2022年1月1日 投稿
村上豊氏の理論から「空手打法」を解説します.「科学する野球」では,バットの柾目で打つ「空手打法」とスナップを利かせて打つ「スナップ打法」が混同されています.
今回は「空手打法」のみの説明となりますが,目次の3までは「科学する野球」に沿った内容となり,わかりにくく感じる方もいるかもしれません.
わかりにくいと思われた方は,目次の4から読んでいただくことをお勧めします.
バットは柾目で打たなければならない-「空手打法」の根拠
バットは柾目で打たなければならない
吸収エネルギーが大なるほど反撥力が強いという物理から,木製のバットでは図1のように柾目で打ち,図2のように板目で打ってはいけないという原則がありますので,その原則通りに打てるようにするには,バットをどう握ればよいかということが先決で,それから両手の指の握りの関係が決ってくるからなのです.
よく,バットは丸い形状をしているのだから,どこで打っても同じであると思っている方がいますが,それは間違いなのです.
引用元:科学する野球・打撃篇,pp.24-25
木製バットの木目が重なっている点に注目すると,柾目(図1)で打つほうが,板目(図2)で打つよりもボールを強打できることがわかります.

板目で打つと面で力を受ける
図2の板目でボールを打ちますと,第一番目の木目や第二番目の木目はグリップ・エンドにつながっていませんから,打者のグリップからの力が直接かかっていません.打者のグリップからの力が直接働くのは,バットの真ん中のほうの木目ですから,それを取り出してみますと,図3のようになります.これは図4のトンカチの向き,図5の平手打ちと同じで,図6のように面で力を受けます.
引用元:科学する野球・打撃篇,pp.25-26
図2の板目でボールを打つと,打者のグリップからの力が直接働くバットの真ん中の木目(図3)で打つことになるので,ボールを強打することができません.バットの真ん中の木目をトンカチに置き換えると,釘(球道)を強打できないことがわかります(図4).
バットの真ん中の木目を手(ボトムハンド)に置き換えると,平手打ちになり,釘(球道)を強打できないことがわかります(図5)が,逆にいうと空手打ちでないと,ボールを強打できないということになり,このことが空手打法の根拠になっています.


柾目で打つと線で力を受ける
いっぽう,図1の板目でボールを打ちますと,打者のグリップからの力が直接働くバットの真ん中の木目を取り出してみると,図7のようになります.これは図8のトンカチの向き,図9の空手打ちと同じで,こちらは図10のように線で力を受けます.
引用元:科学する野球・打撃篇,p.27
図1の柾目でボールを打つと,打者のグリップからの力が直接働くバットの真ん中の木目(図7)で打つことになるので,ボールを強打することができます.バットの真ん中の木目をトンカチに置き換えると,釘(球道)を強打できることがわかります(図8).
バットの真ん中の木目を手(ボトムハンド)に置き換えると,空手打ちになり,釘(球道)を強打できることがわかります(図9).つまり,空手打ちでないと,ボールを強打できないということになり,このことが空手打法の根拠になっています.


長嶋選手がバットを折っていた理由
この両者を比較して,どちらが強打できるか図11の通り,一枚の板を立てて板目㋑で打つのと,寝かして柾目㋺で打つのとを実際にやってみれば,すぐわかることだと思います.この一枚の板に不要と思われる板を重ね合わせて,丸く削ったのがバットだと思っていただくとどこで打っても同じだと思われないはずです.図12のように,板目でボールを打った瞬間に手首を返してこねると,バットが折れることは容易に理解できると思います.
長嶋さんは現役時代,バッターボックス内で,投手の投球を待つ間バットをクルクル回していましたから,インパクト時点ではどんな木目の向きで打っていたのかと思います.思い出してみますと,王さんはそんなにバットを折っていませんでしたが,長嶋さんはかなりバットを折っていました.長嶋さんはバットの木目に無頓着であったばかりに,バットを折ったり,柾目であればホームランになったものを凡飛にしたりといった損をかなりしたはずです.
ところが,長嶋さんは強打者であったではないか,木目なんか関係ないという方がいます.これは長嶋さんを肯定して,物理を否定する暴言です.打撃成績は相手あってのもので,相対的なものです.物理は絶対なのです.物理に反すれば力をロスするのです.ですから私は長嶋さんがいかに強打者であっても,バットをクルクル回して構えたことは間違っているといっているのです.
バットをクルクル回すことで,グリップにムダな力を入れないようにすることに役立てていたということもおかしいのです.グリップの力を抜くのに,何もそのようなことをしなくてもできるはずです.長嶋さんのしたことは,強打者であったが故に,何でもそれを正当化し肯定しようというのはいけません.
引用元:科学する野球・打撃篇,pp.27-28
「バットは柾目で打たなければボールを強打できない」ということが,まず初めにあり,柾目で打つということは,打者のグリップからの力が直接働くバットの真ん中の木目で打つことを意味します.
バットの真ん中の木目で打つことをトンカチで釘を打つことに置き換えると,トンカチを握る手(トップハンド、ボトムハンドともに)が空手打ちになっていないと,強打できないことがわかります.したがって,バットを握るときは、真ん中の木目でボールを打てるように空手で握らなければならないということになります.これが「空手打法」の根拠です.
長嶋選手はバットの木目に無頓着であったばかりに,かなり損をしたということです.バットの木目を意識して打っているプロ選手がどのくらいいるのかはわかりませんが,プロの強打者であった長嶋選手が木目に対してこの程度の意識しかなかったということであれば,大学,社会人野球ではさらに損をしている選手が多くいるのかもしれません.

