インパクト後,手首をすぐに返してはいけない
2020年12月24日 投稿
中心衝突させても,手をこねると偏心衝突になる
「科学する野球」では,トンカチとクギの加撃理論が何度も登場します.トンカチはバットで,クギは球道を表します.
トンカチとクギとを中心衝突させても,そのあとすぐにトンカチを握っている手をこねると,トンカチの頭はクギからはずれてしまい,十分なエネルギーをクギに与えることができません.ですから中心衝突で打ち終わったあとも,手をこねないでトンカチの頭に「残心」を保たなければなりません.これと同じことがバッティングでもいえます.
また,手首を返しますと,後ろ腕の力に前腕が負けて,前腕が伸ばされることなく折りたたまれ両腕を伸ばすことができません.インパクト後,両手を伸ばすことなく振られたバットの遠心力は,両腕を伸ばして振られたバットの遠心力より小さいのですから,打球も遠くに飛ばなくて当然といえます.
ですから,インパクト後すぐに手首を返してはならないのです.インパクト後は手首の返しではなく,両腕をまっすぐに伸ばすことだけを考えればよいのです.両腕をまっすぐに伸ばし切った時点で,バットに働いた遠心力で,写真14のように手首は返らざるを得なくなります.手首は返すのではなく返るものなのです.
引用元:科学する野球・打撃篇

釘を打った後,手をこねたり手首を返すとクギに力が伝わらないので,バットでボールを打つ場合もインパクト後,手をこねたり手首を返さず,両腕をまっすぐ伸ばしてボールを打ち抜かなければならないと説明されています.
手首は返すのではなく返るもの

日本の野球界には,インパクト後すぐに手首を返せという指導がいまだに根強く残っています.これは,インパクト後 すぐに手首を返して,後ろ腕の力をバットに加えて,ボールの力をはね返そうとする考えから行われたものですが,とくに戦前の中学(現高校)野球,大学野球では,
引用元:科学する野球・打撃篇
(イ)バットは水平に振れ.
(ロ)上体をかぶせて前で打て.
(ハ)インパクト後すぐに手首を返せ.
を水平打法の基本として指導していましたから,こういう指導を受けた方たちから,戦後の青少年でこれを受け継いでいる方たちまでを含めると,その数はいまもなお相当数に上るはずですから,インパクト後すぐに手首を返してはいけないといっても,この方たち全部に洗脳してもらうには時間のかかることだと思われます.現にマスコミ評でインパクト直後のすばらしい手首の返しといった表現がいまだに見聞される有様です.とにかく,日本の野球界から, インパクト直後の手首の返しという誤った常識を早く追放しなければなりません.
インパクト後すぐに手首を返すと,偏心衝突を起こしてボールに力を加えることができなくなります.実際には手首を返して強い打球を打つことができる場合があり,そのように打っている選手もいます.しかし,手首を返してトンカチで釘を打つ難しさ,確率の低さを考えると,合理的な打ち方とはいえません.
2021年4月11日 投稿
両ヒジの締まり-三角形と五角形
インパクト後,両腕を伸ばすと,グリップと肩を結ぶ線が三角形になります.
(8)両ヒジの締まり-三角形と五角形
引用元:科学する野球・:ドリル篇
(イ)良い例(図①)
インパクト後,ボールの芯を打ち抜くまで両腕を伸ばすのであるが,この時点でも,ボトムハンドは内捻し,トップハンドは外捻していなければならない.この両腕の捻りで両ヒジが締まり,グリップと肩の線とで三角形を形成する.インパクトで両腕を伸ばすのではない.間違わないように.
(ロ)悪い例(図②)
両腕を捻らないで,両手の手もとを起こすと,両ヒジが開き,図②のように,五角形を形成し,ボールを打ち抜くことができない.

