「 2021年02月 」一覧

大谷選手の打球分布図からわかること-その2

右方向に打球が飛ぶのは,手首を返しているから

引用元:ベースボール・サバント

 大谷選手の打球分布図からわかること で,2020年の打球分布図が2018,2019年と比べて右方向に偏っていることを指摘しました.対右投手では内野の打球が右方向に集まり,対左投手では内外野ともに右方向に打球が偏っています.
 右方向に打球が偏る原因としては,インパクト後,手首を返していることが考えられます.手首を返すと インパクト後,手首をすぐに返してはいけない で説明しているように中心衝突させることができなくなります.


手首を返す理由①:グリップの位置が体から離れている

引用元:科学する野球・ドリル篇

  グリップの位置が体から離れると,スイングの軌道が図120の点線のようにアウトサイド・インになります.アウトサイド・インのスイングは円を描くためインパクト後,打ち返す方向に両腕を伸ばすことが難しくなり,手首を返して打ちやすくなります.また,円を描くスイングでは慣性モーメントが大きくなるため,スイングスピードも速くすることができません.


手首を返す理由②:両肩を結ぶ線が打ち返す方向に対して90°になっていない

引用元:科学する野球・打撃篇

 ボールを強く打つためには,インパクト後,両腕を打ち返す方向に伸ばす必要があります.両腕を伸ばすためには打ち返す方向に正対(両肩を結ぶ線が90°になる)していないと,十分な力でバットを押し出すことができません.
 大谷選手はゴルフスイングで肩が回っていないので,当然,両肩を結ぶ線は打ち返す方向に対して90°になりません.この両腕を伸ばしにくい体勢でバットを打ち返す方向に対して90°でインパクトし,90°の角度を保ったまま両腕を伸ばすのは非常に不安定な動作になります.この打ち方では手打ちの要素が大きくなり,ちょっとしたことで手首をこねる打ち方になっても不思議はありません.そもそも打ち返す方向に対して正対していないことが問題です. 


手首を返す理由③:バットが打ち返す方向に対して90°になっていない

 大谷選手の動画をみると,肩は回っていませんが,バットは打球線(弾道)に対してほぼ90°でインパクトしていることを確認できます.2018,2019年はバットを打球線(弾道)に対して90°でインパクトできていたのが,2020年にはできなくなっている可能性があります.
 おそらく,両肩を結ぶ線とバットが並行になるドアスイングに近づいているため,バットも回らないままインパクトしているものと思われます.

引用元:科学する野球・打撃篇

 打ち返す方向に対してバットが肩と平行に近い状態でインパクトすると,バットのヘッド側の角度が90°よりも大きくなり,手首を返して打つことになります.大谷選手は元々ゴルフスイングのため肩が回っていませんが,バットまで回らなくなってきていることが考えられます.


手首を返す理由④:インパクト後,肩を回している

 ボールを強く打ち返すためには,インパクト後,両腕を打ち返す方向に伸ばす必要がありますが,そのためには,両肩を結ぶ線は打球線(弾道)に対して90°に保っておかなければなりません.インパクト後,肩を回すと90°に保てなくなるため,両腕を伸ばせず肩が回るときに手首を返して打つことになります.
 インパクト後は肩とバットを90°に保ったまま打ち返す方向に両腕を伸ばさないといけないので,インパクト後,肩を回すこと自体が間違っています.


対右投手よりも対左投手で右方向の打球が顕著になっているのはなぜか

 MLBでの左対左の攻め方 で述べたように,投手の配球は外角低めのコースの割合が大きくなります.そのため,投球線(球道)が打者に鋭角に入ります.そうすると,大谷選手のように肩を回さない打者は,ますますバットだけを打ち返す方向に90°でインパクトすることが難しくなります.その結果,インパクトでバットのヘッド側の角度が90°よりもかなり大きくなり,手首を返して打っていると考えられます.

