筒香選手はメジャーで活躍できるか-開幕戦でホームラン
2020年8月3日 投稿
動画はMLB開幕戦の7月25日に筒香選手がトロント・ブルージェイズ戦で1号ホームランを打ったときのものです.
結論からいうと筒香選手がメジャーリーグで活躍するのは難しいと思われます.なぜなら大谷選手のように 「人」の形 で打てていないからです.長距離砲として成績を残すためには,この打ち方は必須となります.
筒香選手には「人」の形で打っていないマイナス面をカバーする特徴が三つあります.一つは後ろ肘を フライング・エルボー にしてバックスイングを行い,肘を先行させている点です.二つ目は 空手打法 でボールを打っていることで,飛距離が出る一因にになっています.三つ目はステップ脚を突っ張らせることによって,スイングスピードを速くしている点 (ステップ足着地後の第二動作) です.
筒香選手はボールを打った後,体幹が前方に移動して,前足に体重が乗ります.これはステップの前方移動の運動エネルギーをステップ脚でブレーキをかけることにより,スイングスピードを加速させる動作に利用していることを意味します.ただし,この打ち方では 「人」の形で打つ ときのように下肢のエネルギーを体幹,上肢へと流す側面は小さくなります.筒香選手は,この特殊な打ち方でNPBのなかでもスイングスピードの速い打者に数えられますが,MLBで活躍する選手の大半が「人」の形で打っていることを考えると,その不足分をカバーするのは困難であることが推測されます.



ステップ足着地後の第二動作 を利用していないため,体重が後ろ脚に残らない.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=yDmB7hcNd1U
筒香選手が打てない理由-グリップの位置が体から離れる
2021年4月24日 投稿
4月24日現在,打率.170,本塁打0,打点5と極度の不振に陥り,マイナー降格も危惧されている筒香選手の不振の原因を探ります.以前,「筒香選手はメジャーで活躍できるか」という記事を投稿していますが,分析内容が不十分であったため,再度,筒香選手が打てない理由(①~④)についてまとめます.
①グリップの位置が体から離れる

引用元:【MLB】筒香嘉智 2020年シーズン全安打集【SPOZONE】
https://www.youtube.com/watch?v=LhJbAO0IBuM&t=288s
筒香選手はグリップを体から離して構えるのが特徴です.構えでグリップが離れていても,落合博満選手のようにスイングに入るまでにグリップを体に密着させるとよいのですが,バックスイングに入っても筒香選手はグリップの位置を動かさないので,打ち出しのグリップの位置は構えとほぼ変わりません.このように体からグリップを離すとワキが空くため,肩が回らずバットのタメがないままスイングすることになります.
大谷選手のようにグリップが大きく離れる場合は,右方向へ打つとアウトサイド・インのスイングになりやすいため,左方向へ打つほうがボールを強打できる傾向がありますが,筒香選手は大谷選手ほどグリップは離れないため左方向へ打つほうがワキが空く程度が大きくなり,ボールを強打できなくなります.大谷選手のような明らかなゴルフスイングになっているわけではありませんが,グリップを体から離して打つこと自体が打てない理由の一つになります.


打球方向別の打率 2020 | |||
---|---|---|---|
左方向 | センター方向 | 右方向 | |
対右投手 | .250(24打数6安打) | .171(35打数6安打) | .370(27打数10安打) |
対左投手 | .250(8打数2安打) | .600(5打数2安打) | .500(8打数4安打) |
※引用元:ベースボール・サバント 右方向へ引っ張る方がボールを強打できる傾向がある. |
打球方向別の打率 2021 4/24まで(打数が少ないため参考程度) | |||
---|---|---|---|
左方向 | センター方向 | 右方向 | |
対右投手 | .222(9打数2安打) | .308(13打数4安打) | .143(7打数1安打) |
対左投手 | 1.000(2打数2安打) | .000(1打数0安打) | .000(2打数0安打) |
※引用元:ベースボール・サバント |
②低めのコースしか打てない

「人」の形で打つ二次エネルギーは利用していない.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=yDmB7hcNd1U
筒香選手は前脚を突っ張らせて,ステップによる前方移動にブレーキをかけ,体幹,上肢へ運動エネルギーを流してスイングスピードを加速しています.MLBの一流打者は,ステップによる前方移動の一次エネルギーと,前足着地後に前脚膝関節を伸展して下肢のエネルギーを股関節を介して体幹,上肢に流す二次エネルギーの両方を利用して打っていますが,筒香選手は二次エネルギーを利用する 「人」の形で打つ ことはせず,一次エネルギーのみを利用する特殊な打ち方を行っています.
この前脚を突っ張らせる打ち方では,高めのコースよりも低めのコースが打ちやすくなります.打てるコースが限定されると好成績は望めません.