ここで気をつけなければならないことは,両腕を伸ばすまでトップハンドを回外(手を手の平側に曲げる),ボトムハンドを回内(手を手の甲側に曲げる)するということです.
「科学する野球」では,このようなトップハンドとボトムハンドの握りをゴルフ用語を用いて「フック・グリップ」と称していますが,確かにこの握り方をすれば両腕をまっすぐ伸ばして,手首が返るのを防ぐことができます.
握りを逆にして,トップハンドを回内(手を手の甲側に曲げる),ボトムハンドを回外(手を手の平側に曲げる)すると,肘が開き両腕をまっすぐ押し出すことが難しくなります.
「フック・グリップ」は空手打法のバットの握りになるので,空手打法の握りでインパクトし,グリップを保持したまま両腕を伸ばしてボールを打てばよいということになります.
ケン・グリフィー・ジュニア選手はインパクト後,両腕を伸ばしているか?
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=p0t1KQpDA6w

バットの角度から,右中間にボールが飛んでいると考えられる.
ホームプレートをみると,真横からの視点になっていないため,肩はもう少し回っている.

「人」の形で打つと,上体が反るので両腕を伸ばしやすい.
ケン・グリフィー・ジュニア選手のスイングをみると,インパクト後,両腕がきれいに伸びていることを確認できます.右腕(非利き腕)でボールを捉え,左腕(利き腕)で強くボールを押し込む動作となりますが,主導の左腕を打ち返す方向に伸ばすことによって,右腕も伸ばされることになります.「人」の形で打つと上体が反るので,腕を伸ばしやすくなるという利点もあります.

インパクト後,両腕を伸ばしてボールに力を伝えるには,肩は固定した方がよいので,合理的な動作といえる.

インパクト時の肩とバットが打球線(弾道)と90°で交わった状態をほぼ保っている.
ボールを強く打ち返すためには,インパクトで肩とバットが打球線(弾道)と90°で交わっていなければなりません.その際,肩を回さずに固定した方がボールにより力を伝えることができます.グリフィー選手は,両腕を伸ばした後,左腕をバットから離して肩が回らないようにし,インパクト時の状態を保とうとしています.グリフィー選手がすばらしい打者であることを再確認できます.

背骨を仮想軸とした肩の回転で打っていないことがわかる.
インパクト後,両腕は伸ばさなければならない-門田博光
2021年4月12日 投稿
門田博光選手の情報
・身長170cm,体重81kg
・左投左打
・天理高等学校-クラレ岡山-南海ホークス (1970 – 1988)-オリックス・ブ
レーブス (1989 – 1990)-福岡ダイエーホークス (1991 – 1992)
・1969年 ドラフト2位
・通算本塁打数(567)、通算打点数(1678)、ともに歴代3位
・40歳にして打率.311、44本塁打、125打点で本塁打王、打点王、さらに
MVPに輝く。40代での40本塁打、同100打点、同OPS10割は史上初。
・40歳でのMVP選出はプロ野球史上最年長記録であり、40歳を意味する「不
惑」という言葉はこの年の流行語にもなった。
・その後、42歳で31本、44歳で7本と、それぞれ年齢別最多本塁打記録を作っ
た。引用元:ウィキペディア
松岡弘投手から右方向へ本塁打
’83オールスターゲーム 門田博光2HR
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=aKFX1smL7pg

門田選手は前足着地でブレーキをかけ,伝達された前方移動の運動エネルギーを利用して打っている.前脚の膝が伸びておらず「人」の形では打っていないので,下肢のエネルギーは利用していない.


西本聖投手から左方向へ本塁打
’83オールスターゲーム 門田博光2HR
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=aKFX1smL7pg

ボールを押し込んで大きな力を伝えるのは,後ろ腕(門田選手は左打左投なので,利き腕)の役割になる.


右方向にも左方向にもインパクト後,両腕を伸ばすことができる門田選手は,真のホームランアーティストといえます.
インパクト後,両腕は伸ばさなければならない-落合博満
2021年4月17日 投稿
左方向への本塁打
落合選手打撃フォーム解析 ※動画は引用元からも観ることができます.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=EtohgogtBSw

インパクトでの顔の向きも前方になっている.