投手:クレイトン・カーショー 球種:スライダー コース:外角低め 球速:89.1mph
引用元:ベースボール・サバント
打ち返す方向は不明であるが,肩がまったく回っておらず,手元だけが前に出ている.肩が回っていないため,インパクトの顔の向きがゴルファーと同じになっている.本来ならば打ち返す方向に正対して,インパクト後,両腕を打球線(弾道)の方向に伸ばさないといけないが,ワキが空いてすでに両腕が伸びきっている.
引用元:ベースボール・サバント
インパクトで両腕が伸びきっているため,手首を返して打つしかなくなっている.インパクトでの投球線(球道)とバットとの角度は,バット側が90°より大きくなり(鈍角),グリップ側が90°より小さくなっている(鋭角).左投手の鋭角の投球に対して肩を回さないと,インパクトでバット側の角度が90°より大きくなり,打ち返すのが難しくなる.それを防ごうとしてバットだけを投球線(球道)に合わせようとすると,手打ちになり,手首をこねることになる.
引用元:ベースボール・サバント

 また,対左投手の場合,投球線(球道)が打者に鋭角に入ってくるので,センター方向に打ち返す場合でもインパクトでバットのヘッド側の角度が90°よりも大きくなります.このように打球線(弾道)に対して90°でインパクトしても投球線(球道)に対してバットのヘッド側の角度が大きくなりすぎると打ちにくくなるということが起こります.つまり,左対左(右対右も)では,インパクトでバットのヘッド側の角度が大きくなる傾向にあるので,投球線(球道)の方向に打ち返すほうがよいということになります.この場合,村上氏の中心衝突の理論が適用されます.
 右投手対左打者,左投手対右打者の場合はセンター方向に打ち返す場合でも,インパクトでバットのヘッド側の角度は90°より小さくなるため,引っ張る場合でも打ちにくくなることはありません.中心衝突させずに右方向(右打者),左方向(左打者)の打球線(弾道)②対して肩とバットを90°にしてインパクトしても問題はないことになります.
 右対右,左対左の場合は,村上氏の中心衝突の理論に従って,投球線(球道)に対して肩とバットを90°にするのも対策の一つです.


大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす

山川穂高選手の本塁打力学

西武・山川がドラ1・渡部に説いた本塁打力学「大谷は長さ、俺らは重さで飛ばす」

2年ぶりの本塁打王奪回を目指す西武・山川穂高内野手(29)が26日、リモート会見に臨み、持論とする〝本塁打における長さと重さの相関関係〟を語った。

 沖縄での自主トレを打ち上げ、メットライフドームに隣接する球団施設での自主トレを公開した山川。昨年8月に痛めた右足首の状態は「70~80%」といい、B班からスタートする8年目のキャンプを「今年はちょっとだけのんびりやってみたい。足と相談しながら、開幕で100%になるようにやっていきたい」とこれまでと違い慎重に踏み出すことを語った。

 打撃に関し、確実性を求めステップを小さくしていた昨年同時期から一転。昨季終盤から元のフォームに戻していた山川は「打ちやすいところに戻した。足も上げているし、今はホームランを一番打てるフォームにしている。打率は2割8分ぐらいでもいい。最低でも40本打てるフォームにしているつもり」と遠回りした結果、気付いた原点回帰に決意を新たにした。

 一方で、この日は注目のドラフト1位・渡部健人内野手(22=桐蔭横浜大)ともグラウンドであいさつを交わした。

 山川はその印象を「(体が)パンパンに張っていていい太り方だと思う。打撃は見たことがないけど、ノックを見る限りグラブさばきも足さばきもいい。(今のまま)痩せなくてもいいのではないか」と118キロの体を操れている渡部に安易な減量は逆効果となる可能性を指摘した。

 というのも山川には以前から語るこんな持論があるからだ。

「バッティングは長さか重さのどちらかで飛ばすしかない。僕たちみたいに背がないと重さで飛ばすしかない。重ければ重いほどいいんですよね。ケガをしないのであればボクも120~130キロほしい。重ければ重いほど絶対に飛ぶから。彼がその重さで僕らに勝ってスピードを出せるなら、ボクより多分飛ぶと思う。身長が高い大谷みたいにデカくて手のリーチで飛ばすか、小さくても重さで飛ばすかのどちらかですね」

 2018年シーズンからメジャーに移籍したエンゼルス・大谷に対し「今(パ・リーグに)いたら絶対に勝てない」と断言する山川はその根拠となる〝リーチ論〟についてこう説明している。

「ボク(176センチ)と大谷(193センチ)って身長が17センチ違うんですよ。手を左右に伸ばしたリーチが17センチ違う。単純に向こうは17センチ分の高さと遠心力が使えて、さらにバットを持っている。それをあれだけうまく体を使われたら勝てないです。大谷がもし、今も日本にいて143試合に野手としてフル出場しボクみたいに全打席ホームランを狙ったら60本以上行くと思う」

 同一シーズンの中で打者として打率3割2分2厘、22本塁打、67打点、投手として10勝4敗、防御率1・86をマークしたスーパー二刀流・大谷がパ・リーグを去り山川、森の時代が到来した。

 逆立ちしても勝てない「長さ」の大谷(193センチ)に対抗する中村(175センチ)、山川(176センチ)、渡部(176センチ)に共通する武器は質量。その「重さ」で勝負する超新星に本塁打の力学を山川は分かりやすく説明したようだ。 山川選手のいうとおり,

引用元:東京スポーツ https://news.yahoo.co.jp/articles/8288127a52ac20c615228336ce4510
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重さで飛ばすとは?