※対右投手では低めのコースの打率が高いことが確認できる.対左投手は打席数が少ないため参考程度.
引用元:ベースボール・サバント

※2021 4/24までの打率 打席数が少ないため参考程度.
引用元:ベースボール・サバント
筒香選手が打てない理由-その2-ステップするタイミングの難しさ
2021年4月25日 投稿
筒香選手が打てない理由 で,①グリップの位置が体から離れる,②低めのコースしか打てない,の2点について説明しました.引き続き後半の2点について説明します.
③ステップするタイミングの難しさ
筒香選手はステップ足の着地後,すぐに前脚を突っ張らせてスイングに入ります.その際,一次運動エネルギーを大きくするため,ステップする前足を高く上げ位置エネルギーを大きくして着地するときに運動エネルギーへ変換します.
MLBの一般的な打ち方では,ステップ足が着地した後,膝関節を伸ばして下肢から二次運動エネルギーを取り込むまでに少し間ができますが,筒香選手の場合,二次エネルギーを利用せず,すぐにスイングに入るため,間がありません.一回のタイミングでステップを合わせる必要があり,そのため前足を踏み込むタイミングが難しくなり,速いボールに差し込まれることが多くなると考えられます.

一次運動エネルギーを最大限に利用しようとしているのはわかるが,この打ち方では,ステップ足着地後,間が取りづらくなる.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=yDmB7hcNd1U

