「 2021年01月 」一覧

ソフトバンクが強い理由-その2

日本シリーズ4連覇での外国人選手の成績

2017-2020 日本シリーズ 投手成績 外国人選手
年度チーム打者安打失点
2020ソフトバンク3600
巨人4073
2019 ソフトバンク 3474
巨人 3041
2018 ソフトバンク 77209
巨人 94115
2017 ソフトバンク 5785
巨人 58114
引用元:https://npb.jp/

  ソフトバンクの投手の成績については,2020年は0安打に抑えていますが,他の年度は相手チームのほうが失点が少なくなっています.各年度の対戦打者数はそれほど離れていないので,2017~2019年についてはソフトバンクの外国人投手が特に優れているとはいえません.


2017-2020 日本シリーズ 打者成績 外国人選手 
年度チーム打数安打打点
2020ソフトバンク2779
巨人1323
2019 ソフトバンク 2899
巨人 1240
2018 ソフトバンク 3297
巨人 920
2017 ソフトバンク 2354
巨人 2473
引用元:https://npb.jp/
※投手は除く

 一方,外国人選手の打撃成績ではソフトバンクのほうが頭一つ抜けています.打数の違いは外国人選手の人数が異なるためです.相手チームの外国人選手は各年度1人(2020ウィーラー,2019ゲレーロ,2018バティスタ,2017ロペス)で,ソフトバンクは2017年はデスパイネのみ,2018~2020年はデスパイネとグラシアルの2人となっています.


日本シリーズ4連覇での打点内訳

日本シリーズ4連覇 ソフトバンク 打点内訳
選手2017201820192020合計
デスパイネ463619
柳田悠岐443314
中村晃431412
グラシアル16310
松田宣浩1135
甲斐拓也134
長谷川勇也2114
栗原陵矢44
今宮健太213
内川聖一33
髙谷裕亮213
福田秀平33
川島慶三22
上林誠知2
牧原大成22
明石健志11
西田哲朗11
合計2522222392
引用元:https://npb.jp/

 表をみると,デスパイネとグラシアルの打点が突出していることがわかります.チームの強さは「科学する野球」でいうところの合理的な動作ができている選手がどれだけいるかにかかわってきます.デスパイネ,グラシアル両選手ともMLBの経験はありませんが,MLBで通用しなかった外国人選手でもNPBの選手よりも合理的な動作を身につけていることが一般的です.この2人の外国人選手がソフトバンクの強さに貢献していることは間違いありません.


スカウティングの能力の高さが強さの秘密

 日本シリーズ4連覇を果たしたソフトバンクは,千賀、甲斐、牧原、石川、周東といった育成出身の選手が日本一の原動力となったこともあり,その強さの秘密について論じられることが多くなっています.
 ダルビッシュ投手と多村氏が指摘するフィジカルの強さは,いくら体づくりがおこなわれても,合理的な動作を身につけなければ技術は向上しないので,筋力トレーニングと栄養管理のみで強くなるということはまず考えられません.また,選手の育成についても,約60億円を投じた施設を完成させ,3軍制を敷くなど球団独自のシステムを構築しているようですが,どんなにすばらしい環境を整えても,合理的な動作を身につけなければ技術は向上しないという点は同じです.
 そうなると,詰まるところ,活躍できる外国人選手を見極める能力,磨けば光る原石を見極める能力という点に帰着します.スカウティング能力の差が球団格差を生んでいると考えられます.


筒香選手の球種別打率 2020 対左投手

 対右投手のデータ では,筒香選手が速球系のボールに弱く,スロー系,変化系の遅いボールに強いことがみてとれましたが,引き続き対左投手のデータをみてみます.

速球系(Fastballs:4シーム,2シーム,カッター,シンカー)

筒香嘉智 球種別打率 2020 対左投手 速球系
対左投手球種投球割合 %打席安打打率
速球系4シーム37.7113.273
カッター7.730.000
シンカー12.671.143
全球種58.0214.190
引用元:ベースボール・サバント

 4シームは.273と2割台ですが,速球系全体では1割台となっており,対右投手と同じく速球系のボールを打てていないことがわかります.


スロー系(Offspeed:SFF,チェンジアップ,フォークボール,スクリューボール)

筒香嘉智 球種別打率 2020 対左投手 スロー系
対左投手球種投球割合 %打席安打打率
スロー系SFF2.400.000
チェンジアップ7.230.000
全球種9.630.000
引用元:ベースボール・サバント
SFF=スプリットフィンガー・ファストボール

 対右投手では打率の高かったチェンジアップがまったく打てていません.ただし,打席数が少ないためはっきりしたことはいえません.たまたま打てなかったということも考えられます.


変化系(Breaking:スライダー,カーブ,ナックルカーブ,スローカーブ,ナックル,スローボール )

筒香嘉智 球種別打率 2020 対左投手 変化系
対左投手球種投球割合 %打席安打打率
変化系スライダー20.893.333
カーブ11.642.500
全球種32.4135.385
引用元:ベースボール・サバント

 対右投手ではスライダーに苦戦していましたが,対左投手ではスライダー,カーブともに高打率となっています.


