「 2020年12月 」一覧

バットとボールは中心衝突を起こさなければならない

ダウンスイングは物理に反する

引用元:科学する野球・打撃篇

 バッティングはバットでボールを打つことですから,バットとボールとは衝突という現象を起こします.この衝突には中心(向心)衝突と偏心衝突とがありますが,バットとボールとは中心衝突を起こさなければ,効果的な打撃を得られないので,偏心衝突ではボールはすばらしいスピードで遠くに飛んでくれません.ですからバットとボールとを中心衝突させるにはどうすればよいか,ということを物理に則って突きつめていかなければなりません.
 そこでまず,トンカチを握り,クギを打ってみましょう.図43はトンカチとクギとは中心衝突していますから,クギはスイスイと打ち込まれていきます.ところが図44はトンカチをクギに向けてダウンに打ち込んで,偏心衝突していますから,釘は下向きに曲がって中へは打ち込まれません.図45はトンカチをクギに向けてアッパーに打ち込んで偏心衝突していますから,クギは上向きに曲がって 中へは打ち込まれません.
 このことからわかることは,トンカチで釘を打つ時,ただひとつの打ち方しか中心衝突を求めることはできないということです.打ち方は二つも三つもない,ただひとつということです.
 バッチングについても,バットでボールを打つ打ち方は,中心衝突を求める限り,ただひとつしかないのです.ですからダウン,レベル(地面に水平),アッパーと三通りもあるスイングは打ち方ではなく,ただバットの振られる軌道が地面に対してどう振られるかというに過ぎません.

引用元:科学する野球・打撃篇

 クギが投球の軌道を表すとすれば,中心衝突を起こしてクギを打ち込むためには,ダウンスイングやアッパースイングはしてはいけないということが述べられています.
 投球の軌道は,リリースポイントから捕手のミットまで落ちてくる軌道になるので,実際の軌道に合わせるとクギは水平ではなく,多少下向きになります.クギが下向きであれば,中心衝突を起こすためには多少『アップスイング 』をしたほうがよいことになります.
 『アップスイング 』で中心衝突を起こせば,打球の速度,打球の角度が大きくなるため,「フライボール革命」にもつながってきます.
 『アップスイングとアッパースイングとの違い』については,こちら をご覧ください.


ダウンスイングが日本に持ち込まれた経緯

 このダウンスイングは,昭和三十六年に川上監督(当時)が,巨人軍を率いてフロリダのドジャータウンでキャンプを張った時,渡米土産として持ち帰ってきたものですが,その後,荒川博氏(巨人軍打撃コーチ)がこのダウンスイングで王さんを育てたということで,ダウンスイングが正しいスイングとして一躍クローズアップされました.
 しかし,王さんのスイングは決してダウンスイングではなかったと思われるのは,私一人ではないと思います.
 王さんの日記がテレビで一部公開された時,今日はダウンスイングで打ってみようと書かれていたのは,スランプに悩んだ挙げ句のことでしたから,いつもはダウンスイングで打っていなかったことがこの一文からはっきりとわかります.

引用元:科学する野球・打撃篇


ダウンスイング論者がダウンスイングを是とする理由

 ところで,ダウンスイング論者がダウンスイングを是とする理由として,バットは地面に対してレベル(水平)に振っているつもりでもバットの先は下がり,アッパーになっているのでダウンに振って初めてレベル(水平)になると説いているので,ダウンスイング論者はもともとレベルスイング論者ということがわかります.
 ところが,従来のレベルスイングは,ミート・ポイントでバットを地面に水平にするのに,バットは構えられた位置から図46のように半円を描いて水平にされるので,図47のように高く構えた位置から斜め下(四十五度)に直線的に振り下ろしてバットを水平にするのに比べて,遠回りしているから,バットをボールに向けて最短距離を通って当たるようにするために,ダウンスイングしなさいと説いているわけです.

引用元:科学する野球・打撃篇

 従来のレベルスイングが,図46のように半円を描いて水平にされ,バットが遠回りするので,図47のように 四十五度に振り下ろしてダウンスイングし,バットが最短距離を通ってレベル(水平)になるようにするということが述べられています.
 ダウンスイングが日本に持ち帰られた当時は,図47のように 斜め下にバットを振り下ろすものと理解されていましたが,後日,来日したドジャースのバッティングコーチ(当時)ケニー・マイヤーズ氏が「バットを振り下ろしたあと,両手首を返して打つからバットはレベル(水平)な振りになる」と川上監督にいわれてから,バットを水平に振るためのダウンスイングになったとのことです.


