右投げ左打ちの限界-「作られた左打者」になるメリット・デメリット

右投げ左打ちの限界-作られた左打者の重大な欠点

2021年4月3日 投稿

作られた左打者の重大な欠点

「右投げ左打ち」の本塁打が激減。
統一球が変えたプロ野球のトレンド。

posted2011/11/05 08:02

本来「右投げ左打ち」は理想的なHRアーチストではない!?  

 1950(昭和25)年の2リーグ分裂以降、パ・リーグでは33人、セ・リーグでは36人の本塁打王が誕生し、そのうち右投げ左打ちはパがL・リー、マニエル、ブライアント、ニール、小笠原道大の5人、セが掛布雅之、バース、ハウエル、松井秀喜の4人しかいない(スイッチヒッターは除く)。もちろん、右投げ左打ちは比較的新しい「思想」だったため、昔にさかのぼるほどその数は少なくなる。

 右投げ右打ち、あるいは左投げ左打ちの最大の特徴は、利き手が“後ろ手”になっていることである。つまり、ボールとバットが衝突(インパクト)するとき、利き手で押し込むことができる。これは本塁打を確実に打つ理想的な打ち方と言っていい。

 しかし、右投げ左打ちは利き手が“前手”になっているのでそれができない。前手はバット操作のための操縦桿と言ってよく、それを利き手で操れる右投げ左打ちはヒット量産型の理想と言ってよく、当然チャンスメーカータイプに多く、ホームランバッターは少ない。

引用元:https://number.bunshun.jp/articles/-/169288

 引用文に述べられているように,インパクト後,両腕を伸ばしてボールに力を伝える際に,右投げ左打ちの打者は利き腕でない左腕を用いるため,ボールを強く押し込むことができないというデメリットがあります.

 左腕と右腕を比べると,右腕はバットに当てる要素が大きく,実際にボールに力を伝えるのは左腕の比重が大きくなります.このインパクト後,左腕を強く伸ばしてボールに力を伝えることができない点が,右投げ左打ちの最大の欠点であり,長打を打つことにおいては致命的といえます.
 

右投げ左打ちの場合,インパクト後,両腕を伸ばすときに左腕が利き腕でないため,腕を伸ばす力が不十分となり,ボールに力を伝えることができない.
引用元:科学する野球・打撃編

投球動作を打撃動作に応用できない

 右投げ右打ち,左投げ左打ちの場合,金田,江夏,堀内投手のように投手でありながら打撃にも秀でていることは珍しくありませんが,これは投球動作と打撃動作で動作が共通しているところが多いためです.どちらもステップによる前方移動の運動エネルギーを利用して,前足着地後,前脚の膝関節を伸展して下肢のエネルギーを体幹,上肢へと伝え,腕の振り,スイングを加速させていきます.

 投手がテイクバックでトップでのボールの位置をなるべく背面後方側に保って肘を先行させて投げるのと,打者がバックスイングでトップでのグリップの位置をなるべく背面後方側に保って肘を先行させて打つところは共通の動作となるため,好投手は打撃でも投球動作を応用して強い打球を打つことができるわけです.

 右投げ左打ちの選手は左投手としての投球動作を完成しているわけではないので,左投げ左打ちの選手のように腕を振る感覚でバットを振るということができません.右投げ左打ちとしてやっていくためには,左投げ左打ちの選手と同じ動作を身につける努力をするか,新たに右利きの打者が左打ちでボールを強く打てる方法を考えて,その動作を修得するしかなくなります.

 しかし,左投げ左打ちの選手と同じ動作を身につけようとしても,作られた左打者ではどうしてもインパクトのときに利き腕でない左腕を強く伸ばす動作が不十分となるため,ボールに力を伝えることができません.つまり,右投げ左打ちの長距離打者が出現する可能性は極めて小さいといえます.

【阪神ホームラン集】ミスタータイガース 掛布雅之 
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=I5sN96wwV4I
背骨を回転軸にして,コマのように回転して打つことを意識している掛布雅之選手.
作られた左打者は,インパクトの際に,左腕(非利き腕)でボールを押し込むことができないため,新たな打ち方を模索しなければならない.

右投げ左打ちの限界-その2-右投げ左打ちの打者はボールを遠くに飛ばせない

2021年4月4日 投稿

右投げ左打ちの打者はボールを遠くに飛ばせない

 「右投げ左打ちの限界-作られた左打者の重大な欠点」で述べたように,右投げ左打ちでは「ボールを強く打つ」,「ボールを遠くに飛ばす」という点で以下の問題に直面することになります.

