手から振り出すことは,前足を捻りの軸足として,前腰に捻りをいれ,腰から打つ体勢ができ上がっていないのに,バットを振ることになるので,手打ちというより手振りになりますから,パワフルなバッティングができなくなります.

 そこで,写真②と③とを見てもらいますと,写真②はヘッピリ腰の構えであり,写真③は自然体の構えですが,どちらも体の前でバットを構えており,後ろ腰に捻りをいれていませんから,このような構えは打つ構えとはいえないのです.

 打つ構えとして大事なことは,足もとから後ろ腰に捻りを入れることです.この捻りでタメた内部応力,歪み応力をいっきょにリリースしてこそ,そこに瞬発力が生まれるのであり,その力がフォワードスイングという運動をいっきょに爆発的に推進させるのですから,この捻りによる内部応力のタメがパワーの根源なのです.

引用元:科学する野球・実技篇 pp.21-23
フライング・エルボーで構えると,肘を先行させてスイングすることができる.
引用元:科学する野球・実技篇 p.22
自然体,ヘッピリ腰で構えると,手からバットを振り出すことになる.
引用元:科学する野球・実技篇 p.23

 

 引用文では,自然体,ヘッピリ腰で構えることの問題点として,①バットを体の前に構える,②後ろ腰に捻りを入れていない,を挙げています.①バットを体の前に構えると,手からバットを引いてバックスイングすることになるので,肘よりも手が先行します.手が先行すると後ろヒジを後ろワキ腹の前にかい込むことができないため,写真①のように肘を先行させてバットを後ろにタメること,空手で打つことができなくなります.

 ②後ろ腰に捻りを入れていないと,内部応力,歪み応力がタメられないので,フォワードスイングを行うエネルギーが不足すること,また,前腰に捻りをいれ,腰から打つ体勢ができ上がっていないと,手振りになることが述べられています.この②では,捻り,内部応力,歪み応力ということばが出てきますが,これらは村上豊氏の歪み理論のキーワードになっています.歪み理論は「科学する野球」の核となる理論です.

体の捻りで内部応力を求める

 投手によって投げられた球の力を対決するバット(運動体)の力(f)は,f=m×aの公式から,バットの質量(m)とバットが振られる加速度(a)との相乗積が大きいほど大きくなるので,バットは重いほうがベターではあるが,筋力がそれに伴わないとかえって加速度を落としてしまい,結果的には(f)を小さくするから,打者は自分の筋力に見合った振りやすいバットを選ばねばならないことは前に述べた通りです.

 そうすると,バットの質量(m)はその打者なりに一定するとみてよいことになるから,バッティングで必要とする力(f)を最大にするには,加速度(a)をいかにしてより大きくすることができるかどうかによって決まります.

 さて,バットに加速度を与えるのは,打者の体の中の力で,バットがボールを飛ばす力(f)を「動的の力」というのに対し,これを「静的の力」といいます.

 この「静的の力」はどうすれば生まれるかというと,それは体を捻ることによって生まれます.体を捻るとそこに内部応力(注・ゴム紐を引っ張ると元にもどろうとする力があるように,人間の体は弾性体であるので,体を捻ると元にもどろうとする力が生まれます.これを内部応力といいます.詳しくは『科学する野球』投手篇42頁を参照してください)が生じます.この内部応力を利用してバットに加速度を与えるのがバッティングの技術,コツというものです.

 そこで内部応力をできるだけ大にするためには,体の捻りの上手,下手によって決まるが,打撃動作における体の捻りとは,テークバックでは後ろ足を土台にして,後ろ腰を中心とした体の捻りを行い,フォワードスイングでは,後ろ腰の捻りもどしから動作を起こし,前足を土台にして前腰を中心とした体の捻りを行うことです.

 ですから,テークバックでは後ろ足(脚)が捻りの軸足となり,フォワードスイングでは前足(脚)が捻りの軸足となります.

 ところが,日本の野球界では奇妙なことに後ろ足のみを軸足といっていますが,最終的には前足を軸として,前腰を中心とした体の捻りがなければ,バットの加速度も投球腕の加速度も最高度にならないのだから,後ろ足だけを軸足というのは間違いで,こういう表現の仕方止めなければなりません.

