右投げ左打ちの限界-その3-右の大砲が左の中距離打者に変わるだけ

体格に恵まれた右の大砲が左の中距離打者に変わるだけ-左打ちに変える根拠は?

 右投げ左打ちの限界-その2 で,右投げ左打ちでは長距離砲が生まれない理由について述べました.現在のNPBは,右投げ左打ちが増えて中距離打者ばかりとなり,右の大砲が消滅の危機に瀕しています.
 大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす-その2 で述べたように,体格に恵まれた選手は,それだけで他の選手より優位に立つことができます.身長の高い選手は手足が長いだけでなく,体重もありますから,運動エネルギーが大きくなり,スイングスピードもより加速させることができます.つまり,体格の利がある右投げ右打ちの打者は,そのまま右打者を続けることで右の大砲になることができるわけです.しかし,近年の野球では体格の利がある右投げ右打ちの打者をわざわざ左打ちに変更させ,インパクト時にボールの押し込みができない中途半端な中距離打者を量産しています.これではたたでさえスケールの小さい日本の野球がますます魅力のないものになってしまいます.

右投げ左打ち スラッガータイプの選手 ※引退した選手は除く
選手身長 cm体重 kg*通算本塁打
丸 佳浩17794201
柳田 悠岐18896186
糸井 嘉男18899165
梶谷 隆幸18088119
亀井 善行1788298
吉田 正尚1738591
松山 竜平1769578
村上 宗隆1889765
上林 誠知1859154
高橋 周平1808548
大谷 翔平19395.348
佐野 恵太1788830
清宮 幸太郎18410221
栗原 陵矢1797518
安田 尚憲188957
秋広 優人200950
佐藤 輝明187940
*NPB 2020年度までの成績
※赤字は首位打者を獲得したことがある選手.本塁打王を獲得した選手は一人もいない.
※大谷翔平 日米通算95本塁打(NPB:48,MLB:47)
※引用元:ウィキペディア

 これだけ多くの体格の利をもっている選手が左打ちに変更しているのは,非常にもったいないことです.大谷選手が右打ちを続けていれば,今のようなゴルフスイングにはならず,真の二刀流に近づいていた可能性があります.秋広選手が2mの体格の利を活かした右の大砲になるという夢も閉ざされています.
 柳田,糸井,吉田,佐野選手は首位打者を獲得しています.スラッガータイプの打者なのに,なぜ首位打者が獲れるのか疑問を抱く人も多いかと思いますが,右投げ左打ちの打者はボールにコンタクトするのが長けているので,スラッガータイプでも首位打者を獲ることができる素地があります.
 ボールを強打する際の腕の使い方は,「前腕でボールを捉え,後ろ腕でボールを押し込む」という動作になります.右投げ右打ちの場合は,前腕は利き腕ではないためボールのコンタクトは甘くなりますが,後ろ腕は利き腕のためボールを強く押し込むことができます.逆に右投げ左打ちの場合は,前腕が利き腕になるためボールのコンタクトがより正確性を増しますが,後ろ腕は利き腕ではないため,ボールを強く押し込むことができません.
 つまり,右投げ左打ちの打者なら誰でもバットにボールを当てる上手さをもっているといえます.柳田,吉田選手はフルスイングのイメージが強い打者ですが,スラッガータイプであるかどうかに関係なく,右投げ左打ちであれば,全員に首位打者を獲得する可能性があります.

勝利至上主義の弊害 -「右の大砲」がいない

近視眼的な勝利至上主義が「作られた左打者」を生む。

 どうして「作られた左打者」は多くなるのか。5年前、雑誌で対談してもらった高嶋仁(智弁和歌山監督)、中村順司(元PL学園監督)両氏に「右投左打」はなぜ増えるのか聞くと、「右投左打を作ったことはほとんどない」と両名将は答えた。入学したとき既に右投左打になっている、と口を揃えた。

 右投左打は打者走者の一塁到達に有利、という勝利至上主義を背景に作られる。それが高校野球より以前の中学野球、あるいは少年野球の現場で行なわれているというのだ。大らかにバットを振ってホームランを狙う“楽しい野球”が小・中学の現場で駆逐されている現実を知ることは、ストップウオッチによる各塁到達タイムを各媒体で発表し続けてきた身には辛い。スタメン9人のうちチャンスメーカーは上位、下位で2、3人いればいい。つまりチーム全体で4、5人が一塁到達4.29秒未満(全力疾走の基準タイム)を実践し、あとの4、5人は塁上の走者を還す役割を実践する。そういう役割分担を明確にしないとこれからも「右投左打」が増殖して、日本野球はますますいびつになっていくだろう。