ダウンスイングではインパクト後,両腕を伸ばすことができない

引用元:科学する野球・打撃篇

 ダウンスイングの素振りを見てみると,写真13のように,スイングの始めから終わりまで,前腕が伸びていません.このような腕の使い方では,インパクト後に大事な両腕を伸ばすことができません.
 インパクト後に両腕を伸ばすことは,わかりやすくいうと,両腕が伸びきるまで球の芯を打ち抜かなければならないということですが,バットの撃力のほうが投球された球の力より大きくないと,インパクト後両腕を伸ばすことができません.
 しかし,打者が投球された球の力を上回る撃力をバットに与えても,バットの撃芯とボールの芯とを中心衝突させないで,ダウンスイングのように偏心衝突させると,バットの撃力がボールに十分加えられませんから,バットがボールに与えるエネルギーが小さいので,かりにダウンスイングでインパクト後両腕を伸ばすことができたとしても,打球はそれほど遠くには飛んでくれません. 

引用元:科学する野球・打撃篇


 現在,ダウンスイングの指導が行われているのか,ダウンスイングということばが死語となっているのか定かではありません.実際に指導が行われる場合は,おそらくレベルスイング(このことばも使われていないのかもしれませんが )論者としての指導になると思われますが,ダウンスイング自体は偏心衝突を起こすもので正しいとはいえないということです.


大谷選手のインパクトでの顔の向きはゴルファーと同じ

ハンク・アーロン選手との比較

2020年7月29日 1号ホームラン チェンジアップ 80.9mph センター(右中間寄り)方向
引用元:ベースボール・サバント
ゴルフスイングで打つ大谷選手 肩が回っていないのにボールを打っている.
引用元:ベースボール・サバント             

 画像は 大谷選手の得意な内角低めのボール をホームランしたときのバッティングです.大谷選手はグリップを体から離して ワキが空いたままスイングする ため,肩が回らず手元が先に前方移動します.バットのタメがないまま打っているのですが,フック・グリップで構え, 空手打法 で打つことはできています.

大谷選手(左)とハンク・アーロン選手のインパクト時の顔の向き
引用元:YouTube(ベースボール・サバント),科学する野球・打撃篇(右)

 ハンク・アーロン選手は,両肩を結ぶ線が打球の方向に直角になるまで肩を回しており,インパクトで顔が前方に向いています.大谷選手は打球が センター(右中間寄り) に飛んでいるので,肩はもっと回っていなければなりませんが,肩を回さずに打っています.そのため,顔は前方に向かず,地面に置いたボールを打ったゴルファーと同じ顔の向きになっています.

王貞治選手のスランプの原因

引用元:科学する野球・投手篇

 「科学する野球」に,王貞治選手のスランプがゴルフ打法に起因していたことについて言及した箇所がありますので,引用します.

 プロ野球選手のゴルフ愛好者はずいぶん多くなったものです.とくにシーズン・オフでは,トレーニングにもってこいという訳で,目下大流行.それはそれで結構だが,ゴルフに凝り出し,ゴルフ理論を下手にバッティングに採りいれると惨めなことになる.そのよい一例が,一九七三年,三冠王となった王貞治選手のこのバッティング・フォーム.このフォーム(図1-①)は,一九七三年の六月頃, なかなかホームランが出なくて悩んでいた時のもので,これは明らかにゴルフ.これではいかな王選手でもスランプに喘いだのは当然.このあと王選手がどのようにして立ち直ったのか,私は知らないが,とにかくこの大打者をしてさえも,野球(バッティング)でゴルフをやるとこの通り.スプリング・キャンプに入っても,シーズン・オフ中にやったゴルフの味が忘れられず,ティー・バッティングでゴルフの練習をして楽しんでいる選手が多く見受けられる.これではよい打撃成績は望むべくもない.タメて打つという点では,バッティングもゴルフも変わりはないが,その打つ動作,力の求め方が違うことを,頭でも,体でもわかっていないで,ゴルフも野球も同じであるとかわかったようなことをいっていると,みじめなことになる.

引用元:科学する野球・投手篇


120㎏の重量級でも「人」の形で打つプリンス・フィルダー選手

 西武ライオンズドラフト1位の 渡部健人 選手が,「人」の形で打てていないことに言及しましたが,同じ重量級のプリンス・フィルダー選手(32歳で引退.通算319本塁打)がどのような打撃動作をおこなっているかチェックします.

プリンス・フィルダー選手 のホームランのスロー映像 引用元:YouTube
「人」の形で打つプリンス・フィルダー選手

 ウィキペディアによると,身長約180cmと現代のメジャーリーガーとしては低身長ながら、体重は120kg以上あったと記載があります.フィルダー選手は前脚の膝関節を伸展して,下肢のエネルギーを上肢に伝達する 第二動作 を行い,「人」の形で打っています.重量級だからこの動作ができないということはありません.