 運動連鎖の考え方-その2 で述べたように,運動連鎖を利用するためには,最初に大きな運動エネルギーを発生させることが重要です.大元の運動エネルギーはステップに伴う前方移動により生み出されますが,運動エネルギーは1/2×m(質量)×v(速度) の二乗で表されるので, m(質量) が大きいほうが値が大きくなります.このm(質量) が「重さで打つ」の重さにあたります. 山川選手のいうとおり,渡部選手が118キロの体を操れているのならば,無理して痩せる必要はないと思われます.

前足着地後,前方移動の運動エネルギーにブレーキをかけ,伝達した運動エネルギーをスイング動作に利用する渡部選手 ステップ足着地後, 軸足が地面から浮くほど急激なブレーキをかけているので,効率よく運動エネルギーを伝達できている.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=gElOImTnk-k



大谷選手の打球分布図からわかること

大谷選手の打球分布図 2018,2019 対右投手

引用元:ベースボール・サバント

 大谷選手の2018年と2019年の打球分布図を比較すると,特に大きな変化は認められません.2018年は内野の打球がやや右方向に多くなっていますが,俯瞰でみるならば,2018,2019年ともに広角に打球が飛んでいることを確認できます. 


大谷選手の打球分布図 2020 対右投手

引用元:ベースボール・サバント

 2018,2019年は内外野ともに広角に打球を飛ばしていた大谷選手ですが,2020年の打球分布図をみると,内野の打球が右方向に偏っていることがわかります.


大谷翔平 対右投手 投球割合(%) 2018-2020 全球種 
引用元:ベースボール・サバント

 2018~2020年の投球割合は,年度によって特定のコースに投球が偏るなどの大きな変化は認められないので,2020年に内野の打球が右方向に偏っているのは,大谷選手の打撃動作に 変化したことによると考えられます.


大谷選手の打球分布図 2018,2019 対左投手

引用元:ベースボール・サバント

 大谷選手の2018年と2019年の打球分布図を比較すると,対左投手でも特に大きな変化は認められません.内野の打球はやや右方向が多くなっていますが,右方向に偏っているわけではなく,左方向にも打球は飛んでいます.俯瞰でみるならば,2018,2019年ともに広角に打球が飛んでいることを確認できます.


大谷選手の打球分布図 2020 対左投手

引用元:ベースボール・サバント

 2020年は内外野とも明らかに打球が右方向に飛んでいます.2018,2019年と比べると一目瞭然です.

大谷翔平 対左投手 投球割合(%) 2018-2020 全球種 
引用元:ベースボール・サバント

 2018~2020年の投球割合は,年度によって特定のコースに投球が偏るなどの大きな変化は認められないので,2020年に内外野ともに打球が右方向に偏っているのは,大谷選手の打撃動作が変化したことによると考えられます.



前田健太投手の球種別被打率 2018-2020 対左打者 

前田健太投手の投手成績 2018-2020

前田健太 2008-2020 投手成績
年度投球回勝利敗戦被本塁打与四球奪三振防御率
2018125.181013431533.81
2019153.210822511694.04
202066.261910802.70
引用元:ウィキペディア

 今季はリーグ4位の6勝,同5位の防御率2.70,同7位の80奪三振をマークし,サイ・ヤング賞のア・リーグ最終候補3人の中に入っています.


速球系(Fastballs:4シーム,2シーム,カッター,シンカー)

前田健太 球種別被打率 2018-2020 対左打者 速球系
対左打者球種投球割合 %被打率
201820192020201820192020
速球系4シーム45.034.317.0.355.352.125
2シーム1.71.8.500.667—–
カッター3.4—– —–.400
シンカー5.5 —– —–.000
全球種46.736.125.9.364.363.167
引用元:ベースボール・サバント

 速球系の被打率は.364(2018),.363(2019)でしたが,2020年は.167に抑えられています.2018,2019に打ち込まれていた4シーム,2シームの投球割合を減らしたことが功を奏したようにみえます.