フィニッシュまで両腕は一度も伸ばされていない.
工藤公康投手のインコースのストレートを左方向へ運んでいる落合選手の打撃動作をみると,次の点がわかります.
- インパクト後,両腕が伸ばされていない.
- 肩を回して体の回転を利用してボールを飛ばしている.
おそらく,落合選手はインコースのボールを普通に腕を伸ばして打つと,ファールになるため,体の回転を利用してフェアゾーンにボールが飛ぶように打ち方を変えていたと考えられます.
フォロースルーでバットが体に巻き付くくらいまで肩を回していますが,両腕を伸ばさないこの打ち方ではボールに力が十分に伝わらないので,遠くに飛ばすことは難しくなります.落合選手は歴代6位の510本塁打を記録していますが,あまり飛距離の出るほうではありませんでした.
それでも,当時は球場も狭く,150kphのボールを投げる投手も今ほど多くありませんでしたから,50本塁打(1985年52,1986年50)を記録することも可能でしたが,投手のボールに力のあるMLBではNPBほどの活躍はできなかったと思われます.
1978年(昭和53年)から1991年(平成3年)にかけて,ロッテが本拠地とした川崎球場について,ウィキペディアから引用します.
外野の広さは公称こそ両翼90メートル (m) 、中堅120mだが、実際はもっと狭く、左中間や右中間の膨らみもほとんどなかった。実測値は両翼89m、左中間105m、中堅118m、右中間103mで、実際はこれよりさらに狭隘だったとする説もある。
実際に当時、一部新聞発表で両翼は実測87mと記載があった。そのため、当時の球場の中でも狭くて本塁打の出やすい球場として知られた。中堅最深部が本塁と二塁を結ぶ線の延長よりやや左に寄った変形球場のため、打者の視点からは違和感を覚えることもあったとされる。
当初外野スタンドはごく最小限の設備で建設され、その後左右対称に増築する計画が立案されたものの、右翼場外に道路を通すことになったのに伴い右翼側の増築部は道路の計画に沿って設計を見直し、右中間からポール際にかけて上半分を切り取るような変則的な構造となった。
このため右翼側スタンドは非常に狭隘で、右翼方向への本塁打が場外に飛び出すことがよくあり、右翼スタンド上段に高い防球フェンスが設けられた。国道の計画はその後経由地が変更となり、代わって市道が設けられた。
引用元:ウィキペディア
ケン・グリフィー・ジュニア選手と門田博光選手は,左方向へ引っ張る場合でも,インパクト後,両腕を伸ばしてボールに力を伝えていました.「科学する野球」でも,インパクト後,両腕を伸ばしてボールを強打すること を正しい打ち方として提唱しています.当サイトでも「できるだけ遠くにボールを飛ばす」ということを打撃の本質として位置付けしています.
グリフィー選手と門田選手は引っ張る方向でも,ファールにすることなく両腕を伸ばして打つことができていましたから,落合選手の特殊な打ち方(すばらしい打ち方と賞賛される方も多いと思われますが)は,打撃の王道からは外れているといわざるを得ません.
右方向への本塁打
落合博満 全盛期のホームラン映像にスローモーションを付け足してみた映像集です。 ※動画は引用元からも観ることができます.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=KK45HiLtJKg
動画では横方向からのスイングしか確認できませんが,インパクト後の落合選手の顔の向きから右方向へ打球が飛んでいると思われます.

さすがの落合選手も右方向へ本塁打を打った打席では,肩を回すわけにもいかず,打ち返す方向に両腕を伸ばしてボールに力を伝えています.引っ張る方向に打つときに,肩を回さずにインパクト後,両腕を伸ばして打つことができるかどうかが,打者を評価する際の一つの指標となります.