引用元:https://number.bunshun.jp/articles/-/13586?page=2

清宮も! 高校野球で増える「右投げ左打ち」に東尾修が危惧
連載「ときどきビーンボール」

 高校野球100周年で盛り上がる甲子園の中継を見ていて感じたことがある。「右投げ左打ち」の選手がなんと多いことか。今回の甲子園に出場している選手の約3割が「右投げ左打ち」だという。

 私も数多くの少年野球教室を行ってきたが、小学生のうちから左打ちに変える選手が本当に多い。理由はわかるよ。野球はまず、一塁に走る。右打席より左打席のほうが近いわけだから、安打になる確率は高まる。そして、メジャーリーグではイチロー(マーリンズ)、元ヤンキースの松井秀喜、青木宣親(ジャイアンツ)も右投げ左打ちである。少年のあこがれでもあり、将来メジャーリーガーになりたいという目標を持っているなら、それが最短距離に見えるだろう。

 私が西武監督になった20年も前から「右の大砲」がいなかった。楠城にも「右の大砲を探せ」というがなかなかいない。松井稼頭央(楽天)だって、スイッチヒッターに転向してもらったが、右だけで勝負させようか迷ったほどだ。今はもっと状況は偏っている。「俊足巧打の右投げ左打ち」の選手は山ほどいる。

 今話題の早実・清宮幸太郎もそうだと聞く。ただ、「左打席」を作る過程で、スケール感を失わないことを真剣に考えることが大事だ。右打席のように利き腕の右手で押し込んで長打するという部分はどうしても消えてしまう。特に、小学生、中学生の指導者で、左打席を作り上げていく指導方法を持っている者は少ないだろう。結果だけ求めて小さくまとまった選手が増えてしまう。単に出塁したいから、試合に勝ちたいから、といった理由で、その子の特長や成長度を見守る前に左打者に変えてしまえば、同じような選手しか出てこなくなる。

 私が、若年層の指導者などと話をしたときに、冗談も交えて言うのは「犠打禁止にしたらどうだ」ということだ。野手なら遠くへ飛ばす、投手なら速い球を投げるといった、野球本来の喜びを知ってもらいたいからだ。今、NPBやオーナー会議でも、少年少女の野球離れを危惧する声が上がっていると聞く。野球の楽しさをまず知ってもらうこと。犠打や当てただけの内野安打では、つまらないよ。

 私が投手総合コーチを務めた2013年のWBCでも感じたが、国際大会では外角のストライクゾーンが広いため、左打者は左投手に対して圧倒的に不利になる。4番には右打者がほしいと考えるのは自然だし、侍ジャパンの小久保裕紀監督も中田翔(日本ハム)の4番にこだわっていることを見れば、右打者の重要性がわかる。

 今、セでは山田哲人(ヤクルト)、パでは中村剛也(西武)といった右打者が本塁打王争いのトップに立つ。少年たちに「右の長距離砲を目指したい」と思ってもらえるような、成績を残してもらいたい。

※週刊朝日 2015年8月28日号

引用元:https://dot.asahi.com/wa/2015081900004.html?page=2

 引用文によると,右投げ左打ちの打者が量産されているのは,小学生、中学生の指導における勝利至上主義が原因となっているようです.目先の勝利を求めて一塁に近い左打者を作り上げれば,確かに内野安打になる確率は高くなりますが,東尾氏がいうように,「野球の楽しさをまず知ってもらうこと。犠打や当てただけの内野安打では、つまらないよ」ということになってしまいます.
 「科学する野球」も「できるだけ速いボールを投げる」,「できるだけ遠くにボールを飛ばす」という野球の本質に則っています.小学生、中学生の指導者が野球の本質を追究することなく目先の勝利を優先させるならば,日本の野球は右投げ左打ちの中途半端な中距離打者,俊足巧打の選手が量産され,ますます魅力のないものになり,野球離れが加速していくことになるでしょう.

「勝てない監督」の烙印(らくいん)を押されてしまう

 こちらは日本経済新聞に掲載された広澤克実氏の記事です.日本人スラッガー不在の背景にある構造的な問題に言及しています.