速いボールに対応できない

 筒香選手は,ステップ足を一気に踏み込んでいくことで,前方移動の運動エネルギーを生み出す方法をとっています.勢いよくステップするために,足を上げた後,踏み込みのタイミングをはかって少しタメをつくる傾向がみられます.このタメが速球に差し込まれる原因になっています.逆に遅いボールには対応しやすくなると考えられます.
 MLBでも足を上げるバッターはいますが,さっと足を上げてすぐに下ろすステップが一般的です.速球に対応するためにこのようなステップをおこなっていると思われますが,筒香選手はゆっくりと足を上げ,足を上げてからも静止はしませんが,踏み込むタイミングをはかるためにステップ待ちの状態になっている動作が見受けられます.
 筒香選手はステップ足着地後,ステップ脚を突っ張らせて前方移動に急激なブレーキをかけ,運動エネルギーを転移してスイング動作に利用しています.下肢のエネルギーを体幹,上肢に取り込む第二動作はおこなっていないため,「人」の形で打つことはできていません.勢いよくステップして運動エネルギーを大きくしたいので,足を上げた後にステップのタイミングをはかっていると考えられます.
 筒香選手はこの打撃スタイルを変えることはおそらくできないと思われるので,今後も速いボールに差し込まれることが続いていくことになります.遅いボールへの対応は比較的得意にしているようですが(データが少ないため,はっきりしたことはいえませんが),速球系のボール主体の攻め方をされると,MLBで活躍することは難しいと考えられます.


MLBでの右対右の攻め方

 MLBで右対右の場合の投球パターンを全球種,速球系,スロー系,変化系に分けてまとめます.2018年から2020年までのデータを使います.


全球種

引用元:ベースボール・サバント

 全球種では,投球数の28.4%が外角低めのボールゾーンに集中しています.外角低めのストライクゾーン7.1%と合わせると35.5%が外角低めに投げられています.右対右の場合,外角低めに投げるのが常套手段になっているということです.実際に外角低めのコースを打者は打てていません.


速球系(Fastballs:4シーム,2シーム,カッター,シンカー)

引用元:ベースボール・サバント

 速球系では,外角低めと内角高めの投球割合が大きく,ストライクゾーンとボールゾーンを合わせると,外角低めが23.2%,内角高めが17.5%になっています.実際に外角低めと内角高めは打てていません.


スロー系(Offspeed:SFF,チェンジアップ,フォークボール,スクリューボール)

引用元:ベースボール・サバント

 スロー系では,SFF(スプリットフィンガー・ファストボール)などの落ちるボールが主となるため,低めにボールが集中しています.低めのボール球の割合が大きく,高めに浮くと真ん中,内角寄りのコースが打たれています.


変化系(Breaking:スライダー,カーブ,ナックルカーブ,スローカーブ,ナックル,スローボール )

引用元:ベースボール・サバント

 変化系では,スライダー,カーブという外に逃げる球種が主となるため,投球数のほぼ半数が外角低めに投げられています.外角低めのストライクゾーンが9.0%,ボールゾーンが45.1%ですから,合わせて54.1%が外角低めのコースに集中しています.外角低めにストライクゾーンから外れるボールを投げるのが定番の攻め方になります.

 当然と言えば当然ですが,左対左の分析と同様の結果となりました.速球系は外角低めと内角高めに,スロー系は落ちるボールを低めのボールゾーンに,変化系はストライクゾーンから外れるスライダー,カーブを外角低めに投げるのが定番の攻め方になります.打者によって攻め方が変わる部分はありますが,左対左と同様に右対右の投手の攻め方はMLBでもNPBでも大差ないと思われます.


バットとボール(球道)とは90°で衝突させる-その3

村上氏の中心衝突の考え方に対する注意点

 中心衝突を求めるために,ミート・ポイントでバットを球道に九〇度で交わらせなければならないのだから,真ん中に投げられた球は,図68のようにセンター方向に打ち返され,遠めの球は図70のように左中間方向(右打者)に近めの球は図71のように右中間方向(右打者)に打ち返されます.このように球道に逆らわないで打つのが打撃の本質なのです.

引用元:科学する野球・打撃篇

 村上氏は,「真ん中に投げられた球は,センター方向に,遠めの球は左中間方向(右打者)に,近めの球は右中間方向(右打者)に打ち返す」としていますが,右対右の場合,投手のリリースポイントは打者から見て左側になるため,遠めの球の球道が最も角度がつき,近めの球の球道は真っ直ぐに近くなります.角度もそこまで大きくならないので,中心衝突を求めるには,「真ん中,遠め,近めの球にかかわらず,センター方向から左中間方向に打ち返す」とするのが適当です.
 右対左投手の場合,投手のリリースポイントは打者から見て右側になるため,近めの球の球道が最も角度がつき,遠めの球の球道は真っ直ぐに近くなります.角度もそこまで大きくならないので,中心衝突を求めるには,「真ん中,遠め,近めの球にかかわらず,センター方向から右中間方向に打ち返す」とするのが適当です.