  • インパクト後,非利き腕(左腕)でボールを押し込まなければならないため,左腕を強く伸ばしてボールに力を伝えることができない.
  • 投球動作の腕の振りを打撃動作に応用できない.

 右投げ左打ちでは非利き腕の動作がメインとなるため,まず右投げ右打ちのように利き腕主導の動作ができないというデメリットがあります.インパクトでも左腕でボールを押し込むことができませんから,左腕でボールを押し込む以外の方法でボールに力を伝える動作を新たに修得しなければなりません.要するに作られた左打者として投手に対応していくことが必要になります.

セントラル・リーグ 本塁打王 1950-2020
投打人数割合 %
右投右打3073.2
右投左打512.2
左投左打512.2
右投両打12.4
41
※右投左打の本塁打王は,
 掛布雅之(1979,1982,1985)
 バース(1985,1986)
 ハウエル(1992)
 松井秀喜(1998,2000,2002)
 筒香嘉智(2016)
 の5人のみ.
※割合:小数第二位を四捨五入.
※引用元:ウィキペディア

パシフィック・リーグ 本塁打王 1950-2020
投打人数割合 %
右投右打2461.5
右投左打512.8
左投左打820.5
右投両打25.1
39
※右投左打の本塁打王は,
 ニール(1996)
 リー(1977)
 マニエル(1979,1980)
 ブライアント(1989,1993,1994)
 小笠原道大(2006
 の5人のみ.
※割合:小数第二位を四捨五入.
※引用元:ウィキペディア

 本塁打王を獲得した打者のうち,右投げ右打ち,左投げ左打ちの打者が占める割合は,セリーグでは85.4%,パリーグでは82.1%になっています.利き腕でないとインパクトでボールを強く押し込めませんから,当然の結果といえます.

 外国人選手の割合が大きく,両リーグを合わせると右投げ左打ちの本塁打王10人のうち,外国人選手が6人を占めています.バース,レロン・リー,ブライアント選手など右投げ左打ちの選手とは思えないほど非利き腕を上手く使っており,作られた左打者という印象は受けません.

 外国人選手がなぜ左投げ左打ちと遜色ないスイングができるのか,たまたま器用な選手が本塁打王になっただけなのか,理由についてはよくわかりません.

通算本塁打 ランキング ~50位

 本塁打 通算記録 上位50選手 2021年4月1日(木) 現在
* 2021シーズンの現役選手
順位選手本塁打
1王 貞治868
2野村 克也657
3門田 博光567
4山本 浩二536
5清原 和博525
6落合 博満510
7張本 勲504
8衣笠 祥雄504
9大杉 勝男486
10金本 知憲476
11田淵 幸一474
12土井 正博465
13ローズ464
14長嶋 茂雄444
15秋山 幸二437
16*中村 剛也424
17小久保 裕紀413
18阿部 慎之助406
19中村 紀洋404
20山崎 武司403
21山内 一弘396
22大島 康徳382
23原 辰徳382
24ラミレス380
25小笠原 道大378
26江藤 慎一367
27江藤 智364
28村田 修一360
29カブレラ357
30松中 信彦352
31掛布 雅之349
32有藤 道世348
33加藤 英司347
34長池 徳士338
35宇野 勝338
36松井 秀喜332
37松原 誠331
38高橋 由伸321
39和田 一浩319
40新井 貴浩319
41広澤 克実306
42池山 隆寛304
43*バレンティン297
44前田 智徳295
45真弓 明信292
46田中 幸雄287
47*松田 宣浩287
48木俣 達彦285
49レロン・リー283
50藤井 康雄282
※赤字は右投げ左打ち
※松井秀喜選手:日米通算507本塁打(NPB:332,MLB:175)
引用元:https://npb.jp/bis/history/ltb_hr.html

 400本塁打以上(上位20位)では,右投げ左打ちの打者は金本知憲(476),阿部慎之助(406)の2人のみで,300本塁打以上(上位42位)になると,小笠原道大(378),掛布雅之(349),松井秀喜(332),高橋由伸(321)がランクインします.実質的には日米通算507本塁打を打っている松井秀喜選手が,右投げ左打ちで最も成功した打者といえます.

