大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす-その2

 大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす に引き続き,山川穂高選手の本塁打力学について説明します.

長さで飛ばすとは?

引用元:石井喜八・西山哲成:スポーツ動作学入門(2002),市村出版,p.66,図4-1

2.末端部のスピードを増大させる
 回転軸(例えば肩関節)を中心にして各分節の末端で円弧を描かせてみる(図4-1).左から中央まで30度動いたとすると,各点の移動距離は回転軸から遠くなるほど大きくなる.また回転する角度が大きくなれば,さらに各点の移動距離は増加する.もし,1秒間に30度動いたとすれば,その円弧運動は30度/秒の角速度での運動ということになる.このときの各点の移動した速さ(移動速度)についてみれば,末端(点C)の移動速度がもっとも速くなる.このスピードのことを接線速度,または線速度といい,投てき物が飛び出していくときの速度に相当する.この末端部のスピードを速くするには,
 ・角速度が大きいこと(これは各関節をまたぐ筋群の発揮パワーによって決 
  まる)
 ・腕をできるだけ伸ばしてリリースすること
 ・長い骨を持つこと(筋肉とは別に構造がスピードを増す一要素である)

引用元:石井喜八・西山哲成:スポーツ動作学入門(2002),市村出版,p9.64-65
「腕をできるだけ伸ばしてリリースすること」:腕を伸ばして投げるのではない.腕を伸ばして投げると,振子が一つになり,運動連鎖を利用できない.リリース時に腕は伸びるものなので,意識して伸ばさなくてよい.
「長い骨を持つこと」:二重振子モデル は,筋,腱を取り去った骨だけのモデル.

 引用文のとおり,回転運動で角速度が同じ場合,回転軸から遠くなるほど各点の移動距離は大きくなります.同じ時間で移動する距離が大きくなるので,半径が長いほど末端の速度が大きくなります.
 大谷選手のように身長の高い選手は腕も長いので,他の選手と同じ移動角,角速度で投げた場合でも,他の選手よりも末端の速度を大きくすることができます.バッティングでも,スイングに入るときの肩を回す回転運動,肘を先行させて両腕を前方移動させ,インパクト後,両腕を伸ばしていく回転運動においても半径が長くなるので,バットを振る速度も大きくすることができます.


筋の短縮速度は直列に並んだ筋節の数に関係する

引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.52,図40

 図40において速度を考えてみよう。個々のエンジンが、たとえば1秒間に1㎝の一定の速度で短縮するとする。並列の場合は何個連結しようと全体の速度は1㎝/秒であるが、直列の場合は、同時に個々のエンジンが1㎝ずつ短縮するのであるから、全体の短縮量が加算されて著しく速い速度になる。すなわち、筋力の強さは並列の筋原線維数に関係するのに対し、筋の短縮速度は直列に並んだ筋節の数に関係するということである。一般に、太い筋肉ほど力が強いのは並列の筋節数が多いからであり、また長い筋肉ほど短縮速度が速いのは、直列に並んだ筋節数が多いからにほかならない。
 先に”断面積当たりの筋力に性差がなく、筋長当たり速度にも性差がない”(表3)と述べたことは、大まかにいえば、1個のエンジンの性能でみると、力にしても速度にしても性差がない、ということを意味しているわけである。

引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.53
引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.51,表3

 引用文の説明にあるように、収縮単位である筋節が多く連結しているほど、収縮速度は速くなります。なぜなら筋節が多いと、同じ収縮時間で筋が短縮する距離を長くできるからです。筋節が多く連結することは筋が長いということですから、筋が長ければ長いほど、収縮速度は速くなります.MLBに限らずNPBでも、投手は他のポジションに比べて背が高いのが一般的ですが、これは偶然にそうなっているのではなく、大谷選手のように身長が高い選手は腕も長いので、筋の収縮速度を生かして、スピードボールを投げることができるからです。 


筋の最大速度は筋の長さに比例する

引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.134,図128

 一方,最大速度は,繰り返し述べるように筋肉の長さに関係するので,発育とともに筋肉が長くなれば,当然最大速度も増すであろうと想像される.肘屈筋群には上腕二頭筋だけでなく上腕筋や腕橈骨筋などが含まれるため,筋肉の長さを正確に知ることは実際上困難である.そこで仮に筋肉の長さが前腕長に比例すると考えて(この仮定にはさほど無理がない),筋長に代わる前腕長と,実際の最大速度との関係を示したものが図128である.
 最大速度は,予想した通り前腕長(筋長)の増加とともに直線的に発達する.つまり,発育に伴う最大速度の発達は,基本的には “筋長が長くなるから” といえる.しかし,筋長だけが速度発達の要因ではないということが,〔最大速度/前腕長〕(放射線)から理解できる.すなわち,“単位筋長当たりの速度” に相当するこの指標は,5~17歳の発育過程において女子では11から17に(1.5倍),男子では11から20に(1.8倍),男女ともに著しい増加を示している.
 この増加は,筋長が直列の筋節数に比例すると仮定すると,1個の筋節の短縮速度が年齢とともに速くなったことを意味する.つまり,発育に伴う最大速度の発達は,筋肉が長くなるからだけでなく,その上に筋の短縮速度が速くなるという要因が加わるからだ,という結論に達する.
 さらにその背景には,骨格の成長に伴う筋長の増加(筋節数の増加)(図120参照)や,支配神経(運動ニューロン)とエネルギー反応にすぐれた速筋繊維の発達が関係しているであろう.

引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.135

 図128では筋の最大速度は,前腕長(筋長)の増加とともに直線的に発達しています.しかし,発育過程における男子,女子の最大速度/前腕長の傾き(直線ではないが)が,放射線よりも大きくなっているので,筋長だけが速度発達の要因ではないということです.
  中学,高校の成長過程では身長は著しく増加するので、腕も比例して長くなります.筋が長くなることに加えて筋節の短縮速度も速くなるため,発育とともに球速が増すという側面があります.
 この図では肘関節を屈曲する筋の長さを正確に知ることが困難なので、筋長さが前腕長に比例することを仮定しています。P.133-135 ”b.筋パワー発達の要因”の説明によると、傾きが放射線よりも大きくなっているのは、筋長が直列の筋節数に比例すると仮定すると、1個の筋節の短縮速度が年齢とともに速くなったことを意味しています。筋節の短縮速度が速くなる要因には、骨格の成長に伴う筋長の増加(筋節数の増加)や、神経支配(運動ニューロン)とエネルギー反応にすぐれた速筋線維の発達が関係しているであろうとのことです。

 以上が山川穂高選手の本塁打力学「大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす」の「長さで飛ばす」の説明になります.