「空手打法」のバットの握り方-フックグリップで握る
2022年1月10日 投稿
フックグリップで握らなければならない理由
「バットは柾目で打たなければならない-「空手打法」の根拠」で述べたように、バットは柾目で打たなければボールを強打できないので、バットの真ん中の木目でトンカチで釘を打つようにボールを打たなければなりません。
では、バットの真ん中の木目で強打するためにはどうすればよいかというと、木目が手(指を除く)と平行になるようにバットを握る必要があります。
つまり、バットのマークを上にして真ん中の木目に手(指を除く)を合わせるので、トップハンド(構えで上にくる手)を掌屈(手の平側に曲げる)、ボトムハンド(構えで下にくる手)を背屈(手の甲側に曲げる)して構えることになります。

「科学する野球」では、このトップハンドの掌屈(手の平側に曲げる)と、ボトムハンドの背屈(手の甲側に曲げる)の握りのことを、フックグリップで握ると説明がなされていますが、フックグリップは本来ゴルフ用語であるため、理解しづらくなっている側面があります。

左:トップハンド(構えで上にくる手)は掌屈(手の平側に曲げる)する
右:ボトムハンド(構えで下にくる手)は背屈(手の甲側に曲げる)する。
「科学する野球」では、ゴルフ用語のフックグリップで握ると説明されている
引用元:科学する野球・打撃篇,p.31(左),p.30(右)
「空手打法」のバットの握り方は、上に述べたとおりですが、トップハンド、ボトムハンドの握り方について、「科学する野球」でどのような説明がなされているかを引用しますので、確認していただければと思います。
ボトム・ハンドの握り方
では、どうすれば柾目で打てて、しかも強打できるかというと、図21のようにボトム・ハンドの手と腕を内捻してフック・グリップでバットを握ればよいのです。
まず、図22のようにフック・グリップのボトム・ハンド一本で構えてから、手首を返したりしないで、手の甲を空のほうに向けたままインパクトすると、図23のように柾目で強打することができます。この時の手の使い方は、ちょうどトンカチで釘を打つのに、図24のように手を使うのと同じで強打することができます。この握りのままトンカチから手を放して、指を伸ばしてみますと、フック・グリップで柾目で打つことは図25のようなバック・ハンドの空手打ちを行ったことになります。
引用元:科学する野球・打撃篇,p.32

トンカチを握って試してみてください。スクエア・グリップ(図17)とフック・グリップ(図24)とで横打ち(投手の球は横から飛んできます)をしてみると、フック・グリップでないと強打することができないことがよくわかります。
また、トンカチから手を放して、背面平手打ち(図18)と背面空手打ち(図25)とどちらが強打できますか。それは背面空手打ちに決まっています。
そこで、バットを握るボトム・ハンドは、その手と腕とを内捻し、手の甲をかぶせて握らなければならないということになります。
引用元:科学する野球・打撃篇,p.32