写真(上)のような特殊な打ち方のため,ステップするタイミングが難しくなり,速球に差し込まれる傾向がある.
一次運動エネルギーを最大限利用する打ち方のため,摺り足のステップはできない.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=yDmB7hcNd1U
前足を高く上げることが速球への対応を困難にしていることについては,以前投稿した記事がありますので,こちらもご覧ください.
筒香選手は「150キロ超の速球」を打てないのか?
2020年9月25日 投稿
150キロ超のボールを苦手としていることは周知の事実
検証:筒香嘉智は本当に「150キロ超の速球」を打てないのか? “MLB平均”の速球を捉えたのは…
日本時代から筒香は「150キロ以上の速球が打てない」と言われてきた。実際、44本塁打&110打点で二冠王を獲得した2016年、筒香の150キロ以上の打率は1割台前半だったとのデータがある。もっとも、これは逆に言えば、その球速帯よりも遅ければ対応できているとも言えるわけで、150キロ以下の速球、さまざまな変化球への柔軟な対応力が、筒香の強みとも言い換えられるかもしれない。
昨年、日本プロ野球の先発投手のストレートの平均球速は143.2キロ、救援投手は145.6キロだった。一方でMLBでは、それぞれ150.0キロ(93.2マイル)、151.6キロ(94.2マイル)と、俗に言う大台を平均で計測している。やはり、と言うべきか、今季筒香が「メジャーの平均速球」に苦戦しているのは、ここまでの全安打の内訳からも見えてくる。
【筒香の全安打内訳】※先頭()内の数字が安打数
(1)本塁打/4シーム/89マイル(143.2キロ)
(2)単打/カーブ/74.9マイル(120.5キロ)
(3)単打/カーブ/81.1マイル(130.5キロ)
(4)単打/スライダー/81.6マイル(131.3キロ)
(5)単打/4シーム/92.2マイル(148.4キロ)
(6)二塁打/スプリッター/87.8マイル(141.3キロ)
(7)単打/シンカー/90.2マイル(145.2キロ)
(8)本塁打/カッター/88.3マイル(142.1キロ)
(9)単打/スライダー/80.3マイル(129.2キロ)
(10)単打/カッター/90.9マイル(146.3キロ)
(11)本塁打/スプリッター/87マイル(140.0キロ)
(12)二塁打/4シーム/94.4マイル(151.9キロ)
(13)本塁打/4シーム/90.6マイル(145.8キロ)
安打の内訳を見ると、さまざまな球種からヒットを放つなど筒香らしい対応力を見せている反面、“150キロ超”の速球から快音を飛ばしたのは12安打目(8月16日のブルージェイズ戦)が唯一。デビュー戦で昨年のナ・リーグ最優秀防御率を獲得したリュ・ヒョンジンからメジャー初安打を本塁打で飾ったが、この時も打ったのは143キロの速球と、得意なボリュームゾーンだった。そして24日の試合で今季4号を放った際、敵地放送局の解説者は「ツツゴウは速球に上手く対応できていません。(今回は)4シームを捉えましたが、(先発投手のタナー・)ロアークには、ツツゴウが問題を抱えている球速がありませんからね」と冷静な分析をしていた。相手のTVクルーにすらも、メジャー1年目の筒香が150キロ超のボールを苦手としていることが周知の事実となっているようである。
引用元:Yahoo! JAPAN
足を上げると速いボールへの対応が難しくなる
デグロム投手の100mphのストレートに空振り三振する動画をみると,筒香選手のように足を上げてタイミングをとる打者は,速いボールに振り遅れてしまうことが考えられます.足を上げると,①速いボールに対応が遅れる,②重心が上下動し視線がブレるため,ボールを捉えにくくなる,といった欠点を伴いやすくなります.
ホームランバッターのステップを確認すると,バリー・ボンズ, ハンク・アーロン選手は,ほとんど足を上げておらず,ケン・グリフィー・ジュニア選手は少し上げている程度です.大谷選手もMLB1年目にオープン戦で速球に対応できなかったことから,シーズンに入ると足を上げない打法に修正しています.MLBでは,大半の選手がほぼ足を上げずにステップしています.ノーステップ打法ということがいわれますが,実際はステップしているので,ノーステップではありません.
MLBでも足を高く上げる選手はいますが,ほとんどの選手が足を上げる時間と下ろす時間がほぼ同じで,足を上げたらすぐ下ろすステップ動作になっています.ところが,筒香選手の場合は,足を上げた後,少しタメをつくり,それから下ろしてステップしています.タメをつくることで速球に差し込まれやすくなっています.
筒香選手は,ステップ足着地後にブレーキをかけること(第一動作)によって,ステップによる前方移動の運動エネルギーをスイングスピードに変換する方法をとっています.運動エネルギー(1/2mv2)を大きくするには,ステップする速度も大きくする必要があるため,大谷選手のようにすり足でステップする打ち方に変えることは,まずできないはずです.したがって,筒香選手は,今後も速球に対応することが難しい状況が続くことになり,目立った活躍をすることはできないと考えられます.
④インパクト後,後ろ腕でボールを押し込むことができない
右投げ左打ちの限界-その2 で述べたように,右投げ左打ちの選手はインパクト後,後ろ腕(非利き腕)でボールを強く押し込むことができません.作られた左打者はMLBの球威のあるボールに力負けすることになるので,筒香選手が95mph以上の速球を打てないのは当然といえます.
筒香選手は一見,インパクト後,両腕が伸びているように見えますが,よく見ると,前腕は曲がったままです.右投げ左打ちの打者は,後ろ腕を強く伸ばすことができないため,肩を回してパワー不足を補おうとします.このとき肩を回すと横殴りのスイングとなり,打ち返す方向に力がうまく伝わらなくなるので,前腕を曲げたまま肩を回し,力が伝わる方向が打ち返す方向に近づくように調整しています.
この前腕を曲げたまま肩を回す打ち方は,後ろ腕でボールを押し込むことがでない右投げ左打ちの打者によくみられる動作です.ケン・グリフィー・ジュニア選手や門田博光選手のような利き腕でボールを押し込むことができる打者と比べると,パフォーマンスの低下は避けられません.

後ろ腕でボールを押し込むことができない作られた左打者によく見られる打ち方.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=yDmB7hcNd1U
筒香選手がMLBで活躍できる可能性
筒香選手が打てない理由として次の4点を挙げました.
①グリップの位置が体から離れる
②低めのコースしか打てない
③ステップするタイミングの難しさ
④インパクト後,後ろ腕でボールを押し込むことができない
①は日本人選手に多く見られる特徴です.本人が②,③は筒香選手の特殊な打ち方(前脚を突っ張らせて前方移動にブレーキをかけたときに発生する運動エネルギーを利用する)に由来しているもので,打ち方を変えない限り改善されません.④は右投げ左打ちの打者が背負うことになるデメリットで,余程の努力をしないと左投げ左打ちの打者のように打つことはできないでしょう.改善できるとすれば①のみとなりますが,筒香選手が打ち方自体を変えることは考えにくいため,今後も打撃不振が続くことになると思われます.投手の球に力のあるMLBで活躍することは難しいと考えられます.
この記事について
2022年7月26日 投稿
2022年に入り,筒香選手のスタンスとステップに問題があるのに気付き,「体を開いたまま打つ筒香選手-オープンスタンス打法はMLBでは通用しない」という記事を新たに投稿しています.
上に挙げた4点も理由として間違ってはいませんが,オープンスタンス打法が筒香選手の不振の最大の元凶となっているといっても過言ではありません.