目先の結果求め「右投げ左打ち」量産

このままでは外国人におんぶにだっこという状況になるかもしれない。いや、その兆候はすでにある。セ・リーグの打撃十傑をみると、レスリー・アンダーソン(巨人)、ブラッド・エルドレッド(広島)ら外国人選手がずらり。本塁打、打点部門も外国人勢が上位を占める。パ・リーグは打率部門で糸井嘉男(オリックス)らが健闘しているが、本塁打、打点部門はやはり外国人がリードする。

ただし、この現象イコール外国人のレベルが上がっている、ということではない。本国では成績を残せなかった選手たちが、日本では率も残し、パワーでは圧倒しているという現状なのだから、日本の野球のレベルが下がっているといわざるを得ない。

この現象を解くひとつのカギになるのが、増える一方の「右投げ左打ち」の選手だ。阿部慎之助(巨人)、福留孝介(阪神)、糸井ら、日本選手の大砲、中距離打者もいるが、多くは俊足巧打タイプで、挙げればきりがない。

なぜこういうタイプの野手が量産されているかというと、リトルリーグ、シニアリーグ、中学の軟式を含めた少年野球、それに高校野球の指導者が「この選手を大きく育てよう」というより目先の結果、つまり目の前にある大会や試合に勝つことを優先している現状があるからだ。

確率悪い本塁打よりゴロで内野安打

勝利を優先するならば「右投げ左打ち」はとにかく便利である。左回りに塁を駆ける野球は一塁ベースに打席が近いことから、どうしても左打者が有利になる。

少年野球ではちょっとでも足が速い選手が、ショートにゴロを打てば内野安打になる確率が高い。その上、このレベルではまだ捕手の肩が弱いので、盗塁ですぐさま二塁に進塁することも多々ある。ということで、このような選手が多ければ多いほど、少年野球では得点能力は高くなり大会でも勝ち進む確率は上がる。

確率の悪いホームランを打つ選手を育てることより、ゴロを打ち内野安打を打てるタイプの選手を積極的につくりたがるわけだ。本来は右利きでも、運動能力が高く、脚力があれば簡単に左打ちに変えられるのだ。

物理的には利き腕が捕手寄りにあった方が(つまり右利きの人は右打席に立った方が)遠くへ飛ばすには有利なのだが、そちらは諦めてしまう。これが日本の野球界において、右投げ左打ちの足の速い選手が量産される仕組みである。

型にはまり外国人の速い変化球打てず

アマチュアの指導者たちが勝利至上主義に走り、こうした選手を作ってしまうことはある程度仕方がない。なぜなら彼らも結果が求められる立場であり、毎年短期間に結果を残せるチームをつくるには必然的に得点力の高い選手育成に傾かざるを得ないからだ。

大きな視野で「うちを卒業してから選手が開花すればいい」というような育て方をしていたら目先の試合に勝てないのだ。その結果、「勝てない監督」の烙印(らくいん)を押されてしまっては元も子もない。

しかし、こうして量産された「右投げ左打ち」の選手たちはどういうわけか、外国人が投げるカットボールやツーシームといった速い変化球に対応できない傾向がある。日本式のパターン化された育成システムのなかで、打撃まで型にはまってしまうからだろうか。「井の中の蛙(かわず)」になってしまう選手が多い。

勝利至上主義の弊害はこれだけではない。時々、少年野球を見にいくと、ボール球に手を出してしまった選手や、引っ張るスイングでアウトになった選手に大きな声で注意する指導者を見かける。このような指導者は往々にしてやたらと「バント」を多用する特徴も持っている。

「ドラフト1位選手、12人そろわない」

目先の試合に勝つために便利な「右投げ左打ち」に変え、多くの時間を「バント」の練習に費やす。子どもたちは指導者のニーズに応えようと、仮に球を遠くに飛ばせる素質があったとしても、引っ張って怒られるくらいなら、内野安打で出塁しようというタイプに変わってしまうのだ。

日本人スラッガー不在の背景にはこうした構造的な問題があり、容易に解決できる問題ではない。あるスカウトがこぼしていた。「今秋のドラフトは1位選手が12人そろわない」。つまり堂々の1位指名に値する素材が12球団分いない、というのだ。投手を含め、今年のドラフト候補は小粒になっているという。だとすると、本来なら3、4位指名というクラスの選手が、1位指名になる可能性が出てきてしまう。

こうした問題を根本から解決するには私は「野球のゴールデンエイジ」と呼んでいる育ち盛りの10~18歳の指導のあり方を変えていくしかないと思っている。野球界全体がレベルアップを主題に指導を改革していかなければ、世界で通用する選手は育たないからだ。

2014年5月21日 7:00

引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXZZO71406600Y4A510C1000000/