 松井秀喜選手を除くと,500本塁打以上(上位8位)はすべて右投げ右打ち,左投げ左打ちの打者で占められています.インパクトで非利き腕を押し込めない,強く伸ばせないというとが長距離砲が生まれない原因となっています.

右投げ左打ちの限界-その3-右の大砲が左の中距離打者に変わるだけ

2021年4月5日 投稿

体格に恵まれた右の大砲が左の中距離打者に変わるだけ-左打ちに変える根拠は?

 「右投げ左打ちの限界-その2」で,右投げ左打ちでは長距離砲が生まれない理由について述べました.現在のNPBは,右投げ左打ちが増えて中距離打者ばかりとなり,右の大砲が消滅の危機に瀕しています.

 大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす-山川穂高選手の本塁打力学 で述べたように,体格に恵まれた選手は,それだけで他の選手より優位に立つことができます.身長の高い選手は手足が長いだけでなく,体重もありますから,運動エネルギーが大きくなり,スイングスピードもより加速させることができます.つまり,体格の利がある右投げ右打ちの打者は,そのまま右打者を続けることで右の大砲になることができるわけです.

 しかし,近年の野球では体格の利がある右投げ右打ちの打者をわざわざ左打ちに変更させ,インパクト時にボールの押し込みができない中途半端な中距離打者を量産しています.これではたたでさえスケールの小さい日本の野球がますます魅力のないものになってしまいます.

右投げ左打ち スラッガータイプの選手 ※引退した選手は除く
選手身長 cm体重 kg*通算本塁打
丸 佳浩17794201
柳田 悠岐18896186
糸井 嘉男18899165
梶谷 隆幸18088119
亀井 善行1788298
吉田 正尚1738591
松山 竜平1769578
村上 宗隆1889765
上林 誠知1859154
高橋 周平1808548
大谷 翔平19395.348
佐野 恵太1788830
清宮 幸太郎18410221
栗原 陵矢1797518
安田 尚憲188957
秋広 優人200950
佐藤 輝明187940
*NPB 2020年度までの成績
※赤字は首位打者を獲得したことがある選手.
 本塁打王を獲得した選手は一人もいない.
※大谷翔平 日米通算95本塁打(NPB:48,MLB:47)
※引用元:ウィキペディア

 体格の利をもっている選手がこれだけ多くいるにもかかわらず,左打ちに変更しているのは,非常にもったいないことです.大谷選手が右打ちを続けていれば,今のようなゴルフスイングにはならず,真の二刀流に近づいていた可能性があります.秋広選手が2mの体格の利を活かした右の大砲になるという夢も閉ざされています.

 柳田,糸井,吉田,佐野選手は首位打者を獲得しています.スラッガータイプの打者なのに,なぜ首位打者が獲れるのか疑問を抱く人も多いかと思いますが,右投げ左打ちの打者はボールにコンタクトするのが長けているので,スラッガータイプでも首位打者を獲ることができる素地があります.

 ボールを強打する際の腕の使い方は,「前腕でボールを捉え,後ろ腕でボールを押し込む」という動作になります.右投げ右打ちの場合は,前腕は利き腕ではないためボールのコンタクトは甘くなりますが,後ろ腕は利き腕のためボールを強く押し込むことができます.逆に右投げ左打ちの場合は,前腕が利き腕になるためボールのコンタクトがより正確性を増しますが,後ろ腕は利き腕ではないため,ボールを強く押し込むことができません.

 つまり,右投げ左打ちの打者なら誰でもバットにボールを当てる上手さをもっているといえます.柳田,吉田選手はフルスイングのイメージが強い打者ですが,スラッガータイプであるかどうかに関係なく,右投げ左打ちであれば,全員に首位打者を獲得する可能性があります.

