バックスイングからフォワードスイングに移るときに必要となる重要な動作「後ろ肘のかい込み」について,解説します.
後ろ肘をかい込む方法
サイドハンドでカーブを投げるようにバットを振る
脇を締めてバットをタメるには,後ろヒジのかい込みが必要となります.「科学する野球」で後ろヒジのかい込みについて書かれている部分を引用します.
後ろヒジのかい込み
前述の通り,バックスイングからフォワードスイングに移るときに,体の後ろサイドに張りをいれるのは打者も投手と同じで,このあと,投手は投球腕のヒジを,ボールを握っている手より先行させ,ボールを後ろにタメて,フォワードスイングに移るのだが,打者もバットを後ろにタメるのに,写真87のように,投球腕に当たる後ろ腕(トップハンド側の腕)のヒジをトップハンドよりも先行させて,フォワードスイングに移ります.この後ろヒジの動きは,投手がサイドスローで投げるときと同じであり,トップハンドの動きは,投手がサイドハンドでカーブを投げるときと同じです.ですから,打者は,前足をステップして,体の後ろサイドに張りをいれた後は,実際には投げないのだけれども,バットをサイドハンドでカーブをかけるように投げるような気持ちで,後ろ腕のヒジと手(トップハンド)を使って,フォワードスイングに移ればよいわけです.このようにして,後ろヒジをトップハンドよりも先行させヘソの前までかい込むと,後ろ脇が自然に締まります.この後ろ脇の締まりはインパクトの時点まで継続されるから,後ろ腕はボディとワンピースとなって打つことができます.
引用元:科学する野球・実践篇,pp.201-202
引用文で使われている「かい込み(掻い込み)」とは,「わきの下に抱え込む」という意味です.
引用文の内容をまとめると,次のようになります.
投手がバックスイングからフォワードスイングに移るとき
- 投球腕のヒジを,ボールを握っている手より先行させ,ボールを後ろにタメて,フォワードスイングに移る
打者がバックスイングからフォワードスイングに移るとき
- 投球腕に当たる後ろ腕(トップハンド側の腕)のヒジをトップハンドよりも先行させて,フォワードスイングに移る
- 後ろヒジの動きは,投手がサイドスローで投げるときと同じ
- バットをサイドハンドでカーブをかけるように投げるような気持ちで,後ろ腕のヒジと手(トップハンド)を使って,フォワードスイングに移ればよい

後ろヒジをかい込む動作
- 後ろ腕(トップハンド側の腕)の肘をトップハンドよりも先行させている
- バットをサイドハンドでカーブを投げるように振る
- 脇が締まり,肘が先行してバットが後ろにタメられている
引用元:科学する野球・実践篇,p.202
壁際の素振り
村上豊氏は,後ろ肘のかい込みを行うための練習方法として,壁際の素振りを勧めています.
そこで,図132のように,壁に正対して立ち,バットを構えてください.壁との距離はバットの長さとします.そして,この壁にバットの先が当たらないように,勢いよくスイングしてみましょう.どうですか,壁に当てないでバットを振り抜くことができますか.できなければ次の要領でやってみてください.
(1)ステップした前足(脚)を捻りの軸とし,前腰に捻りをいれるために肩を回す.
(2)このとき,後ろヒジをトップハンドよりも先行させ,ヘソの前にかいこみ,バットを後ろ
にタメ, バットを体に近づける
(3)トップハンドをサイドスローでカーブを投げるように動かして,後ろ腕を伸ばす.それと
ともに,ボトムハンドの手の甲を空のほうに向けたまま,ボトムハンド側の腕を伸ばす.それでもまで壁に当たるというのならば,それはグリップが正しくないからです.正しいグリップとは,既に述べておいたと通りフックグリップで,前述の要領の第3項の手や腕の動かし方は,このフックグリップを前提にしており,トップハンド側の手や腕は,フォアハンドの空手打ちを,ボトムハンド側の手や腕は,バックハンドの空手打ちを行っているのです.
引用元:科学する野球・実践篇,pp.202-204