トップ・ハンドの握り方
では、トップ・ハンドはどのように握ればよいのでしょうか。
もちろん、バットを握る前には、バットのマークは上にしておきますが、トップ・ハンドは図26のようにバットのマークの反対側から、その手と腕とを外捻して握ります。外捻したトップ・ハンド一本で図27のように構えてから、インパクトすると図28のように柾目で当ります。この時の手の使い方は、図29のように、トンカチでクギを打つのと同じで強打することができます。この握りのままトンカチを手から放して、指を伸ばしてみると、図30のようにフォア・ハンドの空手打ちを行っています。
引用元:科学する野球・打撃篇,pp.32-33

「フック・グリップで構える」という誤解を生む表現
要するに、柾目でボールを捉え、強打できるグリップは、ボトム・ハンドを内捻し、トップ・ハンドを外捻することによって求められるのです。ボトム・ハンドを内捻し、トップ・ハンドを外捻したフック・グリップで構えますと、図38のように、トップ・ハンドはバットを巻きこんだようになります。このフック・グリップでインパクトしたのが写真10です。ところが、写真11はスクエア・グリップでインパクトしています。どちらが強打者であったかはいうまでもありません。図39は王さんがスランプに陥った時のものです。写真11と同じくスクエア・グリップでインパクトしています。王さんでもこのような手の使い方では球は飛んでくれないのです。
引用元:科学する野球・打撃篇,pp.36-37
「科学する野球」では、ゴルフ用語が使われているため、わかりにくくなっているところが見受けられます。引用 文の中にある「ボトム・ハンドを内捻し、トップ・ハンドを外捻した フック・グリップ で構えます」という内容をそのまま理解しようとすると、混乱することになります。
まず、ボトムハンドを内捻するというのは、構えで下にくる手を内側に捻る(回内する)ということです。構えでボトムハンドを回内するというのは、手の甲を自分のほうに向けようとする動作になります。
また、構えでトップ・ハンドを外捻するというのは、手の平を自分のほうに向けようとする動作になります。構えでこの両手の動作をおこなうと、バットが捕手側に傾き、フライングエルボーにもならず、とても空手打法ができる状態にはなりません。
では、どのように理解すればよいかというと、図21、図26のように、ゴルフのアドレスのようにバットを下げた状態でボトム・ハンドを内捻、トップ・ハンドを外捻し、それから構えるということです。

左:トップハンド(構えで上にくる手)は掌屈(手の平側に曲げる)する
右:ボトムハンド(構えで下にくる手)は背屈(手の甲側に曲げる)する。
「科学する野球」では、ゴルフ用語のフックグリップで握ると説明されている
引用元:科学する野球・打撃篇,p.31(左),p.30(右)
ですから、「ボトム・ハンドを内捻し、トップ・ハンドを外捻したフック・グリップで構える」というのは、正確には「ゴルフの構えでバットをボトム・ハンドを内捻し、トップ・ハンドを外捻したフック・グリップにした後、野球でバットを構える」ということになります。
写真11のスクエア・グリップ、図39の王選手のスクエア・グリップについては、こちらもゴルフのグリップのことで、ゴルフのスクエア・グリップで野球の構えをして打つということです。

引用元:科学する野球・打撃篇,p.36

引用元:科学する野球・打撃篇,p.36

引用元:科学する野球・打撃篇,p.36


「科学する野球」で使われているゴルフ用語-混乱を招く一因
2021年12月11日 投稿
「科学する野球」では,フックグリップ,コック,アンコック,ヒンジといったゴルフ用語が使われています.村上氏はゴルフについての著作もあり,野球のバットの握りや慣性モーメントを小さくする動作を説明するのに,ゴルフ用語を多用しています.
フックグリップ

引用元:http://www.radfordgolf.co.za/common-setup-fault-neutral-strong-or-weak-grip/

フックグリップ(ストロンググリップ)では,スクエアグリップ(ナチュラルグリップ)から,右腕と右手を回外(外側に回す)し,左腕と左手を回内(内側に回す)します.
逆にウィークグリップでは,スクエアグリップ(ナチュラルグリップ)から,右腕と右手を回内(内側に回す)し,左腕と左手を回外(外側に回す)します.
「科学する野球」では,打者のバットの握りをこのゴルフのフックグリップで握るようにとの説明になっています.
画像の引用元:https://golf-score-up.com/correctswing-5/

フックグリップ(ストロンググリップ)でテークバックすると,右打者の場合,トップで左手は背屈(手の甲側に曲げる)しますが,右手は掌屈(手の平側に曲げる)しません.
空手打法を行う際のグリップに近いといえば近いのですが,あくまでもゴルフのトップなので,このゴルフのトップを野球の打者の構えとして認識するのは無理があります.
「科学する野球」のコック
科学する野球・実技篇のp.47にコックとアンコック(コックを解く)を示した図が載っており,「手をコックするというのは,図㉒のように親指の背面のほうに手を折り曲げることをいいます」との説明があります.

