グリップの位置

グリップの位置が体から離れるとアウトサイド・インのスイングになる

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.131

 アウトサイド・インとかインサイド・アウトとかいった用語は,もともとゴルフで使われているもので,一般にベースボール・マンには馴染みのない用語ですので,まず用語の解説から致しましょう.
 図118をみてください.投球線はホームページのどこを通ってもいいのだが,説明上ホームベースの真ん中に描きました.
 さて,アウトサイドとは打者からみて,投球側の向こう側・外側をアウトサイドといい,インサイドとは投球側の内側をインサイドといいます.
 それでは,アウトサイド・インに振ることはどういうことかというと,バットの振り出し位置は常にインサイドにあるが,この位置からバットを振り出して,インパクトに向かって振られるバットの先の軌道が,図119のようにアウトサイドに出て,それからインサイドの方に向かうのをアウトサイド・インといいます.

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, pp.130-131

 図118,119の説明は,「バットの振り出し位置は常にインサイドにある」という前提で行われています.しかし,バットの振り出し位置 が体から離れるとグリップの位置が前方に出てしまうため, インサイド・アウトに振ることができなくなります.つまり,投球線の外側から内側に向かうアウトサイド・インのスイングになるということです.

ドア・スイングになると,バットをタメて打つことができない

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.136

 それでは,私がいけないというドア・スイングとは何かというと,図123の③のように,方の開きと同時に並行してバットを振ることで,あたかも図123の①のように,体とバットとが一枚のドアの中に収納されている状態になっているので,このドアを押しあけると,バットと肩の線は常に平行して回るわけで,こういうスイングをドア・スイングと呼んでいます.
 このようなドア・スイングはなぜいけないのかというと,次に述べるバットを後ろにタメて打つことができないからなのです.
 次頁図124のティー・バッティングを見てください.図123の①のようなドア・スイングと同じ動作をしています.ゴルフの味を覚えて,図124のような動作でティー・バッティングを繰り返して楽しんでいると,本番のバッティング写真48で図123の③のような悪いドア・スイングをするようになるから,ティー・バッティングはやらないことです.

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.137

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.138
引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.138

 バットをタメて打つことは,バッティングにとって非常に重要なことなのです.
 運動体であるバットの撃芯に与えられる力(f)は,バットの質量(m)はその打者なりに一定しているから,加速度(a)を大きくすればするほど大きくなることは,今までに述べた通りで,この加速度を大きくするには,体の捻りを先行させてバットを後ろにタメなければならないからです.
 写真49のように,後ろにタメられたバットは,先行した前腰の捻りから,前肩,前腕を通じて振り出されてくるので加速度を上げることができるのです.前述の図123の③のようなドア・スイングでは,バットが後ろにタメられていないから,加速度を上げることができません.

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.139

 大谷選手のようにグリップを体から離して構える選手では,グリップが投球線の外側に出るためアウトサイド・インのスイングになります.特に内角,外角のボールを打つときにグリップが手元になくワキが空くため,肘を先行させてバットを後ろに残すことができなくなります.結果として,図124 のようにバットと肩の線が平行に回るドア・スイングになります.バットを後ろにタメて打つことができないため,ボールを強打できません.
 打席のポジションにもよりますが,右打者の場合,真ん中あたりのボールをセンター方向,右中間方向に打つ返すバットの軌道では,グリップの位置が投球線の外側にあってもアウトサイド・インのスイングになりにくいため,比較的長打が出やすくなります.大谷選手が センター方向,左中間方向に 長打が多いのはこの理由によります.

グリップは打ち出しの位置に低く構える

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.88
引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.89

 写真25のように,手や腕に捻りをいれないで,傘を差すような構えをしたり, 写真24のように後ろ肩よりバットを高く構えたりするのは,ダウンスイング論者の説く構えですが,後ろ腰と手・腕とが一体化して捻られていないので,フォワードスイングで腰の捻りで打つことができません.また写真26のようにグリップを体の前に突き出して構えるのもいけません.
 とくに,後ろ肩よりバットを高く構えるために,手や腕をあげますと手や腕をあげただけで重心が上にきます.ダウンスイングを行うために,上にあげた手や腕を斜め下に振り下ろすと,上に上がっていた重心が下に下がるから,重心の上下動を起こし,体の芯(重心)を止めて腰を捻ることになりません.
 
引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.88,90

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.91

 また,図86を見ていただくとわかる通り,バットを高く構えた㋑のダウンスイングとバットを低く構えた㋺の空手打法とでは,グリップは㋑が三角形の斜辺上を通るから,グリップの移動に要する時間は㋑のほうが大であることがわかります.したがってバットを高く構えることは損な動作なのです.

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.90

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.92
引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.93

 昨今のアメリカの大リーガーでも,白人選手たちは写真28・29のように,ボトム・ハンドを内側に捻らないでバットを高く構えて,胸の前を窮屈につまらせていますが,いっぽう黒人選手たちは写真30のように,ボトム・ハンドを内捻し,バットを低く構えて,胸の前をゆったりとあけています.最近,白人選手が黒人選手に押されているが,この構え方の違いを見ると,押されて当然だと思います.

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.90

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.94

 日本でも,これはという強打者は写真31のように,みんな低く構えていました.ダウンスイングは構え方ひとつをとっても間違っています.少年時代から,物理に反したダウンスイングが正しいバッティングであると教えこまれると,手首を返して打つのが正しい打ち方だと思い込んでいるのを洗脳するのに時間がかかるのと同じく,その二の舞を踏むことになります.

引用元: 村上豊(1985):科学する野球 (打撃篇) ,ベースボールマガジン社, p.90,95

 MLBに比べるとNPBでは,グリップを体から離して高く構える選手が多いようです.日本人選手がMLBで活躍できない一因になっていると考えられます.大谷選手はグリップを体から離して高く構え,そのまま背番号が見えるくらいまで肩を回します.肩を回すとグリップが投球線よりも内側に入ってインサイド・アウトに打つことができると考える方がいるかもしれませんが,捕手側にグリップの位置が移動するため,スイングに入るときにグリップの移動に要する時間がますますかかります.
 また,大谷選手はバックスイングで肩を回してもグリップと体の位置は離れたままであるため,ワキが空き,肘を先行させてバットを後ろに残すことができなくなります.この傾向はグリップが捕手側に離れるほど大きくなりますから,結果として,両肩を結ぶ線とバットが平行に回るドア・スイングになります.インパクトに向けて肩を回しても,バットを後ろに残し,スイングのタメを作る形をとれないため,ボールを強打することはできません.