勝利至上主義の弊害 -「右の大砲」がいない

近視眼的な勝利至上主義が「作られた左打者」を生む。

 どうして「作られた左打者」は多くなるのか。5年前、雑誌で対談してもらった高嶋仁(智弁和歌山監督)、中村順司(元PL学園監督)両氏に「右投左打」はなぜ増えるのか聞くと、「右投左打を作ったことはほとんどない」と両名将は答えた。入学したとき既に右投左打になっている、と口を揃えた。

 右投左打は打者走者の一塁到達に有利、という勝利至上主義を背景に作られる。それが高校野球より以前の中学野球、あるいは少年野球の現場で行なわれているというのだ。大らかにバットを振ってホームランを狙う“楽しい野球”が小・中学の現場で駆逐されている現実を知ることは、ストップウオッチによる各塁到達タイムを各媒体で発表し続けてきた身には辛い。

 スタメン9人のうちチャンスメーカーは上位、下位で2、3人いればいい。つまりチーム全体で4、5人が一塁到達4.29秒未満(全力疾走の基準タイム)を実践し、あとの4、5人は塁上の走者を還す役割を実践する。そういう役割分担を明確にしないとこれからも「右投左打」が増殖して、日本野球はますますいびつになっていくだろう。

引用元:https://number.bunshun.jp/articles/-/13586?page=2

清宮も! 高校野球で増える「右投げ左打ち」に東尾修が危惧
連載「ときどきビーンボール」

 高校野球100周年で盛り上がる甲子園の中継を見ていて感じたことがある。「右投げ左打ち」の選手がなんと多いことか。今回の甲子園に出場している選手の約3割が「右投げ左打ち」だという。

 私も数多くの少年野球教室を行ってきたが、小学生のうちから左打ちに変える選手が本当に多い。理由はわかるよ。野球はまず、一塁に走る。右打席より左打席のほうが近いわけだから、安打になる確率は高まる。そして、メジャーリーグではイチロー(マーリンズ)、元ヤンキースの松井秀喜、青木宣親(ジャイアンツ)も右投げ左打ちである。少年のあこがれでもあり、将来メジャーリーガーになりたいという目標を持っているなら、それが最短距離に見えるだろう。

 私が西武監督になった20年も前から「右の大砲」がいなかった。楠城にも「右の大砲を探せ」というがなかなかいない。松井稼頭央(楽天)だって、スイッチヒッターに転向してもらったが、右だけで勝負させようか迷ったほどだ。今はもっと状況は偏っている。「俊足巧打の右投げ左打ち」の選手は山ほどいる。

 今話題の早実・清宮幸太郎もそうだと聞く。ただ、「左打席」を作る過程で、スケール感を失わないことを真剣に考えることが大事だ。右打席のように利き腕の右手で押し込んで長打するという部分はどうしても消えてしまう。特に、小学生、中学生の指導者で、左打席を作り上げていく指導方法を持っている者は少ないだろう。結果だけ求めて小さくまとまった選手が増えてしまう。単に出塁したいから、試合に勝ちたいから、といった理由で、その子の特長や成長度を見守る前に左打者に変えてしまえば、同じような選手しか出てこなくなる。

 私が、若年層の指導者などと話をしたときに、冗談も交えて言うのは「犠打禁止にしたらどうだ」ということだ。野手なら遠くへ飛ばす、投手なら速い球を投げるといった、野球本来の喜びを知ってもらいたいからだ。今、NPBやオーナー会議でも、少年少女の野球離れを危惧する声が上がっていると聞く。野球の楽しさをまず知ってもらうこと。犠打や当てただけの内野安打では、つまらないよ。

 私が投手総合コーチを務めた2013年のWBCでも感じたが、国際大会では外角のストライクゾーンが広いため、左打者は左投手に対して圧倒的に不利になる。4番には右打者がほしいと考えるのは自然だし、侍ジャパンの小久保裕紀監督も中田翔(日本ハム)の4番にこだわっていることを見れば、右打者の重要性がわかる。

 今、セでは山田哲人(ヤクルト)、パでは中村剛也(西武)といった右打者が本塁打王争いのトップに立つ。少年たちに「右の長距離砲を目指したい」と思ってもらえるような、成績を残してもらいたい。

※週刊朝日 2015年8月28日号

引用元:https://dot.asahi.com/wa/2015081900004.html?page=2

 引用文によると,右投げ左打ちの打者が量産されているのは,小学生、中学生の指導における勝利至上主義が原因となっているようです.目先の勝利を求めて一塁に近い左打者を作り上げれば,確かに内野安打になる確率は高くなりますが,東尾氏がいうように,「野球の楽しさをまず知ってもらうこと。犠打や当てただけの内野安打では、つまらないよ」ということになってしまいます.