コックとヒンジの違い
ところで,このコックについて正しく理解されていない人が見受けられるので,「科学する野球」の打撃篇で述べておいたことですが,さらに説明を加えておきましょう.さて,手をコックするというのは,図㉒のように親指の背面のほうに手を折り曲げることをいいます.図⑳を見ていただきますと,その①は,バットをフックグリップで握ったボトムハンドをコックさせたものであり,その②はフックグリップで握ったトップハンドをコックさせたものであり,その③はフックグリップで握った両手をコックさせたものであるが,なぜこのように手をコックするかというと,図㉑を見ていただくとわかるのだが,トンカチ(金槌)でクギを打つとき,コックして構えた,その①のボトムハンド,その②のトップハンドとも,インパクトでそのコックをアンコック(コックをほどく)してやると,手首を支点にしてテコの作用がはたらき,トンカチの先端のヘッドのスピードが増幅されて,強打することができるからなのです.
引用元:科学する野球・実技篇,pp.46-47
引用文に書いてあることを簡単にまとめると,構えでトップハンドとボトムハンドをコックしておくと,トップハンドが掌屈,ボトムハンドが背屈されるので,インパクトでアンコック(コックをほどく)すると,スナップを利かせて強打できるということです.
コックすると,本当にトップハンドが掌屈,ボトムハンドが背屈されるのかを確認します.

図20-①は,バットをフックグリップで握ったボトムハンドをコックさせたもの
コックするというのは,図㉒のように親指の背面のほうに手を折り曲げることをいう.
ボトムハンドを,親指の背面のほうに手を折り曲げると,背屈は大きくなるが,バットのヘッドが下がるのでバットは寝た状態になる.
バットが寝るので,図のような構えにはならない.

図20-②は,フックグリップで握ったトップハンドをコックさせたもの
コックするというのは,図㉒のように親指の背面のほうに手を折り曲げることをいう.
トップハンドを,親指の背面のほうに手を折り曲げると,掌屈が少し大きくなるかもしれないが,バットのヘッドが下がるのでバットは寝た状態になる.
バットが寝るので肘が横に張らず,フライングエルボーにはならない.
図のような構えにはならないはず.

図20-③は,フックグリップで握った両手をコックさせたもの
両手をコック(親指の背面のほうに手を折り曲げる)して,トップハンドが掌屈,ボトムハンドが背屈されたとしても,バットは寝るはずなので,図のような構えにはならない.
トップハンドをコックすると,脇が締まりフライングエルボーで構えることができない.
「科学する野球」では,トップハンドを掌屈,ボトムハンドを背屈する方法として,ゴルフ用語のコックを使ってますが,コック動作は実際の野球の構えにはなじみません.
ゴルフ用語を使わずに,単に「トップハンドを掌屈,ボトムハンドを背屈して構える」とした方が,わかりやすいといえます.
「科学する野球」のヒンジ
ヒンジが説明されている箇所を引用します.
このように,王さんのようなホームランバッターでも,トップハンドをヒンジすると,打てなくなるのですが,このヒンジ(図㉖)というのは,蝶番のように,手を背屈(手の甲のほうに手を曲げる),あるいは,掌屈(たなごごろのほうに手を曲げる)する動作で,写真⑰,⑱を見ると,王さんのトップハンドは背屈のヒンジを行っています.
引用元:科学する野球・実技篇,pp.51-52
ヒンジ(hinge)は蝶番(ちょうつがい)という意味で,蝶番の動きとなるので掌屈,背屈どちらも該当します.しかし,スナップ打法を行うためにはトップハンドを掌屈,ボトムハンドを背屈することが必要になるので,トップハンドを背屈,ボトムハンドを掌屈するヒンジはNGとなります.


