大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす-山川穂高選手の本塁打力学

大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす-重さで飛ばすとは?

2021年2月6日 投稿

山川穂高選手の本塁打力学

西武・山川がドラ1・渡部に説いた本塁打力学「大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす」

2年ぶりの本塁打王奪回を目指す西武・山川穂高内野手(29)が26日、リモート会見に臨み、持論とする〝本塁打における長さと重さの相関関係〟を語った。

 沖縄での自主トレを打ち上げ、メットライフドームに隣接する球団施設での自主トレを公開した山川。昨年8月に痛めた右足首の状態は「70~80%」といい、B班からスタートする8年目のキャンプを「今年はちょっとだけのんびりやってみたい。足と相談しながら、開幕で100%になるようにやっていきたい」とこれまでと違い慎重に踏み出すことを語った。

 打撃に関し、確実性を求めステップを小さくしていた昨年同時期から一転。昨季終盤から元のフォームに戻していた山川は「打ちやすいところに戻した。足も上げているし、今はホームランを一番打てるフォームにしている。打率は2割8分ぐらいでもいい。最低でも40本打てるフォームにしているつもり」と遠回りした結果、気付いた原点回帰に決意を新たにした。

 一方で、この日は注目のドラフト1位・渡部健人内野手(22=桐蔭横浜大)ともグラウンドであいさつを交わした。

 山川はその印象を「(体が)パンパンに張っていていい太り方だと思う。打撃は見たことがないけど、ノックを見る限りグラブさばきも足さばきもいい。(今のまま)痩せなくてもいいのではないか」と118キロの体を操れている渡部に安易な減量は逆効果となる可能性を指摘した。

 というのも山川には以前から語るこんな持論があるからだ。

「バッティングは長さか重さのどちらかで飛ばすしかない。僕たちみたいに背がないと重さで飛ばすしかない。重ければ重いほどいいんですよね。ケガをしないのであればボクも120~130キロほしい。重ければ重いほど絶対に飛ぶから。彼がその重さで僕らに勝ってスピードを出せるなら、ボクより多分飛ぶと思う。身長が高い大谷みたいにデカくて手のリーチで飛ばすか、小さくても重さで飛ばすかのどちらかですね」

 2018年シーズンからメジャーに移籍したエンゼルス・大谷に対し「今(パ・リーグに)いたら絶対に勝てない」と断言する山川はその根拠となる〝リーチ論〟についてこう説明している。

「ボク(176センチ)と大谷(193センチ)って身長が17センチ違うんですよ。手を左右に伸ばしたリーチが17センチ違う。単純に向こうは17センチ分の高さと遠心力が使えて、さらにバットを持っている。それをあれだけうまく体を使われたら勝てないです。大谷がもし、今も日本にいて143試合に野手としてフル出場しボクみたいに全打席ホームランを狙ったら60本以上行くと思う」

 同一シーズンの中で打者として打率3割2分2厘、22本塁打、67打点、投手として10勝4敗、防御率1・86をマークしたスーパー二刀流・大谷がパ・リーグを去り山川、森の時代が到来した。

 逆立ちしても勝てない「長さ」の大谷(193センチ)に対抗する中村(175センチ)、山川(176センチ)、渡部(176センチ)に共通する武器は質量。その「重さ」で勝負する超新星に本塁打の力学を山川は分かりやすく説明したようだ。 山川選手のいうとおり,

引用元:東京スポーツ https://news.yahoo.co.jp/articles/8288127a52ac20c615228336ce4510
ee27f8b8da

重さで飛ばすとは?

 運動連鎖の考え方 で述べたように,運動連鎖を利用するためには,最初に大きな運動エネルギーを発生させることが重要です.大元の運動エネルギーはステップに伴う前方移動により生み出されますが,運動エネルギーは1/2×m(質量)×v(速度) の二乗で表されるので, m(質量) が大きいほうが値が大きくなります.このm(質量) が「重さで打つ」の重さにあたります. 山川選手のいうとおり,渡部選手が118キロの体を操れているのならば,無理して痩せる必要はないと思われます.

前足着地後,前方移動の運動エネルギーにブレーキをかけ,伝達した運動エネルギーをスイング動作に利用する渡部選手 ステップ足着地後, 軸足が地面から浮くほど急激なブレーキをかけているので,効率よく運動エネルギーを伝達できている.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=gElOImTnk-k

大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす-その2-長さで飛ばすとは?

2021年2月12日 投稿

長さで飛ばすとは?