 「科学する野球」も「できるだけ速いボールを投げる」,「できるだけ遠くにボールを飛ばす」という野球の本質に則っています.小学生、中学生の指導者が野球の本質を追究することなく目先の勝利を優先させるならば,日本の野球は右投げ左打ちの中途半端な中距離打者,俊足巧打の選手が量産され,ますます魅力のないものになり,野球離れが加速していくことになるでしょう.

「勝てない監督」の烙印(らくいん)を押されてしまう

 こちらは日本経済新聞に掲載された広澤克実氏の記事です.日本人スラッガー不在の背景にある構造的な問題に言及しています.

目先の結果求め「右投げ左打ち」量産

このままでは外国人におんぶにだっこという状況になるかもしれない。いや、その兆候はすでにある。セ・リーグの打撃十傑をみると、レスリー・アンダーソン(巨人)、ブラッド・エルドレッド(広島)ら外国人選手がずらり。本塁打、打点部門も外国人勢が上位を占める。パ・リーグは打率部門で糸井嘉男(オリックス)らが健闘しているが、本塁打、打点部門はやはり外国人がリードする。

ただし、この現象イコール外国人のレベルが上がっている、ということではない。本国では成績を残せなかった選手たちが、日本では率も残し、パワーでは圧倒しているという現状なのだから、日本の野球のレベルが下がっているといわざるを得ない。

この現象を解くひとつのカギになるのが、増える一方の「右投げ左打ち」の選手だ。阿部慎之助(巨人)、福留孝介(阪神)、糸井ら、日本選手の大砲、中距離打者もいるが、多くは俊足巧打タイプで、挙げればきりがない。

なぜこういうタイプの野手が量産されているかというと、リトルリーグ、シニアリーグ、中学の軟式を含めた少年野球、それに高校野球の指導者が「この選手を大きく育てよう」というより目先の結果、つまり目の前にある大会や試合に勝つことを優先している現状があるからだ。

確率悪い本塁打よりゴロで内野安打

勝利を優先するならば「右投げ左打ち」はとにかく便利である。左回りに塁を駆ける野球は一塁ベースに打席が近いことから、どうしても左打者が有利になる。

少年野球ではちょっとでも足が速い選手が、ショートにゴロを打てば内野安打になる確率が高い。その上、このレベルではまだ捕手の肩が弱いので、盗塁ですぐさま二塁に進塁することも多々ある。ということで、このような選手が多ければ多いほど、少年野球では得点能力は高くなり大会でも勝ち進む確率は上がる。

確率の悪いホームランを打つ選手を育てることより、ゴロを打ち内野安打を打てるタイプの選手を積極的につくりたがるわけだ。本来は右利きでも、運動能力が高く、脚力があれば簡単に左打ちに変えられるのだ。

物理的には利き腕が捕手寄りにあった方が(つまり右利きの人は右打席に立った方が)遠くへ飛ばすには有利なのだが、そちらは諦めてしまう。これが日本の野球界において、右投げ左打ちの足の速い選手が量産される仕組みである。

型にはまり外国人の速い変化球打てず

アマチュアの指導者たちが勝利至上主義に走り、こうした選手を作ってしまうことはある程度仕方がない。なぜなら彼らも結果が求められる立場であり、毎年短期間に結果を残せるチームをつくるには必然的に得点力の高い選手育成に傾かざるを得ないからだ。

大きな視野で「うちを卒業してから選手が開花すればいい」というような育て方をしていたら目先の試合に勝てないのだ。その結果、「勝てない監督」の烙印(らくいん)を押されてしまっては元も子もない。

しかし、こうして量産された「右投げ左打ち」の選手たちはどういうわけか、外国人が投げるカットボールやツーシームといった速い変化球に対応できない傾向がある。日本式のパターン化された育成システムのなかで、打撃まで型にはまってしまうからだろうか。「井の中の蛙(かわず)」になってしまう選手が多い。

勝利至上主義の弊害はこれだけではない。時々、少年野球を見にいくと、ボール球に手を出してしまった選手や、引っ張るスイングでアウトになった選手に大きな声で注意する指導者を見かける。このような指導者は往々にしてやたらと「バント」を多用する特徴も持っている。

「ドラフト1位選手、12人そろわない」

目先の試合に勝つために便利な「右投げ左打ち」に変え、多くの時間を「バント」の練習に費やす。子どもたちは指導者のニーズに応えようと、仮に球を遠くに飛ばせる素質があったとしても、引っ張って怒られるくらいなら、内野安打で出塁しようというタイプに変わってしまうのだ。