壁際の素振り
- 壁に正対してバットを構える
- 壁との距離はバットの長さとする
- 壁にバットの先が当たらないように,勢いよくスイングする
壁に当たる場合
- 後ろ肘をトップハンドよりも先行させ,ヘソの前にかいこむ
- トップハンドをサイドスローでカーブを投げるように動かして,後ろ腕を伸ばす.
- ボトムハンドの手の甲を空のほうに向けたまま,ボトムハンド側の腕を伸ばす
引用元:科学する野球・実践篇,p.203
この壁際の素振りについては,怪我をする可能性があるため,あまりお勧めしません.
引用文には,かい込みを行う際にフックグリップが前提となり,トップハンド側の手や腕は,フォアハンドの空手打ちを,ボトムハンド側の手や腕は,バックハンドの空手打ちを行うと説明されています.
ゴルフ用語が入っているのでわかりにくくなっていますが,トップハンドは掌屈(手の平側に曲げる),ボトムハンドは背屈(手の甲側に曲げる)してバットを握るということです.
フック・グリップで構えると脇が締まる(興味のある方はお読みください)
脇は締めるのではなく,空手打ちで締まる
「科学する野球」では,空手打法,フックグリップ,トップハンドの掌屈,ボトムハンドの背屈などの関係が意味的に統合されていないので,わかりにくくなっているところがあります.
「科学する野球」の実践篇に「脇は締めるのではなく,空手打ちで締まる」という記事がありますので,紹介します.
脇は締めるのではなく,空手打ちで締まる
このように,脇が空いてはいけないといって,バッティングのはじめから終わりまで脇を締めさせると,手や腕は自由に使えないし,肩にも力が入ってしまい,バッティングになりません.ところが,図127,128のように,インパクトで両脇が締まるのは,トップハンド側の手と腕は外捻し,ボトムハンド側の手と腕は内捻しているからなのです.このようにインパクトで両脇が締まると,手や腕はボディとワン・ピース(一体化)となり,インパクトでの衝撃をはねかえして強打することができます.意識して両脇をことさらに締めてみると,肩に力が入り,手や腕の力が分散して強打することができません.
引用元:科学する野球・実践篇,pp.193-194

引用文の中に,「図127,128のように,インパクトで両脇が締まるのは,トップハンド側の手と腕は外捻し,ボトムハンド側の手と腕は内捻しているからなのです」とありますが,外捻とは回外のことで,手の平が上を向くように回すことで,内捻とは回内のことで,手の甲が上を向くように回すことです.

引用文の黄色マーカー
後ろ肘のかい込みを行うときに,
- トップハンド側の前腕と手が回外
- ボトムハンド側の前腕と手が回内
しないと,脇は締まらない.
引用元:https://www.study-channel.com/2015/06/ROM-upper-limbs.html
そこで,脇は締めるのではなく,締まるのでなければならないのだが,それには構えのときのバットの握り方が重要で,この点からも,バットを雨傘をさすような感じで握ってはならないのです.インパクトで両脇が締まるのは, 図127,128のように 空手で打っているからで,そのためにはバットをフック・グリップ(写真80)で握らなければならないのです.
引用元:科学する野球・実践篇,p.194
上の引用文では
- フック・グリップで握るから空手打ちができる
- 空手で打っているからインパクトで両脇が締まる
ということが書かれています.
フック・グリップで握るから空手打ちができる
フック・グリップで握るとは,図80のようにゴルフのアドレスでバットを握ることをいいます.このとき,トップハンドをバットの真ん中の板目と平行になるように握ると空手で打つことが可能になります.
図80ではトップハンド,ボトムハンドともにバットの真ん中の板目と平行になるように握ることができますが,このフック・グリップの握りを崩さずに構えるには,剣道の構えでバットを構えなければなりません.