 現に,日本のプレーヤーの打撃動作や投球動作を見ると,前腰を中心とした体の捻りが見られません.というのも,後ろ足のみを軸足といって,前足を軸足として使うことを知っていないからだと思われます.軸足は後ろ足から前足に踏み替えなければならないことをこの際はっきりと覚えておいてください.

引用元:科学する野球・打撃篇 pp.80-81

 引用文に述べられているように,村上氏の歪み理論とは,人間の体が弾性体であるという前提の下,体を捻ることによって元に戻ろうとする力(内部応力)が生まれるので,この内部応力を利用してバットに加速度を与えるようにしなければならないというものです.

 そのためには,まずバックスイングで後ろ脚を捻りの軸脚として後ろ腰を中心とした体の捻りを行い,内部応力をタメます.そして,体の捻り戻しを行うことで内部応力をスイングスピードの加速に利用するのですが,後ろ脚の軸で捻り戻すのではなく,前脚(ステップ脚)に軸を移し替えて捻り戻しを行います.つまり,後ろ脚を軸としてタメた内部応力を保持したまま捻りの軸を前脚(ステップ脚)に移し,前脚を軸として捻り戻しを行うということです.

 ここで注意しなければならないのは,前脚を軸として捻り戻しを行う動作が,前脚を軸として体を捻る動作になることです.捻り戻しというと楽に行えるイメージがありますが,それは同じ軸で捻りと捻り戻しを行う場合であり,軸を前脚に移せば,前腰を中心とした体の捻りが捻り戻しの動作になります.つまり,内部応力を利用するためには,前脚を軸とした窮屈さを伴う体の捻りが必要になります.

引用元:科学する野球・実技篇 p.81(図77),p.82(図78)

 さて,体を捻ることについてもう少し考察を加えてみましょう.

 まず,体を捻ることと体を回転させることとは違うということです.このことについては,すでに『科学する野球』投手篇の第41頁以降に述べておきましたが,捻るというのは,消しゴムを捻るとき,図77のように下縁を固定し,上縁を回します.そうすると消しゴムによじれが生じます.そのとき消しゴムには外力(捻りを加えた力)とつり合う抵抗力が生じています.この抵抗力を消しゴムの内部応力といいます.ですから捻るということは内部応力を求めることなのです.

 ところが,回転は図78のコマの回転のように,回転軸ごと回ってしまいますから,内部応力を求めることができません.

引用元:科学する野球・打撃篇 pp.81-82

 自然体,ヘッピリ腰で構えると,

  • バットを体の前に構えるので,手振りとなり,肘を先行させてバットを後ろにタメること,空手で打つことができなくなる.
  • 後ろ腰に捻りが入らないため,内部応力が利用できず,バットに加速度を与えることができない.

③自然体,ヘッピリ腰で構える-その2

2022年7月28日 投稿

バットを体の前に構えていると,体に反動をつけて振り出そうとする

 さらに,ヘッピリ腰で構えたり,自然体で構えると,バットを振り出すのに,体に反動をつけて振り出そうとするから,構えからバックスイング,バックスイングからフォワードスイングに移るのに,体重の移動にともなって,図⑬や図⑭のように,重心を上下動させる結果,ボールの力に差し込まれるばかりではなく,視線のブレを招き,ミートが不正確になります.

 ところが,写真⑩のように,後ろ腰に捻りを入れると,この捻りで体重は後ろ足にかかり,構えそれ自体が打つ構えになっているので,バックスイングでことさらに体重を移動する必要もなく,重心の高さも,図⑮のように,構えてから打ち終わるまでほぼ一定の高さに保つことができるから,ボールの力に差し込まれることもなく,視線のブレも起こりません.

引用元:科学する野球・実技篇

写真10,図13,14,15 引用元:科学する野球・実技篇

  写真⑩のように,後ろ足を斜めに閉じて,後ろ腰に捻りを入れておくと,捻り戻しでステップすればよいので,図15のように重心の上下動が抑えられ,視線がブレることもなくミートの正確性が増します.

 自然体,ヘッピリ腰で構えると,手元から始動するため,バックスイングからフォワードスイングに移るのに図⑬や図⑭のように,重心が上下動することが指摘されています.

 「②自然体,ヘッピリ腰で構える」で述べたように,バットを体の前に構えると,体に反動をつけて振り出そうとするため,後ろ腰に捻りが入りません.後ろ腰に捻りを入れて,捻り戻しでステップすれば重心の上下動は抑えられます.

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