「科学する野球・打撃篇」の ”バットを後ろにタメて打つ” について述べられた部分を引用します.
肩の開きを遅くし,後ろ足に体重をタメて打てという誤った指導
バットをタメて打つことは,バッティングにとって非常に重要なことなのです.
引用元:科学する野球・打撃篇
運動体であるバットの撃芯に与えられる力(f)は,バットの質量(m)はその打者なりに一定しているから,加速度(a)を大きくすればするほど大きくなることは,いままでに述べた通りで,この加速度を大きくするには,体の捻りを先行させてバットを後ろのタメなければならないからです.
写真49のように,後ろにタメられたバットは,先行した前腰の捻りから,前肩,前腰を通じて振り出されてくるので加速度を上げることができるのです.前述の図123の③のようなドア・スイングでは,バットが後ろにタメられていないから,加速度を上げることができません.
ところで,このタメて打つことについて,日本の野球界では,ダウンスイング論者をはじめとして球界の指導者方はとんでもないことをいっておられます.
それは,肩の開きを遅くし,後ろ足に体重をタメて打て,ステップと同時に前足に体重をかけるのはタメがないからいけないといわれているのです.

引用元:科学する野球・打撃篇

引用元:科学する野球・打撃篇

運動方程式 F=ma のFを大きくするためには,a(加速度)を大きくしなければなりません.加速度を大きくするにはバットの振り幅を大きくして,スイングできる距離を確保しておく必要があるため,バットは後ろにタメておかねばなりません.
肩の開きを遅くしてバットをタメても,スイングするときに肩を回すので肩とバットが一緒に回る図123-③のドア・スイングとなり,バットを加速することができません.ですから,写真49のディマジオ選手のように肩を回してもバットがタメられているレート・ヒッティングをしなければなりません.
トップ・ハンドを掌屈,ボトム・ハンドを背屈すれば,ワキは自然に締まる
そこで,写真50,51と写真48とを見比べてください.写真50,51は写真48に比べて肩をよく回していても,まだバットは後ろにタメられています.このタメをディレードといい,このタメでレート・ヒッティングすることができるのです.
引用元:科学する野球・打撃篇
ところが,後ろ足に体重をタメるタメはリザーブすることで,体重をリザーブした足でレート・ヒッティングすることはできません.なぜならば直接打つのは,足ではなくて,バットを握る手や腕であるからです.
写真49のように,バットを後ろにタメるには,写真52の硬式テニスのバックハンドの腕の使い方と同じように,ボトム・ハンドと前腕を内側に捻ります.この内捻はこの段階で意識して行わなくても,構え時に内捻しておけばできることなのです.
また,この内捻により,前腕には力がチャージ(充填)されるとともに,前脇が自然に締まります.意識して前脇を締めた窮屈な動作では,スムーズにバットを振ることはできないでしょう.脇を意識して締めるのと,自然に脇が締まるのとでは円滑な打撃動作ができるかどうかの違いが生じます.
いっぽう,トップ・ハンドと後ろ腕は構えの時に外捻してあれば,そのまま後ろ脇腹の前にかいこむと,後ろ腕の肘の内側の凹みは空のほうに向けられ,後ろ脇は自然に締まります.
このようにして両脇が自然に締ると,両腕はボディとワン・ピース(一体化)となり,前腰からの力が肩,腕,手と順次伝わり,体のすべてが連動して,後ろにタメたバットの振りの加速度を上げることができるのです.

引用元:科学する野球・打撃篇

引用元:科学する野球・打撃篇
写真49のようにバットを後ろにタメるには,バットの握りを次のとおりにしなければなりません.
トップ・ハンド(バットを握ったときに上にくる手)を外捻(外側に捻る)する.
- 外捻(外側に捻る)するというよりも,手関節を掌屈(手の平の方に曲げる)するといった方が正確である.
- 手関節を掌屈しておくと,後ろ腕を後ろ脇腹の前にかいこむことになり,後ろ腕の肘の内側の凹みは空のほうに向けられ,後ろ脇は自然に締まります.
ボトム・ハンド(バットを握ったときに下にくる手)を内捻(内側に捻る)する.
- 内捻(内側に捻る)するというよりも,手関節を背屈(手の甲の方に曲げる)するといった方が正確である.
- 前腕に力がチャージ(充填)され,前脇が自然に締まる.




引用元:科学する野球・打撃篇