「 2020年08月 」一覧

後ろ肘をフライングエルボーにする理由-ランディ・バース選手のバックスイング

NPBにおけるランディ・バース選手の経歴

ランディ・バース
NPBにおけるシーズン打率の日本記録保持者(.389)であり、史上6人目の三冠王達成者。外国人選手ではNPB史上最多となる2度の三冠王に輝いている。

タイトル
NPB
・首位打者:2回 (1985年、1986年)
・本塁打王:2回 (1985年、1986年)
・打点王:2回(1985年、1986年)
・最高出塁率:2回(1985年、1986年)
・最多安打(当時連盟表彰なし):2回 (1985年、1986年) ※1994年より表彰
・最多勝利打点:1回 (1985年)

NPBその他の記録
・三冠王:2回 (1985年、1986年)※史上6人目
・シーズン最高打率:.389(1986年)(日本記録)
・シーズン40本塁打到達スピード1位タイ: 97試合(1985年)
・25試合連続安打(1983年9月6日 – 1983年10月15日)
・連続試合本塁打:7(1986年6月18日 – 1986年6月26日)(日本記録)
・5試合連続本塁打(1985年4月17日 – 1985年4月22日)
・連続打数本塁打:4(1986年5月31日 – 1986年6月1日)(日本タイ記録)
・連続試合打点:13(1986年6月18日 – 1986年7月4日)(日本記録)
・シーズン最多勝利打点:22(1985年)(日本記録)
・連続試合勝利打点:4(1985年10月9日 – 1985年10月14日)
・オールスターゲーム出場:3回 (1985年 – 1987年

引用元: ウィキペディア
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=YKjPnLm7on4

グリップを下げた反動を利用して,再度グリップを上げ,グリップを上げた反動を利用して,肘を先行させてスイングする

 2度の三冠王に輝き,シーズン最高打率.389の日本記録をもつランディ・バース選手の打撃動作で最も特徴的なのは,彼の最大の長所であるバックスイングです.日本人選手にはあまり見られませんが,ボールを 強く打つためには必須の動作になります.

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=YKjPnLm7on4

 このバックスイングを行う理由は,後ろ肘を背面後方に突き出し,反動を利用して肘を先行させてスイングするためです.いきなり肘を上げるのではなく,いったんグリップの位置を下げて(写真②),その反動を利用して肘(グリップ)を上げます.上方に引っ張ると肘は背面後方に突き出されます.肘 (グリップ)を上げた反動を利用して肘から先行してスイングします.このバックスイング動作を行うためには,後ろ肘を フライングエルボー にしておく必要があります.

 バース選手は,グリップを下げた反動を利用してグリップを再度上げ(背面後方に突き出される),グリップを上げた反動を利用して肘を先行してバットを後方に残したままスイングしています.バース選手がNPBで成績を残せたのも,このバックスイングに負うところが大きいと考えられます.日本人選手にはこのバックスイング動作はなかなかみられず,MLBで活躍できない一因となっています.


スプリットフィンガー・ファストボール(SFF)の被打率は?

2019年MLBの球種別被打率

スプリットフィンガー・ファストボール(SFF)を打てない理由 で打者が対応できない理由を説明しました.実際にどのくらい打たれていないのかを確認するため,2019年MLBレギュラーシーズンの球種ごとの被打率を調べました.

球種投球数投球数
リーグ全体
割合% 打席安打打率
ナックル151 732,473 0.034130.382
フォーク36 732,473 0.0930.333
シンカー55,737 732,473 7.613,2913,9350.296
2シーム61,361 732,473 8.414,8724,3880.295
4シーム 263,237 732,473 35.9547,44314,5960.267
カット46,786 732,473 6.410,9882,8040.255
チェンジアップ80,376 732,473 11.020,5894,8310.235
カーブ63,341 732,473 8.7123,5233,0920.229
スライダー128,709 732,473 17.630,8476,6870.217
ナックルカーブ16,328 732,473 2.23,7037840.212
SFF10,588 732,473 1.42,7135390.199
スローボール50 732,473 0.01820.111

引用元:https://baseballsavant.mlb.com/statcast_search  ※割合%は小数点第一位まで.検索結果が出なかった球種は掲載していません.

