「グリーン・モンスター越え」= 「特大ホームラン」という誤解

 大谷選手が右手一本でグリーンモンスター越えのホームランを打てた理由 のなかで,ホームランの飛距離370フィート(約113m)が,今季14号のうち13番目の飛距離であることに言及しました.どのくらいの飛距離で巨大なフェンスを越えているのかを調べます.

「グリーン・モンスター」が作られた経緯

 「グリーン・モンスター」が作られた経緯を知るために,球場「フェンウェイ・パーク」についてウィキペディアより引用します.

フェンウェイ・パーク

フィールドの特徴

市内の限られた沼地に建てられたため、変則的な形状となっている。建設当時(1910年代)は、都市部の狭い空き地に建てられるこのような変則的形状の球場はごく当たり前であった。

本塁から左翼までが310フィート(約94.5メートル)しかない。さらに左中間が膨らまず、直線的に延びているため、プロの使用する球場としては極めて浅い。そこで容易に本塁打が出るのを防ぐため高さ37フィート(約11.3メートル)の巨大なフェンスが設置され、当初は広告で覆われていたが1947年にグリーンに塗られた。このフェンスは通称グリーン・モンスターGreen Monster)と呼ばれている。しかし、高く上がったフライは結局はフェンスを越えてしまう。また本来ならフライアウトになるような打球もグリーン・モンスターに当たってヒットになってしまうため、フライ系の打球が多い右打者には非常に有利となっている。グリーン・モンスターのすぐ後方には道路と建物があるため、フィールドはこれ以上拡張できない。グリーン・モンスター下部のスコアボード表示部を打球が突き抜けた場合は、打球がバウンドしたか否かを問わずグラウンドルールにより二塁打(2個の安全進塁権)となる。

左中間とは対照的に右中間は深くなっている。ただ、右翼はフェンスが低い(1メートル未満の部分もある)上、スタンドが張り出しているため右翼線は302フィート(約92.0メートル)と左翼より狭いので、ライナー性の当たりが本塁打になりやすい。この点は左翼とは対照的である。中堅は最深部が420フィート(約128.0メートル)と深く、そのフィールドの形からザ・トライアングルThe Triangle)とも呼ばれる。

以上のように「左翼が狭く中堅・右翼が広い」という特徴を持つ。またファウルグラウンドが非常に狭いので、邪飛によるアウトの機会が少ない。さらにこの球場の持つ要素として、建設された年代によるものかデーゲームにおいて外野手から本塁方向の上空を仰ぎ見た場合、飛球を追う際太陽が視界に入りやすく、ボールを見失うケースが少なからず見受けられることが挙げられる。このように、全体的には投手より打者の方が有利(いわゆる「打高投低」)な球場となっている。

引用元:ウィキペディア

 引用文によると,左翼までが310フィート(約94.5メートル)しかないため,容易に本塁打が出るのを防ぐため高さ37フィート(約11.3メートル)の巨大なフェンス「グリーン・モンスター」が設置されたとのことです.
 「高く上がったフライは結局はフェンスを越えてしまう。また本来ならフライアウトになるような打球もグリーンモンスターに当たってヒットになってしまうため、フライ系の打球が多い右打者には非常に有利となっている」という記述から,「グリーン・モンスター」を越えても飛距離が出ているとは限らないということがわかります.

グリーン・モンスター越えの本塁打はどのくらい出ているのか?

フェンウェイ・パークでグリーン・モンスターを越えた本塁打76本の分布図
※2019年,右打者,Batted Ball Direction:pull で検索.
※Batted Ball Direction:Straightaway で検索すると,センター方向の本塁打も含まれるため,グリーン・モンスター越えの本塁打数は少し増えます.
引用元:ベースボール・サバント

 2019年にフェンウェイ・パークで右打者が左方向に打ったグリーン・モンスター越えの本塁打数は,76本となっています.76本の本塁打のうち最も飛距離の短い本塁打は,332フィート(約101メートル)で,100mを少し超える飛距離でも,グリーン・モンスターを越えていることがわかります.

※動画は引用元からも観ることができます.

グリーン・モンスターを超えた最も飛距離の短い本塁打 2019 右打者 左方向
球種:4シーム,球速:96.1mph,打球初速度:90.1mph(約145kph),飛距離:332フィート(約101メートル)
引用元:ベースボール・サバント

本塁打のコース別打球角度
2019 右打者 左方向 MLB全体(フェンウェイ・パークを含む)
引用元:ベースボール・サバント
本塁打のコース別打球角度
2019 右打者 左方向 フェンウェイ・パーク
引用元:ベースボール・サバント

 グリーン・モンスターを越えるには高いフライを上げる必要があるため,本塁打の打球角度は,MLBの平均よりも少し大きくなっていることを確認できます.

吉田正尚選手のメジャー初本塁打

 レッドソックスの吉田正尚外野手が4月3日(日本時間4月4日),本拠地で行われたパイレーツ戦でメジャー初本塁打を打ちました.

球種:4シーム,球速:96.2mph,打球初速度:104.6mph(約168.3kph),飛距離:390フィート(約118.9メートル)
引用元:ベースボール・サバント

 飛距離は,90フィート(約118.9m)となっています.動画を観ると,かなり飛距離が出ているようにみえます.逆方向にグリーンモンスター越えのホームランを打った吉田選手のパワーに驚かされた人も多いのではないでしょうか.

 日本の球場は,ナゴヤドーム,京セラドーム,ベルーナドームの両翼100m,センター122m,左中間・右中間116mが一般的なサイズになります.118.9mの飛距離なら,バックスクリーンに届くことはなく,左中間・右中間もフェンスの高さを考えると,ホームランになるかは微妙なところです.確実にいえることは,特大ホームランでないということです.

 フェンウェイ・パークは,飛距離が出ているように錯覚させる球場といえます.

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