真っ直ぐ向かってくる4シームは,肩とバットを遅らせてインパクトすることをイメージしやすい
これまで説明したように,大谷選手はゴルフ打法(肩を回さずに打つ)で,故意に肩とバットを遅らせてインパクトし,手首を返して打っています.わかりやすくするため,4シームに対して投球線(球道)と打球線(弾道)が一致する中心衝突のケースを考えます.


4シームの球道に対して,肩とバットを遅らせてインパクトする場合,角度のない真っ直ぐな球道では,両肩を結ぶ線とバットを球道に対して鋭角に交わらせることをイメージしやすくなります.右投手,左投手に関係なく,角度のない真っ直ぐな球道では,内角,外角のコースであっても,肩とバットを遅らせてインパクトすることが可能になります.
角度のあるボールは,肩とバットを遅らせて打つことができない
①外側から内側に食い込む球種を投げる
捕手に真っ直ぐ向かってくる4シームの場合,肩とバットを遅らせてインパクトすることをイメージしやすくなります.このことが大谷選手が4シームなど速球系のボールに強い理由になるのですが,外側から内側に入る角度のある球道では,①中心衝突で左方向に打ち返す,②センター方向に打ち返す,③右方向に打ち返す,のいずれの場合も,球道に対して肩とバットを鋭角に交わらせることをイメージすることが難しくなります.


上図のように,外側から内側に入る角度のあるボールにゴルフスイングで対応する場合,球道と交わる肩,バットとの角度がどうしても大きくなってしまうため,肩を遅らせることも,バットを遅らせることもイメージできなくなり,球道に対して鋭角にインパクトすることが困難になります.4シームのような速球系のボールで角度をつけることは難しいため,右投手のスライダーか,左投手のシンカー(投手の利き腕方向に曲がりながら落ちる球種)が大谷選手を攻略するための球種となります.
右投手のスライダー ※動画は引用元からも観ることができます.
引用元:ベースボール・サバント
引用元:ベースボール・サバント
どちらの動画でも,大谷選手が肩とバットを遅らせてインパクトすることをイメージできず,手打ち気味になっていることがわかります.また,右投手のスライダーで攻略する場合に気をつけなければならないのは,内角のボールゾーンに投げるということです.スライダーの曲りが小さかったり,内角のストライクゾーンに投げると,ホームランにされる確率が高くなります.失投が即ホームランにつながるため,そこまで有効な攻め方とはいえないかもしれません.
左投手のシンカー
引用元:ベースボール・サバント
シンカーとは,投手の利き腕方向に曲がりながら落ちる球種のことをいいます.速球系のボール(4シーム,2シーム,カッター,シンカー)の一つです.動画では落ちるというより浮き上がっているようにも見えます.肩とバットを遅らせてインパクトするという対応ができず,バットが振れていません.右投手のスライダーと同じく,失投が即ホームランにつながる可能性があります.
角度のあるボールは,肩とバットを遅らせて打つことができない
②内側から外側に逃げる球種を投げる
上図のように,内側から外側に逃げる角度のあるボールにゴルフスイングで対応する場合,球道に対して肩,バットが平行に近くなり,交わる角度が小さくなりすぎるため,ボールに力を伝えられる状態でインパクトすることができなくなります.4シームのような速球系のボールで角度をつけることは難しいため,右投手のシンカー(投手の利き腕方向に曲がりながら落ちる球種)か,左投手のスライダーが大谷選手を攻略するための球種となります.


右投手のシンカー
引用元:ベースボール・サバント
右投手で左打者の内側から外側に角度のあるボールを投げるには,投手の利き腕方向に曲がりながら落ちるシンカーがうってつけです.ただし,左投手が投げるスライダーに比べると,ボールの曲りは小さいので,制球に難があるとホームランを打たれることになります.
左投手のスライダー
引用元:ベースボール・サバント
引用元:ベースボール・サバント
左投手であれば,外角のボールゾーンにスライダーを投げておけば,まず打たれることはありません.角度がついたボールのラインに対して,肩とバットが平行に近くなり,ボールを打ち返せるような角度でインパクトできないため,腰が引けて手打ちになっていることがわかります.大谷選手に対する左投手の定番の攻め方になります.
ただし,コントロールミスで真ん中にボールが入ると,ボールの角度が右中間,右方向と捕手を結ぶ球道のラインとなるため,肩とバットを遅らせてインパクトすることが可能になります.
学習能力のない左投手のスライダーの失投の数々
打球初速度:110.7mph,ゾーン:真ん中
引用元:ベースボール・サバント
打球初速度:110.4mph,ゾーン:真ん中
引用元:ベースボール・サバント
打球初速度:112.6mph,ゾーン:真ん中
引用元:ベースボール・サバント
打球初速度:110.9mph,ゾーン:真ん中
引用元:ベースボール・サバント
打球初速度:108.9mph,ゾーン:真ん中低めストライク
引用元:ベースボール・サバント
上に挙げた動画は,いずれも大谷選手にスライダーの失投をホームランにされたものです.外角のボールゾーンにスライダーを投げておけば,まず打たれることはないのですが,真ん中に投げる投手が後を絶ちません.真ん中に入れば曲がった部分の球道のラインは,肩とバットを遅らせて右中間,右方向に打ち返すことができるラインとして認識されるため,ホームランを打たれる可能性が大きくなります.このように失投する投手は必ず出てくるので,本塁打王を目指す大谷選手にとっては好都合な話です.
大谷選手の攻略法のまとめ
大谷選手は右投げ左打ちのため,インパクトのときに,利き腕でボールを押し込めないという重大な欠点をもっています.この欠点をカバーするために,故意に肩とバットを遅らせたゴルフスイングを選択し,インパクト後,手首を返して打っています.ゴルフスイングでは,肩とバットを打ち返す方向に対して鋭角に交わらせることが必要になりますが,鋭角といっても,90°に近すぎると肩とバットを遅らせることができず,右方向に引っかけることになりますし,角度が小さすぎても,打ち返す打球線(弾道)と肩,バットが平行に近くなり,ボールに力を伝えられる状態でインパクトすることができなくなります.
ですから,攻略法としては,肩とバットが打ち返す方向に対して交わる角度が①90°に近くなるか,または,②0°に近くなるようなボールを投げればよいことになります.①外側から内側に食い込む球種を投げる場合は,右投手のスライダー,左投手のシンカー,②内側から外側に逃げる球種を投げる場合は,右投手のシンカー,左投手のスライダーが該当します.
大谷選手のゴルフ打法は,オーソドックスな打法から外れたものであり,本来ならば,村上豊氏が指摘しているように本塁打王が獲れる打ち方ではありません.しかし,今シーズンは相手投手が対策を講じる前に本塁打を量産(オールスター前までに33本)しているので,タイトルを獲れる可能性は残っています.現在,研究されて徐々に打てなくなってはいますが,失投を逃さなければ50本近く打つことも可能と考えられます.
大谷選手の攻略法
- 肩とバットが打ち返す方向に対して交わる角度が,90°に近くなるボールを投げる.
- 肩とバットが打ち返す方向に対して交わる角度が,0°に近くなるボールを投げる.
攻略する際の球種
外側から内側に食い込む球種
- 右投手のスライダー
- 左投手のシンカー
※シンカー:投手の利き腕方向に曲がりながら落ちる球種
内側から外側に逃げる球種
- 右投手のシンカー
- 左投手のスライダー
※シンカー:投手の利き腕方向に曲がりながら落ちる球種