日本人スラッガー不在の背景にはこうした構造的な問題があり、容易に解決できる問題ではない。あるスカウトがこぼしていた。「今秋のドラフトは1位選手が12人そろわない」。つまり堂々の1位指名に値する素材が12球団分いない、というのだ。投手を含め、今年のドラフト候補は小粒になっているという。だとすると、本来なら3、4位指名というクラスの選手が、1位指名になる可能性が出てきてしまう。

こうした問題を根本から解決するには私は「野球のゴールデンエイジ」と呼んでいる育ち盛りの10~18歳の指導のあり方を変えていくしかないと思っている。野球界全体がレベルアップを主題に指導を改革していかなければ、世界で通用する選手は育たないからだ。

2014年5月21日 7:00

引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXZZO71406600Y4A510C1000000/

右投げ左打ちの限界-その4-スラッガータイプと俊足好打タイプの役割分担

2021年4月6日 投稿

スラッガータイプと俊足好打タイプの役割分担

 野球で得点するためには,ランナーを溜めるということと,溜めたランナーをホームに帰すということの二つが基本となります.ランナーを溜めるには出塁率の高い選手,いわゆる足が速く小技がきく俊足好打タイプの選手が,溜めたランナーを帰すには,長打を打てるスラッガータイプの打者が必要になります.

 このように打者には役割分担があるのですが,右投げ左打ちの打者がどちらに該当するかというと,まず,スラッガータイプにはあてはまらないといえます.なぜなら,インパクト後,両腕を伸ばしてボールに力を伝えるときに,非利き腕である左腕ではボールを強く押し込むことができないからです.ですから,長打力のある右投げ右打ちの打者をわざわざ左打ちに変えて,長打力を半減させる必要はありません.つまり,右投げ左打ちの打者は俊足好打タイプに該当することになりますが,右投げ右打ちの打者が左打ちに変更する場合,以下のような利点があります.

右投げ右打ちの打者が左打ちに変更するメリット

  • 利き目でボール見ることができるため,コンタクトしやすくなる.コンタクト率と選球眼の向上により,出塁率が高くなる.
    利き手と利き目がともに右の割合が74%、ともに左の割合が16%であり,どちらも同じ側がになる割合が90%を占める ため,右投げ右打ちでは利き目が右目になると考えられる.
  • インパクトでは「前腕でボールを捉え,後ろ腕でボールを押し込む」動作となるが,利き腕の右腕でボールを捉えることになるので,ミートできる確率が高くなる.
  • 一塁に近くなるため,内野安打が増え,出塁率が高くなる.
  • ボールの角度が見やすくなる.右投手が多いことを想定すれば,外から入ってくる球道になるため打ちやすくなる.逆に対左投手の場合は,ボールが内から外へ入ってくるため,打ちにくくなる.

首位打者を獲得した選手に占める右投げ左打ちの割合は?

セントラル・リーグ 首位打者 1950-2020
投打人数割合 %
右投右打2246.8
右投左打1327.7
左投左打1021.3
右投両打24.3
47
※引用元:ウィキペディア

パシフィック・リーグ 首位打者 1950-2020
投打人数割合 %
右投右打1941.3
右投左打1430.4
左投左打1123.9
右投両打24.3
46
※引用元:ウィキペディア

 1950年から2020年までに首位打者を獲得した選手のなかで,右投げ左打ちの打者が占める割合は,セリーグが27.7%,パリーグが30.4%と共に30%前後の数字になっています.

イチローが出てきた頃から、自分から右投げ左打ちにする子どもが増えた

イチローの「28年間」が変えた日本人の野球観
すべての野球ファンの中心にいたスター選手

広尾 晃 : ライター                             2019/03/27 5:10

 一方で王貞治、張本勲、門田博光、福本豊、川上哲治、榎本喜八など日本を代表する強打者は、左投げ左打ちであり「そのままでもいい」という考えもあった。

 少年野球の指導者は「イチローが出てきた頃から、自分から右投げ左打ちにする子どもが増えた」と話す。筆者もイチローが登場した頃、多くの子どもがイチローのフォームを真似て草野球をするのをよく見かけたが、イチローにあこがれる野球少年が右投げ左打ちに転向した例はかなり多いのではないか。NPBでの「右投げ左打ち」選手の増加はそれを裏付けている。