王選手はトップハンドを背屈するヒンジを行っているので,悪い打ち方になっています.
ゴルフのコックとヒンジ
「科学する野球」でのコック,ヒンジはゴルフ用語として使われているので,意味は同じかと思いますが,念のためゴルフサイトで確認します.
ゴルフのサイトでは,
- コック:手首を親指側(縦方向)に折る動き
- ヒンジ:手首を右手の甲側(横方向)に折る動き(右打ちの場合)
となっています.
他のサイトでは,
- 「コック」とは、一般的に親指方向に手首を折る動きのこと
- 右利きの場合、右手の甲側に手首を折ることを「ヒンジ」ということがあります
となっています.
ヒンジ(hinge)とは蝶番(ちょうつがい)と言う意味で,戸が蝶番で動くように手首を折る動作を表しているようです.

https://sports.dunlop.co.jp/golfschool/updates/detail/20200816214502.html

https://sports.dunlop.co.jp/golfschool/updates/detail/20200816214502.html
「科学する野球」では,ゴルフ用語が多用されていますが,必ずゴルフで理解しなければならないということではありません.ゴルフ用語が入ることで,かえってわかりにくくなっている側面があるので,わかりやすいことばに置き換えて理解してください.
「空手打法」で打つにはどうすればよいのか?
バットの真ん中の板目と手を平行にして打つだけ
これまで「科学する野球」の内容にしたがって,「空手打法」を説明してきましたが、ゴルフ用語が入っていることもあり、わかりにくく難解に感じている方もいるかと思います.
そのような方は今までの内容は忘れていただいて結構ですので,次の画像で直感的に理解してください.


上図のように,「空手打法」ではトンカチとトンカチを持つ手は平行になります.この平行になるという点について「科学する野球」に記述はありませんが,このようにトンカチを握らないとクギを強く打つことはできません.
右(下)のイラストではトンカチとトンカチを持つ手は平行になっていませんが,これではクギを強く打てません.


バットの真ん中の板目と手が平行になるように握るのが,「空手打法」の握り方になります.右(下)のイラストではバットの真ん中の板目とバットを持つ手は平行になっていませんが,これではボールを強打できません.

上図のように,「空手打法」で打つには,バットの真ん中の板目とトップハンド(バットを握ったときに上に来る手)側の手が平行になるように握らなければなりません.
ボールの軌道は下向きになるので,軌道に合わせてバットのスイングは多少上向きになります.テッド・ウイリアムズ選手が提唱するアップスイングとなり,スイングに合わせてバットの真ん中の板目とトップハンドも多少上向きになります.
ボトムハンド(バットを握ったときに下に来る手)の手については,バットの真ん中の板目と平行にすることは特に意識しなくてもよいかと思います.
理由としては,ボトムハンドを空手で握るのが難しいという点が一つ,あとはインパクトでボールを押し込むのは後ろ腕(利き腕)で,前腕はボールにコンタクトする舵取りの役割を担っているという考え方ができるからです.

引用元:https://www.cleveland.com/ohio-sports-blog/2010/07/alex_rodriguez_will_try_to_hit.html

引用元:https://full-count.jp/2019/01/14/post280527/
「空手打法」についてまとめると,次のようになります.
- バットの真ん中の板目とトップハンド側の手が平行になるようにバットを握る
- ボトムハンド側の手は,インパクトするまでの舵取りの役割を担っている側面がある
- インパクト後,実際にボールを押し込むの力は前腕よりも後ろ腕の強い強い
- ボトムハンド側の手は,バットの真ん中の板目と平行にしなくてもよく,自分が持ちやすい握り方にしてよい
- バットの真ん中の板目とトップハンド側の手は,アップスイングの軌道に合わせるため,少し上向きになる
- バットの真ん中の板目とトップハンド側の手は,スイングの軌道に合わせるが,打球の軌道と一致しなくてもよい
簡単にいうと,空手打法とはバットの柾目で打つ打法のことで,そのためにはトップハンド側の手をバットの柾目と平行に握らなければならないということです.
「科学する野球」では,「フックグリップで握る」という表現が多く使われますが,ゴルフ用語を使わずに「バットの真ん中の板目と手を平行に握る」とした方が,わかりやすくなります.
「空手打法」の正体
ボトムハンドは空手で握らなくてもよい
「科学する野球」の「空手打法」の握り方である「フック・グリップ」を再度とりあげます.