 リーグ全体で732,473の投球があり,SFF は僅か1.4%を占めています.フォークボールは球速が遅く打たれる可能性があるためかほぼ投げられておらず,球速の速いSFF にシフトしているようです.きれいな球筋の4シームは,不規則な変化をする2シームの約5倍投げられており, 被打率は4シームのほうが低くなっています.予想どおりSFFが最も打たれていません(打席数の少ないスローボール は除外)が, SFFと同じく腕の振りがストレートと同じになるスライダーも被打率は低くなっています.SFFよりも高くなっているのは,縦の変化より横の変化のほうがまだ打者が対応可能であることを示しています.


スプリットフィンガー・ファストボール(SFF)を打てない理由

スプリットフィンガー・ファストボールとは

 フォークボールと似た握りから投じられ、より速い球速で小さく落ちる変化球はスプリットフィンガー・ファストボール(英: split-finger fastball)と呼ばれる。頭文字をとってSFFと省略されることが多く、日本ではスプリット、高速フォークとも呼ばれる。

  流体力学者の姫野龍太郎はリリースから捕手のミットへ届くまでに約10回転するものをフォーク、約20回転するものをSFFと分類している。「フォークボールの神様」の異名を持つ杉下茂は、フォークをナックルボール系の無回転の球種であるとし、無回転のものが真のフォークで近年の一般的な日本人投手が投げるフォークの多くはSFFであると語っている。

引用元: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%
BC%E3%82%AF%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB
左:フォークボール,右:SFF(スプリット)
引用元: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3
%82%AF%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB

打者はホームベースの約2m手前でボールを見失っている

 バッティングの練習ではコーチからよく「ボールから目を離すな」と言われる。ピッチャーが投じたボールをあの細いバットで正確にはじき返すためには、ボールから目が離れると精度が落ちるからだ。

  しかし、科学的検証から「ボールから全く目を離さないことは不可能で、実際にはホームベースの約2m手前でボールを見失っている」(同氏)という。人間が眼球と頭を動かしてボールを追うときのスピード(1秒当たりの角度)は毎秒200°が肉体的な限界であるのに対し、例えば時速160kmのボールを追い続けるには毎秒1000°のスピードが必要という。打者のスローモーション映像でボールをインパクトの瞬間まで見ているように見えても、実際には「見ていない」のだという。

 加えて、打者は非常に短時間の間に、打つかどうかの判断をし、スイングをしてバットに当てるという複雑な作業をしている。通常、ピッチャーが投げたボールがホームベースに到達するまでには0.45秒かかる。一方、打者はボールを「打つ」と決めた場合、脳から筋肉への指令に0.1秒、バットスイングに0.16秒、つまりスイングの決定からインパクトまでに合計0.26秒の時間を要する。

  打撃という“作業”自体が複雑なうえ、約2m手前でボールは見えなくなる――。では、なぜプロの打者は高速かつ激しく変化するピッチャーのボールを打てるのか。それは、練習という経験で積み重ねた予測があるからだ。「予測プログラムによって人間の動きの限界を補っている」(神事氏)。

引用元:https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/110200006/120200054/?ST=nxt_thmdm_mono

 国学院大学人間開発学部健康体育学科 助教の神事努氏 によると,ボールを追うスピードに限界があるため,打者はホームベースの約2m手前でボールを見失っているとのことです.つまり,打者は投手が投げる時点で ,投球動作からどのような軌道でボールが来るのかを予測して打っていることになります.

 打者は投手が投げる時点で ボールの軌道を予測しなければなりませんが,SFF( スプリットフィンガー・ファストボール )は腕の振りがストレートと全く同じであるため,打者はストレートの軌道を予測します.球速が遅ければ,途中でボールになると判断して判断してバットを止めることができるかもしれませんが,SFF は人先指と中指の間が狭く球速もストレートに近いため,修正がきかずバットを振ってしまうことになります.

 他の変化球では腕の振りも球速も遅くなるため,対応できる余地が残されていますが, SFFのようにストレートと同じ腕の振りで球速もあるということになると,最初からSFF とわかっていない限り対処のしようがありません.見方によってはずるい球種ともいえます.SFF を投げる時点で,すでに打者よりも優位に立っていることになります.