引用元:石井喜八・西山哲成:スポーツ動作学入門(2002),市村出版,p.66,図4-1

2.末端部のスピードを増大させる
 回転軸(例えば肩関節)を中心にして各分節の末端で円弧を描かせてみる(図4-1).左から中央まで30度動いたとすると,各点の移動距離は回転軸から遠くなるほど大きくなる.また回転する角度が大きくなれば,さらに各点の移動距離は増加する.もし,1秒間に30度動いたとすれば,その円弧運動は30度/秒の角速度での運動ということになる.このときの各点の移動した速さ(移動速度)についてみれば,末端(点C)の移動速度がもっとも速くなる.このスピードのことを接線速度,または線速度といい,投てき物が飛び出していくときの速度に相当する.この末端部のスピードを速くするには,
 ・角速度が大きいこと(これは各関節をまたぐ筋群の発揮パワーによって決 
  まる)
 ・腕をできるだけ伸ばしてリリースすること
 ・長い骨を持つこと(筋肉とは別に構造がスピードを増す一要素である)

引用元:石井喜八・西山哲成:スポーツ動作学入門(2002),市村出版,p9.64-65

※「腕をできるだけ伸ばしてリリースすること」:
腕を伸ばして投げるのではない.腕を伸ばして投げると,振子が一つになり,運動連鎖を利用できない.リリース時に腕は伸びるものなので,意識して伸ばさなくてよい.
※「長い骨を持つこと」:
二重振子モデル は,筋,腱を取り去った骨だけのモデル.

 引用文のとおり,回転運動で角速度が同じ場合,回転軸から遠くなるほど各点の移動距離は大きくなります.同じ時間で移動する距離が大きくなるので,半径が長いほど末端の速度が大きくなります.
 大谷選手のように身長の高い選手は腕も長いので,他の選手と同じ移動角,角速度で投げた場合でも,他の選手よりも末端の速度を大きくすることができます.バッティングでも,スイングに入るときの肩を回す回転運動,肘を先行させて両腕を前方移動させ,インパクト後,両腕を伸ばしていく回転運動においても半径が長くなるので,バットを振る速度も大きくすることができます.


筋の短縮速度は直列に並んだ筋節の数に関係する

引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.52,図40

 図40において速度を考えてみよう。個々のエンジンが、たとえば1秒間に1㎝の一定の速度で短縮するとする。並列の場合は何個連結しようと全体の速度は1㎝/秒であるが、直列の場合は、同時に個々のエンジンが1㎝ずつ短縮するのであるから、全体の短縮量が加算されて著しく速い速度になる。すなわち、筋力の強さは並列の筋原線維数に関係するのに対し、筋の短縮速度は直列に並んだ筋節の数に関係するということである。一般に、太い筋肉ほど力が強いのは並列の筋節数が多いからであり、また長い筋肉ほど短縮速度が速いのは、直列に並んだ筋節数が多いからにほかならない。
 先に”断面積当たりの筋力に性差がなく、筋長当たり速度にも性差がない”(表3)と述べたことは、大まかにいえば、1個のエンジンの性能でみると、力にしても速度にしても性差がない、ということを意味しているわけである。

引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.53
引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.51,表3

 引用文の説明にあるように、収縮単位である筋節が多く連結しているほど、収縮速度は速くなります。なぜなら筋節が多いと、同じ収縮時間で筋が短縮する距離を長くできるからです。筋節が多く連結することは筋が長いということですから、筋が長ければ長いほど、収縮速度は速くなります.MLBに限らずNPBでも、投手は他のポジションに比べて背が高いのが一般的ですが、これは偶然にそうなっているのではなく、大谷選手のように身長が高い選手は腕も長いので、筋の収縮速度を生かして、スピードボールを投げることができるからです。 


筋の最大速度は筋の長さに比例する

引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.134,図128

 一方,最大速度は,繰り返し述べるように筋肉の長さに関係するので,発育とともに筋肉が長くなれば,当然最大速度も増すであろうと想像される.肘屈筋群には上腕二頭筋だけでなく上腕筋や腕橈骨筋などが含まれるため,筋肉の長さを正確に知ることは実際上困難である.そこで仮に筋肉の長さが前腕長に比例すると考えて(この仮定にはさほど無理がない),筋長に代わる前腕長と,実際の最大速度との関係を示したものが図128である.
 最大速度は,予想した通り前腕長(筋長)の増加とともに直線的に発達する.つまり,発育に伴う最大速度の発達は,基本的には “筋長が長くなるから” といえる.しかし,筋長だけが速度発達の要因ではないということが,〔最大速度/前腕長〕(放射線)から理解できる.すなわち,“単位筋長当たりの速度” に相当するこの指標は,5~17歳の発育過程において女子では11から17に(1.5倍),男子では11から20に(1.8倍),男女ともに著しい増加を示している.
 この増加は,筋長が直列の筋節数に比例すると仮定すると,1個の筋節の短縮速度が年齢とともに速くなったことを意味する.つまり,発育に伴う最大速度の発達は,筋肉が長くなるからだけでなく,その上に筋の短縮速度が速くなるという要因が加わるからだ,という結論に達する.
 さらにその背景には,骨格の成長に伴う筋長の増加(筋節数の増加)(図120参照)や,支配神経(運動ニューロン)とエネルギー反応にすぐれた速筋繊維の発達が関係しているであろう.