左:トップハンド(構えで上にくる手)は掌屈(手の平側に曲げる)する
右:ボトムハンド(構えで下にくる手)は背屈(手の甲側に曲げる)する。
「科学する野球」では、ゴルフ用語のフックグリップで握ると説明されている
引用元:科学する野球・打撃篇,p.31(左),p.30(右)
上図のようにゴルフの構えでは,ゴルフクラブと同じようにフック・グリップでバットを握ることは可能です.
しかし,このグリップを崩さないまま野球でバットを構えると,トップハンドはフック・グリップで握ることができても,ボトムハンドはフック・グリップで握ることができません.
空手打法ではバットの板目と手が平行になるので,トップハンドは板目と平行に握ることができますが,ボトムハンドは板目と平行に握ることができないということです.
もし,ボトムハンドをフック・グリップで握ろうとすれば,ボトムハンド側の肘を捕手側に近づけなければなりませんが,いくら近付けてもフック・グリップにはなりません.非常に窮屈な構えに
ですから,柾目で打つためには,ボトムハンドをではなく,トップハンド(構えたときに上側にくる)を板目と平行に握ることが必要になります.
トップハンドを巻き込むように握る必要はない
ハンク・アーロンのグリップ
フック・グリップというゴルフ用語を使うとどうしてもわかりにくくなる部分があるため,ここからはなるべくゴルフ用語なしで説明します.

引用元:https://tomahawktake.com/2020/04/26/atlanta-braves-top-outfielder-hank-aaron/
ハンク・アーロン選手のグリップには次の特徴があります.
- トップハンドがバットの板目と平行になっている(想定)
- ボトムハンドはバットの板目と平行になっていない
- トップハンドが掌屈(手の平側に曲がる)して,巻き込むような握りになっている
ハンク・アーロン選手のトップハンドのグリップは,「科学する野球」の空手打法と同じ握りになります。つまり、「科学する野球」の「トップハンドをフック・グリップで握る」は,「板目と平行に握る」と「巻き込むように握る」の2つを含みます.
ケン・グリフィー・ジュニアのグリップ

引用元:https://thespun.com/more/mlb/ken-griffey-jr-names-toughest-pitcher-he-ever-faced
ハンク・アーロン選手のグリップには次の特徴があります.
- トップハンドがバットの板目と平行になっている(想定)
- ボトムハンドはバットの板目と平行になっていない
- トップハンドが背屈(手の甲側に曲がる)している
デビッド・オルティーズのグリップ

引用元:https://www.hitterish.com/single-post/how-to-grip-a-baseball-bat
デビット・オルティーズ選手のグリップには次の特徴があります.
- トップハンドがバットの板目と平行になっている(想定)
- ボトムハンドはバットの板目と平行になっていない
- トップハンドが掌屈(手の平側に曲がる)も背屈(手の甲側に曲がる)もしておらず,手と前腕がまっすぐになっている
アーロン,グリフィー,オルティーズ3選手は,トップハンドをバットの板目と平行に握っていると仮定します.そうすると,ボトムハンドは3選手ともバットの板目と平行に握っていないことがわかります.
インパクト後,ボールを押し込むのは後ろ腕で,前腕はボールをコンタクトする舵取りの役割を担っていると考えられるため,ボトムハンドは持ちやすいように握ってよいことになります.
トップハンドは,掌屈して巻き込むように握るアーロン選手,背屈して握るグリフィー選手,掌屈も背屈もせずに握るオルティーズ選手というように三者三様です.
重要なのはインパクトのときにトップハンドがバットの板目と平行になっているか,スイングの軌道がバットの真ん中の板目と一致しているかということです.なぜならボールを強打できないからです.
つまり,トップハンドをバットの板目と平行に握ることができていれば,インパクトでボールを強打することが可能になるので,トップハンドは巻き込むように握っても,どのように握っても構わないということです.
アーロン選手のように巻き込むように握ってもよいし,グリフィー,オルティーズ選手のように握ってもよいし,打者が握りやすいように握ればよいということになります.
簡単にいうと,空手打法とは「トップハンドをスイングの軌道に合わせて打つ打法」です.スイングの軌道に合わせるとは,トップハンドとバットの真ん中の板目を平行にすることです.
アップスイングであれば,トップハンドは少し上向きになります.ボトムハンドはどのように握っても構いません.
これが「科学する野球」の空手打法とは何かという問いに対する最終回答となります.