 


テッド・ウィリアムズ選手がスイングする前に後ろ肘を後方に引く理由

テッド・ウイリアムズとケン・グリフィー・ジュニアに共通するバックスイング動作

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=3SVcdIBTETw

 最後の4割打者と言われるテッド・ウイリアムズ選手(終身打率 .344 )はスイングする前に後ろ肘を背面後方に引いています.この動作はケン・グリフィー・ジュニア選手にも見られます.この動作は正確にいうと,フライング・エルボーからスイングに入る動作 の第一動作であるバックスイング動作(後ろ肘をいったん下げ,下げた反動を利用して後ろ肘を上げる)にあたります.「後ろ肘(グリップ)をいったん下げる」が背面後方に引く動作で,その後ろ肘(グリップ)が上がっていきます.

 二人の大打者がなぜ同じ動作を行っているかというと,まず運動連鎖の利用という側面があります.バットを速く振るには質量の大きい部位から始動して,小さい部位へと運動エネルギーを流す必要があります.そのためには,肘を先行させてバットを後方に残すいわゆるタメを作らなければなりません.フライング・エルボーからのバックスイング(第一動作)で肘を上げた反動を利用して肘を先行させてスイング (第二動作)します.

後ろ肘は捕手側ではなく,背面後方に突き出す

 それなら背面後方ではなく,捕手側に突き出せばよいと思われるかもしれません.しかし,捕手側に突き出すと背面後方に突き出すよりも肘が体から離れるので,肘の先行が不十分になります.また, 肘が体から離れると慣性モーメントが大きくなるので,スイングスピードも遅くなります.さらに,インサイド・アウトにバットを振るという点でも,グリップの位置はなるべく背面後方に保持し,体に引き寄せておく必要があります.肘が捕手側に離れていると,体を捻って肘を背面後方に近づけたつもりでも,体とグリップの位置は離れたままなので,バットが遠回りしてアウトサイド・インのスイング になります.

 つまり, スイングする前にトップハンド側の肘を背面後方に引く理由は以下の三つになります.①運動連鎖を利用するため,フライング・エルボーからのバックスイング(第一動作)で後ろ肘(グリップ)を上げた反動を利用して,肘を先行させてスイング (第二動作)する.②慣性モーメントを小さくしてスイングスピードを速くする.③インサイド・アウトにバットを振る.


堂林選手が覚醒した理由

鈴木誠也選手のアドバイス

 YouTubeの動画では,堂林選手が鈴木誠也選手から「構えた体と平行方向に打ち返す」というアドバイスを受けたことが明かされています.堂林選手は構えで体を捻っているので,右中間方向をセンター方向として打つようにしたら今回のバッティングの覚醒につながったとのことです.

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=9qJ11A1cLpM

 この動画を見た人は,体と平行方向に打ち返すことが正しい打ち方だと理解したかもしれません.しかし,それは間違いで,堂林選手が打てるようになったのは,体と平行方向に打ち返すことによってアウトサイド・インに打つことを防止したからにすぎません.

体と平行方向に打ち返すことでアウトサイド・インのスイングを防止する

 大谷選手と重なるところがありますが,堂林選手のようにグリップの位置を体から離したまま体を捻る選手は,グリップの位置が浅くなるため,センター方向から右方向にかけてしかインサイド・アウト気味に打つことができません.ケン・グリフィー・ジュニア選手のようにグリップを体に密着させるバッターなら,体と平行方向ということに関係なく,右方向でもインサイド・アウト気味に打つことが可能になります.

 今後,投手の攻め方がアウトサイド・インに打たせる(左方向に引っ張らせる)ような投球に変わった場合,打率が急降下することになります.アウトサイド・インの打ち方では体幹がバットが一緒に回ってしまい,タメをつくることができないため,強打することができなくなります.構えのときに左脚が開いているのもアウトサイド・インの打ち方を誘発するのでよくありません.また,本来インサイド・アウトに打ちやすい左投手のボールを左方向に引っ張ってしまう傾向があるようです.修正できなければ今後の活躍は難しくなると考えられます.