引用元:金子公宥:パワーアップの科学(1988),朝倉書店,p.135

 図128では筋の最大速度は,前腕長(筋長)の増加とともに直線的に発達しています.しかし,発育過程における男子,女子の最大速度/前腕長の傾き(直線ではないが)が,放射線よりも大きくなっているので,筋長だけが速度発達の要因ではないということです.
  中学,高校の成長過程では身長は著しく増加するので、腕も比例して長くなります.筋が長くなることに加えて筋節の短縮速度も速くなるため,発育とともに球速が増すという側面があります.
 この図では肘関節を屈曲する筋の長さを正確に知ることが困難なので、筋長さが前腕長に比例することを仮定しています。P.133-135 ”b.筋パワー発達の要因”の説明によると、傾きが放射線よりも大きくなっているのは、筋長が直列の筋節数に比例すると仮定すると、1個の筋節の短縮速度が年齢とともに速くなったことを意味しています。筋節の短縮速度が速くなる要因には、骨格の成長に伴う筋長の増加(筋節数の増加)や、神経支配(運動ニューロン)とエネルギー反応にすぐれた速筋線維の発達が関係しているであろうとのことです。

 以上が山川穂高選手の本塁打力学「大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす」の「長さで飛ばす」の説明になります.

「重さで飛ばす」渡部健人選手(西武ドラフト1位)のバッティング

2020年12月6日 投稿

前方移動に急激なブレーキをかけて,大きな一次エネルギーを生み出す

【西武ドラ1】「おかわり3世」渡部健人 驚愕パワー!特大アーチを放つ

 インターネットの情報によると,渡部選手は日本人の父親とフィリピン人の母親を持つハーフとのことです.甲子園出場経験はなく,高校通算本塁打が25本,大学通算60試合の成績は, 打率.293、60安打、10本塁打、37打点( 桐蔭横浜大学・神奈川大学野球連盟) で,大学日本代表候補となっています.

前足が着地したときに,後ろ足がフリーフット(地面から離れる)になっている.

 渡部選手の最大の特徴は,前足が着地したときに後ろ足がフリーフット(地面から離れる)になることです.「人」の形で打つ で述べたように,ステップによる前方移動にブレーキをかけて, 前方移動の運動エネルギー(一次エネルギー )をスイングに利用する必要があります.

 運動エネルギーは,並進運動エネルギーと回転運動エネルギーに分けられ, 前方移動の並進運動エネルギー は1/2mv2 で表されるので,112kg(m)という体重が有利に働き,大元の一次エネルギーを大きくすることができます.後ろ足がフリーフット になるということは,前方移動に急激なブレーキがかけられている証拠で,大きなエネルギーをスイング(体幹の回転運動エネルギー)に利用できるため,飛距離につながっていると考えられます.

NPBでは,体重のある選手は「人」の形で打たなくてもボールに力負けしない

完全な「入」の形 にはなっていない.

 ただし,「入」の形(右打者の場合)で打つことができているかというと,きれいな「入」の形とは言い難く,前脚の膝関節を伸展して下肢のエネルギー(二次エネルギー)を上肢に伝達するという動作は不十分といえます.NPBでは,体重のある打者は一次エネルギーを利用するケースがほとんどです.

 打った直後に前足がすぐに離れているので, 「入」の形で打てていないことがわかる. 「入」の形で打てていれば,後ろに体重がかかるため,前脚がイエリッチ選手のように残る 傾向がある.
空手打法は確認できるが,インパクト時に肩が今ひとつ回っていないため,バットのタメは小さい.

 フライング・エルボー については,グリップを上げた反動を利用してスイングを加速していますが,バットを立てて手元を下げる動作は行われていません.構えのグリップの位置はやや高めで,体からの距離は離れすぎてはいませんが,密着もしていません.

 渡部選手は 「科学する野球」のチェックポイントをすべて満たしていません.その満たしていない部分を,重量級の体格を活かした前方移動の運動エネルギー(一次エネルギー ) と 空手打法 でカバーする打撃動作となっています.

 NPBではMLBに比べ投手の球速が劣るため,「入」の形で打てていなくて力負けすることが少なくなります.中村剛也,山川穂高両選手のように活躍できる可能性があると考えられます.

タイトルとURLをコピーしました