 また、かつて日本野球の野手の花形ポジションは長嶋茂雄、衣笠祥雄、掛布雅之などが出た三塁手だったが、最近は外野手に強打者が増えている。

 プロ野球選手が初めて参加した2000年のシドニー五輪の日本野球代表の中軸は、捕手の阿部慎之助(当時中央大、のち巨人)、一塁の松中信彦(ダイエーホークス)、三塁の中村紀洋(近鉄バファローズ)だった。外野は赤星憲広(JA東日本、のち阪神)、田口壮(関西学院大、のちオリックス)などだったが、2020年の東京五輪の侍ジャパンでは、筒香嘉智(横浜DeNAベイスターズ)、柳田悠岐(福岡ソフトバンクホークス)、秋山翔吾(西武)、吉田正尚(オリックス)、鈴木誠也(広島カープ)と外野手が中軸を担うと考えられている。この5人のうち、鈴木を除く4人は右投げ左打ちだ。

 イチローの後に同じ右投げ左打ちの松井秀喜が登場し、MLBに行ったことも大きいが、イチローの登場によって「右投げ左打ちの外野手」にあこがれる野球少年が増え、日本野球のスタイルも変わったのだ。

引用元:https://toyokeizai.net/articles/-/273241?page=3

 引用文によると,イチロー選手が出てきた頃から右投げ左打ちにする子どもが増えたとのことです.

 イチロー選手は,プロ3年目の1994年から2000年まで7年連続(MLB2001年の首位打者を含めると8年連続)で首位打者のタイトルを獲得しています.この期間に右投げ左打ちに変更した子供がプロに入って活躍するとすれば,かなりの年月を要することになります.

オリンピック日本代表に選出された右投げ左打ちの選手 2000-2008
2000 シドニー五輪2004 アテネ五輪2008 北京五輪
捕手阿部慎之助阿部慎之助
内野手野上修(日本生命)小笠原道大西岡剛
藤本敦士川崎宗則
外野手梶山義彦(三菱重工川崎)福留孝介青木宣親
赤星 憲広 高橋由伸森野将彦
人数445
※2000年シドニー五輪からプロ野球選手の出場が解禁.
※右投げ両打ちの選手は除く.
※引用元:ウィキペディア

 

WBC日本代表に選出された右投げ左打ちの選手 2006-2017
2006
WBC
2009
WBC
2013
WBC
2017
WBC
捕手阿部慎之助阿部慎之助
内野手岩村明憲岩村明憲鳥谷敬田中広輔
小笠原道大小笠原道大本多雄一
西岡剛川崎宗則
川崎宗則
外野手福留孝介福留孝介糸井嘉男青木宣親
青木宣親青木宣親角中勝也筒香嘉智
イチロー亀井義行秋山翔吾
イチロー
人数7854
※右投げ両打ちの選手は除く.
※引用元:ウィキペディア


 オリンピックの日本野球代表のメンバーを調べたところ,2000年のシドニー五輪の時点で社会人野球の選手を含めると,すでに4人の右投げ左打ちの選手を確認できます.

 WBCの日本野球代表のメンバーも2006年には7人が選出されていますから,日本の野球界においては,2000年頃から右投げ左打ちの選手が徐々に増加していると考えられます.

右投げ左打ちの限界-その5-2000年以降,右投げ左打ちの選手はどのくらい増えているか

2021年4月8日 投稿

首位打者の中に占める右投げ左打ちの割合は?

 「右投げ左打ちの限界-その4」で日本の野球界で2000年頃から右投げ左打ちの選手が増加傾向にあると推測しました.2000年から2020年までの投打別の首位打者の人数と割合は以下のとおりです.

セントラル・リーグ 首位打者 2000-2020
投打人数割合 %
右投右打1055.6
右投左打6*33.3
左投左打15.6
右投両打15.6
18
*2000年から2020年までの27.7%から5.6%の増加
※引用元:ウィキペディア

パシフィック・リーグ 首位打者 2000-2020
投打人数割合 %
右投右打317.6
右投左打10*58.8
左投左打317.6
右投両打15.9
17
*2000年から2020年までの30.4%から28.4%の増加
※引用元:ウィキペディア

 2000年から2020年までに首位打者を獲得した選手のなかで,右投げ左打ちの打者が占める割合は,セリーグが33.3%,パリーグが58.8%となっています.