「人」の形で打つ と,後ろ足に体重がかかるため,前脚の膝関節が伸びて,前足のかかとで支える形になる. 渡部健人選手のように打った後,すぐに膝が曲がらない.
フライング・エルボーからバックスイングを行うフィルダー選手.この動作はいったんグリップを下げているところ.このグリップを下げるときに,フィルダー選手のように肘が上がる選手も見受けられる.この後,グリップを下げた反動を利用して肘(グリップ)を上げ,その反動を利用してスイングに入る.

トミー・ジョン手術を複数回受ける選手が少ない理由

引用元:https://www.mcdavid.co.jp/sportmed_case/ulnar-collateral-ligament-sprain/

 肘関節内側側副靱帯(UCL:ulnar collateral ligament )は,前斜走靱帯(AOL:anterior oblique ligament),横走線維( TL:transverse ligament) 後斜走靱帯( TL: posterior  oblique ligament)の 三つの部位に分けることができます.トミー・ジョン手術(英: Tommy John Surgery, 側副靱帯再建術)受ける投手は,内側上顆の全部から鈎状突起に走るAOLを損傷するケースが多いようです.

引用元:https://blog.goo.ne.jp/imbanojunin/e/f84ce347ed90a2783b93679571a99e07

 肘関節は蝶番関節という一方向にしか動かせない関節で,本来腕の曲げ伸ばししかできないようになっています.横方向の動き(外反、内反)には対応できないため、 内側側副靭帯が外反を防いでいます.靭帯は関節を安定させる補強材の役割があり,関節が安定した状態で筋を収縮することにより関節運動が行われます.靭帯が緩むと関節が不安定になり,パフォーマンスを発揮できなくなります.
 トミージョン手術の術式はジョーブ法,伊藤法があるとのことですが,骨に穴を開けて腱を通して結び,強制的に外反しないようにしています.上腕骨と尺骨の表面に靭帯が付着していたのを,骨に穴を開けて八の字に通して結ぶびつけるということなので,接続はより強固なものになります.
  内側側副靭帯損傷したのは投球動作に原因があり,手術後も同じ投球動作を続ければ当然,再度内側側副靭帯を損傷することになります.しかし,術式の内容を知ると,かなり腕を強く振っても再手術を受けるまで靭帯が損傷する可能性は小さいことがわかります.


日本シリーズで活躍した栗原陵矢選手のバッティング

 日本シリーズMVPに輝いた栗原選手の今期の成績は,118試合,打率.243(21位),本塁打17本(7位),打点73(4位),出塁率0.307(25位),長打率0.420(12位)となっています.

引用元:YouTube 栗原陵矢がホームランを打った際のバッティングフォーム.2020.08.18 ZOZOマリンスタジアム vs. 美馬学(マリーンズ)
前脚を高く上げる栗原選手

 栗原選手のバッティングの最大の特徴は,ステップ足を高く上げるところです.ステップ足を高く上げると位置エネルギー(mgh)が大きくなり,着地のときに運動エネルギー(1/2mv2)を最大にすることができます.栗原選手は体格(179 cm,75 kg)がそれほど恵まれているほうではないので,前方移動のエネルギー(1/2mv2)を大きくするために,このような方法をとっていると考えられます.ただし,球速に差し込まれやすくなり,目線がブレるため,打率が下がるリスクを伴います.
 身体運動での力学的エネルギーは,運動エネルギーと位置エネルギー (mgh)を合わせたものになり,運動エネルギーは,並進運動エネルギー (1/2mv2)と回転運動エネルギー(1/2Iω2)に分けられます.

肩を回してもバットが後ろに残り,スイングのタメができている.大谷選手の場合,この肩の回り具合だと,すでにインパクトしている.
空手打法で打っている.前脚の膝がよく伸びている.
栗原選手はバッティングにムラがあり,この打席のように「人」の形に近くなるケースは少ない.今シーズンのベストスイングと思われる.
インパクト直後,すぐに前脚の膝が曲がることから,完全な「人」の形で打てていないことがわかる.

 栗原選手の長所としては,グリップの位置 が体に近いこと,脇が締まりバッタをタメて空手打法で打っていることが挙げられます.また,インパクトまでに前脚の膝がよく伸びて,下肢のエネルギーを上肢に伝達する 第二動作 が行われていますが,「人」の形では打てていません.これは伝達するエネルギーが効果的にスイングの加速に使われていないことを示唆しています.栗原選手はどの打席でも前脚の膝がよく伸びており,下肢のエネルギーを上肢に伝達するという点で強みをもっています.
 短所としては,フライング・エルボーからグリップを上下するバックスイングを行っていないこと,ステップ足を高く上げることが球を捉える際の不確実性を引き起こしていることが挙げられます.
 総合的に判断すると,バットを後ろに残してスイングのタメをつくることができるところは最大の長所ですが,現段階ではものすごい活躍をする選手としての動作の条件は満たしていないと考えられます.今後のパフォーマンスに注目したいと思います.