フライング・エルボー

 「科学する野球」の著者である村上豊氏は,ボールを強打するために欠かせないバックスイング動作についても解説しています.

写真10 引用元: 村上豊(1987):科学する野球
(実技篇) ,ベースボールマガジン社, p.30   

構えでなぜ後ろ肘をフライング・エルボーにするのか
 この写真⑩のバットの構え方を見ますと,後ろ肘を後ろ横に張って,フライング・エルボーにしていますが,このように後ろワキをあけてもよいものかと思われる人がいるのではないでしょうか.
 そのように思われる人は,多分,脇は締めて打たなければならないのだから,構えのときから脇は締めておかなければいけないと思われているのに違いないと思われます.
 ワキは締めるのではなく,空手打ちを行うことにより締まるのでなければならないのですが,トップハンド側の手と腕の空手打ちは,手より後ろヒジを先行させなければなりません.それには,後ろヒジを構えたときから フライング・エルボーにしておかなければなりません.フライング・エルボー にしないで,後ろヒジを後ろワキ腹にくっつけて構えると,後ろヒジを自由に使うことができないので,後ろヒジより手を先行させて手振りすることになり,空手打ちができなくなります.
 バース選手の打撃動作を見ていただくと,フライング・エルボーの後ろヒジをいかに上うまく使っているかがよくわかると思います.この後ろヒジの使い方を外人特有の動作だといって,わけもなくこのマネをしてはいけないという人がいますが,こういう人は,ただワキを締めて打たなければならないと思い込んでいるだけで,いつ,何のためにワキが締まっていなければならないかという理屈を知っていないものですから,構えのときから後ろワキを締めるために,後ろヒジを後ろワキ腹にくっつけるのが,正しいと思っているようです.
 このように,後ろヒジを後ろワキ腹につけたままですと,後ろヒジを自由に使うかとができません.後ろヒジを使うことができないと,手を使わざるを得なくなりますから,構えからバックスイングに移るのに,手から動かさざるを得なくなります.手から動かすと,手から戻しますから,バックスイングからフォワードスイングへは手振りにならざるを得ません.このような手振りをしないようにするには,後ろヒジを手より先行させて使わなければならないが,それには手を動かさないで,後ろヒジから戻すことがキー・ポイントで,そのためには後ろヒジを自由に使えるように,構えのときから後ろヒジをフライング・エルボーにしておかなければならないということになります.バットを体の前に構えることの非を早く悟ってほしいものです.

引用元:村上豊(1987):科学する野球(実技篇) ,ベースボールマガジン社,pp.30-32,pp.42-43 から抜粋. 

 今ではNPBの選手にも後ろ肘をフライング・エルボーにする選手がみられるようになりましたが,当時は掛布雅之選手のように脇を締めて,バットを体の前に構える選手が多くいました.村上氏はそのような構えでは手から始動するため肘を先行させて打つことができないので,写真10のように後ろ肘をフライング・エルボーにしなければならないとしています.
 また,手から動かすと後ろ脚の膝を曲げて体重移動するため,重心が上下動して視線がブレ,ミートが不正確になることも指摘しています. 写真10の構えではステップするために前足は上がるものの,後ろ肘を上げる動作から入るため,上下動は抑えられます.

バットを体の前に構え ,フライング・エルボーにせず,バックスイングを行う掛布雅之選手.
引用元:村上豊(1987):科学する野球(実技篇) ,ベースボールマガジン社,p.32     

 NPBの選手がフライング・エルボーの構えに移行していることはよいことなのですが,大谷選手を含めて,バース選手のような反動を利用するバックスイングができていないことは残念なところです.日本人野手がMLBで活躍できない一因となっています.

後ろ肘をフライング・エルボーにして,ランディ・バースと同じバックスイングを行うバリー・ボンズ.                                 引用元:YouTube
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