 1950年から2020年までの数字と比較すると,セリーグが27.7%から5.6%,パリーグが30.4%から28.4%増加しています.セリーグでは,右投げ左打ちの打者が占める割合はそれほど増加していませんが,パリーグでは首位打者の60%近くを右投げ左打ちの選手が占めていることになります.

 元々,少年野球の指導者が勝利至上主義のために右投げ右打ちの選手を左打ちに変えたことが,右投げ左打ちの選手が量産された端緒になっているのですが,右投げ左打ちの選手が多いことが勝利に結びつくということであれば,右投げ左打ちの選手が多いパリーグがセリーグよりも強いといわれるのは,あながち間違ってはいないと考えられます.

最近の首位打者の傾向を読みとる

セントラル・リーグ 首位打者 2010-2020 ※赤字は右投げ左打ち
年度選手投打打率
2010青木 宣親右投左打.358
2011長野 久義右投右打.316
2012阿部 慎之助右投左打.340
2013トニ・ブランコ右投右打.333
2014マット・マートン右投右打.338
2015川端 慎吾右投左打.336
2016坂本 勇人右投右打.344
2017宮崎 敏郎右投右打.323
2018ダヤン・ビシエド右投右打.348
2019鈴木 誠也右投右打.335
2020佐野 恵太右投左打.328
※首位打者11人のうち,右投げ左打ちの選手が占める割合は36.4%
※引用元:ウィキペディア

パシフィック・リーグ 首位打者 2010-2020 ※赤字は右投げ左打ち
年度選手投打打率
2010西岡 剛右投両打.346
2011内川 聖一右投右打.338
2012角中 勝也右投左打.312
2013長谷川 勇也右投左打.341
2014糸井 嘉男右投左打.331
2015柳田 悠岐右投左打.363
2016角中 勝也右投左打.339
2017秋山 翔吾右投左打.322
2018柳田 悠岐右投左打.352
2019森 友哉右投左打.329
2020吉田 正尚右投左打.350
※首位打者9人のうち,右投げ左打ちの選手が占める割合は77.8%
※引用元:ウィキペディア

 2010年から2020年までに首位打者を獲得した選手のなかで,右投げ左打ちの打者が占める割合は,セリーグが36.4%,パリーグが77.8%となっています.セリーグは,2000年から2020年までの33.3%から3.1%の微増で,1950年から2020年までの27.7%と比較しても僅か8.7%の増加に止まっています.

 パリーグは,1950年から2020年までの割合30.4%から77.8%に大幅に増加しており,2012年から9年連続で右投げ左打ちの選手が首位打者を獲得しています.活躍している右投げ左打ちの選手の数に開きがあることが,パリーグとセリーグの格差を生んでいるという見方もできます.

右投げ左打ちが増えると三冠王が出現しない

 今後も少年野球の指導者が,勝利至上主義のために右投げ左打ちの選手を量産し続ければ,右投げ左打ちの選手が首位打者のタイトル独占することになりかねません.

 そうなると,右投げ右打ち,左投げ左打ちの選手が本塁打と打点の二冠を達成しても,首位打者のタイトルを獲ることができないため,三冠王を達成できる可能性は非常に小さくなります.

 ただし,セリーグはパリーグに比べて俊足巧打タイプの右投げ左打ちの選手が少ないようなので,現状ではセリーグのほうが三冠王を獲ることができる可能性が大きいといえます.

投打別のタイトルを獲得できる可能性
投打打率本塁打打点
右投右打
右投左打俊足巧打タイプ
スラッガータイプ
左投左打
右投両打
※2004年の松中信彦選手(打率.358,本塁打44,打点120)
 を最後に三冠王は出ていない.
  • 三冠王に最も近いのは,左投げ左打ちの打者,右投げ右打ちのスラッガータイプの打者の順となる.
  • 右投げ右打ちは,本塁打と打点のタイトルを狙えるが,打率では右投げ左打ちに劣るため,首位打者を獲る可能性は小さい.
  • 右投げ左打ちのスラッガータイプは,首位打者を獲ることが可能.長打力では右投げ右打ち,左投げ左打ちに劣るが,左腕でボールを押し込む技術を修得すれば,本塁打と打点の二冠を獲る可能性も否定できない.
  • 左投げ左打ちは,本塁打と打点の二冠が可能.打率では右投げ左打ちに劣るが,左打者の利を活かして首位打者を獲る可能性も否定できない.
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