左投手対右打者でボールは右中間方向に打ち返されているか

 村上氏の理論に従うと,左投手対右打者の場合,遠め,近めにかかわらず球道に角度がつくので, 中心衝突を求めるために,ミート・ポイントでバットを球道に九〇度で衝突させれば,打球は右中間方向に飛ぶことになります.
 中心衝突をわかりやすくするために,MLB2019年のデータから左投手の球種を4シームに絞り,打者がホームランを打ったケースだけを考えます.

MLB 2019年  左投手対右打者 本塁打分布図 球種:4シーム 平均球速:91.9mph≒147.9kph
引用元:ベースボール・サバント

 スプレーチャートを見ると,明らかに右中間方向よりも左中間方向に打ち返されていることがわかります.左中間方向に打てば,球道に対して偏心衝突を起こすことになりますが,4シームの球に力負けすることなくホームランを打ち返しています.


右投手対左打者でボールは左中間方向に打ち返されているか

MLB 2019年  右投手対左打者 本塁打分布図 球種:4シーム  平均球速:93.5mph≒150.5kph
引用元:ベースボール・サバント

 右投手対左打者の場合も,リリースポイントは打者から見て外側になるので,中心衝突させると打球は左中間方向に飛ぶはずですが,実際は偏心衝突を起こす右中間方向に多く飛んでいます.


投球線(球道)に対してバットを90°にするのか,打球線(弾道)に対してバットを90°にするのか

 右打者対左投手で打球が左中間方向に飛んでいるのは,投球線(球道)に対してバットが90°で交わっていませんから,偏心衝突になります.しかし,打球線(弾道)に対しては バットは90°で交わっています.ただし,打球線は投手の球道とは異なるため,打球線に対してバットは90°で交わらせても中心衝突とはいえません.
 つまり,投球線(球道)と打球線(弾道)が一致したときに,村上氏の中心衝突の理論が成り立ちます.もし,打球線が投球線からずれる場合は,偏心衝突に逆らって打球を飛ばさなければならないため,ボールの勢いに力負けしないスイングが必要となります.MLBのホームラン分布図を見ると,4シームの球威(右打者対左投手:91.9mph≒147.9kph,左打者対右投手:93.5mph≒150.5kph )に負けることなく偏心衝突で打球を飛ばしていることがわかります.
 ですから,打者は偏心衝突に負けないだけのスイングができるのであれば,打ちたい方向に打って構わないと考えることができます.もちろん,中心衝突させるには,投球線(球道)と打球線(弾道)が一致するのが理想です.


筒香選手の球種別打率 2020 対右投手

 2020年の筒香選手のバッティングを振り返ります.MLBは60試合に短縮され,筒香選手の出場機会も少なかったため(サンプルが少ない),参考程度の内容となります.

速球系(Fastballs:4シーム,2シーム,カッター,シンカー)

筒香嘉智 球種別打率 2020 対右投手 速球系
対右投手球種投球割合 %打席安打打率
速球系4シーム39.5415.122
カッター6.6133.231
シンカー18.1142.143
全球種64.26810.147
引用元:ベースボール・サバント

 速球系のなかでは4シームの打率が最も低く,わずか.122しか打てていません.他の球種も含めて速球系の打率は.147と低く「筒香選手は速いボールが打てない」いう指摘どおりの結果になっています.
 筒香選手は「150キロ超の速球」を打てないのか? で述べたように,筒香選手のように足を上げてタイミングをとる打者は,速いボールに振り遅れてしまう傾向があります.この足を上げるスタイルは変わらないと考えられるので,速球系のボールが打てないという弱点は今後も続いていくことになります.


スロー系(Offspeed:SFF,チェンジアップ,フォークボール,スクリューボール)

筒香嘉智 球種別打率 2020 対右投手 スロー系
対右投手球種投球割合 %打席安打打率
スロー系SFF6.3122.167
チェンジアップ11.3134.308
全球種17.6256.240
引用元:ベースボール・サバント
SFF=スプリットフィンガー・ファストボール

 スロー系では,チェンジアップの打率が3割を超えています.筒香選手はバックスイングで足を上げますが,すぐに下ろさずに少しタメをつくってから下ろすので,速いボールには差し込まれても,遅いボールには対応できるようです.
 スプリットは筒香選手に限らず全打者がほぼ打てない球種と考えてよいため,低打率になるのは仕方がないといえます.スプリットが打てない理由については,こちら をご覧ください.


変化系(Breaking:スライダー,カーブ,ナックルカーブ,スローカーブ,ナックル,スローボール )

筒香嘉智 球種別打率 2020 対右投手 変化系
対右投手球種投球割合 %打席安打打率
変化系スライダー9.4141.071
カーブ6.485.625
ナックルカーブ2.550.000
全球種18.3276.222
引用元:ベースボール・サバント

 変化系では,スライダーは.071とまったく打てていませんが,カーブは.625と得意にしているようです.球速が速いスライダーは打てないけれども,球速の遅いカーブは打てるということであれば,やはり,チェンジアップと同様に遅いボールに対して上手くタイミングをとれる打者といえます.