前田健太 球種別被打率 2020 対左打者 速球系
投球割合 % 投球数打席安打被打率
4シーム17.0100243.125
カッター3.42052
シンカー5.53210.000
引用元:ベースボール・サバント

 ただし,対右打者と同様に打席数が少ないため,4シームを減らしてカッター,シンカーを増やしたことが低被打率につながったかについては,はっきりしたことはいえません.


スロー系(Offspeed:SFF,チェンジアップ,フォークボール,スクリューボール)

前田健太 球種別被打率 2018-2020 対左打者 スロー系
対左打者球種投球割合 %被打率
201820192020201820192020
スロー系チェンジアップ24.940.938.7.131.174.141
全球種24.940.938.7.131.174.141
引用元:ベースボール・サバント

 対右打者と同じく,スプリットに近い得意球のチェンジアップで低被打率に抑えています.


変化系(Breaking:スライダー,カーブ,ナックルカーブ,スローカーブ,ナックル,スローボール )

前田健太 球種別被打率 2018-2020 対左打者 変化系
対左打者球種投球割合 %被打率
201820192020201820192020
変化系スライダー13.011.130.0.241.212.258
カーブ15.311.95.5.389.364.400
全球種28.323.035.5.298.250.278
引用元:ベースボール・サバント

 速球系のボールを減らして,前田投手の一番自信のあるなスライダーを増やしています.被打率は3割を下回っていますが,そこまで低いとはいえません.


左打者を抑える攻め方は確立されているか

前田健太 投手成績 2018-2020 対左打者 全球種
年度投球数打席安打被打率被長打率
201892122161.276.471
2019123627969.247.427
202058713725.182.292
引用元:ベースボール・サバント
※2020 MLB 右投手対左打者 被長打率 .411
※2020 MLB 右投手対左打者 被打率  .238

 前田投手は2020年に速球系の4シーム(34.3→17.0),2シーム (1.8→0.0) の投球割合を減らし,変化系のスライダー (11.1→30.0)を増やしています.前述のとおり試合数が短縮されているため,このことが2020年の低被打率と好成績につながったのかは定かではありません.
 右打者に対する攻め方は確立しているようですので,左打者に対する攻め方が確立されれば,2021年も好成績を上げる可能性があります.


斎藤隆氏が語る楽天・田中将大の日本適応のカギ

コンタクトの意識が強い日本の打者

 8年ぶりに日本球界に帰ってきた楽天・田中将大投手(32)。メジャーと日本ではボールもマウンドも違い、適応に苦労する投手も多い。13年の楽天日本一メンバーで、田中と同じく、この年8年ぶりにメジャーから復帰した斎藤隆氏(50)が、自身の経験談を基に適応が必要なポイントについて語った。

 田中といえども、7年間のブランクを考えると、「日本仕様」にアジャストするには時間が必要だろう。日本のボールは感覚的にも小さく、僕の場合はさらに軟らかく感じた。指先に力を入れる時、はじくような感覚ではなく、粘りつくような軟らかさ。感覚が違うだけで、変化球の曲がり方も変わってくる。

 例えば、田中がメジャーで多用していたツーシーム。特に左打者の内角ボールゾーンから入ってくるフロントドアは大きな武器だったが、日本のボールではそこまで曲がらない。ただ、あの球はフルスイングしてくるメジャーの打者には有効だが、コンタクトの意識が強い日本の打者にはそこまで必要ないかもしれない。決め球のスプリットもメジャーでは改良を加えているはず。日本に戻り、落ち方もまた変わると思う。球種の選別を含めて、打者の反応などを見ながら調整していくことになるだろう。

引用元:ttps://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2021/01/30/kiji/20210130
s00001173431000c.html


 斎藤隆氏は,ツーシームが「フルスイングしてくるメジャーの打者には有効だが、コンタクトの意識が強い日本の打者にはそこまで必要ないかもしれない」と述べています.
 このサイトでは,村上豊氏の「科学する野球」に基づいて動作の分析をおこなっていますが,「科学する野球」は「ボールを強く打つ」,「ボールをできるだけ遠くに飛ばす」ということが野球の本質であるという前提の下に書かれている野球技術書です.当てるタイプの打者を目指していて,長打は要らないという選手には,このサイトで発信している内容は直接的には役に立たないと思われます.
 ただし,コンタクトの意識が強い打者でも,当てるだけではボールは飛ばないため,実際にはボールを強く打つ動作もミックスされた打ち方をおこなっています.コンタクト型の打者がどのような打撃動作をおこなっているかについても,今後紹介していく予定です.