しかし,肘を横に張らない剣道の構えではボールを強打できないので,トップハンド側の肘は横に張り出してフライングエルボーで構える必要があります.
フライングエルボーで構えると,剣道の構えでバットの真ん中の板目と平行になっていた手の握りが崩れ,トップハンドを板目と平行にすると,ボトムハンドは板目と平行には握れなくなります.
空手打ちは後ろ腕で行うので,トップハンドを板目と平行に握っていれば空手打ちは可能ではあります.
空手で打っているからインパクトで両脇が締まる
「科学する野球」では,空手で打つということを,「トップハンドをバットの真ん中の板目と平行に握って打つ」という意味ではなく,「トップハンドを掌屈,ボトムハンドを背屈して打つ」という意味で使っています.
確かに,バックスイングからトップハンドを掌屈,ボトムハンドを背屈すれば,後ろ肘をかい込むことができるので脇が締まり,肘を先行させてバットのタメをつくることができます.
しかし,トップハンドを掌屈すると,「スナップ打法」となり,「空手打法」で打ちづらくなるため,「空手打法」で打つことを優先するならば,トップハンドは掌屈も背屈もしない握りにしておく必要があります.
非常に面倒な内容になっていますので,興味のある方は,
「科学する野球」「空手打法」を徹底解説
バッティングでスナップを利かせる方法-空手打法との違いを解説
をご覧ください.
後ろ肘をかい込むもう一つの方法
トップハンドを掌屈する
引用文では,トップハンドをサイドスローでカーブを投げるように打つことが,後ろ肘をかい込みするための正しい動作とされていますが,トップハンドを掌屈して後ろ肘をかい込む方法もあります.

掌屈とは上図のように,手を手の平側に曲げることをいうので,トップハンドを巻き込むようにバットを握ります.バックスイングからトップハンドを掌屈すると,肘が先行してバットを後ろにタメることができます.

テッド・ウイリアムズ選手のかい込み
- テッド・ウイリアムズ選手は,顔が投手の方を向き,肩も回って投手にほぼ正対しているが,バットは後ろにタメられている
- テッド・ウイリアムズ選手のトップハンドは少し掌屈しているか,掌屈も背屈もしていないように見える
- トップハンドを掌屈(手の平側に曲げる)すると,バットを体に巻き付けてタメをつくることができる
- トップハンドが背屈(手の甲側に曲げる)すると,バットが体から離れ,バットのタメはなくなる
引用元:科学する野球・打撃篇,p.76
パワーヒッターのかい込み

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=7xgig_Fo1hQ&t=1s

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=bOqekzrbnlE
動画では手元がぼやけてはっきりとは確認できませんが,ジャッジ,ゲレーロ両選手ともにトップハンドの背屈はしていないようです.しかし,掌屈しているようにも見えません.
他の選手の動画も観ましたが,はっきりとトップハンドを掌屈している選手は確認できませんでした.おそらく,バックスイングからトップハンドを掌屈してフォワードスイングに入ると,「スナップ打法」となり,「空手打法」で打つことが難しくなることが理由として考えられます.
空手打法で打つためにはトップハンドは掌屈も背屈もしていない方がよく,ほとんどの選手は空手打法(完璧に打てているかは別)で打っているため,トップハンドを掌屈して後ろ肘のかい込みをしている選手はほ見当りません.
後ろ肘をかい込む際には,トップハンドの掌屈は意識せず,村上氏の説明のとおり,サイドスローでカーブを投げるようにバットを振ることをお勧めします.
フライングエルボーにしておくと,後ろ肘をかい込みしやすくなる
後ろ肘をかい込む動作では,肘を先行させますが,肘を先行させるためにはフライングエルボーにしておく必要があります.
フライングエルボーにしておくと,ヒッチ動作の反動を利用して肘を先行させやすくなるためです.肘が張っていない構えから後ろ肘をかい込みしても,力強い肘の先行にはならないことは容易に想像がつくことです.